バルトーク 「中国の不思議な役人」 ブーレーズ指揮
横浜中華街、市場通りの様子。
いまだに、中華街は全貌がつかめない。
というか、それは無理にしても、どこに何があるかわからない。
きっと常に酔っているせいであろうか?
または、人に連れられてきては覚えられないのだろうか?
それが魅力の、不思議なスポットなのである。
こんな誘導的な出だしで始まった本日の曲は、バルトークのバレエ音楽「中国の不思議な役人」なのである。
1919年の作品。
敗戦国であったハンガリー、第一次大戦後間もない頃、こんな激しくも不健全な音楽が書かれたわけだ。
私の好きな「青髭公の城」は、それより以前、1911年、マーラーの亡くなった年の作品で、これら劇音楽はバルトークの前期作品とされる。
後年の緻密な作風より、この頃の原色さながらの響きにみちた音楽の方が私は好きである。
組曲版は20分足らず、全曲版でも30分ちょい。
短いなかにも、強烈な内容の不道徳パントマイムで、今では何ともないかもしれないが、当時はとんでもないとされ、上演はどこでもすぐに打ち切られたらしい。
悪者3人と少女一人。どこを探しても金がない。
じゃあ、ということで、少女に男を誘惑させて金を奪おうとする。2階から見下ろし、誘惑。
最初のカモはうらぶれた老人、老人はギラギラと迫るが金はなく、つまみだされる。
次のカモは、気の弱そうな青年。ウジウジしていたものの、火が着く。でもこれもまた金がなく放り出される。
さて、3番目は、中国の役人。階段を上がってくるが、途中で止まり、なかなか来ない。少女が誘い、部屋に入ってくるが、その無気味な雰囲気に少女も怖くなる。
3人に後押しされ、怪しいダンスで誘うと、役人は飛びついてくる。キモイと少女は逃れ、激しい追いかけっことなり、3人は役人をつかまえ金品をうばい、枕をおしつけ殺す。
しかし、少女を見つめ復活する役人。さらにナイフで3度刺され倒れるが、またもや見詰めつつ起き上がり飛びついてくる。最後に、天井に吊るされ、その姿が怪しくも青白く光る。
怖くなった悪党ども。少女は役人に憐みを覚え、下に降ろし、二人は抱き合う。
すると役人はついにこと切れる。
・・・・・というストーリー。
これは、少女による魂の救済なのだろうか。まるで、「さまよえるオランダ人」みたい。
こんな内容を反映した音楽は、冒頭から激しく荒れまくっている。
不協和音と、過激なリズム、音の衝突、極端なルバート・・・・、劇の内容を忠実に思い起こすのもいいが、それは置いといて、これらの音たちを無心に楽しむことは、ある意味ストレス解消にもなっちゃう。(こんな思いは私だけ?)
とりわけ、中間部の役人との闘争場面はむちゃくちゃ興奮する
組曲盤は、ここで激しく終わるが、全曲盤は、まるでペトルーシュカのように怪しくも悲しみに満ちた終結までまだ少しある。
役人が青白く光るとき、アカペラのコーラスが不気味に響いてくる。怖ぁ~。
ブーレースの1回目の録音は、円熟の2度目のものより、荒れ具合がよろしく、切れ味も抜群。ニューヨークフィルの暴れようとソロの抜群のうまさもいい。
指揮者のニコリともしない冷徹な指揮ぶりが目に浮かぶよう。
この曲、私はアバドとLSOも愛聴していて、そちらはクールでかつ哀愁に満ちている。
演奏会では、いずれも組曲版ながら、アバド&LSO、サロネン&N響を聴いたことがあるが、どちらも、そのクライマックスはとてつもなく凄かった。
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コメント
お久しぶりです。
「中国の不思議な役人」はフィッシャー、ブダペスト祝管というバージンなハンガリー系とアバド、ロンドン響。組曲版はメータ、ベルリン・フィルが手元にあります。組曲版はクリストフ・フォン・ドホナーニの祖父でるエルネー・ドホナーニの指揮で初演されたのね。
管楽器が決めてで吹奏楽の間では非常に人気が高い。当時は子供に見せたくない番組のように扱われた。でも、後半のアクロバティックは組曲版にはないインパクトの強さ。これがバルトーク本来のワイルドな姿だと思います。
投稿: eyes_1975 | 2009年3月31日 (火) 23時21分
yokochanさん、こんばんは!
