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2008年10月19日 (日)

モーツァルト 「コシ・ファン・トゥッテ」 ベーム指揮

1 気持ちいい秋晴れの日曜、窓の外は淡い青空と色づき始めた公園の木々が風に揺れている。

こんな清々しい日には、モーツァルトのオペラでも聴きましょう。
モーツァルトのメジャー7大オペラは、ワーグナーに目覚めたと同時に聴き始め、何回聴いたものかわからない。
若い頃は、オペラといえば、ワーグナー、モーツァルト、ヴェルディばかり日々聴いていた。
シュトラウスやプッチーニを楽しめるようになったのは、ちょっとイケナイ大人になってから。

モーツァルトのオペラに親しんでいくうえで、多大なお世話になったのがFMでのザルツブルクライブ放送である。
かつては、ザルツブルクの公演のオペラ・コンサート・リサイタルのほぼすべてが放送されていたから、いながらにして超一流のアーティストによるライブがコレクション出来たもんだ。カラヤンとベームのオペラは毎年必ずあったから贅沢なものである。
モーツァルトでは、カラヤンのフィガロに魔笛(ルネ・コロのタミーノ!)、ベームのコシ、イドメネオ、ドン・ジョヴァンニなどがウィーンフィルの演奏で毎年放送されていたのだからすごいもんだ。

その中で、圧倒的な人気を博し、同じメンバーでロングランを続けていたのが「ベームのコシ」である。
その74年のライブ録音が今回のCDで、賞もいくつか受賞したのではなかったかな?
当時レコードで3枚組み。完全全曲盤となると4枚組。
フィガロも、ドンジョヴァンニも4枚組だったことを思うと、2枚のCDにきっちり収まり、廉価盤ともなると千円札2枚で買えてしまう今が恐ろしくもあり、消費財と化してしまった感がある。高額なレコードは始終買える訳でないから、エアチェックしたカセットテープで音楽の裾野を広げていった時代が懐かしい。
 久しぶりにベームのコシを取り出して、そんな思いに浸ってしまった・・・・・。

フィオルディリージ:グンドゥラヤノヴィッツ ドラベッラ:ブリギッテ・ファスベンダー
グリエルモ:ヘルマン・プライ         フェルランド:ペーター・シュライアー
デスピーナ:レリ・グリスト           ドン・アルフォンソ:ロランド・パネライ

  カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
               ウィーン国立歌劇場合唱団(ワルター・H・グロル指揮)
               演出:ジャン・ピエール・ポネル
                       (74.8.24 ザルツブルク)

2 60~70年代にモーツァルトを上演するなら真っ先に思い浮かんだ理想的なキャスト。
今こうして名前をみているだけでも、ため息が出ちゃうくらい。
ベームには、60年代終わり頃の映画版コシもあって、そちらは、ヤノヴィッツ、ルートヴィヒ、プライ、シュライアー、ベリー、グリストという配役だったかと記憶するが、そちらも是非DVD化して欲しい。

このオペラは、6人の登場人物による素晴らしいアリアが満載だが、ソロばかりでなく、アンサンブルも重要で、最初の恋人同士、男同士、姉妹同士、偽りの恋人同士、それに狂言回しの二人が絡んだり、四重唱、六重唱ありと、声のハーモニーがとても大切。
その意味では、名歌手ばかりが名を連ねればいい訳ではなく、劇場で日頃練り上げられたメンバーによるアンサンブルによるものの方が仕上がりがよいのかもしれない。
ベームの2度目のEMI録音は、強力な名歌手を揃えた名盤だが、個々のソロは別として、アンサンブルオペラとしてのコシを考えた場合、同じメンバーで毎年上演された3度目のライブ盤の方に魅力を感じる次第。

3_2  そして、フィルハーモニアよりは、自発性と感興に富んだウィーンフィルの方がいいのは明らか。
60年代の厳しくかっちりしたベームの緻密な音楽と異なり、70年代半ば以降は、ウィーンフィルの個性も相まって愉悦と微笑みに満ちた音楽も聴かれるようになった。
60年代に比べ、やや緩くなったのは否めないが、早めのテンポに乗って弾むように、ライブのベームならではのモーツァルトが楽しめる。
名アリアや重唱にちょこちょこと聴かれるホルンや木管の合いの手に、堪らないくらいに色がある。指揮者がどう指揮をしようと出てくるウィーンの音には参ってしまう。
数日後に迫ったムーティとウィーン国立歌劇場の公演に行かれる方が羨ましい!

