神奈川フィルハーモニー演奏会 シュナイト音楽堂シリーズ
これまで、何度も感動の涙を流してきたシュナイト&神奈川フィルの演奏会。
でも今回は、これまでの涙と違う。
17回目を数えるシュナイト音楽堂シリーズのシューマンチクルス最終回の公演を聴く。
ハンス=マルティン・シュナイト師が神奈川フィルを指揮をする最期の演奏会に、万感の思いをいだきつつ紅葉坂を上って県立音楽堂へ。
ホールに着き次第、いつもお世話になってますyurikamomeさんから、一昨日、シュナイトさんが倒れ救急車が呼ばれたそうです、というショッキングな出来事をお聞きした。
一週間前のヨハネでは、あんなに元気そうにイキイキと指揮していたのに・・・・。
シューマン 「マンフレッド」序曲
ピアノ協奏曲
Pf:ダニエル・シュナイト
交響曲第4番
(5.16@神奈川県立音楽堂)
今度は不安を抱えつつ席に着き、神奈川フィルの出を待つ。なかなか出てこない。遅れること10分、メンバーが登場し、前回より始まった全員揃って挨拶が行われ、やがてシュナイト師登場。
一週間前と違う。
歩みが遅い。
そして、不安の中始まった「マンフレッド」序曲は、やはり極端に遅いテンポ。ただでさえ掴みどころのないシューマンなのに、もやもやとして音の焦点が定まらず決まらない。
バイロンの書いた主人公マンフレッドの苦渋は晴れることはないが、その音楽がやや明るい兆しを見せるあたりから、もやもや感が取れてきて、音楽がしっかり歩みだし、シューマン独特の幻想の世界にこちらも浸ることが出来てきた。
それにしても遅い。
でも、しっかり歌があって、ホールの温もり感も手伝って、ふくよかな響きであるところが、このコンビの素晴らしいところ。
憂愁の雰囲気のまま、曲が静かに閉じ、時計を見るとほぼ18分!
指揮台を降りるときに、足元がおぼつかず一瞬危なかった。
さて、次はシュナイト・ジュニア、ダニエル君との親子共演によるピアノ協奏曲。
私の席の斜め前には、その母上、すなわちシュナイト師の奥様がいらっしゃって、それこそ膝の上で手を合わせたりしながら、もう心配そうに、でもうれしそうに聴いてらっしゃる。
冒頭から当然ながら親父ペースで、そこに必死に着いて、いや先走らないようにしている、息子。どうもしっくりかみ合わない。
でもオーケストラは、鈴木さんの素晴らしいオーボエをはじめ、煌めくようなヴァイオリンの音色、そうすっかり耳に馴染んだ神奈川フィルが、幸せな時期のロマンあふれるシューマンを奏でてゆく。
オーケストラもソロと同等に雄弁に書かれているから、このまま最後まで楽しめるな、と思った3楽章。ダニエル君は止まってしまった・・・。
もうこうなると、聴く私たちも、「頑張れ」と念じる一方で、冷静さを失ってしまう。
まして、前にいらっしゃる母上のお気持ちたるや。親父も、どうしたのだ?と振り返る。
それを救ったのが、コンマス石田氏。区切りよい「出」をさっと引き出しオケとソロをリードして再開。曲をなんとか終了させた。
まだ22歳の紅顔の青年ダニエル君。この競演を、楽しみにしていた親父も残念であったろうが、まだまだこれから。父の愛した日本でも、頑張って活躍して欲しいもの。
でも、ここでの心ないブーイングは状況からしていかがなものかと・・・・。
シューマンのこの曲は、「同じようなフレーズが何度も繰り返しされるものだから、不明になってしまう」。休憩時間に、schweizer Music先生にお聞きした。
なるほど、以前も若いピアニストが3楽章で事故を起こしたのを聴いたことがある。
難しい曲だし、シューマンは手ごわい。
楽しみにしていたのが第4交響曲。
じっくりとした巨人のような歩みによるこんな演奏をかつて聴いたことがない。
そして、指揮者の意志に奉仕するオーケストラの強い思いの結実を目の当たりにすることができた。
いつも以上に棒の動きが見にくい。後ろで見ていてどこで出るんだろうと心配になるようなものだが、オケはしっかりついてくる。
2楽章ロマンツェの、オーボエ、チェロの素晴らしいソロに、繊細なヴァイオリンソロが加わり、演奏はここで一気に締まった感があった。
でも続く3楽章のトリオでは、いまにも止まりそうな様相を呈するが、石田氏が体を目一杯使ってリードしてゆく。
