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2009年5月 2日 (土)

ドレスデン国立歌劇場管弦楽団演奏会 ファビオ・ルイージ指揮

Dresden2009

ファビオ・ルイージ指揮のドレスデン国立歌劇場管弦楽の来日最終公演を聴いた。

R・シュトラウス

 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

 「アルプス交響曲」

     (5.1 @サントリーホール)


今回の来日6公演の中で、唯一演奏された「アルペンシンフォニー」、最後の公演とあって、オケも指揮者もその気合いは尋常でなく、演奏も神々しいまでの大名演となった。 こんなすごい演奏の後にアンコールはいらない。誰しもそう思ったであろう!

譜面は用意されていたけれど、ブラボーが乱れ飛ぶ大拍手を心から感謝しつつも、ヘヴィーな2曲を演奏しきったオーケストラに引き上げをうながすルイージ。
でも拍手はなりやまず、楽員が去ったあと、ルイージは、コンマスほか数人を引っ張って登場。
最後はひとり声援を受けていた。
私も含めて、それくらいに大いに讃えたい素晴らしいアルペンだった

1 まずこの演奏者にとってハードな2曲。
オペラも神話やお伽話、旧約などの題材ばかりで、無神論者だったシュトラウスのニーチェへの傾倒ぶりをあらわした、大作ふたつを並べたプログラミングの妙。
そしていずれも深長に静かなエンディングを迎える動と静のくっきりした曲。
シュトラウスの本領は15作品あるオペラにあると確信しているが、ほとんどの交響作品が晩年まで書き続けたオペラに先立って書かれている。
でもしかし、それらの交響作品もオペラも同じシュトラウス・ワールドであることに、最近つくづくと思うようになった。
それをもっとも感じるのは、アルプスと家庭に英雄の生涯。

ジェノヴァ生まれのイタリア男ルイージは、歌の情熱と知的な抑制が不思議にバランスのとれた、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの指揮者となったが、そのルイージと、歴史あるドレスデン・シュターツカペレのいぶし銀サウンドが、どういうマッチングを示すのか。
2007年来日時には「ばらの騎士」と「ワルキューレ」1幕を中心とするオペラ抜粋のコンサートを聴いたが、抜群のオーケストラコントロールと、音の開放感と劇性をもったルイージに驚き、オーケストラは美しいものの、もう少し熟成の時間が欲しいとも思った。

今回の印象は、2年前と実はあまり変わらない。
というか、これはこれでいいのではないかと思ったのだ。
相変わらず、大きな動きで細かいところまで細密に振るルイージの棒は、オーケストラに先んじて動いているように見える。ドイツのオケによくある光景ではあるが、出てくる音たちは、楽員が全員それぞれ聴きあい、確認しながらのものなので、完璧なまでに揃っているし、ルイージもそれがわかって振っている。
ソロのひとつひとつまで、細かに指揮を付けて振り分けている芸当に驚きもしたが、まさにオペラの住人ならでは。
歌の呼吸を持ったこのオーケストラとの相性はこういったところに見てとれる。
レパートリーも含めて、シノーポリの姿を見ることもできる。

「ツァラトゥストラ」は、慎重な出だしで前半よりは後半が俄然よかった。
特に舞踏の歌の弾むようなノリのよさと、弦楽のあまりの優美で美しいさまには陶然たる思いで浸ることができた。

3 そして「アルプス」である。
「始めちょろちょろ、中パッパ、赤子泣くとも蓋とるな」+「終わりもよければすべてよし」(これは私がプラスしました(笑))
こんなお米を釜炊きする基本の心構えのような曲であり、演奏。
弱火で初めて、中間で火を強めて、でもどんなに吹いても蓋はしたまま我慢我慢。
そして、最後には心が洗われるくらいに白く立ったおいしいご飯が炊ける。
この極意、最後に必ず、澄み切った心境に達し解脱のエンディングを迎えるシュトラウス・オペラに通じております。

