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2008年12月21日 (日)

ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 ベーム指揮

Winter3 日本ではNHKが放送するのが冬とあって、この時期もバイロイトの雰囲気が楽しめる。
今年は、24日にリングから始まる。

私は年中だけれど、長大なワーグナー作品が連日流されるので、その録音にいそしむのも、冬の恒例行事となっており、途中休みもあるし、消してしまったものもあるけれど、もう30年もやっている。
カセットテープ時代は、時間配分を計算し、オートリバース機能のない頃などは、瞬時にテープを取り出し入れ替える超ハヤワザを誇っていたもんだ。
VHSビデオに録音したこともあったが、さすがに音が悪い。
今は、在宅していれば、CDレコーダーのハードディスクに収録するし、飲んだくれているときは、DVDのハードディスクにそっくり収めて、のちに編集するという方式が定着している。便利になったものだ。

問題は、年々ふくれあがる音源や映像を視聴するヒマがないこと。これ以上どうすんだ、って思うけれど、やらないと気がすまないからしょうがない。

Meistersinger_bohmバイロイト音源は、バイエルン放送局の存在が計り知れないほど大きく、いわば我々はNHKを通じタダでワーグナーの素晴らしさを50年あまりにわたって享受してきたわけであります。

どの作品の、誰の指揮で、何年もの・・・、まさにワインのように、その音源に憧れてしまう。
そんな筆頭が、「ベームのマイスタージンガー、68年もの」なんだ。

そんな希少音源をついにオルフェオレーベルが掘り出してくれた
まさに垂涎の思いで待ち焦がれた「ベームのマイスタージンガー」。GMなどでもステレオで出ていたが、我慢を重ね、まさに待っててよかったオルフェオ盤であります
これで、ベームのバイロイト録音がすべていい音で聴けるようになった喜びは大きい。

即買いしたが温存し、ついに聴きました。
先般の「カルロスのばらの騎士」と同じく、開封して超ワクワクしながらCDプレーヤーのスイッチを入れる。
そして、始まりましたよ。ハ長の明るい調和の調べが。
れっきとした分離のよいステレオで、バイロイト特有の木質感とピットの生々しい音のリアル感がたまらなく、そう、あの「ベームのリング」にも通じる響きなのだ。
Meister1 この前奏曲からして、金管がガンガン鳴って明るい色調丸出しのマイスタージンガー。
録音のバランスにもよろうが、ちょっと鳴りすぎかもしれない。
それでも、私はあのウィーンフィルとの75年来日のアンコール演奏を思いだしてしまった。テンポ感も音の響かせ方も同じなのである。
そのまま突入する教会の合唱、やはりバイロイトの劇場の響きがもっとも相応しく、ウィルヘルム・ピットの君臨した合唱団の威力は素晴らしく、柔らかな教会の合唱から、人々の喧噪、ザックスを称える勇壮な場面、そしてラストの感動的な場面と、市民がもうひとつの主役であることを強く印象付けるものだ。

 話をベームに戻せば、その音色の明るさは明晰さにつながるもので、音塊は混濁せず、どこまでもクリアー。
それこそ何度も書いてきたことだが、戦後新バイロイトのヴィーラント・ワーグナーが音楽面で目指した音の体現者のひとりがベームだったわけで、「モーツァルトの目を通してワーグナーやシュトラウスを見る」といわれたように、明快でもたれないワーグナーは今でも主流の演奏スタイルになっている。
 そのヴィーラントは、マイスタージンガーの演出ではあまり成功を勝ち得ず、その指揮はクリュイタンス、クナッパーツブッシュ、シッパース、ラインスドルフ、クリップスらで、クリュイタンスを除くと音楽面でのパートナーには恵まれていなかった。
ただ64年の数公演だけベームも指揮をしているようだが、それがどんな演奏であったか気にかかるところ。
 ヴィーラント亡きあと、ウォルフガンクはより具象性のある舞台でこそ映える「マイスタージンガー」の新演出を打ち出し、ベームが68年の初年度に登場した次第。
ベームはこの1年で降りてしまい、以降はクロボカール、ヴァラット、ヴァルヴィーゾ、ホルライザーと地味な職人指揮者の手にゆだねられようになった。
74年のヴァルヴィーゾは素晴らしく、フィリップス録音がなされたが、68年のベームもDGによってライブ録音が予定されていたものの、ザックス役に予定されたワルター・ベリーの降板で流れてしまったのは有名なおはなし。
降り番だったテオ・アダムがすべてを歌ったが、当時の東独との政治関係から正規録音が流れてしまったのであろうか・・・・。

Meist6 ベームのライブ感あふれる感興豊かな指揮は、時おり唸り声もまじるくらいに熱いもので、煽ってテンポが先走ってしまうケ所もあってご愛嬌なくらい。
1幕のヴァルターの試練の歌の伴奏部分における細やかさ、2幕のザックスのモノローグにおける夜の甘い香りを感じさせる静けさと諦念、そしてベックメッサーとザックスのやり取りの巧妙さと、喧噪へと徐々にひた走る盛り上げのうまさ。
3幕のこれまたザックスのモノローグ、「ヨハンネス・ターゲ・・・」のアダムの歌とともに感動的な瞬間が訪れる。
ラスト大団円、「親方たちをさげすんではならぬ・・」では格調高い音楽が、ジワジワと、まばゆいばかりに輝きを増してゆき神々しく曲を閉じるとき、さらなる感動でいっぱいになった。

