札幌交響楽団東京公演 尾高忠明指揮
11月恒例となったー尾高忠明指揮札幌交響楽団の東京公演を聴く。
2回ある札幌の定期演奏会で練り上げられた演目をもってやってくるし、今回はCD録音もした曲だから、手のうちにはいった充実した演奏が繰り広げられた。
前回、武満やドビュッシーを聴いて、はや1年、日の経つのはあっと言う間だ。何も変わらない自分がもどかしいけれど、今はそんな反省をしている場合じゃない。
今回のプログラムは尾高さんならではの英国もので、ズバリ私の日頃のフェイバリット曲ばかり!
というわけで、1年前から手ぐすねひきつつ本日を迎えた。
ヴォーン・ウィリアムズ 「タリスの主題による変奏曲」
ディーリアス 「村のロメオとジュリエット」~「楽園への道」
エルガー(A・ペイン補完) 交響曲第3番
「エニグマ変奏曲」~「ニムロッド」
尾高忠明 指揮 札幌交響楽団
(11.18@オペラシティ)
2部にわかれた弦楽によるRVWの奥ゆかしくも古雅な音楽は、札響のクリアーな弦楽セクションにぴったり。仕事でこのところいやなことばかりだけれど、この一曲目で一挙に茫洋とした英国風景にいざなわれ、そして心に染み入るような思いに癒された。
ヴァイオリンソロ→ヴィオラ→第2ヴァイオリン→チェロとそれぞれソロに受け継がれつつ弦楽四重奏のように、せつない主題が奏でられるとき、胸がジーンときてしまった。
2曲目のディーリアス。私のディーリアスの中でももっとも好きな曲のひとつ。
はかなくも、死の先を夢見るような彼岸の音楽。
デリケートでありながら、2度あるクライマックスは後期ロマン派的な陶酔ぶりを味わうのが私の楽しみ。
今日の尾高・札響の演奏は気持ちを充分込めた慈しむような演奏。
ホールの響きによるものか、ホルンと金管の音がやや強すぎるように感じた。
ちょっとメロディが違う風になっちゃったホルンソロも目立ってしまった。
以前、新日フィルで聴いたサントリーホールでの演奏の方がバランス的にはわずかによかったかもしれない。
それでも愛聴曲、最後の場面ではしっかりと涙をにじませていただきました!
尾高さんが、新日の時に言っていた。「この曲を演奏するといつも涙がでちゃうんですよ」
休暇後は、エルガーの交響曲第3番。言うまでもなく、エルガーが残した決して多いとはいえないスケッチをもとにアンソニー・ペインが補筆完成させたもの。
これをエルガーの意思の通った作品とみるか、まったくのエルガー風の創作とみるかで、評価もまちまちかもしれない。
私は、今や完全に前者の思いで、大好きなエルガーの交響曲がもうひとつ増えたという喜びが極めて大きい。
最初は敬遠していたけれど、ナクソスのポール・ダニエル盤をそれこそ朝に晩に何度も聴いて耳になじませ、これは、実にいい曲だし、よく書けていると思えるになった。
C・デイヴィスのCD、そして、尾高&札響のCDを購入し、ますますこの曲が好きになってゆき、そしてA・ペインがチョイスした部分やそのエピソードも知るにつけ、理解も高まってきた今年。
6月には、英国若手ワトキンスと都響での実演をP席で楽しみ、各楽器の活躍ぶりを把握。そして、いよいよ本日、世界でもっともこの曲を演奏し、理解していると思われる尾高さんと札響コンビのライブ。
エルガーやラフマニノフを指揮するときのイキイキとした楽しそうな尾高さんの動き。
今日も健在で、終始細やかにかつ大らかに指揮をしていて、見ているこちらも指が体が動いてしまう。
豪快さとエルガーらしいノーブルな旋律が交錯する第1楽章。冒頭から、自分たちの音楽として心から共感して演奏しているのがわかる。エルガー独特の上昇音形も堂にいっていて、とてもかっこしい終結部であった。知らない故かもしれないが、思わず拍手が起きる。
愛らしい第2楽章は、札幌の街の清涼な空気のよう。打楽器の活躍もうれしいしゃれた音楽。
そして今日の演奏の白眉は、第3楽章。憂鬱な雰囲気から、雲から日が差すかのような優しい旋律が満ち溢れるようになる。このあたりに対比と歌心は、尾高さん、誠に素晴らしい。最後のコーダの場面、まさにファンタステックな一瞬だった。今日二度目のお涙いただきました。