 こんなわくわくドキドキの、登山に下山。ドレスデンの美音が、あらゆるところで炸裂。
このオーケストラ、ハイティンクの時に聴いて驚いたのは音がやたらとデカイこと。
今回もそれを感じたが、全然うるさくなくて、どこまでも音が澄んで聴こえてとがっていない。
登頂の圧倒的なクライマックス、大振りするルイージに応えて、オーケストラは全身でもって演奏して渾身の演奏。それでもすべてのセクションがよくお互いを聴きあいながら、大爆発の手前くらいに抑えているように思える音。でも大音量なのですよ、これが。
それだけ、音が明晰でブレンド感が豊かだということ。ルイージ効果でもあり、このオペラオケの特徴ではなかろうか。
 弦楽の紗がかかったような懐かしくも温かな音色にしばしば聴きほれ、ブリリアントなホルンも顕在、トランペットの柔らかさ、同質性に貫かれたウィンドセクションのえもいわれぬブレンド感。ことに終曲の感謝に満ちた場面での澄み切った弦とオルガンに導かれ、ホルン、トランペット、木管群、そして弦楽にと、素晴らしい歌が歌い継がれていく場面。
ここがほんとうに、特筆大に素晴らしかった。一編のオペラのエンディングを観るかの感覚におちいり、私は涙がにじんでしまった。
叫ばないブラボー一声は決まったが、もう少し待って欲しかった。
まだルイージは、手を降ろしてなかったんだから。

先頃のエド・デ・ワールトのアルプスも素晴らしいものだったが、N響はやはりドレスデンの前では分が悪すぎる。
ルイージはN響、新国、ウィーン響、ドレスデン2007とこれで6度目だが、次はヴェルディとワーグナー、シュトラウス晩年のオペラに接してみたい。
来春には、ウィーン響とまたやってくる。どんどんいい指揮者の顔になってくる。

Pollini 休憩時間に深呼吸しにホールの外へ出てみた。
そしたら皆さん、煙草プカプカ。
猫背のじーさんが、やたらウロウロしながら煙草をふかしている。
よくみたらなんと、ポリーニさまじゃぁあ~りませんか。手ぶらでサインもらえず、写真撮っちゃいましたよ、ボケボケだけど。


Dsc04542jpg_1

アーク・カラヤン広場では、英国風のバラ園が。
夜でもきれいでございましたことよ。

※ルイージとホール演奏の画像は、ドレスデンゼンパーオーパーのHPより拝借しております。

蛇足ながら、今秋のヤンソンスはバイエルンの番。チラシ入っていた。
しかし、なんでソリストが、ヨーヨーマと五島みどりなんだ
せっかくワーグナーやチャイコの5番をやるのに、チケットがばか高い。
ちょっと怒ってます。

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コメント

ルイージの熱烈なファンと自認するワタクシとしては、今回のSKDとの来日も是非行きたかったのですが、う~ん、チケットが高すぎて。自制してしまいました。こんなことではファンとは言えないですね。。。

それはなかったことにして(?)新国に行っておりました。(←裏切り者!!!)

投稿: 亭主 | 2009年5月 2日 (土) 02時58分

29日の感想は別途お伝えしたとおりです。予想としては絶対1日のプロのほうがあっているんだろうなぁと思いつつ・・・。そうか、「オペロン」序曲、やらなかったんですね。もっとも、この曲はマーラーに対するオマージュだし、大曲だから仕方ないですね。
新潟から29日の演奏を聴いた別の人の話でもやっぱりアンコールのほうが良かったという人がいて(「英雄の生涯」は、やっぱりみなとみらいのハイティンク=シカゴが強烈でしたから尚更)、そうなんだろうなあ。このコンビだと「アルプス」に合っているはずと予想していたとおりなので、逃した魚は大きいです。
【追記】
29日、時間があったので新国のバックステージツァーにいってたんですが、ちょうど「ムツェンスク」の準備が整っていて、シベリアに囚人を護送する大型トラックが2台、ステージの上に並び、「軍人たち」のように、バンダがステージ上手バルコニーにセット、下手にはたくさんの小道具と衣装、さらに演出で、途中壁紙を替えるシーンで使用される壁など多数。オペラの上演ってやっぱり大変なのだなぁということが分かりました。なお、今回のピットは少々浅めだとのことでした。

投稿: IANIS | 2009年5月 2日 (土) 08時37分

亭主さま、おはようございます。
わたしも、ルイージ君は以前から結構好きでして、ほぼ同じ歳ですので応援してました。
確かに外来オケは高いですよね。一流ソリストが付くとなおさらです。
今回はC席でしたが、サントリーホールだとどこも音がよくて均一なのでとてもお得感がありましたよ。

新国といえば、あの不道徳なアレですね。
私も連休明けに行こうと目論んでます。

投稿: yokochan | 2009年5月 2日 (土) 08時52分

IANISさん、おはようございます。
29日の印象をお聞きしてましたので、少し不安でしたが、ツァラの後半からその気持ちは吹き飛んでしまいました。
素晴らしいアルペンに、名盤ハイティンクRCOの威容に迫るものを感じましたね。
 正直言えば、オベロンも聴きたかった・・・・。