4 個々の歌手では、私としてはヤノヴィッツが相当に素晴らしいと思う。
二つある名アリア、それぞれに心情が違うシチュエーションだが、それをえもいわれぬ素適な高音を効かせながら、そして女心の微妙な移り変わりを歌い分けている。
ファスベンダーは、日頃の中性的な役柄ではなく、姉よりもおきゃんで積極的な妹をくっきりと歌っている。
二人の姉妹の重唱はとても美しく、天国的ですらある・・・・。
男組についても文句なし。プライシュライアーの気持ちの良い声といったらない。
二人が自分たちの相手の心変わりを怒り嘆くところの悲喜こもごもには、さすがの歌唱を聴かせる。
グリストの可愛げある自在なデスピーナ、ベテランのパネライがやや精彩を欠くかもしれないが、味わいある歌はさすがなもの。

カセットテープを通じて聴いてきたベームのこのプロダクション。
ついつい手放しで誉めちゃうけれど、私には懐かしくも捨て難い名演なのだ。

1790年に完成したダ・ポンテの台本による「コシ・ファン・トゥッテ」。
「フィガロ」の第1幕で、スザンナの部屋に隠れたケルビーノを見つけたドン・バージリオが「コシ・ファン・トゥッテ」と歌う。
「女はみんなこうしたもの」、浮気性の伯爵=男の「フィガロ」と対をなすこのオペラ。
恋人が入れ替わっても、待女が変装してもわからない女たちが、あまりにコロリと騙されてしまう台本の陳腐さはあるし、世の女性の怒りを買うのも当然ではあるが、騙す男性陣も心から楽しんでいることも事実。「男も女もみんなこうしたもの」
でも、ここにあるモーツァルトの音楽の軽やかさと天衣無為の美しさは例えようがなく魅力的で素晴らしすぎます。

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コメント

yokochanさま こんにちは

ベームの「コジ・ファン・トゥッテ」
本当に懐かしいものですね、LP時代からどれだけ聴いたか、分かりません。1幕で、フィオルディジーリとドラベラが登場するところ、あの美しい前奏を思い出されますね。ヤノヴィッツさんとファッスベンダーさんの姉妹が、歌い合うところも良かったですよね。
3組の男女が織りなすアンサンブルも、最高の部類に入るのではないかな、と思っています〜。

ミ(`w´彡) 

投稿: rudolf2006 | 2008年10月19日 (日) 16時11分

こんばんは。

私も、今日は偶然同じべームのコジを聴きましたよ。ただ、私の場合は1962年のEMI盤でした。

やはりベームのコジは良いですね。
この曲の一番美味しいところを、最高の状態で味わわせてくれます。
ムーティは果たしてどうでしょうか。
ウィーンでは爆発的な人気だったそうですが・・・。
27日の最終公演で確認してきますね。

投稿: romani | 2008年10月19日 (日) 21時42分

rudolfさま、こんばんは。コメントありがとうございます。
私もカセットテープから通算何度聴いたかわかりません。
耳にこびりついてしまった演奏であり、歌手たちの歌声であります。
おっしゃるとおり、この姉妹の美しい二重唱は最高ですし、名歌手たちのアンサンブルにはほとほと聞ほれてしまいますね~。
コシの名盤として、これからも大事にして行きたい一組です。

投稿: yokochan | 2008年10月19日 (日) 23時27分

romaniさん、こんばんは。
サイクル的になんとなくモーツァルトのオペラを聴きたくなり、フィガロか魔笛かで悩みましたが、コシを手にしてました。
そして聴きながらネットで、ウィーン公演が近いことも思い出し、そしてromaniさんが行かれることも思い出しました!
惜しみつつも断念した魅惑の公演です。
大いに楽しんできて下さいね。今更ながら、歌手も指揮者も素晴らしい公演ですねぇ!
感想を楽しみにしております。
 そしてベームの二つのコシは、いずれも素晴らしいものです。
シュヴァルツコップとヤノヴィッツ、二人とも大好きな歌手です。

投稿: yokochan | 2008年10月19日 (日) 23時36分

こんばんは。
やったー、知ってる曲だー。

この1974年のライブは、ベームとか、「コシ・ファン・トゥッテ」とかに限らず、最高のレコードだと思います。その後出た、『ドン・ジョヴァンニ』ライブは、全日程の録音を寄せ集めた編集ものであるのに対して、こちらはベーム80歳の誕生日一発録音です。
フィオルディリージも、カラヤン、ベーム両盤のシュワルツコップよりも、ここでのヤノヴィッツの方が良いと思います。
こんな自然に心地よい響きのするモーツァルトは、めったにありません。

