松村英臣 ピアノリサイタル
浪花の隠れたる名ピアニスト、関東に登場。
松村英臣さんが、その人。
神奈川フィルの演奏会などを通じ、いつもお世話になっております、Scweizer Music先生のご友人で、先生が応援されている松村さん。
その劇的ともいえるチャイコフスキーコンクールでのエピソードは、こちらでご覧下さい。
90年、ベレゾフスキー優勝時のチャイコフスキーコンクールで、ニコラーエワ女史が松村氏落選に激怒し、「ベスト・バッハ賞」という賞を創出して称えたという。
以来、関西を中心に活躍されたので、関東では、その名声があまり聞かれなかった。
今回、東京で初リサイタルを行なうにあたり、Sweizer Musics先生にご案内いただき、聴いてきた次第。
バッハ フランス組曲第2番
モーツァルト デュボールのメヌエットによる9つの変奏曲
バッハ(ブゾーニ編) シャコンヌ
ムソルグスキー 「展覧会の絵」
(アンコール)
チャイコフスキー 「四季」より 4月
ヒナステラ 「優雅な乙女の踊り」
シベリウス 「樅の木」
ピアノ:松村 英臣
(11.2 浜離宮朝日ホール)
バッハのフランス組曲、音の輪郭がはっきりと明確ながら、その音色の美しさに思わず引き込まれる。瑞々しくも、すごくきれいな音。
思えば、バッハがキレイでどこがいけないだろうか!
年代的に、峻厳なバッハを是としてしまう傾向がある。
曲が曲だったからかもしれないが、松村さんのピアノには、そんな思いを払拭させてしまう微笑むバッハがあった。
続くモーツァルトは一転、優しく愛らしい調べと9つの多彩な変奏の豊かな味わいに心和ますことができた。ほっと一息、暖かいお茶でも飲んだような気分といえようか。
そして驚きは、ブゾーニ編のシャコンヌ。
申すまでもなく、無伴奏ヴァイオリンパルティータのピアノ編曲版であるが、これがまた別物といえるくらいに巨大な作品となって聴こえた。
ヴィルトーソ的な要素は原曲でも充分あるが、4本の弦で奏でられ、上下する幅広い音域をそのままピアノに持ち込むわけだから、それを弾きこなす技巧たるやすさまじいものがある。打鍵の強靭さに驚きつつも、繊細さも充分あって聴き応え充分。
シャコンヌって、こんなすごい曲だっけ!
モーツァルトは、お茶の似合うサロンのムードを感じたが、このシャコンヌは教会の大伽藍を思い浮かべてしまった。
後半のムソルグスキーは、華やかなオケ版にない泥くささと、この作曲者特有の死をイメージさせる暗さを表出するのではと予想したが・・・。
以外や、各曲を微細に弾きわけるというよりは、キエフの大門にピークを持っていったスピード感あふれる鮮やかな演奏に感じた。
この曲のオケ版が実は苦手で、若い頃は好んで聴いたものの、ラヴェルの完璧さがムソルグスキーの素顔を覆ってしまったようで、もってまわった曲に聴こえてしまうようになった。
久方ぶりに聴くオリジナルは、これだけズバズバと弾かれると気持ちがいい。
関西のノリなのだろうか、「こないですぅ、門は大きおまんねん」というような、明るく快活なムソルグスキーに、快感を覚えた次第。
それにしてもスゴイ技巧と強靭なフォルテ。
満場の拍手に、松村さんの楽しいトークを挟んでアンコール3曲。
チャイコフスキーの抒情と、シベリウスの有名な円舞曲を思わせるような冴えた響き。
どちらも素晴らしく、このあたりに松村さんの本領を見た思い。ともかく美しい。
そして、曲も含めて、大いに気に入ってしまったのがヒナステラの曲。
初めて聴くこの音楽。私はラフマニノフ風の感情の高まりに甘味なものを感じた。
ヒナステラ、調べたらあらゆるジャンルに曲を残してるじゃないの。
少し探求してみる価値ありそう。
松村さんのピアノ、これは本物と感じた今日のリサイタル。
日本各地より馳せ参じた聴衆もいらっしゃるということで、これはまた注目のピアニストあらわる、ですぞ!
来年も、東京での演奏会を予告されています。各地の皆さんも是非!
コンサートのあとは、アフター神奈川フィルじゃないけれど、とてもおいしいタイ料理とビールに大満足でありました。ご紹介ありがとうございました。皆さんお世話になりました。
そのムード満点のお店は、弊ブログ別館にて近日ご案内いたします。
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コメント
昨日はコンサートに来ていただきありがとうございました。(主催者でもないのに…笑)
アフター・コンサートも楽しい飲み会で、とても充実した一日となりました。もう数え切れないほど聞いてきた彼の演奏会ですが、一昨年大阪で聞いたハンマークラヴィーアはとてもとても素晴らしいものでした。
昨日は前半、彼にしてはちょっと大人しすぎるようにも思えましたが、それでも確実に美しい世界で聞く人を納得させる円熟さえ感じられました。
ピアニシモが美しいのは彼のもう一つのトレードマークで、それからダイナミックな展覧会…。ホントによく考えられたプロでした。
今度はまたシュナイトさんでお会いしましょう!
投稿: Schweizer_Musik | 2008年11月 3日 (月) 06時30分
Schweizer Music先生、昨日はありがとうございました。
私にとって器楽系は疎いジャンルではありますが、松村さんのピアノは私にとってヒットでした。
多彩なプログラムをきれいに弾きわけてらっしゃって驚きです。
あの美しい音色にはちょっとまいってしまいました。
本格ピアニストのご紹介、ほうとうにありがとうございました。
次回またシュナイト翁の晩によろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2008年11月 3日 (月) 09時54分
どうもTBまでいただいて恐縮です。
素晴らしいコンサートでしたね。
前半のバッハとモーツァルトの美しく冴えた響きに曲が浮かび上がる、セルがピアノを弾いたらこうなるのだろうなってって思うような感じでしたがシャコンヌと展覧会の絵のすごい拡がりでしたね。
なんだかもっと聴きたくなるようなピアニストでした。
また次が楽しみですね。
投稿: yurikamome122 | 2008年11月 5日 (水) 17時01分
yurikamomeさま、こんばんは。
ピアノのコンサートじたいが久しぶりでしたが、実に鮮烈でした。「セルのピアノ」、なるほど、うまいことをおっしゃいますね!神奈フィルでチャイコフスキーやラフマニノフを弾いて欲しいですねぇ!!
また来年もまいりましょう。
TBもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年11月 6日 (木) 23時35分