NHK交響楽団演奏会 コウト指揮
イルジー・コウト指揮のNHK交響楽団の定期公演を聴く。コウトはもう15年もN響と共演しているというが、このコンビ実は初めて聴いた。
ベルリン・ドイツオペラでやってきたときに聴いてるはずなのに、あまり記憶がない。
かつては、ジリ・コートなどと読まれていたから国籍不明人だったけど、現在の読み方になったら、いかにもチェコ人っぽい。
現在はドイツ国籍を持つ名匠。
私は今日の実演でコウトの実力のほどに感じいった次第である。
亡き思い出の指揮者シュタインとも相通じる、カペルマイスター的な手堅くも、オペラの呼吸が読めるコウト。名誉指揮者衆にワルベルク、ドレヴァンツなど、N響はこういう指揮者が好きなのだな。
ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」
前奏曲と愛の死
第2幕 全曲
トリスタン:アルフォンス・エーベルツ イゾルデ:リンダ・ワトソン
マルケ王:マグヌス・バルトヴィンソン ブランゲーネ:クラウディア・マーンケ
メロート:木村俊光
イルジー・コウト指揮 NHK交響楽団
ゲスト・コンマス:ペーター・ミリング
(11.15@NHKホール)
前奏曲とイゾルデの歌入りの愛の死を前半に演奏し、休憩が入った。
多少いびつになっても、愛の死を切り離して、最後にもってきた方がよかったかも。
2幕が終わって、拍手なしで「愛の死」に入ればとても効果的かも。
でもそうすると、休憩なしの長大なコンサートになってしまうから、それもまた難しいもの。
以前、ブロムシュテットが同じN響で、同じ演目を取上げたことがあったが、その時は、前奏曲だけだったものと記憶する。
その前半は、聴く私の耳が、昨日を始めとする「みなとみらいホール」のプレゼンスのいい響きに馴れきっていたものだから、音が届いてこないもどかしさが不満だった。
今日の席は、2R6列目だけれど、ともかくデカ過ぎのこのホールは場所によって音が違いすぎる。
その不満も声が入るとかなり解消された。ワトソンの声がオケを物ともしないものだからかもしれないが、毎度のことながら寄せては帰す波のような前奏曲と法悦と浄化の愛の死で、私はもう大好きなトリスタンの虜となってゆく。
今回も余韻を味わうことのない無粋な拍手が鬱陶しい。
さて、白ワイン(NHKホール@700円は極めて高いぞ)で気分を高めて、恍惚の愛とマルケの嘆きの第2幕にのぞむ。
残念だったのは、二重唱の一部にカットがあったことか。
バイロイト並みの素晴らしいキャストで光ったのは、ブランゲーネ役のマーンケ。
これからが売出し中のメゾらしいが、言語明瞭で音程も抜群、声はやや硬質ながらどこまでも明晰で、へたすりゃワトソンの高音域にその威力では勝っていた。
このメゾは今後注目。シュトゥットガルトからフランクフルトのオペラの専属となり活躍中。
F・ルイージとも共演多いみたいだ。
リンダ・ワトソンは、ポラスキのあとを継ぐアメリカン・ドラマティックソプラノと私は大いに評価する一人だが、時として大雑把な印象と叫ぶような高音が??の時がある。
でもG・ジョーンズもそうだが、メゾの音域の例えようもない美しさは、この大ホールでもよく通っていて聴きごたえがあった。それでも新国で聴いたブリュンヒルデの方が快活なこの人には合うような気がする。
アイスランド出身、写真ではインディアン系のような風貌のバルトヴィンソンのマルケ王。
初めて知ったバスだが、レパートリーは相当広いらしく、この人もまたフランクフルトの専属という。テオ・アダムを思わせるような明るい中に渋い色合いをもったバスで、オヤジ然としたエーベルツのトリスタンに比べて若々しい雰囲気があった。
私のとっての初ウォータンであった木村俊光さんが、メロートで贅沢にも登場。
この方がいなければ、二期会のワーグナー路線、いや日本人によるワーグナー上演は考えられなかったろう。大橋国一さん亡きあとを、この方が一人背負ったドイツもの。
一人暗譜で、大きな外国の歌手たちに混じって存在感を示していて、とてもうれしかった。
舞台袖で、クルヴェナールの「お逃げなさい・・」を歌ったのも木村さんでは!