 ザックス :テオ・アダム      ポーグナー:カール・リッダーブッシュ
 コートナー:ゲルト・ニーンシュテット ナハティガル:ディーター・シュレンベック
 フォーゲルゲザンク:セヴァスティアン・フェイエルジンガー
 ベックメッサー:トーマス・ヘムスレー  ツォルン:ギュンター・トレプトゥ
 エイスリンガー:エーリヒ・クラウス    モーザー:ウィリアム・ジョーンズ
 オルテル :ハインツ・フェルドホフ    シュヴァルツ:フリッツ・リンケ
 フォルツ  :ハンス・フランツェン      ヴァルター:ヴァルデマール・クメント
 ダーヴィット:ヘルミン・エッサー     エヴァ   :グィネス・ジョーンズ
 マグダレーネ:ジャニス・マーティン   夜警    :クルト・モル

    カール・ベーム指揮 バイロイト祝祭管弦楽団/合唱団
                 合唱指揮:ウィルヘルム・ピッツ
                 演出:ウォルフガンク・ワーグナー
                            (68.7.25 バイロイト)

私のような世代にとって懐かしい思いで、眺めてしまう素晴らしいキャスト。
トレプトゥ、W・ジョーンズ、エッサーなど他の劇場ではジークムントやトリスタンを歌っているような歌手だし、リッダーブッシュは後に素晴らしいザックスに、モルも名ポーグナーになってゆく。G・ジョーンズマーティンも後には、ゼンタやブリュンヒルデなのだし。
そんな楽しみをもってこれら歌手たちの歌声を堪能した。
なかでは、アダムの定評あるザックスが一番安定しているが、私にはちょっと声が明るく感じなくもない。その一方のリッダーブッシュの深々とした美しいバスが相変わらず素晴らしい。
あと、カラヤンとの共演で、リリカルなばかりのイメージをもっていたクメントが、なかなかに力強い声で驚きだった。声のイメージは、イェルサレムとケルルとヴンダーリヒを合わせたような感じ。
Meist8 あと、若いG・ジョーンズの輝きある声は、かなり好きだ。いろいろ言われちゃう声だけれど、私は彼女のブリュンヒルデやクンドリー、イゾルデの諸役は、ことその中音域の素敵さで参っているのだ。
力強く小回りのきかないダーヴィットになってしまったエッサーは声が立派すぎて、ヴァルターとの対比がいまひとつかもしれなし。
ヘムスレーのベックメッサーは当時評判だったようで、この英国歌手はクーベリックの録音でも登場しているし、ブリテンのオペラなどにもその名を見出すこともできる。
なかなか個性的でユニークな声はヒステリックで独善的なベックメッサーを歌い出していて面白い。

こんなわけで、待望のベームのマイスタージンガーを大いに楽しんだ次第であります。

「マイスタージンガー」の過去記事

  ハイティンク指揮  コヴェントガーデン97年盤
  
クリュイタンス指揮  バイロイト57年盤
  ヴァルヴィーソ指揮 バイロイト74年盤
  ベルント・ヴァイクル

2_2 千葉の中央公園。
東京に比べれば寂しいけれど、一応政令指定都市だし、イルミンーションも毎年、そこそこに美しいのであります。

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コメント

yokochanさん、こんばんは!
ワーグナー、しかも往年のバイロイトの録音のエントリーに狂喜しております(爆)。
私もバイロイトのFMエアチェックがたまるばかりで、これらの鑑賞は定年を迎えてからの楽しみとなりそうです(笑)。
ベーム&バイロイトの「マイスタージンガー」は1964年も1968年もGMの音質の悪さに辟易していましたが、数年前に後者で状態の良い裏青盤と出会ってしまったため、ご紹介のORFEO盤は未聴です(汗)。
今夜は私もこれから、ワーグナーをエントリーします。主役を歌うのは同じくテオ・アダムです(笑)。

投稿: Niklaus Vogel | 2008年12月21日 (日) 22時30分

yokochanさま お早うございます

出てきましたね、ようやく〜
ベーム・バイロイトでの「マイスタージンガー」!
オルフェオはこういう録音をまだ多数持っているんでしょうね〜。これからも楽しみですよね〜。

私も、クメントさんが意外に良かったと思いました。ジョーンズさんも若いですし、アダムさんも若いですよね〜。何より、ベームの引き締まった演奏が魅力的ですし、それにオケストラ、特に金管を咆哮させるところなど、ベームらしい演奏だと思います。
ベームの「オランダ人」と同じくらい、録音が良いですよね〜。

公演直前に降りてしまった、ヴァルター・ベリーさんのザックスも聴いてみたかったですよね〜。ベリーさんは確かザックスは一度も歌っておられなかったのではないでしょうか?
素晴らしい演奏ですよね〜。

ミ(`w´彡)

投稿: rudolf2006 | 2008年12月22日 (月) 07時24分

niklaus vogelさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。そして狂喜いただき誠に恐悦至極に存じます。
あふれかえる音源の悩み、ことにワーグナー好きには深刻な問題ですね。どーしたいいか、わかりません(笑)

64年の音源もあるのですね。
このオルフェオ盤は相当に音がいいです。この調子で64年ものも出してほしいものです。
ワーグナーしてますね!
とってもうれしいですよ!

投稿: yokochan | 2008年12月23日 (火) 01時52分

rudolfさま、こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
ようやく聴きました!
そしてよかったです!
バイエルン局には、まだまだ音源が眠っているはずですので、オルフェオはケチケチしないで、どんどん制作して欲しいものですね。

クメントよかったですし、ジョーンズもアダムも若くてピチピチしてました。
そして何よりもベームの指揮が想像通りで最高でした。

ベリーのザックスはほんと聴いてみたかったですね。

投稿: yokochan | 2008年12月23日 (火) 02時02分

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