ワーグナーの舞台神聖祭典劇「パルシファル」を観劇。
バレンボイムによる演奏会形式公演を加えて通算5度目のパルシファル生体験。
今回は、ワーグナーがあえて付けた、こんないかつめらしいタイトルがある意味まったく相応しくない場所で上演された。
荒川区のサンパールホールは、バス便か地下鉄や都電でのアプローチ。最寄地下鉄から10分以上。なかなかディープな立地なんだ。
私は地下鉄の三ノ輪駅から歩いたけれど、上野から二駅の下町、明治通りでなく生活道路を歩いたから、マンションに、八百屋さんや肉屋さんなんかがあったり、町工場なんかもチラホラ。
ホールは区民会館みたいなもんだから、スタッフもなんやら素人くさくて、パンフレットを販売するごとに正の字を書いてたり、幕間ではトイレットペーパーをもってうろうろとしちゃってる。
バーがないので、ドリンクは自販機だし・・・
でもですよ、こんなユルくも、庶民的な環境の劇場で行われるオペラ、それも本格ワーグナーなんだから嬉しいじゃありませんかぁ!
新国や外来オペラでは、ちょっと背伸びしたゃうんだけど、ここでは気楽に普段着でぷらっときて、ワーグナーを楽しめちゃうというムード。
公演監督、田辺とおるさんが、「荒川バイロイト」と名付けて目指したワーグナー劇場のスタイルの一部はこうした雰囲気かも。
比較的廉価で価格設定をするためには、東京の下町であることも必然。3公演、違うキャストで、皆さん実績ある方々ばかりが登場しているのも驚きだけど、よく考えたら、ワーグナーの本格オペラを日本人歌手がそうそう体験できないから、歌手の皆さんもきっと大いに張り切ったことだろう。そこに、オーディションで選ばれた合唱とオーケストラの方々がくわわるのだから、本場バイロイトならぬ、荒川実験劇場と呼んでもいい。
今回が第一回めとなるワーグナー上演の試み、次回来年は「トリスタン」が予定されているから、驚きだ!
アンフォルタス:太田 直樹 ティトゥレル:志村 文彦
グルネマンツ :大塚 博章 パルシファル:小貫 岩夫
クリングゾル :田辺とおる クンドリー :蔵野 蘭子
聖杯守護騎士Ⅰ:阿倍 修二 聖杯守護Ⅱ:鷲尾 裕樹
小姓Ⅰ :青山 奈未 小姓Ⅱ :小林 由佳
小姓Ⅲ :安藤 英市 小姓Ⅳ :岡村 北斗
花の乙女 :加藤 裕美子 :青山 奈未
:小林 由佳 :富永 美樹
:熊木 道代 :本間 千晶
アルト独唱 :小林 由佳
クリスティアン・ハンマー指揮 TIAAフィルハーモニー管弦楽団
あらかわバイロイト合唱団
アンハルト州立歌劇場合唱団(録音)
演出:シュテファン・ビオンテック
公演監督:田辺とおる
(5.15@サンパール荒川)
演出はまったく常套的なもので、ト書きどおり。安心して観ていられるけど、バイロイト並みのメッセージの発信力は期待できない。この辺はこれからに期待。でもカーテンコールで演出家にブーが小さいながら出たのは気の毒。もともと上演コンセプトからして期待するほうがムリなんだから。
だからいつものように詳細をここに書くことはありません。
1幕や3幕は、簡潔な森、はりぼての柱が立つ聖堂が。2幕は何もない舞台が。
衣装もこんな感じで違和感はありません。(画像はパンフレットより拝借)
が、花の乙女、ちゅーか、花の○○さんたちの、おもむろの登場には、わたくしはもう・・・・・。
一生懸命ぶりも真剣すぎると滑稽になるけど、いや、頑張ってて絶対いいんだけれど、ちょいと無理がありすぎ。
手を上にあげてヒラヒラとしながら踊るさまは、こりゃまさに常磐ハワイアンセンター。
それと聖杯騎士たちもおなじように○○さん。
アンフォルタスを担架に乗せて出てきたとき、足もともあやしくヨタヨタと・・・。
こんなこと書いちゃってすんません。
もう少しやりようがあったのではないかと思う次第にございます。
やりようといえば、今回騎士や登場人物たちは、聖堂場面では、ほとんどの時間手を胸の前に組んでいたり、始終十字を切ったりしていて、キリスト教の祈りの所作を何度も繰り返していたけれど、それを日本人が演じ、観る場合にはちょっと過多すぎるのではないかと。
「パルシファル」という楽劇が聖典劇的な側面をしっかり持っているので、まったく正しい演出ではあるけれど、もう少しわれわれの日常性も意識して欲しかったかもしらん。
常套的であるがゆえに、救いを求めるクンドリーがパルシファルの足を濯ぎ髪で拭き、やがて洗礼を受けさめざめと泣くとき、わたくしの涙腺も決壊した。
