バーンスタイン 交響曲第1番「エレミア」 スラトキン指揮
道後温泉にあった夏目漱石の胸像。
「則天去私」
画像をクリックして、その意をご覧下さい。
欲としがらみ、思い入ればかりの私の今の生き様。
このような心境になるのはいつのことやら・・・・。
歌入り交響曲。
今日は、作曲家レナード・バーンスタイン(1918~1990)。
ウィスキーとチェーンスモークがレニーの命を縮めたのは否めない。もう少し節制してくれたら・・・と思わざるを得ない。
明るく開放的なレニーと印象とは裏腹に、作曲家としての彼はシリアスな作品が多い。
ユダヤ人として、そして人間として神に訴えかけるような曲や、全人的に平和を希求するような作品。
交響曲は3曲残したが、そのうち1番と3番に声楽が使用されているほか、2番もピアノ独奏を伴なう協奏的なものだけに、オーケストラだけの純粋交響曲はひとつもない。
それだけ、交響曲というジャンルにメッセージ性を込めたといえる。
ワルターの代役で、歴史的なニューヨークフィル・デビューを飾ったのが1943年。
その前年の44年にこの第1交響曲は、ピッツバーグで自身の指揮で初演されている。
世界大戦真っ只中。バーンスタインは作曲と指揮で、アメリカの寵児となった。
交響曲第1番は「エミリア」と題され、3つの楽章からなる。
ユダヤの抑圧への悲しみと怒りを秘めた重たく悲観的な内容で、それぞれ「預言」「冒涜」「哀歌」というタイトルが付けられている。
そのタイトルどおり、1楽章は何か悲劇の始まりを予見させる重々しい内容となっているし、2楽章はリズムと大音響が交錯しあう切羽詰まったような音楽。
そして3楽章には、メゾソプラノの独唱が登場し、旧約聖書の「エレミアの哀歌」からの数節を歌う。静寂の中に、嘆きと悲しみ、そして神へ憐れみを乞うこの楽章は、非常に感動的なものだ。
バビロニアのネブカドネザル王によってエルサレムの地を追われたユダヤの民。
いわゆるバビロニア捕囚。国も神殿も失ない希望も失いつつあった民に預言者エレミアが現れ、苦しみこそ、罪を清めるもの、神こそ導き手であり希望の源泉であると解く。
ユダヤ民族の発祥であり、世界の歴史の混迷の根源がここにある。
ああ、むかしは民の満ち溢れていたこの都
国々の民のうちで大いなるものであったこの町
今は寂しいさまで座し、やもめのようになった
主よ、顧みてください・・・・。
戦争のさなか、自身のルーツを思い、同朋が苦難に陥っている。
バーンスタインは平和を思い、この並々ならぬ重い交響曲を作曲した。
これまで、作曲者自身の演奏ばかりであったが、いろいろな指揮者たちが取上げるようになった。
その中で、もっとも優れた演奏に思われるのが、レナード・スラトキンとBBC交響楽団によるもの。音楽をわかりやすく明確な解釈を施すスラトキン。
深刻なばかりでなく、ひとつの交響曲として音楽に正面から向き合った真摯な演奏。
スラトキンは、さらに濃厚なユダヤ思想と平和希求の3番「カデッシュ」を別バージョンで録音している。
そして、メゾのミシェル・デ・ヤングの深い声もよかった。
彼女、イゾルデの待女ブランゲーネのスペシャリストだ。
バーンスタインの音楽もこうして、年代を重ねてクラシック音楽のジャンルの中にしっかりと組み込まれていくのだな。
感慨深いものがある・・・・・。
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コメント
yokochan様今晩は。バーンスタインの交響曲では私は「不安の時代」が好きです。ことに第2部が。ジャズ的な手法で書かれていてガーシュウィン好きの私には堪えられない魅力があります。高校生のときに「題名のない音楽界」のレニー特集で第2部を今は亡き岩城さんが指揮するのを聞いてすっかり魅了されてしまい、レニー自身がイスラエル・フィルを指揮したCDを買いました。不安の時代と比べるとエレミアはなんだか辛気臭そうな感じがしてあまり聴いてこなかったのですが、yokochan様の文章を読んで自作自演で真面目に聞いてみようと思いました。スラトキンが録音していた事はつい最近まで知りませんでした。
投稿: 越後のオックス | 2008年11月10日 (月) 23時42分
越後のオックスさま、毎度ありがとうございます。
バーンスタインの交響曲は結構好きでして、自演では同じイスラエルを持ってます。
録音もよく、ソリストも豪華ですね。
バーンスタインのニューヨーク時代の青少年のためのコンサートが、テレビ神奈川ですべて放送されまして、自作の紹介もありました。それが2番だったような記憶があります。
もう35年も前のことです(笑)
ピアノの活躍が素晴らしい曲ですね。最後も盛上りますし!
投稿: yokochan | 2008年11月11日 (火) 22時16分
古い記事にお邪魔します。今朝のBSプレミアムにてこの曲をN響の演奏にて 鑑賞。バーンスタインというと「ウェストサイドストーリー」「キャンディード」があまりに有名で、純粋なクラシック曲を聴いたのはほとんどありませんでしたが、作者の思いが伝わってくる素晴らしい曲ですね。大好きなバーバーの「弦楽のためのアダージョ」もありました。今日の指揮者は広上淳一氏。以前、下野竜也さんでの演奏も放送されましたが、似て非なるものに聞こえました。私には下野竜也さんの方が良かったです。同じ曲を同じオケで演奏しても違うものですね。
投稿: ONE ON ONE | 2012年7月 8日 (日) 11時55分
ONE ON ONEさん、こちらにもこんばんは。
ほう、N響の演奏を放送しましたか。
広上さんのアメリカ音楽特集ですね。
バーンスタインの音楽の本質は、意外とシリアスなところにあるんですよね。
わたしも順次バーンスタインの音楽を聴いていっております。
一世代違う広上さんと下野さんですが、かつての若手の代表、広上さんは、わたしが言うのもなんですが、あの頭だし、ちょっとこじんまりしすぎちゃったかもです。
一方、下野さんはその選曲といい、チャレンジャー精神といい、覇気があふれてます。
どちらも、日本の音楽界を担うべく、頑張って欲しいですね。
投稿: yokochan | 2012年7月 8日 (日) 22時41分
バーンスタインの『交響曲全集』は、パッパーノ指揮のWarner盤で購入した次第です。レニー様が指揮者としてあまりにも偉大だった故に、生前は自作自演盤以外のものが、割り込む余地がなかった感もありますが、来年が没後30年にもなりますし、より新しい世代のアーティストの解釈と演奏により、レニーの諸作品に新しい息吹きが与えられる期待も募ります。
投稿: 覆面吾郎 | 2019年5月21日 (火) 08時33分
生誕100年に続き、没後30年もやってくるのですね。
コンサートでも昨年はバーンスタインがかなり取り上げられ、ルネッサンスとなりました。
作者以外の演奏がこうして次々にあらわれるようになり、一般的なレパートリーへとなっていくんですね。
ミサやオペラも同じく広まりつつあります。
投稿: yokochan | 2019年5月22日 (水) 08時29分