「地球はマルイぜ」 武満徹:SONGS 林 美智子
まだまだ暑いですな。
台風シーズンも心配な今年。
地震が来るなんて予言はめでたく外れたけれど、備えはしておかなくてはならないね。
私も、帰宅難民の一人と予測され、自宅まではおそらくまる1日。
いや、大きな川が何本もあるから2日。実家までも同じくらいかかるだろう。
いつか来るその日、私には何ができるだろう・・・。
涼しげな睡蓮の花が清々しい。
今年春に観劇したR・シュトラウスの「ばらの騎士」で小柄ながら、存在感あるオクタヴィアンを聴かせていた「林美智子さん」のCDが出たのでさっそく聴いてみた。
「地球はマルイぜ」というユニークなタイトルの1枚は、武満徹の歌曲集なのだ。
武満作品とはいえ、あの精妙かつデリケートな現代作品ではなく、気のきいたフォークソングかシャンソンのような曲ばかり。
そう、日本版メロディー(フォーレのようなフランス歌曲)とでもいえる小粋な歌たち。
全21曲。一部を自ら作詞したが、半分は朋友、谷川俊太郎の詩によっている。
五木寛之詩の「燃える秋」も入っている。(かつてハイファイセットが歌った!)
伴奏は、ピアノのほかに、ギター、曲によっては弦楽四重奏も入って、クラシック系の聴き手にも充分に耐えうる響きにもことかかない。
そもそも武満徹はこのように言っている。「クラシックのこむずかしい現代音楽を書いている作曲家がこんなアルバムをつくったりするのか、不思議に思われただろう。・・・、私にとってこういった営為(いとなみ)は、<自由>への査証を得るためのもので、精神を固くとざされたものにせず、いつも柔軟で開かれたものにしておきたいという希いにほかならない」
(以上、本CD解説及び石川セリのCDより引用しました)
偉そうなことはいえないけれど、私とていつも難しいクラシックやオペラばかりを聴いているわけではなく、時おり、若き日々に戻ってロックやポップス、ジャズ、演歌や歌謡曲も聴いているのであります。創作活動をしてるわけじゃないが、柔軟な耳と心を保つには、いろんな音楽も受け入れなくてはならないのであります。
一番の難題は時間との戦いのみ・・・。
こんなことを書いたけれど、この1枚は、クラシックの歌手が歌ったものであって、私たち愛好家が日頃楽しんでいる領域にもしっかりあって、歌好き、オペラ好きの方々に是非聴いていただきたい。
タイトルの「地球はマルイぜ」は、「○と△の歌」で、「不良少年」という映画の主題歌。
「地球ハマルイゼ、林檎ハアカイゼ、砂漠ハヒロイゼ、ピラミッドハ三角ダゼ・・・」というシュールだが、以外に深くみある曲。
このようにユーモア溢れる曲、ちょっぴり寂しい曲、アンニュイな気分の曲、恋の曲、そして悲劇を予想させる曲、シリアスな曲、別れの曲・・・・、映画にまつわる音楽を中心にたっぷりと楽しめる。
気にいったのが、子供の頃をなつかしく思い出すような「小さな空」、自虐的だけれど不思議な希望に満ちた「昨日のしみ」、シャンソンのような「うたうだけ」、老人の悲しみを歌い染めたような「ぽつねん」、名曲「雲に向かって立つ」、悲しい別離を3拍子の音楽で歌う「ワルツ」、明日は誰にでもやってくるんじゃぁぁの「明日は晴レカナ、曇リカナ」。
オペラ歌手により歌われると、フォーレのエレジーのように聴こえる「燃える秋」!
そして、最後の3曲が深い音楽であり、歌唱なのだ。
ベトナムの平和のために作られた「死んだ男の残したものは」では、虚ろなくらいのピアノ五重奏による伴奏がつけられ、原曲のシンプルだが深遠な内容にさらなる深みを添えている。荒木一郎が作詞し歌った「めぐり逢い」は澄み切った空を眺めるかのようなモーツァルト的音楽。
そして、石川セリが歌った「MI・YO・TA」。
武満徹の葬儀で、黛敏郎が武満が作ったメロディをずっと持っていて、口ずさんだ曲だという。単純なメロディーながら、どこか寂しげで、辞世の色が濃い。
林 美智子さんのしっかりとしたメゾの声は、きりっと一本筋が通っていて、ぶれがまったくない。かといって、こちらもしっかりと背筋を伸ばしてかしこまるこ必要がなく、リラックスして彼女のよく響く声を受け止めるのがいい。
あたりまえながらに、日本語のニュアンスの美しさにも感心。
詩の情景が目に浮かぶように、谷川ワールドをもそれぞれ歌いだしているのもさすが。
明るい彼女のお人柄も感じます。
木もれ陽のきらめき浴びて近づく
人影のかなたに青い空がある
思い出がほほえみ 時を消しても
あの日々の歓び もう帰ってこない
残されたメロディひとり歌えば
よみがえる語らい今もあたたかい
忘れられないからどんなことでも
いつまでも新しい今日の陽のように
(MI・YO・TA 谷川俊太郎)
オクタヴィアンに扮した林さん。
同姓同名のベテラン女優もいらっしゃいました。
今度は、いつオペラの舞台に立たれるのでしょうか?