ただでさえ美しい野辺の音楽に、蔵野蘭子さまの素晴らしい演技がわたくしを刺激したのでございます。
パルシファルが「ただひとつの武器」で傷を癒し、聖杯の儀式を行うとき、その聖杯を取り出す役目はクンドリーであった。そして、お約束どおり、クンドリーはその後、うずくまって、こと切れたように思われた。
最近は、死なずに全員そろって未来を見つめちゃうような演出も多いから、彼女の死は、解放であり救いであるゆえ、よろしい結末であります。
その蘭子さまのクンドリーが歌も演技も素晴らしい。
二人の歌手が共存するかのような二面性あるクンドリーの役柄を、完璧に歌い演じていて、笑いや叫びも絶叫にならず広い音域を優しく歌いあげていた。
ゼンタもヤナーチェクも聴き洩らしたが、今回グートルーネ以来の蔵野さんに大いに感激。
パルシファル役の小貫さんは、以前「ダナエの愛」で聴いたことがあって、その時はもっとリリカルなイメージがあったけど、今回はびっくりするほど立派だった。
その声も歌い回しも、ルネ・コロそっくりに聴こえたけれど、誉めすぎだろうか。
声量と力強さが加われば、完璧。
アンフォルタスの太田さんは初めて聴くバリトンだったが、この方もよかった。
ドイツ語のディクションが自然で、おのずとアンフォルタスの苦悩もにじみ出ていたし、声がきれい。
それと、これまた以前、ペレアスで若いお爺さんを歌い感心した大塚さんの大役グルネマンツ。今回も爺さん役で、それこそ深みには欠けるものの朗々としたバスは安心して聴けるものだった。
さらに「そのまんまクリングゾル」の田辺さんは、まさに適役。
でもあの槍、実際に投げて欲しかったな。
バイロイトでは、マツーラとホフマンはやり投げを実践したというし。
お姿が哀れだったティトゥレルの志村さんの深いバスもよい。
それで、アリアドネの作曲家でファンの一人となった小林由佳さんが3役で大活躍。
彼女の声はチョイ役でも際立っていて、もしかしたらこの楽劇の肝になっていたかも!
合唱とオケに関してはなにも書きますまい。
毎年同じメンバーで固定して、その精度を上げていって欲しいものです。
舞台に立ち、ピットで演奏し、その充実感と充足感はきっと格別なものがあるのでしょうね。芸のないわたくしには、うらやましい限り。こちらは客席から大きな拍手で讃えたい。
ちなみに、1幕のあとは、私は当然拍手せず。でもパラパラ拍手が起きたし、劇場側もカーテンコールをやったから、あんまり堅く考える必要もなしか。
指揮のハンマー氏、ともかくこの楽劇が体の隅々まで染み込んでいるかのような指揮ぶりで、手際がよいし、プロンクター役もこなしていたくらい(笑)
でも、そのテキパキぶりは、快速テンポとなっていて、ちょっと私にはスルーしすぎの部分が多すぎに感じられた。
若い人主体のオケだからかと思ったけど、本国で録音してきた裏方合唱のテンポもあるから、こういうテンポ感の人なのだろう。
Ⅰ(1:40) Ⅱ(1:00) Ⅲ(1:05) ブーレーズも真っ青。
客席は6割くらいの入りで、拍手も寂しかったけど、わたくしは、結構楽しみましたよ。
最前列だったし、字幕はほとんど見てなかったけれど、途中、舞台とずれていて滑稽なことになっておりましたねぇ。
それと、あのロケーションで雨が降ったことを考えると恐ろしいものがあります。
これは何でしょう?
正解は、オーケストラピットでございます。
ところどころに、こうした隙間があって、私の席からはフルート嬢の熱演が垣間見れるのでありました。
指揮者は、ピット内に出入り口がないから、客席を一瞬通ってソロリと登場するわけ。
ドイツはどんな田舎町へ行っても、オペラ劇場があってオーケストラがあって、モコモコした音響で、市民が気楽に楽しんでいる(んだろうな)。そんな感じの荒川劇場。今後も期待。
今秋はワルキューレの3幕抜粋と、来春の「トリスタン」上演が予告されております。
それとチラシで、来春の東京オペラの森での「パルシファル」演奏会形式公演を発見。
ウィーンのシルマーとN響でございます。
いやはや、東京全体、バイロイトか
空腹に耐えかねて三ノ輪駅の近くの中国料理店へ。
これに、餃子をつけた晩酌セットで@1080円。
これで終わらず、そこそこ飲んでも、安い安い、うまいうまい。
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