今度のムーティ、私の若い知り合いは行くそうですが、私も断念しました。高価すぎる。
そのうち、ウィーンに行って見てやるー。

また、こんなもの、取り上げてください。

投稿: にけ | 2008年10月21日 (火) 20時28分

にけさま、こんばんは。
コメントありがとうございます。
コシは素晴らしい音楽の泉であります。
私も一発のライブ感があふれたこのCDに対する愛着は並々のものであります。

ウィーンの引っ越し公演は、ムーティの指揮もあって、観たくてしょうがなかったのですが、あれを行くと日本のオケが4つくらい、新国のS席が二つですから、自重しました・・・。
アタくしも、いつの日かウィーンにとの思いです(笑)

>また、こんなもの、取り上げてください。<
そうなんです、そのつもりで、いつも週末を迎えるのですが、ついついワーグナーやシュトラウス、新規オペラに手が伸びてしまいます。
フィガロと魔笛のないブログなんですから、いけませんね・・・。

投稿: yokochan | 2008年10月21日 (火) 23時54分

コシ・ファン・トゥッテは最も愛するオペラです。yokochanさんが言われるようにアンサンブル命の作品ですね。モーツァルトはこのようなドタバタ劇に何と美しい音楽を与えたのでしょう!?
手元に、1974年盤に加えて、同じベームの1955年(?)のダイジェスト盤というのがありました。オケは同じVPOです。リサ・デラ・カーサ、クリスタ・ルードヴィッヒというこれまた古き良き時代の素敵な姉妹です。
映像版紹介記事をTBさせていただきました。

投稿: YASU47 | 2008年10月22日 (水) 00時10分

YASUさん、こんばんは。TBもありがとうございます。
たくさんお聞きですね、というかモーツァルトのオペラに関する情報がすごいです。
ブログタイトルはだてじゃありません。
私もオジファントゥッテ世代であり、地でいってますから、共感することしきりです。

55年盤は全曲あるらしいのですが、手に入りにくいようです。デラ・カーザとくりゃ、アラベラですし、同じ姉妹の物語ですね。期せずして、ネットラジオで、デラ・カーザのアラベラを今放送してます!

投稿: yokochan | 2008年10月22日 (水) 00時39分

ふむ、姉妹物語に惹かれるとは、ちょっとキケンな気配が・・・(^^;)

実は恥ずかしながらアラベラを聴いたのは先日のルネ・フレミングの映像放映が初めてでした。すっかりこの作品の虜になってしまい、デラ・カーサの1953年コヴェントガーデン盤CD、ヤノヴィッツの映画版DVD(ショルティ/VPOが素晴らしい!)も併せて楽しんでいます。


投稿: YASU47 | 2008年10月22日 (水) 16時48分

YASUさん、こんばんは。
ふっふっふ。単純に女声の二重唱が大好きなのですよ。
その分野でのモーツァルトとシュトラウスは双璧に思います。

フレミングのDVD、購入予定リストに入ってます。
よさそうですね。ショルティの新旧も素晴らしいですし、サヴァリッシュ盤、カイルベルト盤、ティーレマンDVD盤も・・・。
名盤目白押しのアラベラであります!

投稿: yokochan | 2008年10月23日 (木) 23時14分

ベームの『Cosi‥』このDG盤と愚生が聴いていたEMI盤と、どちらがよろしいでしょうね。このディスクに未だ手を出しておりませんのは、ドラベッラのアリア『恋は曲者』とフェランドのカヴァティーナ『裏切られ、侮られ』が削除されていると、D・キーン氏の御著書に書いてあったからなのでして‥。ベーム翁の統率に表現は、如何なものでありましょうか。

投稿: 覆面吾郎 | 2020年11月10日 (火) 13時26分

キーン博士のそのようなご発言があるのですね。
そこまで詳細に分析して聴けてませんのでわかりませんでした。
たしかに発売当初、カットが一部ある、読んだ気もします。
 一方、EMIのフィルハーモニア盤は実はまだ聴いたことがないのです。
いつも買おうかな、と思ったりもしつつ、そのままになってます。
往年の歌手たち、素晴らしいのは聴くまでもなくわかりますが、最近のスマートな歌唱に耳が慣れてしまい、ちょっと聴くのが怖いような不遜な思いがあります・・・
 しかし、オケはやはりウィーンのこちらがよろしいかと。

投稿: yokochan | 2020年11月11日 (水) 08時41分

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