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2009年4月10日 (金)

ワーグナー 「ワルキューレ」 新国立劇場公演②

本プロダクションの初演時はダブル・キャストだったが、ここ数年の新国の例にならい、シングル・キャスト。

  ジークムント:エンドリク・ヴォトリッヒ  ジークリンデ:マルティナ・セラフィン
  ウォータン:ユッカ・ラシライネン     ブリュンヒルデ:ユディット・ネーメト
  フンディンク:クルト・リドゥル       フリッカ   :エレナ・ツィトコーワ
  ゲルヒルデ:高橋知子          オルトリンデ:増田のり子
  ヴァルトラウテ:大林智子        シュヴェルトライテ:三輪陽子
  ヘルムヴィーゲ:平井香織        ジークルーネ:増田弥生
  グリムゲルデ:清水香澄          ロスヴァイセ:山下牧子

      ダン・エッティンガー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
   演出:キース・ウォーナー
                         (4.9 @新国立劇場)

Dsc03477jpg1 ウィークデイの17時開演で満席。ワーグナー好きもたくさん混じっている会場は、イタリアオペラとはまったく違う独特の雰囲気。
巨大な舞台準備の関係だろうか、2幕の間合いに45分、3幕に35分と、マーラー3番一曲分を要したため、終幕が22時35分!!
家が遠いワタクシは、終電ぎりぎり。いやはや、疲れましたよ。
そういえば、2003年初演時もこんなだっけか。
その時は、幕間に腹へって吉野家いっちゃったよ。情けねぇ。
今回は、ちょっとグレートアップして、オペラシティ内の英国パブ「Hub」へ。
エールビール1パイントに、フィッシュ&チップス。チケット提示でほぼ、@1000円。
おおよそ、ワーグナーには合わないが、演出が英国チームだからよしとしよう。

Ki_20001919_1  バイロイトやドイツで実績ある歌手たちを据えた今回の上演は、演奏面でも大変充実していた。
まず、女声3人がいい。
凛々しくも声の幅が驚くほど厚く、あらゆるレンジにおいて完璧な歌声で、言語もきわめて明瞭なセラフィンのジークリンデ。大柄な彼女だけど、繊細さも情熱も備えたすばらしいジークリンデだった!!
 ネーメトのブリュンヒルデ。彼女もバイロイトでメゾの役で活躍中の実戦派。
こわもてでなく、人間味溢れた優しいブリュンヒルデを歌いあげていて、声の明瞭さではセラフィンに譲るものの、とても女性的で身近な歌手。この女声ふたりの3幕のやりとりはあまりに感動的で、涙がぼろぼろ。隣の見知らぬおじさんも泣いてました・・・。
 それと、お気に入りのかわいいツィトコーワ・フリッカ。
小柄で華奢なんだけど、よく声が出ている。ラインゴールドより、今回の方がよかった。
彼女、カーテンコールの時もそうだけど、動きがかわいい。

ライライネンは、ずり下げたりあげたりする音程のとり方がどうも好きになれないバスバリトンだったが、今回は、あまり気にならず、むしろ明るく明晰な歌唱が気にいった。
演出ゆえかもしれないが、威厳とは程遠い、身近な等身大のウォータンを歌いこんでいた。
それと、滑らかなバスのリドゥル。この人の悪役はその人間性をいろいろ拝見するにつけ、似合わない気がするが、やはり声は美しいく立派。
初演時は、D・マッキンタイアだったから、いずれも贅沢な世界第一級の布陣だったわけだ。
 さて、ヴォトリゥヒ君だ。
バイロイトでも長く活躍するひっぱりだこのヘルデンだが、バイロイト放送でいつも思うこと。そう、咽頭に引っかかったようなベール1枚かぶったような声。
どうもすっきりしないのである。
悲劇性はいやでも増すが、ピーンと張った声を耳まで届けて欲しいと何度も思った。
でも、ジークムントについては、キング&ホフマンが刷り込みなので耳が贅沢なのだからいたしかたなし。ヴォトリッヒのジークムントじたいは、ビジュアルもよく悪くないのだから。
8人のワルキューレたちは、日本の実力派ばかりで聴きごたえ充分

Ki_20001919_4 エッテンガーの指揮も、こうしてじっくり聴いてみると緻密でかつ繊細。
ライトモティーフをよく分析し、その場に必要な姿で、観ていて納得がいくように音楽が鳴っている。ある意味職人気質でもあり、歌わせるべきは、思いきりテンポを揺らしてうたいまくる。
パウゼ(休止)のとり方も絶妙で、何度も舞台と一体になって息詰まる緊張感が醸し出されていた。
オケも最初こそモタモタしてたけど、最後までほぼ完璧。
むしろ、ホルン・金管が素晴らしい!