霊感不足に思える終楽章も、ライブだとその弾むリズムと親しみやすさから、会場にもスイッチがはったようだ。でも威勢がいいばかりでない、ちょっとアイロニーを含んだ響きも今日の演奏からは充分感じ取ることができる。
最後は、ほのかに、そして懐かしむように冒頭主題が回顧され、ドラの静かな一撃で曲を閉じた。
尾高さんは、動きを止め、オケも弓を掲げたまま、まんじりともしない。
素晴らしい余韻の間が生まれた。
私は静かにブラボー一声献上。
世界に通用するエルガー演奏ができる名コンビに、ブラボーが飛びかった。
拍手に応えての「ニムロッド」は絶品だった。オケも尾高さんも顔を真っ赤にして、情熱の静かな高まりを表現しつくした。これこそ、来年の予告篇かしらと納得。
拍手を制し、「来年もオペラシティです。オール・エルガー・プロやります」とのお話に拍手が巻き起こる。最後は、時計を指差し、お休みなさいの、尾高さんお決まりのポーズで解散。
あ~、素晴らしいコンサートだった。
恒例の、コンマス中心のオケメンバーによるお見送りと、ホクレン提供の「てんさい糖」の配付も嬉しい限り。
あぁ、札幌のファンが羨ましい。
今年はアクシデントで逃してしまった「ピーター・グライムズ」、いずれ新国で取上げるとの予告もあるし、「ビリー・バッド」やディーリアスもやっちゃって欲しい尾高さん。
来シーズンの札響は、エリシュカのドヴォ7、尾高さんのR・シュトラウス「ドンキ」、ブル5、ラフマニノフ2番、エルガー・プロなどなど。魅力的であります。
尾高さんとの蜜月、新国で多忙となりますが、いつまでも続いて欲しいものであります。
体と金がたくさんあれば、札幌・神奈川・名古屋の定期会員になりた~い!
・エルガー 交響曲第3番の過去記事
「コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団のCD」
「尾高忠明指揮 札幌交響楽団のCD」
「ワトキンス指揮 東京都交響楽団のコンサート」
・尾高忠明のエルガー交響曲の過去記事
第1番「尾高忠明/BBCウェールズ響」
第2番「尾高忠明/読売日本交響楽団」
・ 札幌交響楽団 東京公演
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コメント
こんにちは。やはり行かれたのですね。
うーん、私は知人(M・K氏)とばったり会ってマエストロと(オマケで)謁見してたので残念ながら「てんさい糖」は貰えなかったです。
でもすごいいいコンサートでしたねえ。
投稿: naoping | 2008年11月19日 (水) 07時37分
数年前までの札幌赴任中はキタラへ通い詰めたわたしも、今は年一回の札響詣で。いかにも北国を思わせるひんやりとした音色はかけがえのない札響ならではのものですね。
交響曲第三番は初めて実演で聴きました。コリンのCDではいささか掴みどころのない曲に思えましたが、昨夜の素晴らしい演奏のおかげで一挙に肯定派に鞍替えしそうな感じです(笑)
投稿: 白夜 | 2008年11月19日 (水) 08時37分
いらしてらしたんですね。
私もコンサート堪能しました。
一度お会いしたかったです。今度ぜひお目にかかりたいと思います。
ところで、2冊目となるエルガーの著書が完成いたしまして、昨日尾高さんにお渡ししました。naopongさんにも・・・・。先日は大友さんにも渡しました。
もしよろしければご参考にぜひ。
今回は流通には一切流しておりませんで、以下のサイトからの一括となっています。
https://www.momonoge.com/04_elgar.html
投稿: nankipoo | 2008年11月19日 (水) 13時47分
こんばんは。
こちらには2度目の書き込みとなります。
6月の都響に昨日の札響と、幸運にも今年は2回交響曲3番を聴くことが出来ました。
尾高さんと札響の演奏を聴くは初めてだったのですが、アンコール含め全てが良い演奏で非常に感動しました。
横須賀在住なので札響の実演を聴くことはなかなか出来ませんが、今後は東京公演に毎年行こうと思いました。
来年のオール・エルガーのプログラムが楽しみです。
投稿: バートレット | 2008年11月19日 (水) 17時05分
