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2009年2月15日 (日)

ヴォーン・ウィリアムズ 「毒の口づけ」 ヒコックス指揮

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静岡市の青葉公園のイルミネーション。

1月末で終わっちゃったけれど、きれいだから登場させちゃう。

イルミネーション好きとしては、2月の夜は街が一番暗く感じて寂しいもんだ。

でも夜気には、春の香りが感じられて、何かロマンテックな雰囲気もするもんだ。

Poisoned_kiss_2












このインパクトのありすぎるジャケット、何だと思われますか?
ヴォーン・ウィリアムズ(1872~1958)のオペラ「The Poisoned Kiss」というオペラ作品なのです。
訳すと「毒の口づけ」とでもなりましょうか?
「毒入りキッス」じゃぁ、まがまがしすぎるし。
どんな恐ろしいオペラなんだろ、以前から気になるCDだったが、出張先の札幌のタワーのワゴンセールで、50%OFFのシールが貼られているのを見て、即お買上げとなった思い出深い一組。

まるで吸血鬼を思わせる怪しいジャケットとは裏腹に、そのドラマは愛に充ち溢れたおとぎ話のようなコメディであったのだ。
そして、その音楽は、さすがにヴォーン・ウィリアムズ。
美しい旋律と田園情緒とダイナミクスに満ちた、どこから聴いてもRVWの特徴に溢れた素敵なもの。
何度も何度も聴いて、その歌が口ずさめるようになってしまった。
それほどに親しみやすい音楽なのであります。

RVWには、オペラ的な作品が7つあって、中では「天路歴程」が有名だが、4つ目のあたる「The Poisoned Kiss」は、まったくネグレクトされた存在で、2003年にヒコックスが録音したことで、日の目を見た。
全3幕、CD2枚、約2時間というコンパクトサイズながら、セリフがカットされている。
実は、そのセリフがかなり長くて、もしかしたらこうしたバランスゆえに、眠った作品となってしまったのではなかろうか?
「カルメン」はそのセリフもすっかりドラマと化しているけれど、それはビゼーの音楽がかなり劇的で、構成にも優れているから。
RVWは、どちらかというと人間ドラマよりは、自然の機微や崇高な宗教感を背景にした起伏の少ない音楽造りの人だから、セリフ入りではキツイかもしれない。
だから、このは音楽部分のみを収録し、セリフはリブレットで追うことになる。
原作はリチャード・ガーネットという人。
台本は、女流のエヴリン・シャープと作曲者自身。
ちょうど、「恋するサー・ジョン」と「ヨブ」というふたつの劇作品を並行して書いていた1928から36年頃の作品。

   V=ウィリアムズ The Poisened Kiss「毒のくちづけ」

          トルメンティラ:ジャニス・ワトソン
      アメイラス:ジェイムス・グリクリスト

            アンジェリカ:パメラ・ヘレン・ステフェン 
              ガラントゥス:ロドリック・ウィリアムス

            皇后ペルシカリア:アン・コリンズ    
              ディプサクス:ニール・デイヴィス

 リチャード・ヒコックス指揮 BBCウェールズ・オーケストラ
               アドリアン・パーティントン・シンガーズ
                   (2003年録音)
物語の前段

 むかしむかしあるところ、若い魔術師と若い王女が恋に落ちました。
でも、王女の両親は身分の低い若い男との結婚を許さず、別れさせてしまいました。
そして、別々の相手と結婚し、それぞれ魔術師は娘を、王女は皇后となり息子をもうけましたが、いまや彼等の相方も亡くなり寡と未亡人に。
皇后を逆恨みした魔術師ディプサクスは、娘トルメンティラを使って復讐を企みます。