終わってみれば、演奏面があまりに素晴らしく、文句なく楽しめてしまった舞台。

情報過多の舞台は、次から次へと仕掛けが飛び出してきて、舞台の隅々にまで意味があるような気がしてくる。
前にも書いたようにその情報が今のところ垂れ流し状態で、ウォーナーの「リング」がどこを目指すのか、何を謂わんとするのか不明。
映像記録を切り口とする展開もひとつにはあるが、そうばかりでもない。
なんでもありの舞台を、観衆が、素直に感じたままを感じればいいのかもしれない「トーキョー・リング」。
雑多なごちゃごちゃした無秩序・無愛想の東京~そこに住む日本人からしたら、そんな印象だけど、外人さんから見たら、すべてがかっこいい・・・、oh,クールということなのだろうか
シュールでポップなリング。何度も観て聴いて味わい、その都度な解釈や理解が生まれそう。
来年まで鮮度を保って「ジークフリート」を楽しませて欲しい。

  

 

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コメント

こんにちは。
ワーグナーはあまり見ません。
すごく大掛かりな歌劇ですね。
体力的にとても無理のようです。
何かいいものを残しておきたいと思っています。
30分くらいの曲ですよ。
ふっふふふ
今日もスマイル

投稿: kawazukiyoshi | 2009年4月11日 (土) 11時09分

ふっふふふ
あら!今回も同じ日でしたのね。私は3階でしたが。結構舞台はよく見えるもんなんですね。
この公演、女性歌手がものすごく良かったですね。やっぱり西洋人の女は馬力違うんだなあと感動しました。ワルキューレの日本人の女性たちも頑張ってましたけどね。ツィトコーワたん、私も大好きです。
昨日改めて前にヴィデオに撮っておいた「ジークフリート」を見ましたけど、やっぱりこの演出は面白い。破天荒に見えて実はちゃんと内容と合ってるし、よくできてると思います。

投稿: naoping | 2009年4月11日 (土) 16時18分

kawazukiyoshiさま、コメントありがとうございます。
ワーグナーは強烈です。
私は中学時代に洗礼を受けてからというもの、ずっと一緒でして、もう縁が切れず、生活の一部のようです。
でもさすがに、今回はぐったり疲れました。

30分くらいの曲が聴くにも演奏する側にもよろしいようです。
作品もいくつか聴かせていただき楽しんでおります。
スマイルありがとうございました。


投稿: yokochan | 2009年4月11日 (土) 20時58分

ふっふふふ、やはり同じ日でしたねぇ。
新国はセンターならよく見えます。前の人次第ですけどね。

わたしも女声陣には観劇。
主役二人の大女もよかったですが、ツィトコーワたんはいい!!
あたしぁ、大好きになりましたよ。
あんなかわいいフリッカないです。
新国ばら騎士のオクタヴィアンもかわゆかったですぞ。

そう、このウォーナー演出は味がありますし、よく考えられていて、音楽との乖離がないのがいいですね。

投稿: yokochan | 2009年4月11日 (土) 21時09分

>しかし、ウォーナー演出では、指輪を奪取されたアルベリヒは、指輪を持つ者に呪いをかけ、神々を憎むのであるが、そのあと去り際に、自分の股間に小刀を突き立てる。
>これは、機能が失われたことを示すのであるが、何故にハーゲンが生まれたのであろうか?

その時まで指環は<休眠状態>だったいう事なんじゃないですかね?つまりアルベリヒはラインの黄金から指環を作りはしたけど、全然愛を断念してなぞいなかった。ちゃっかり妻(愛人?)をこさえてるわけだから。つまり指環も魔力を持っていなかったからヴォータンにも取り上げられてしまった。でもあそこで指環の作り主のアルベリヒが自分のイチモツを切り落とす(=愛の断念)行為を行って初めて、指環が目を覚まし呪いを掛けられてしまった。
それにアルベルヒが去勢したとすれば、ハーゲンはアルベリヒの子供ではなくミーメの子種で、正式な夫婦の間の子供ではなく愛人との間の子供という事になる。
普段はあまり意識しないけど、実はジークフリートもフンディングとジークリンデの正式な夫妻の子ではなく流れ者のジークムントとの間に出来た子なんですよね。奇しくも仇敵同士のハーゲンとジークフリートが同じように愛人の子というのは痛烈な皮肉になってる。
それにこの演出だと「神々の黄昏」でハーゲンがジークフリートを殺すのは(知ってか知らずか)実の父ミーメの復讐を果たしてるわけです。
・・・そういう風に去勢をする場面とかハーゲンの妻とミーメのシーンを付け加える事によって、いろんな連想やイメージの広がりを持たせられる。
トーキョーリングは奇抜な衣装やセットに目を眩まされてしまいますが、実は細部まで良く練られてる。ウォーナーって男はホント只者じゃないです。