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コメント
5日のオペラシティでのリサイタルも素敵でしたよ。
残念ながら伴奏は「人件費の都合で」(林さんがそう言ってました笑)野平氏のピアノだけ。その代り(?)アンコールの二曲には客席の漆原啓子さんがヴァイオリンで参加するというサプライズつき!でした。以前から何度も取り上げていてライフワークのひとつだという「死んだ男の残したものは」がなんといっても絶唱でした。合間の野平多美さんとのトークでは林さんの人柄も垣間見れたコンサートでした。
残念ながらオクタヴィアンは聞き逃してしまいましたが、二期会の「マクロプロス」で小山由美さんがエミリア・マルティを歌う回にクリスタで出演されるのを楽しみにしているところです。
投稿: 白夜 | 2008年9月15日 (月) 16時36分
う~ん武満の「うた」シリーズはいいですよね。
林さんのディスクは気づきつつも、3000円の値段でなかなか手が出ないでいましたが、やっぱり聴きたいので給料日後にゲットします。
投稿: ピースうさぎ | 2008年9月15日 (月) 20時32分
白夜さま、こちらにもコメントありがとうございます。
5日のコンサートは気が付かずあとのまつりでした。
このCDでその渇を癒した思いですが、コメント拝見すると悔やまれてなりません(笑)
明るいのお人柄は、幸田嬢と並んで昨今の歌い手の皆さんのなかでもその人気ぶりとともに好ましく思います。
私も、マクロプロスに行く予定です。
是非またご意見をお聞かせ下さい。
投稿: yokochan | 2008年9月15日 (月) 22時26分
ピースうさぎさま、こんばんは。
国内盤CDは高いですよね。
でも好きなアーティストや音楽には、そうとわかっていても聴いてみたいものです。
その思いを裏切らない、とても素敵な林さんの1枚でした。
是非にもお聴きください!
投稿: yokochan | 2008年9月15日 (月) 22時31分
ご無沙汰しています。
MI.YO.TAの詩、初めて知りましたが読んでいるだけで
涙腺がうるんでしまいました。年のせいか、初秋の
せいか・・・ ぜひ音楽入りで聴いてみたいです。
投稿: 風車 | 2008年9月16日 (火) 16時38分
久しぶりに書き込みさせていただきます。
MI・YO・TAいいですよね・・・。
僕は石川セリさんが歌っているCDしか持っていませんが、初めてこの曲を聴いた時の衝撃に似たような不思議な感覚は忘れられません。
林 美智子さんのCDもやっぱし買おうかな~。
投稿: ナンナン | 2008年9月17日 (水) 19時28分
風車さま、こちらこそ、ご無沙汰をしております。
MI・YO・TAは、かなりぐっときます。
私も部屋の前の空を見ながら、涙ぐんで聴いておりました。
谷川さんが、友が残したシンプルなメロディに、友を思いながら付けた詩。人間の創作行為の本質を垣間見る思いで一杯になります。
このCD、全編、味があり泣けます。
是非お聴きになってください。
コメントありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年9月18日 (木) 22時58分
ナンナンさま、コメントありがとうございます。
私は、逆に石川セリのMI・YO・TAは、聴いたことがないのです。テレビのドキュメンタリーで見た覚えがあるのですが・・・。
この曲、それと「死んだ男の残したものは」は心の底に響く名唱に思います!
これからの季節に素適な林さんの1枚、聴いてみてください。
投稿: yokochan | 2008年9月18日 (木) 23時34分
おはようございます。
yokochanさんの記事に感化され、すぐに
林美智子の『地球はマルイぜ『をネットで
購入しました。武満徹の現代音楽はちょっと苦手
でほとんど聞いていません。しかし、このCDを
聞いてびっくりしました。シャンソンまたはジャズ
のようでとても親しみがもて、こんな曲も
つくっていたのだと。思ったより気さくな
作曲家で色々な音楽家との交流が
あったのですね。林美智子さんの声はハリのある
美しい声ですね。
投稿: 風車(かざぐるま) | 2008年9月20日 (土) 08時04分
風車さま、こんばんは。
お勧めに乗じていただき、かえって恐縮です(笑)
お気に召されましたか!
ご本人も語られていたように、現代音楽作曲の合間に、こうした曲を本心から作られていたのですね。
大作曲家とはすごいものだと感心する次第です。
投稿: yokochan | 2008年9月20日 (土) 22時56分