R・シュトラウス 「アラベラ」 ハイティンク指揮
秋晴れの今日は、オペラをDVDで。
R・シュトラウスのロマンテックで純情姉妹劇、「アラベラ」を自宅観劇。
15作中10作目、シュトラウス68歳の作品は、ホフマンスタールとのコンビによる練達のオペラとなった。
19世紀半ばのウィーンを舞台とし、喜劇的な要素と純情可憐な姉妹の愛情と、物欲や世間体に弱い両親、美人に言い寄る道楽ものの男たちに、ウィーンの夜をひさぐ女たち。そして純朴な田舎の大資産家。
こうした個性ある登場人物が、1幕はアラベラの家(ホテル住まい)で、2幕は舞踏会場で、3幕はホテルの回廊で、目まぐるしく立ち回る。
そんな中で、一番ぶれずに、終始落ち着いているのが主役のアラベラである。
そのアラベラ役で一世を風靡したのは、デラ=カーザで、その声は今聴いても素適だが、you tubeなどで、映像を見ると映画俳優のように美しい。
それから以前取上げたヤノヴィッツ、ヴァラディ、キリ・テ・カナワ、そして日本人にとって忘れられないルチア・ポップ、最近ではルネ・フレミングあたり。
歴代アラベラのなかで、あまり知られてはいなけれど、「アシュレイ・パットナム」は、まずその容姿にかけては抜きん出て美しいのではないだろうか。
パットナムは1952年生まれのニューヨーカーで、アマチュア声楽家だった母の影響も受けて、最初はフルートを吹き、やがて音楽を正式に学び出してから声楽に転向。
アメリカ国内各地で学び、1976年メトのナショナル・カウンシル・コンクールで優勝し、国際的なキャリアを歩み出している。
デビュー間もない頃のフィリップス録音、ディヴィス指揮のボエームでのムゼッタ役が初録音で若々しいメンバーによるボエーム録音のなかでも一際新鮮なムゼッタだった。
寂しいことに、この録音のみがメジャー録音で、そこそこに舞台やコンサートシンガーにと活躍したものの、パットナムの名前はあまり見出すことがなく、現在はアメリカで後進の指導を行なっているようだ。
そんな彼女の代表作が実はこのアラベラの映像、84年グライドボーンでのライブである。
時代により女性の美しさの変遷もあると思うが、パットナムは80年代のアメリカ美人といった趣きがあるかもしれない。
デラ=カーザやヤノヴィッツ、ポップが板についたヨーロッパの婦女子を感じさせるのに対し、パットナムは健康的で屈託のないアメリカンな娘といった風情。
でもそれがあっけらかんとしていなくて、やや陰りを帯びているところがいい。
テレビドラマの「チャーリーズエンジェル」に登場してもおかしくないと思ってしまうのは、私のようなオジサン世代なのかしら?
肝心の歌唱は完璧であります。声の素直さと強弱の見事さ。テクニックと感情移入のバランスのよさ。文句なし。でも完璧すぎて、おいしい蒸留水を飲んだかのような思い。
もう少し色があれば・・・、という贅沢な思いが唯一残るところ。
そのあたりはハイティンクの指揮も同じ。
完璧ながら、シュトラウスの音楽の味わいの豊かさが抜け落ちたかもしれない。
ショルティはウィーンフィルに助けられたし、サヴァリッシュとミュンヘンは日常の音楽を奏でるだけでいとも簡単に、それぞれが行間を読むかのようなシュトラウス・サウンドを実現した。24年前のハイティンクはグラインドボーンからコヴェントガーデンに羽ばたく頃で、オペラ経験を必死に補っていた時分。
でも音楽の恰幅のよさと、ふくよかな柔らかいサウンドはまさにハイティンクらしいところ。
そして、手兵ロンドンフィルのコンマスには、読響のD・ノーランの姿も見える!
アラベラ:アシュレイ・パットナム マンドリーカ:ジョン・ブレッヒェラー
ズデンカ:ジァンナ・ローランディ マッテオ:キース・ルイス
ヴァルトナー:アルトゥール・コルン アデライーデ:レジーナ・サーファティ
ベルナルト・ハイティンク指揮 ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
(84年グラインドボーン音楽祭)
他のアングロサクソン系で固められたキャスト、みんな面白いし、どこか律儀でいい。
ネーデルランド系のブレッヒェラーのマンドリーカは、お髭がむさくるしいが、田舎のぼんぼん風でもあり、役柄としてなかなかに見映えがよろしい。
歌が時に一本調子になるが、ヴァイクルで固められたイメージを忘れさせてくれる、なかなかのマンドリーカで、その豊かで明るい声域は魅力。
ウォータンも歌ってしまうブレッヒェラー。目力が全編強すぎ。
ズデンカの歌も容姿もぽっちゃりぶりもよいし、小太りのK・ルイスのよく通る明るい声は当時名指揮者たちに引っ張りだこだったのも窺える。
J・コックスの演出は、常套的なもので、グライドボーンの限られたステージを奥行き豊かに活用しながら、美しい舞台を築きあげている。
昨今の演出からすると歯痒い場面も多々あるかもしれないが、「アラベラ」という作品にホフマンスタール&シュトラウスが込めた思いを過不足なく表出しているように思う。
シュトラウス作品は、台本がしっかりしているが故に、かなり限定的な舞台解釈を強いるものと思うが、「アラベラ」においても新たな視点での演出、そうした洗礼をそろそろ期待してもいいのかもしれない。
でもシュトラウスの書いた素晴らしい音楽は不変。
美しい旋律が満載の「アラベラ」。
新国で、次期監督・尾高さんの指揮で来シーズンあたり再演を行なって欲しい。
音楽も、ドラマもとても日本人好みなのだから。
過去記事
「ショルティ&ウィーンフィル、ヤノヴィッツ」の映像
興が乗って、安いスパーグリングワインを飲んでしまった。
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