この曲のストーリーは奇怪ですね。ほとんど怪談の域に達しています(゚∀゚;
組曲版ならば、マルティノン&シカゴ響も洗練された鋭利さがあって好きです(^-^)
ところで、中華街を絡めての怖いお話、新国の「ラインの黄金」、「トゥーランドット」@神奈川県民ホールと、最近はyokochanさんとn師匠のコラボぶりにビックリです(笑)。
さて、今夜は就寝前に脳内音楽鑑賞をして、ブログにアップする予定です(爆)。
投稿: Niklaus Vogel | 2009年3月31日 (火) 23時25分
eyes 1975さま、コメントありがとうございます。
フィッシャーの演奏はよさそうですね。ハンガリー系の演奏をひとつも聴いたことがないのです。
孫ドホナーニはウィーンフィルと全曲を録音してますね。
面白い関係です。
バレエ上演でなくとも、音楽だけでも充分にR指定系でございます。全曲版も決して長くないから、やはり全曲で聴きたいものです。そうです、まさにワイルドですよ!
投稿: yokochan | 2009年4月 1日 (水) 00時17分
Niklaus Vogelさん、こんばんは。
意識はしてませんが、nさんと何気にかぶってますねぇ(笑)
それにしても、こわぁ~い話です。
こんな劇によくも音楽を付けたもんだと思います。
クールなブーレーズがまた鋭利です。
脳内音楽鑑賞は、電車のなかでよくやってますよ、私も。
変な顔してると思います(笑)
投稿: yokochan | 2009年4月 1日 (水) 00時21分
こんばんは。
いつも勉強させていただいてます。
先日、NHKベジャール特集でシルヴィ・ギエムのボレロといっしょにこのバレエを上演していて、そのエグさにびっくりしました。ベジャールはもとのストーリーを少し変えてありましたけど、本当におもしろいですね~。
それで、5月にたまたま関西フィルの演奏会で演奏されるというので、生で聴くことにしました。ただ全曲ではないらしいので、ちょっと残念です。
投稿: はざくら♪ | 2009年4月 3日 (金) 20時43分
はざくらさま、コメントありがとうございます。
ご指摘のとおり、ともかくエグイ。
いけませんね、この不道徳ぶり。
ベジャール版もあるのですね。見てみたいような、いけないような・・・、なんともです。
やはりこの曲、オーケストラ曲として聴くのがいいかもです。
関西フィルの演奏会、楽しんでくださいませ。
追)スクリャービンは、もう終わってしまったのでしょうか・・・?
投稿: yokochan | 2009年4月 4日 (土) 00時28分
スクリャービンの交響曲は、ただいま追い込み練習しております。
本番は5月5日、京都コンサートホールにて。
指 揮:湯浅 卓雄
福井 敬 (テノール)
永井 和子(メゾソプラノ)
管弦楽:京都市交響楽団
合唱:大阪シンフォニッククワイア
ぜひ皆様、ご来場くださいませ。
投稿: はざくら♪ | 2009年4月 4日 (土) 18時06分
はざくらさま、ありがとうございます。
GW真っ只中の5月5日ですね。
うわぁお!
すいません、いきなり行けません。
福井さんに永井さの豪華キャストに湯浅さんじゃないですの!!
1番のシンフォニー、こう書いているだけで、あの冒頭部分と最後の合唱が頭に浮かんできます。
残念無念・・・。
素晴らしい演奏を期待してますね!!!!
弊ブログでも次週宣伝いれます。
投稿: yokochan | 2009年4月 5日 (日) 01時45分
yokochan様今日は。
私はドラティ&デトロイト響の全曲盤とレヴァイン&ミュンヘンフィルの組曲版を持っています。バルトークは前世紀に活躍した作曲家の中で最も好きな人の一人です。曲がどれも素晴らしいのに加えて、彼の権力などに阿ったりしない非妥協的な生き方に少年時代から尊敬の念を持っています。中学生のときにポリーニ&アバドのピアノ協奏曲2曲とドラティの弦チェレとショルティ&シカゴのオケ・コンを聴いてバルトーク・ファンになりました。件のドラティのCDにカップリングされていたのが「不思議な役人」全曲でした。ところが私はこの曲が何故か苦手で・・・ストーリーが表現主義的すぎるからなのでしょうか。最近レヴァインの組曲版を聴いてやっと好きになれました。純音楽的に聴くと本当に面白い曲ですね。春の祭典なみに面白いです。レヴァイン盤は青ひげ公と協奏曲第3番と「不思議な役人」組曲という盛りだくさんなプログラムの演奏会のライヴです。
投稿: 越後のオックス | 2009年4月 5日 (日) 17時08分
越後のオックスさま、こんばんは。
バルトークは時代に迎合せず、独特の作風ですね。
そんなバルトークには、名演が生まれやすいです。
ハンガリー直系の演奏者たちによるものが多いですね。
件のドラティ、オーマンディ、ショルティ、ドホナーニ・・・。
ドラティやレヴァインは、まだ未聴なのです。
かといって、このエキセントリックな曲、そうそうに何枚もそろえられませんね。
ライブで聴きと、確かに興奮しますです!
投稿: yokochan | 2009年4月 6日 (月) 23時38分