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2008年11月12日 (水)

黛 敏郎 「涅槃」交響曲 岩城宏之指揮 and 神奈川フィルのこと

Akiu2 秋空が眩しすぎて、黄色い銀杏が飛んでしまった。
バカチョンデジカメの限界。

でも、妙にあっちの世界っぽい雰囲気になった。

我々日本人の生活には、仏教や神道が根付いていて、それを無視しては社会生活を営めないし、主として消費生活の面からは、キリスト教の行事までを取り込んでしまっている。
宗教にこんなにフレキシブルな人種は日本人くらいか・・・・。
それに都合いいときだけ、手を合わせるのも。

Mayuzumi_nirvana_sym 歌入り交響曲シリーズ。いよいよ終盤、日本人作曲家の登場。
歌入りジャパンシンフォニー、誰でも、この曲を思い浮かべるかもしれない。
あとは團伊玖磨か林光か・・・・。

黛敏郎(1929~1997)の「涅槃」交響曲
1958年の作品で、もう半世紀前。

黛敏郎といえば、私には「題名のない音楽会」の司会者のイメージがあまりにも強い。
それと、黛ジュンのお兄さんかと真剣に思っていた時期もあった。
沈着冷静、端正で姿勢も正しい紳士という面影が強く残っていて、氏の語る音楽談義に絶対の信頼を寄せていたものだ。番組で時おりビートルズも取り上げ、賞賛していたのも私の意に大いにかなうことだった。
長じて、氏が右寄りだったことがわかり、おいおいちょっと待てよ・・・、ということにもなったが、N響の放送で、「饗宴」や「涅槃」「曼荼羅」などを聴くにつけ、そうした存在よりは極めて日本人的な名作曲家という思いを強くしていったものだ。

こうした音楽になると、CDの解説しか頼るものがなく、いくつか引用させていただく。
黛敏郎は、日本人の自然や宗教観を重く捉え、「梵鐘」の響きを解析し、それをオーケストラの響きに置き換えた。57年の「カンパノロジー」という作品。
それを第1楽章に引用し、さらに「声明」という人声を取り入れることで「梵鐘」と溶け合うようにした。それがこの交響曲となって結実したわけ。

第1楽章「カンパノロジー」、3つに分かれたオーケストラが互いに音をずらしあうことで、鐘のうなりの効果を表出する。
第2楽章「首楞巌神咒」(しゅうれんねんじんしゅ)、さっぱりわかりませぬが、禅宗の経が男性合唱によって力強く歌われる(唱えられる)。かなりもり上がります。
抑揚ある経を聴いて、何かとりつかれたように忘我の境地になってしまう感がある・・・。
第3楽章「カンパノロジーⅡ」、オケだけの梵鐘の部分。カッコイイです。
第4楽章「摩呵梵」(まかぼん)、天才○○・・ではありません。
大乗仏教の経典が唱えられる。これまた2楽章と同じく、怪しいまでに熱を帯びていて、本能をくすぐられるようだ。
第5楽章「カンパノロジーⅢ」、乱打される実際の鐘にオスティナートのようにオケが何度も何度も同じフレーズを繰り返す・・・。そこにヴォカリーズの合唱も加わりクライマックスを築きつつも静かに終楽章に収斂されてゆく。
第6楽章「一心敬礼」(いっしんきょうらい)、前の楽章からヴォカリーズが「お~、おぉ~お・・・」と歌いつなぎ、弦の持続音と管のこだまがそれを支える。
「お~、お~」は次第に盛上り、やがて静かに消え入るようにして終わる。

亡き岩城宏之指揮の東京都交響楽団東京混声合唱団の共感あふれる演奏は95年のライブ。
そーいえば、小沢さんは、黛作品を振らないな。
海外でこの曲を演奏したら、今ならかなりウケると思うんだけど!

煩悩を突き抜けて、最後には悟りの境地にいたるのが、この交響曲の描かんとする世界という。私には煩悩が多すぎてこの交響曲40分だけでは解脱できませぬ。
これに、マタイにヨハネに教会カンタータ全部をもってしても無理かもしれない、典型的日本人なのであります。
第一、酒飲みながら聴いてるんだもの・・・・。

補追)
神奈川フィルの指揮者体制刷新のニュースが、昨日いつもお世話になっているyurikamomeさんのブログからもたらされました
何となく気配はあったものの、現田&シュナイトの二頭体制が黄金期としての最充実の時を迎えているのに、何故??という気持ちが正直あった。
新常任指揮者は、金聖響さん。人気指揮者だけれど、私はCDも含め一度も聴いたことがない。
今の神奈フィルの音を築き上げた現田さんは、名誉指揮者の称号が授与されるが、シュナイトさんはいかに・・・。足腰が弱くなり、体調を考えての退任。
悲しい体制変更ではあるけれど、どこの楽団にも、そして会社や社会にもあること。
願わくは、それが新たな輝かしい一歩であることを祈りたいもの。
金さんといえば、私は「遠山の金さん」か「金さん・銀さん」だったけれど、こうなりゃ、指揮者・金さん、大いに応援しますよ! 我が故郷オーケストラ、神奈川フィルの指揮者だもの。
来期は、「トリスタン前奏曲と愛の死」や「ミサ・ソレ」を振るみたいだし、現田さんはショスタコ!、湯浅氏がエルガー1番、このあたりが注目。