第1幕

 森の中、いろいろな動物の鳴き声がします。そこへ迷い込んだ王子主従。
その従者ガラントゥスは、魔術師の娘のメイド・アンジェリカに恋してしまいます。
一方親父魔術師ディプサクスは、森に人が侵入しているとして、怒り嵐を起こし、雷がガラガラと鳴り渡ります。
トルメンティラは、さすがに魔術師の娘です。
ペットのコブラ蛇をかわいがり抱きしめたりしてます。
父は、娘を森から出られないように魔法をかけているのです。
何故かって?王子アメイラスをおびき寄せ、娘に引き合わせるためです。
この悪い親父魔術師、娘の唇にすでに毒を仕込んであり、口づけした最初の男を死に至らしめるのであります。
 さてさて、王子は、美しい子守唄を歌うトルメンティラの声に惹かれ、まんまと一目惚れしてしまうのでした。
そして、娘も王子を見てこれもまた好きになってしまいました。
この二人の愛の二重唱が美しく歌われますが、二人が恋をそれぞれに歌うセリフが面白い。
王子は「庭に青いヒセンソウが咲き誇り、夏の空には白い雲・・・・」と自然賛美。
娘は「黒いひよす(魔女が儀式で使う香草)のしげみを蛇がうねり、頭をもたげる・・・・」と魔界賛美。
 でも、娘は、父の司令を拒み、王子を愛してしまったがゆえに、キッスができません。
親父は怒り、娘と絶縁し市街地に追放してしまうのでした。

第2幕

 娘とメイドのアンジェリカが暮らす追放先の街。
親父魔法使いの手先の妖精3人組(男)が今夜、王子をここに連れてこさして、毒のキッスをさせちまおうぜ、と悪だくみを練ってます。
アンジェリカのもとへ、彼女を恋する従者ガラントゥスがやってきて、王子が娘に恋い焦がれていてしょうがないと、相談しますが、アンジェリカは例の口づけの秘密を明かします。
そこへ皇后の霊媒の女3人が現れ、毒消しのキャンディを置いてゆくのです・・・。
 さぁ、夜です。そろそろ寝ようとするトルメンティラの元へ、アメイラスが現れ、二人はほんとに真実?といわんばかりに感激し抱き合い、彼女は最初は拒絶し毒のことを話しますが、そんなの関係ないとばかりに、王子は唇を奪うのでありました。
 王子はバタリと倒れてしまいます。
魔術師サイドの妖精3人組はやったといわんばかりに喜び、駆け付けたメイドと従者はショックにひしがれ、トルメンティラは永遠の別れ・・・とアメイラスの元に膝をつくのでありました・・・。

第3幕
 
 皇后の王宮。
3人の霊媒たちに、自分と魔法使いの過去を語ります。
一方、医者が王子は、娘と会えなければ、ショックで死んでしまいますと、助言します。
息子をそんな思いにさせた娘はいったいどんな女なの?と皇后は、トルメンティラを呼び寄せます。
その娘がかつて愛したディプサクスの娘であること、アメイラスは自分の息子で生きていることなどを話します。
 そのあと、皇后はついに魔法使いディプサクスを呼び出し、なんであんなことしたの?と詰ります。
そして、息子アメイラスは生きていることを語ると、何でやねんとディプサス。
毒消しのキャンディを準備した皇后の方が一枚上手だったわけでございます。
さらに、愛する二人の姿を幻影でディプサクスに見せ、自分たちの若いころを思い出して、なんと熟年の二人はかつての愛を思い起こして仲直りするのでありました。
 アメイラスとトルメンティラ、ディプサクスと皇后ペルシカリア、ガラントゥスとアンジェリカの3つのカップルが誕生しました。
おまけに、妖精3人組と媒体3人組の男女のカップルまで生まれてしまうというお笑い付き。
それからずっと、みんな仲良く幸せに生きたのございましたとさ。
めでたしめでたし。