シュナイト師の背中がこのあたりから、斜めに見えてきた・・・。
終楽章、あぁ、思いだすに痛々しい後ろ姿。そして、必至に全霊を込めつつ演奏をするメンバーひとりひとり。その胸中はきっと心配でならなかったであろう。
私は、皆さんの姿を心に刻みつけようと瞬きもせずに見入り、聴き入った。
でも、正直気が気でなく、コーダの熱狂に突入しても耳も心も上の空的な状態。
最後の音が鳴り終わり、一瞬の静寂後、指揮者に駆け寄る前列の奏者たち。
袖から舞台スタッフも足早に登場して、抱きかかえられるようにシュナイト師は舞台を下がった。前列の奥様も、すぐに客席をあとに。
何が起こったか、切れぎれの光景しか覚えていない・・・。
私は気がついたら涙を流していた。
オーケストラは立ち上がり大拍手に一礼して、舞台を去った。
私たちは全員スタンディングで、人のいないステージに拍手を送った。
車椅子を嫌ったのであろうか、シュナイト師は椅子に腰かけて舞台袖に姿を現わし、私たちの感謝の声援に手を振って応えてくれた。
あまりにも悲しい充実した名コンビとの別れ、でも素晴らしい名演の数々を残してくれたことに、心の底からの感謝の念が湧きあがってきて、涙が溢れた・・・・。
同じ気持ちに包まれていた会場。素晴らしい音楽を同じ空気で共有することの喜び、ここに満たされリ。
シュナイトさん、ありがとう。
これからも、どちらへ舵をきろうと、神奈川フィルを応援して行きますよ!
アフターは、野毛の味のある中華料理店で、神奈川フィルを愛するメンバーの方たちと、楽しいひとときを持てました。
この集いはまさに「シュナイト卒業式」でございました。
そして、おいしい中華料理も終わってしまった、の図。
途中、シュナイトさんの容態はさほど悪くなく元気、との報も入りひと安心。
今回も皆様、お世話になりました。
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コメント
交響曲の後半左手一本で必死に体を支えながら、もはや指揮することを半ば放棄したシュナイト氏は、要所で入りを示したりトランペットに音量を落とすように指示した以外は、タクトを持ったままの右手でゆっくりと楽譜をめくりながら視線だけをオーケストラの方へ送っていたようでした。
あの時シュナイト氏とオーケストラの間にはどのような思いが交わされていたのでしょう。両者の歴史の積み重ねがその場で音楽を作り上げていたのだとしか言いようがありません。コーダでの石田氏はじめオーケストラの集中力と熱気は大変なものでした。シュナイト氏は立派に成長し巣立って行く雛鳥を見つめる母鳥の心境だったかもしれません。神奈川フィルはいいオーケストラになったものだと実感致しました。
シュナイト氏の状態もさほど深刻なものではないようで安心致しました。秋のシュナイトバッハの公演がどうなるのかわかりませんが、今はゆっくり静養して頂きたいものです。
投稿: 白夜 | 2009年5月17日 (日) 14時33分
白夜さん、こんばんは。
同じ緊張感の溢れる壮絶なコンサートに居合わせましたね。>立派に成長し巣立って行く雛鳥を見つめる母鳥の心境だったかもしれません<
そうです!きっとシュナイト氏はそう念じつつ、オケメンバーも最後まで絶対に意志をまっとうし、演奏しきる。
そんなお互いの思いがヒシヒシと伝わってきました。
こう書きつつ、思いだすだけで涙ぐんでしまいます。
秋のバッハまで、ゆっくりと静養していただきたいものですね。ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2009年5月17日 (日) 21時48分
昨日はご一緒させていただき、ありがとうございました。
色々な意味での卒業の日でしたね。交響曲の終わり近くでは、様々な彼らの名演を思い出しながら、素晴らしい音楽をたくさん聞かせてくれた彼らへの感謝の気持ちで一杯になりました。
終了後しばらくして、マエストロの体調が戻ったというyurikamomeさん情報でほっとしました。でも、これが最後だと思うと、毎回、コンサートの後、一ノ倉やキリンで楽しく飲んだことなどを思い出し、寂しさもありましたが、今は感謝、感謝、感謝でありました。
また、ご一緒させてください。これからも聞きにいきます!!