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コメント

yokochanさま こんばんは
ちょっと、ご挨拶が遅れてしまったのでこちらにコメントします。
ブログ開設、3周年 おめでとうございます。

以前にも書いたことがありますが、私がブログを始めるときに、いろいろ検索して、yokochanさんのブログを見つけ、このブログをお手本にしようと思って始めたのでした。
1年と10ヶ月、私のブログもけっこう量を増してきましたが、yokochanさんの快進撃はいっこうに止む気配がありません。ますます、差を付けられているような気もします。
残念ながら、食は細いので、食べ物にもついていけません。

これからも、太く長く、続けていってください。

投稿: にけ | 2008年11月12日 (水) 23時22分

にけさま、こんばんは、コメントありがとうございます。
だらだらと3年の思いが強いです。
快進撃なんて滅相もないです。音楽を聴いたら書く、書いたら聴く、なんてことを繰り返しているだけで、併行して飲食いがあるという、まさに快楽主義まっしぐらです。
こんな生活イケナイと思いつつも、強靭な胃袋を授かったことに感謝しなくてはなりません(笑)

ブログをやってなかった、だらだら聴きの日々は何だったんだろう、と思う今日この頃。
いろんな出会いもありましたし、これからもあると思います。
こんな楽しみをこれからも享受して参りたいと存じます。
にけさん、これからもよろしくお願いいたします!

投稿: yokochan | 2008年11月13日 (木) 00時06分

神奈川フィルの体制が変わられる由、初めて知りました。残念なことではありますが、金星響クンの指揮は過去に2度聴いてます。シュナイト翁、現田さんも素晴らしい指揮者だったと思いますが、若い世代の日本の指揮者の中ではイチ押しです。期待してください。
なお、3周年おめでとうございます。願わくば、いま少しアルコールの量を減らして・・・といったらyokochanさんではないか―中座しているシュトラウスの歌曲とか、手を付けていないモーツァルトのオペラなど、これから期待しています。

投稿: IANIS | 2008年11月13日 (木) 02時39分

時代は変わるですね。池波正太郎の中の主人公になった気分です(笑)。神奈川フィルの黄金時代に巡り会えたことに感謝し、シュナイトさんには元気で長生きして、できうればたまには神奈川フィルに来ていただければ…と思うばかりです。
今は、ただひたすら感謝です。

黛敏郎の涅槃交響曲は、昔ヴィルヘルム・シュヒター指揮のレコードを持っていました。もちろん件の岩城宏之指揮も持っていますが、何だかはじめて聞いた時の衝撃がどうもなくなってしまった感じなのは、当時のどことなくやりにくそうにやっていたのが、みんな上手になりすぎたからかも知れません(笑)。

投稿: Schweizer_Musik | 2008年11月13日 (木) 04時10分

IANISさん、どうもです。
神奈フィルの体制変更は寂しすぎですが、金さんに期待しましょう。

そうなんです。ご指摘の二つの分野、ついつい後回しになってしまい、いかんことだと思っております。
酒のせいでもないとは思いますが、いややはり酒のせいですかねぇ・・・・・。
体も考えて自重必須なのですが(笑)

投稿: yokochan | 2008年11月13日 (木) 12時41分

Scheizer Musik先生、こんにちは。
剣客商売の秋山先生ですね。私も愛読してます。
シュナイト氏、「日本の湿度が足に悪い、本国では普通に歩ける」と冗談まじりに杉並公会堂のコンサートでは話してました。
秋や春のいい季節に神奈フィルに来てほしいですね。

そういえば、シュヒターのレコードがコロンビアから出てましたね。中学の頃にNHKの「コンサートホール」で岩城氏の指揮で見た時は、私もビックリでした。
おっしゃるように、オケも合唱もうますぎかもしれません(笑)

投稿: yokocahan | 2008年11月13日 (木) 12時50分

私は、2003年2月、東京フィルハーモニー定期演奏会、
岩城宏之さん指揮で聴きました。この時、「トーンプロレマス」、「饗宴」といった作品も聴きました。この作品は、間違いなく傑作でしょう。
黛さんといえば、オペラ「金閣寺」があります。これは、1991年(日本初演)、1999年(再演)と2度見ています。三島由紀夫の作品をオペラ化したものでは傑作と言えますし、日本のオペラでは問題作ともいえます。
黛敏郎と三島由紀夫とはパリ留学時代から交友があり、1970年8月、オペラ化を申し出た時に2人が会った時が最後となりました。
そして、11月25日、ご存知のように、三島由紀夫は自衛隊に乱入、割腹自殺を遂げました。オペラは1976年に完成、ペルリン・ドイツ・オペラで初演されました。

投稿: 畑山千恵子 | 2008年11月13日 (木) 20時02分

畑山千恵子さま、こんばんは。コメントありがとうございます。
いくつかお聴きとのこと、とても羨ましいです。
そんな中での「金閣寺」は、オペラを嗜好する私としては絶対に観ておきたい演目であります。
ドイツ語原典上演でも、新国立劇場のレパートリーとしてほしいと熱望しております。
三島由紀生の小説は大半読んでますです。
日本のクラシック作品も、実に味わいあるものですねぇ!
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2008年11月14日 (金) 00時34分

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