すいません。著作のURLがうまく表示できなかったのでもう一度リンクしてみます。
投稿: nankipoo | 2008年11月19日 (水) 17時48分
ご無沙汰しております。
札響行かれたのですね♪
私は同日日中、近江楽堂での2本立てを聴いており、よりまで其処にいれそうもない(体力的に)ので諦めました。…頑張って当日券発売時間まで待って完売だったら悲しいし(^^;;…もすこし計画的に行動せねば…ですね。
…神奈フィルでお会いいたしましょう…
投稿: めいぷる | 2008年11月20日 (木) 06時18分
お邪魔します。
たぶん来られているんだろうな、と思っていました。
イギリス音楽ファンにはたまらないコンサートでしたね。
特に僕は一曲目の「タリスの主題による変奏曲」が本当に大好きなので、うれしいコンサートでした。
エルガーはまだまだ勉強中なので、また機会があれば色々聴いていきたいです。
よろしければ、お会いして色々教えていただきたいと思っています。
投稿: ナンナン | 2008年11月20日 (木) 19時00分
naopingさん、ご一緒でしたねぇ。本当に素晴らしいコンサートでした。
M・Kさんと、尾高さんご謁見のお話、ブログで拝見しました。うらやましすぎます。
てんさい糖なんて、それに比べたら屁みたいなもんです(笑)
翌日が5時起きだったので、てんさい糖をカバンにしまいこんで、早々に新宿をあとにしました。
投稿: yokochan | 2008年11月20日 (木) 21時40分
白夜さん、コメントありがとうございます。
札幌にいらしたのですか。
転勤先人気ナンバー1ですもんね。いい街です。
キタラはまだ二回しか経験しておりませんが、とてもいいホールに思いました。
コリン氏の演奏より、今回の尾高さんの演奏のほうがはるかに音楽への踏み込みの度合が高く感じられました。
肯定派への鞍替え、大いにうれしゅうございます(笑)
投稿: yokochan | 2008年11月20日 (木) 21時46分
nankipooさん、コメントありがとうございます。
naopingさんのブログでも、拝見しました。
当然いらしてるだろうな、と思いつつ素敵な名演に身も心も浸っておりました。
お顔がわかれば、私のほうこそご挨拶申し上げたかったです。次の機会には是非よろしくお願いいたします。
そして、著作のご出版おめでとうございます。
さっそくご案内のURLにて手続きさせていただきますね。
どうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年11月20日 (木) 21時56分
バートレットさま、コメントありがとうございます。
都響に引き続いてまたご一緒でしたね。
大好きな英国ものに、心震える素晴らしいコンサートでした。来年のエニグマも大いに楽しみですね。
実はまだ、ヒコックスのCDは入手してません。
いまや聴きたくてしょうがありません(笑)
横須賀ご在住とのこと、横須賀の芸劇は、是非行ってみたいと思ってます。
来年、古楽のオペラが上演されますので、チケットを購入してしまいました。
投稿: yokochan | 2008年11月20日 (木) 22時05分
めいぷるさん、コメントありがとうございます。
こちらこそご無沙汰しております。
いいコンサートって、よく日が重なるのですよね。
今年の神奈フィルのエルガーも、そうしたダブりで断念しました。新体制の来シーズンのエルガー1番は絶対に聴くつもりであります!
また是非、神奈フィルのコンサートで!
投稿: yokochan | 2008年11月20日 (木) 22時10分
ナンナンさん、コメントありがとうございます。
ご一緒だったのですね。
本当に素晴らしい演目に、演奏、聴衆と3拍子揃ってました。
タリスから、その美しさに脱帽の私でした。
ナンナンさん、そのタリスがお好きなのですね!
私は、マリナーのデッカ盤が好きです。「ヴォーン・ウィリアムズの爽やかな世界」というタイトルでした。
お教えするなんて滅相もないです。でも是非ともお会いして英国音楽を語りたいですね。
投稿: yokochan | 2008年11月20日 (木) 22時19分