投稿: schweizer_musik | 2009年5月17日 (日) 22時38分
schwaizer_music先生、こちらこそありがとうございました。
交響曲の最後の場面は緊張してしまっていたので、思い出せません(悲しい)。
でもあのカーテンコールならぬ、お別れの儀式のようになってしまったシュナイトさんへの拍手は、一連の名演奏を思い、これが最後と思い、万感こもって涙まみれになってしまいました。・・・・歳ですね。
また次の機会に是非よろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2009年5月17日 (日) 23時16分
まさに「シュナイト卒業式」でしたね。
オケと指揮者の関係の1つの極致を見せつけられました。
色々あって忘れがちですが、交響曲第4番の第2楽章は僕も普通に良い演奏だったと思うんですけどね。
シュナイトさんから神奈川フィルに渡されたバトンがどう受け渡されていくのか。
まだまだ目が離せません。
投稿: syllable | 2009年5月18日 (月) 00時29分
どうもお付き合いありがとうございました。
今この巡り合わせでこのコンビを聴くことができた事に感謝をせずにはいられません。
そしてその最後に、あれほど壮絶なものを見せつけられようとは。。。。。。。
私は私の街に神奈川フィルがあることにちょっと誇らしく思っています。
そしてシェフの交代にこれほどあちらこちらで反響があるというのも、そしてそれを一緒に語れる仲間がいることに感謝です。
このコンサート、神奈川フィルがシュナイトさんや現田さんからしっかりと受け取った財産、それを見事なまでに彼らのものになっていることを私たちも身を以てこの目と耳でしっかり見届けることが出来ました。
本当に神奈川フィルを聴き続けて良かったと思っています。
投稿: yurikamome122 | 2009年5月18日 (月) 20時02分
一昨日の出来事を未だに引きずって一日を送ってしまいました。壮絶な演奏会でしたね。なんとか最後にたどり着いた時は、オケも会場の誰もが感謝の気持ちで一杯でした。
演奏会であんな気持ちになったのははじめての体験でした。反芻しながら、ぼんやり放心状態で一日が過ぎてしまった感じです。明日からはしっかりしなきゃと思っているところです(笑)。
投稿: Schweizer_Musik | 2009年5月18日 (月) 23時15分
syllableさん、こんばんは。
卒業式、お疲れ様でした。
たしかに。
音楽のいいところが結構ありましたが、みんな飛んでしまいましたね(笑)
やっぱり、どんな状況でもこのコンビですよ!
怖いもの見たさと、好きなものを見届ける意味でもって、今後も楽しみです!
投稿: yokochan | 2009年5月18日 (月) 23時21分
yurikamomeさん、こんばんは。
神奈川フィルにご案内をいただいたことは、感謝してもしきれません。
その究極の結論を目の当たりにして、涙が溢れてしまいました。
これは音楽会を超えてしまった人生体験のようなものでした。
おっしゃるとおり、次なる指揮者への喧々諤々も、名トリプルコンビへの愛情と裏腹の期待の大きさなのでしょうね。
ほんとうにありがとうございました。
投稿: yokochan | 2009年5月18日 (月) 23時41分
schwaizer_music先生、こんばんは。
私も、今日の記事のとおり、まったくのふぬけ状態で、昼休みに皆さんや自分の記事を見ては、涙ぐんだり、ため息をついたりしてました。
そしてまったく同じく、これじゃいけないと思ってます(笑)
こんなにされて、困った神奈川フィルですね・・・!
投稿: yokochan | 2009年5月18日 (月) 23時52分