さて、肝心のエーベルツのトリスタン・・・。
ワーグナーのヘルデン系ロールを歌うのに必須の力強さとほの暗さは持ち合わせている。
陰りのあるバリトンのような声は魅力であるが、搾り出すような高音とちょっと不安定な中音域がとても気になった。
新国の魔弾の射手は行きそびれたが、バイロイトのくそシュルゲンジーフのパルシファルはFMで毎年聴いたが、どうも好きになれない声で、観てもないのに、へんてこ演出といっしょくたのマイナスイメージが定着してしまった私のとっての不幸なエーベルツである。
ワトソンの声がしっかり届いているのに、エーベルツは切れ切れだった。
成田勝美さんのトリスタンの方が・・・・。
そしてそして、コウトの熱のこもった指揮はこの2幕に至ってさらに熱を帯びてきて、トリスタンの登場を待ちわびるイゾルデの焦燥を描いた部分と、その後の熱い二重唱の興奮の度合い、メロートに踏みこまれるまでのクライマックス。いずれも乗りに乗った演奏で、N響がこんな夢中になるなんて・・・・。
一方で、バスクラリネットによるマルケの苦悩の場面の深刻かつ静謐な音楽の描き方も実に見事。オケの前面で立って歌う歌手たちへのキュー出しも的確で、オケピットにいるかのような指揮ぶり。
それとN響の抜群のうまさと、音量の幅の大きさ。なんだかんだでひさしぶりに聴くとスゴイもんだ。
ドレスデンからのお馴染みの客演コンマス、ミリング氏を始め、今日のN響はトップが勢ぞろい。はまるとやはりNO1の実力を遺憾なく発揮しますです。
2幕では夢中になってしまって、ホール云々の不満は吹っ飛んでしまった・・・。
それとオケを見ながら聴いていると、ワーグナーのライトモティーフの綾なす精緻なオーケストレーションが実によくわかるというもの。
この熱演に、拍手とブラボーもかなりのものだった。
やっぱり、ワーグナーは強い。
N響の会報に、来年度の予告がちょろっと出てます。
なんと、10月にプレヴィン登場であります。
プレヴィン好きの私、そして皆さん、心してくださいよ。
9月はホグウッド!、12月がサンティ。
公園通りのパルコの今年のツリーはなんだかメカニカル。
小気味いい音楽と連動している。
金かかってそう。
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コメント
コウト初体験でしたか。コウトは今ではなかなか得ることのできなくなったドイツのカペルマイスターの伝統を受け継ぐ名指揮者ですね。特別にネームバリューがある訳ではありませんが、こういう歌心のある指揮者に接することがどれほど素晴らしい体験かは実際に聴いてみないとわからないものです。コウトのような指揮者はクラシック音楽界の最後の良心だと思います。
投稿: リベラ33 | 2008年11月16日 (日) 07時33分
こんばんは。私は日曜(今日)に行きました。
なかなかよいコンサートでした。しかし今回はやや感想が違いましたね~。
私は今日は隣人の鼻息の荒さと格闘してました(ノ_-。)。
TBさせていただきます。
投稿: naoping | 2008年11月16日 (日) 21時56分
リベラさん、どうもです。
コウト体験してきました。
地味さが勝りますが、なかなかに熱い指揮だったと思います。
やはり劇場型の指揮者でドイツの伝統的な指揮者になりつつあるとお見受けしました。
クーベリックのような指揮者になって欲しいものです。
投稿: yokochan | 2008年11月16日 (日) 23時24分
naopingさん、まいどどうも。
そうですか、印象が違いましたね。
まぁ、日も違うし、トリスタンにもとめるものも千差万別ですからねぇ。
N響というと無難な演奏に終始する印象がありましたが、結構熱くなっていた印象を受けました。
でも2幕だけでじゃ、消化不良ですね。
お隣さんの匂いや音は気になりますよね。
私は片側が壁でしたし、隣は実に静かな方でした(笑)
投稿: yokochan | 2008年11月16日 (日) 23時37分
こんばんは。
断食しながら(今日は、コーヒー1杯と、水1杯ぐらいですが、元気です)、今日行って来ました。
終盤のブランゲーネが遠くから歌うところ、音が大きくて、スピーカーから出しているのか?と思ったら、すぐ近くで歌っていてビックリしました。3階の横通路左側です。
近くで聞くと、素晴らしい声でした。
投稿: にけ | 2008年11月16日 (日) 23時50分
にけさん、こんばんは。
断食ですか! 健康にいいのですよね。
欲の強い私には不可能な技であります。
ブランゲーネは、3階で歌っても会場全体にビンビンに響いてましたね。
ともかくデカホールです。上で演奏したほうがいい音なのかもしれません(笑)
投稿: yokochan | 2008年11月17日 (月) 00時08分