投稿: | 2009年4月12日 (日) 05時58分

コメントどうもありがとうございます。

アルベリヒは、愛を断念したけれども、欲(性や金)は持ち続けたわけだと思うんです。
ラインゴールドでは、女とイタシテいる場面がありましたが、そこでは愛のない欲の行為だったのではないでしょうか・・・。
このあたりは議論は尽きませんし、演出家の解釈の見せどころですから、ジークフリートが楽しみですね。
前回観てるのに、全然覚えてない自分が怖いです・・・(汗)

>トーキョーリングは奇抜な衣装やセットに目を眩まされてしまいますが、実は細部まで良く練られてる。ウォーナーって男はホント只者じゃないです。<
まったくおっしゃるとおりです。
このプロダクションは、きっと何度見ても違う発見がありそうですので、新国は頑張って定番として欲しいものですね。

どうもありがとうございました。

投稿: yokochan | 2009年4月13日 (月) 00時27分

こんばんは。

私は日曜日の公演に行ってきました。
心から感動しました。
第3幕は、私も涙が止まらなくてほんと困りました。(笑)

「何々が良かった」という感じではなく、聴き終わった後、「ずしりとした手応えがあって、とにかく全体として充実していた」という印象を受けました。
もう少し落ち着いたら、私も感想を書きたいと思います。

投稿: romani | 2009年4月14日 (火) 00時22分

romoaniさん、こんばんは。
日曜公演にいらっしゃったのですね。
今回チクルスは、各日満席のようで、日本にあってワーグナーがこんなに日常に楽しめるようになったことをも昔日の思いで感じます。

やはり3幕の将来の嫁姑、父娘のそれぞれのやりとりには、泣かされますね。
私は、かねてより父娘を現実に重ねてしまい、おいおい泣いてしまいます・・・。

是非、romaniさんの感じた印象をお聞かせ下さい。
楽しみにしております。

投稿: yokochan | 2009年4月15日 (水) 01時05分

こんばんは
ほんとに女声がよかったですね!
3幕のブリュンヒルデとジークリンデにはほんとに胸が熱くなりました。ヴォータンに詰め寄るブリュンヒルデも、シェロー演出の映像の次ぐらいの感動ものでした^^+

>ジークムントについては、
そういうことですね。2幕前半と3幕が、1幕&2幕後半より断然おもしろかったと思うのはそういうことかもしれません。

TBします。

投稿: edc | 2009年4月17日 (金) 21時45分

euridiceさま、コメントありがとうございます。
おっしゃるように、女声3人と3幕が、私も素晴らしいものに思いました。
そして、涙もボロボロでした(笑)

ヴォトリヒ君は、今回かなり形勢が悪いですね。
ビジュアルはよかったのですがね~。。。。

投稿: yokochan | 2009年4月18日 (土) 09時50分

 こんにちは。
 あの演出はアイデアも豊富ですが、ハッタリもテンコ盛りだと思いますよ。
あまり深読みせず、気楽に楽しみたいですね。

 僕は新国立で腹減った時は、
京王線の西側出口の横にある立ち食い蕎麦です。

投稿: Pilgrim | 2009年4月18日 (土) 11時29分

Pilgrimさま、コメントありがとうございます。
>ハッタリもテンコ盛り<
あ、なるほど、何かあるなと、必死こいて考えてばかりもいけませんねぇ。ハッタリもまた大いなる解釈かもです。

立ち食い蕎麦、いいですね。
蕎麦好きですので、いいこと教えていただきました!

投稿: yokochan | 2009年4月19日 (日) 00時25分

先週日曜日に行ってきました。三幕、となりのお姉様が泣いているのが感じられました。当方はジークムントとジークリンデの所に感無量なのですが。ツィトコーワに魅惑されました。ラインの時よりも素敵でした。声が抜群。やっと、87年のドイツオペラのリングの時の呪縛がとれてきたように思います。でも、疲れた。マクベス夫人の予習もしなけらば。

投稿: Mie | 2009年4月21日 (火) 20時43分

Mieさま、こんばんは。コメントありがとうございます。
私の隣のお父さんも涙。
私自身も、しょっぱい涙が頬をつたいました(笑)
ワルキューレは、お涙満載のメロドラマですね。

ツィトコーワには、まったくもって参りました。かわいいし!
フリードリヒ演出を振り返る記事を、この際起こしてみようかと思っております。あれは、すごかったですね。

マクベス夫人は、どうも予習なしに挑むことになりそうです。その節はまたよろしくご覧くださいませ。

投稿: yokochan | 2009年4月21日 (火) 23時23分

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