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と、まあこんな内容で、まるで、「魔笛」にそっくりでございますな。
でも魔笛のザラストロと夜の女王は結ばれなかったし、モノスタトスと待女たちも同様。
しかし、このファンタジック・コメディに付けられたV・ウィリアムズの音楽は最高に美しく、とってもロマンテック。
1幕のメイドと従者の出会い。朝のさわやかな空気の中、クラリネットのソロがとても素敵で、それに乗って歌うアンジェリカの歌のきれいなこと!
そして、そこにかぶるように従者の優しいバリトンが登場して愛らしい二重唱になる。
 夢見るようなトルメンティラの子守唄。
こっけいな男女3人組のコミカルなそれぞれの重唱。
魔法に導かれて王子が娘のアパートにたどりつく際の、ヴァイオリンソロは、マジックがかかったような神秘的雰囲気がただようもの。
そして、二人の再会の二重唱と、別れの場面は、このオペラの白眉ともいうべき絶美の音楽で、私は思わず落涙してしまった。
3幕のストーリーと、その音楽はときに霊感不足に感じる瞬間もあるものの、全体としての音楽のよさは、皆さんに是非聴いていただきたいと思わせるものであります。

 スッキリ・クリアな、いかにも英国歌手らしい方々は、文句なく素晴らしい。
そして、こうした演奏を聴くにつけ、ヒコックスの早世は悔やまれてならない。
BBCウェールズで尾高さんの後を継いだヒコックスは、同団と蜜月を築きつつあったのに・・・・。

10

いいオペラです。

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コメント

yokochanさん、こんばんは!

"The Poisoned Kiss"(私は勝手に「有害な口づけ」と訳していましたw)の全曲盤が存在していたのですね!

序曲だけはジョージ・ハースト&ボーンマス・シンフォニエッタの録音で知っていましたが、どのような物語か知りませんでしたので、今回のyokochanさんのエントリーはとても参考になりました!

どうりで、この序曲の中間部は「有害な」というイメージからはかけ離れた旧き佳きのどかな雰囲気なのですね(^-^)

(正直に言えば、20年以上もの間、この序曲は演奏会用序曲だと思っていました。解説書を読んでいれば解ったのでしょうけれども…(汗)。)

投稿: Niklaus Vogel | 2009年2月16日 (月) 00時08分

niklaus vogelさま、こんばんは。
コメントどうもありがうございます。
このような超マイナーオペラにコメント頂戴できるとは思いもせず、ほんとうにうれしいです。
自分でお気に入りの曲を発見する喜びは、何ものにも替えがたいものがありますし、それをblogでご案内できることも、素人ながら、大いなる楽しみでございます。

このオペラの序曲のみが演奏されているのは知りませんでした。活気と明るさに満ちた序曲だけでは、このオペラの美しさを、把握できないかもしれません。
是非本編も聴いていただきたいと存じます。

オペラの楽しみは裾野が広いものですね!

投稿: yokochan | 2009年2月17日 (火) 00時15分

こんばんは。
連休で未聴のオペラを少しずつ聴いてきました。この毒の口づけは素晴らしいです。怖い題名とはうらはらに甘いメロディーの連続、まいりました。魔笛と薔薇を混ぜたような。昨日はゲルギエフの青ひげを聴きました。開けるまで知りませんでしたが、ツィトコーワがユディットを歌っています。音楽も録音も今ひとつでがっかり。ゲルギエフは相性が良くないようです。後、鼻も聴かなくては。疲れたからメモフローラを聴いて寝ます。

投稿: Mie | 2009年7月20日 (月) 20時05分

Mieさま、こんばんは。
私も「毒の口づけ」にコメントありがとうございます。
このオペラを発見できた喜びは今年の最上位のものかもしれません。この愛すべきオペラがもっと聴かれることを願ってやみません。

ツィトコーワのCDが出ましたか!
ゲルギーさんは私もちょっと苦手でよくわからない人です。
バルトークの青髭は嫌いじゃありませんので、いずれは聴いてみたいと思います。LSOシリーズは音が悪いです。
鼻はよさそうですね。
欲しいオペラディスクが多すぎて手がまわりません(笑)

投稿: yokochan | 2009年7月20日 (月) 21時26分

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