新国バックステージツアーですか。私も世話になっている以上、一度は行かなくてはいけませんね。
マクベス夫人がとても楽しみですが、何も勉強をしておりません。ぶっつけ本番で挑むつもりです。

ちなみに、ポリーニさん、背中は丸まってるし、ルツェルンの時に来た時より老けこんだ感じでした。

投稿: yokochan | 2009年5月 2日 (土) 08時59分

こんにちは。

当日の雰囲気がよく伝わってきます。
アルプス交響曲は、やはりこのオケにぴったりの曲なんですね。
サントリーホールは聴く場所によって随分印象が異なることがありますが、29日に私が聴いた席では、とにかくフレーズの終わり方・余韻が絶妙で、強い印象を受けました。それにしても、色を変えずに同色の中でデリケートに陰影をつけた響きを生み出す美質は、オーケストラの美質でしょうか、ルイージのセンスのよさでしょうか。

>次はヴェルディとワーグナー、シュトラウス晩年のオペラに接してみたい。
同感です。あとモーツァルトのオペラも聴いてみたいですね。

投稿: romani | 2009年5月 2日 (土) 12時27分

yokochan様 こんにちは。

ドレスデンは、その昔、シノポリで、「英雄の生涯」とか聴きに行きました。どちらもイタリア人指揮者ですね。

ルイージの演奏は、同じくドレスデンとの「ばらの騎士」のNHK放送でしか接したことはありませんが、第1幕幕切れに感銘を受けました。

スカラ座に1回行くより、オーケストラ2回行く方が”お得”感は高いですかね。今年はスカラ座行きますが、来年はオペラ外してオケ2回という作戦も検討です。

投稿: HIROPON | 2009年5月 2日 (土) 14時07分

上野で「ドン・ファン」「ティル」ブラ4を聴きました。緻密で激情的なルイジの指揮振りとドレスデンの音楽性は一見ミスマッチに見えますが(前回の「復活」は呼吸の合わないところも散見されました)、すべてを飲み込んで自分たちの音楽を作り上げていたSKDの懐の深さを感じました。
そして何よりも、全ての奏者が互いに音を聴きあいながら、同じ音色同じ呼吸で奏でつむぐ音楽の素晴らしさ!筆舌に尽くし難いまさに至福の時間でした。アンコールの「オベロン」序曲の冒頭、ホルンとバイオリンの対話の夢見るような美しさは当夜の白眉であったでしょう。わたしにとってSKDはまさにオーケストラの理想と言えます。
余裕があれば全公演聴きたかった今回の来日。次回が今から待ち遠しいです。

投稿: 白夜 | 2009年5月 2日 (土) 14時44分

romaniさん、コメントありがとうございます。
素晴らしいアルプスに、前半のツァラが霞んでしまいました。
おっしゃるように、このオケに合った曲に思います。メンバーの音色に同質性が保たれている点でも稀有のオケですね!

そうそう、モーツァルトもいいですね。フィガロから魔笛までの4大オペラなんぞで。
再来年あたりに実現しそうな予感です(笑)

投稿: yokochan | 2009年5月 3日 (日) 09時25分

HIROPONさん、コメントありがとうございます。
シノーポリ時代をお聞きになってるんですね。
うらやましいです。
シノーポリ晩年は、このオケとしっくりしてきて、いいコンビになってましたね。

スカラ座はバレンボイムのアイーダをご覧になるんですねぇ!
私は自粛しておりまして、そちらもうらやましいですよ。
外来オケもソリストによってはばか高いです。
新国オペラがいくつも見れちゃいますから、国内オペラもご検討されてはと(笑)

投稿: yokochan | 2009年5月 3日 (日) 09時47分

白夜さん、コメントありがとうございます。
ドレスデンのブラームスもいいですね!文化会館でのSKDの響きも大変興味があります。
かつて、ザンデルリンクやブロムシュテット時代の来日公演はすべて上野でFMを通じて楽しみました。

生演奏で見て聴くと、楽員がそれぞれ、他の奏者たちを聞きあってるのがよくわかります。

オベロンの出だし、思い起こすだけで素晴らしそうですね!
そういえば、かつてのザンデルリンクもアンコールはオベロンだったかと記憶してます。

投稿: yokochan | 2009年5月 3日 (日) 10時39分

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