東京フィルハーモニー定期演奏会 P・シュナイダー指揮
もし指揮をさせてもらえるなら?
こんな問い掛けには、いつも「マイスタージンガー」全曲と答えていた。
でも本当は「リング」4部作が本音の「たわけもの」のワタクシ。
そんな、たわけの私にピタリのコンパクト・リングが今宵のヴリーガー編のリング抜粋であった
歳と体力も考えて、これからはコレでいこう
ベートーヴェン 交響曲第4番
ワーグナー 「ニーベルングの指輪」~オーケストラル・アドベンチャー
(ヘンク・デ・ヴリーガー編)
ペーター・シュナイダー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
(1.30 @サントリーホール)
冗談はさておき、抜粋とはいえ、1時間に凝縮されたリングのエッセンス。最高に素晴らしい演奏で、私は感激で息が詰まりそうになる場面が多々あったし、気がつくと自己犠牲のクライマックスでは、涙が頬をつたっていた。
東京フィルが濃密かつ積極的な音をバシバシ決めてくる。
これもひとえに、現役最高峰のワーグナー指揮者、ペーター・シュナイダーあってのもの。
ともかく、音のひとつひとつに、ドラマの背景が織り込まれているようなオペラティックな語り口で、リングをシンフォニックに仕立てたと思われる編曲の意図とはまた違う、舞台音楽としての演奏に感じた。
シュナイダーは、早めのテンポ設定で勘どころを押さえながら、テキパキと指揮をする人だが、ピットから出てステージにのっても、聞かせどころでも構えることなく、スイスイいってしまうところがある。
こうした場面では、歌が欲しい。思わず、ウォータンやジークフリートになって口が動きそうになってしまった。危ないあぶない。
そんな気にさせる雰囲気にとんだシュナイダーの指揮。編曲ゆえの唐突なつなぎも、とてもスムースで、リングを知り抜いた練達の職人技。
来たる「トーキョーリング」を控えた東フィルにとって、またとないベテランとの共演になったのではないかしら。
「ラインの黄金」の前奏曲は、最初低弦がもたつきぎみだったが、そのまさに混沌から徐々に盛り上がり、ついに「ヴァーガヴァーガ・・・」とウォークリンデの第一声が始まる・・、気になる。その後すぐに黄金の輝きと転じ、さらにニーベルハイムの喧噪へ降りてゆく。
舞台で金とこを3台キンコンカンコンやるさまは壮絶!!
次いでフローが虹をかける場面も歌が出そうになるが、入城の壮麗なエンディングはお預けをくらうこととなる。ウォータンが槍を拾い、なぜか剣のモティーフが出るところで、いきなり「ワルキューレ」の決闘の場面、そしてすぐさまワルキューレの騎行に飛んで、魔の炎の音楽に。私のもっとも好きなウォータンの告別の後半がたっぷりと聴ける。
このあたりのシュナイダーの雰囲気豊かな指揮には、はやくも涙がにじむ思いだ。
そして音楽はすぐさま、「ジークフリート」の森のささやきへ。東フィルの木管、大活躍。
ジークフリートの角笛の難所、ホルン氏頑張りました!
ファフナーとの迫力あふれる決闘に、その空しい死とジークフリートが火の山を超える場面。その後のブリュンヒルデの目覚めもたっぷり用意されていて、先に誉めたシュナイダーの指揮ぶりの面目躍如たる場面がどんどん続く。
休みなく、結ばれた二人の朝の場面は「神々の黄昏」に続く。
あとに起こるジークフリートの裏切りを知る我々には、明るいけれどかなり心に辛いラインの旅へと、原曲通りに進行してゆき、このあたりの音楽の躍動感はまったくすばらしく、楽員も体を大きく揺らしながら大いに乗っている。
そして、2幕後半から、ジークフリートが殺される場面へと流れ、葬送行進曲へと向かう。
葬送行進曲は、心持ち早めにテンポをとりながらも、圧倒的な演奏で、私は痺れまくってしまった。そのあとは、ワルハラの陥落を描く自己犠牲の場面がそっくり演奏される。
頭の中では、ブリュンヒルデの歌が鳴りながら、壮麗かつ感動的なシュナイダー指揮する東フィルの素晴らしい音楽が進行している。
愛馬に別れを告げ、火に飛び込むブリュンヒルデに、ハーゲンの「指輪に手をつけるな」の歌声が・・・。あまりに素晴らしいエンディングに涙が止まらなかった。
静かに曲を閉じたのちに、いい間ができた。
盛大なブラボーが飛び交い、シュナイダーは何度となく呼び出され、オーケストラからも喝采を受けていた。
シュナイダーの指揮はバイロイト放送を通じて昔からかなり聴いている。 中でも忘れ難いのは、84年に、ショルティが一年て降りてしまったピータ・ホール演出のリングの指揮に急遽抜擢され、見事な棒さばきでバイロイトを救ったこと。この時の放送音源は、私の宝物でもある。
われらが大植栄次が初バイロイトのトリスタンで、一年で散ってしまったあとを引き継いだのも、シュナイダー。かつての、ホルスト・シュタインと同じような貴重な存在なんだ。
職人以上の味わいを醸し出すようになったシュナイダーは、これから独墺系の巨匠として重きをなすようになると確信しております。
ワーグナーばかり書き連ねてしまったが、前半のベートーヴェンも、すっきりとかつ明快な枠組みをもった名演だった。
シュナイダーによるオーケストラ作品、もっと聴いてみたい。
数年前は、たしか読響に客演しブラームスなども演奏している。
ウィーンフィルでもブラームスを演っているから、きっと本格シンフォニーも素晴らしい手腕を発揮しそうだ。
これまで、ウィーン国立歌劇場の来日公演と新国立劇場、ふたつの「ばらの騎士」で、ピットでのシュナイダーを経験済みであったが、今回のようなコンサート指揮者としての顔も是非とも継続して見せて欲しいものだ。
耳が洗われるようなワーグナーが聴けた今宵のサントリーホールでありました。
4月には、エド・デ・ワールトがN響で、今回と同じ「リング」を演奏する。
そのCDを今聴きながら、はやくも気持ちが揺れ動いているワタクシにございます。
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