「ドレスデン・シュターツカペレに酔う」 ②
富士を背景に田植え。
これもまたゴールデンウィークの光景かも。
ドレスデン・シュターツカペレの音の確認第2回目。
今日は70年代後半以降。
この頃から、東ドイツのレーベル「ドイツシャルプラッテン」や、そちらと「デンオン」の共同などによる録音が次々と出るようになり、EMIしか聴けなかったシュターツカペレの音が、腰の据わった素晴らしい音響で聴けるようになった。
⑧ブロムシュテット ベートーヴェン 「田園交響曲」
グリーンなムード満載の気持ちいい田園。
こんなに作為のない自然なベートーヴェンってほかにあるだろうか?平和そのもののこうした音楽は、耳に心地よいとともに、辛くもある。
そう、いまやこんな音がどこにも聴けなくなってしまったから・・・・・・。
当時地味だったブロムシュテットが、真の巨匠となるなんて誰が予想したろう。
ドレスデンの指揮者選びは、現在まで、なかなか大したものだ。
⑨ヤノフスキ ワーグナー 「ラインの黄金」
80年から、ドレスデンの「リング」録音が開始された。それまで、ドレスデンでは、数十年も演奏されなかったリングの指揮を託されたのは、マレク・ヤノフスキ。
この人もまた当時、??の目で迎えられた指揮者。
オーケストラ・ビルダーとして、オペラ指揮者としての抜群の手腕を買われ、見事なリング録音を成し遂げた。ドリームキャストによる歌手陣の素晴らしさもさることながら、シュターツカペレが生みだす大河のように滔々と流れる豊かなワーグナーサウンドこそ、身を任せるに相応しいものはない。
巨大なドラマの幕開きの、混沌とした響きからやがてラインの流れが見えてくるような前奏からして、もう聴き出したらとまらない。こうしているうちに、ウォータンが登場してヴァルハラのテーマが勇壮に響き出した。なんて素晴らしいホルンに金管なんだろう。
⑩若杉 弘 ワーグナー 「ローエングリン」前奏曲
若杉さんが、ドレスデンの音楽監督になった時、それは驚いたもんだ。
西ドイツで活躍中で、ケルン放送やデュセルドルフの音楽監督をしてはいたものの、かの名門の指揮者になるとは!
そしてすぐさま、このワーグナーが録音された。若杉さんの精緻さと、オケの清冽で気品ある響きがえもいわれぬ崇高なワーグナーを生みだした。
⑪K・クライバー ウェーバー 「魔弾の射手」序曲
DGの録音を通じての付き合いだったが、オペラティックな感性に秀でたカルロスとドレスデンは抜群の相性だった。ドレスデンゆかりのウェーバーの音楽が、こんなに生き生きと弾み、どこをとっても音楽に血が通っていて無駄なものがひとつもない充足感。
ここまでされて息詰まることのがないのが、カルロスの凄さだし、有機的なオーケストラのなせる技。松やにの飛び散るような弦、弾む管にうるさくならない金管の響き、たたみ込むようなクライマックスに、今しも幕が開くかのような感興に震える。
⑫デイヴィス フンパーディンク 「ヘンゼルとグレーテル」序曲
バイエルン放送とともに、デイヴィスはドレスデンでも重要な地位を占めた。
穏健派のジェントルマンでありながら、熱き情熱も併せ持ったディヴィスは腰の据わった重低音のうえにピラミッド型の音響を築きあげる人だ。
同じドイツオペラでも、カルロスの俊敏な響きとは大いに異なり、どこか懐かしいドイツのオペラハウスの音がする。
フンパーディンクの深い森を思わせるような優しく暖かい音楽が、まったく過不足なく響いていて、これもまたシュターツカペレの持ち味なのだと痛感。
⑬シノーポリ R・シュトラウス 「火の欠乏」愛の情景
ドレスデンが自分たちの指揮者に選んだのがシノーポリ。
当初奇異に思われ、その個性も水と油のように感じたが、年を重ねていくうちに先鋭さを残しながらも、味わい深い、でもちょっと味付けの濃い音楽を作り出すようになったシノーポリに、シュターツカペレがピタリと寄り添いユニークな演奏をするようになった。
それはまだ始まったばかりで、この先どうなるか、楽しみなコンビだったのに。
このコンビのシュトラウスは、主にそのオペラが絶品で、歌手以上にドラマを語り尽くしてやまないものだった。
おそらく、シュトラウスの全オペラに、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニもすべて録音してくれたはずだ・・・。
⑭ハイティンク ウェーバー 「オベロン」序曲
シノーポリの急逝により、ドレスデンが選んだ指揮者は、ハイティンク。
あとで納得するものの、奇異な人選を繰り返すドレスデンの選択に、今回ばかりは、誰しも大納得。しかし、本人もあくまで代打と公言していたとおり、あっさり退いてしまったところがハイティンクらしいところ。内実はルイージ体制がうまく機能しはじめたおり、かまわないだろう。
冒頭の柔らかなホルン、ほのかな弦、踊るような木管の合いの手・・・・、まさにオベロンの世界、夢幻境に誘われるようなオーケストラの美音である。
続くアレグロの主部もハイティンクの造りだすふっくらした音楽のイメージにピタリピタリとはまっていく思い。ほんと、素晴らしいです。
もう少しハイティンクが若ければ、長期熟成の黄金コンビになっていたかも。そう、コンセルトヘボウのように。
⑮ルイージ R・シュトラウス 「ばらの騎士」終幕
現在のシェフ、先日聴いたファビオ・ルイージ。
才能あふれるオールマイティ指揮者。いまのところ死角はないように感じるが、慢心せずじっくりとこの素晴らしいオーケストラと付き合っていって欲しい。
ガランチャのアリア集の最後を飾るこの終幕場面、ピエチョンカ、ダムラウといった今や花形歌手を揃えた贅沢な12分間の音のご馳走。
ウィーンもミュンヘンもいいけど、「ばらの騎士」を聴くのに最高のオーケストラ。
そして女声3人は、まさにドルチェでございます。
あとは、カルロスの色気やハイティンクの年輪が出てくれば文句なしのルイージ(後者は難しいけれど)。
眩しい陽光の中の富士の頂き。
夕闇迫る富士の頂き。
こんな光景を見ながら、温泉に入っちまいました。
「御胎内温泉」であります。
最高の温泉ですぞ。
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コメント
こんばんは。実はここに挙がっているのはブロムシュテットはBRILLIANT CLASSICSのベートーヴェンの「交響曲全集」で持ってます。ちなみにクライバーの「魔弾の射手」デイヴィスの「ヘンゼルとグレーテル」の劇版が手元にありました。他にもありますが・・・
これら、落ち着いた響きのドレスデン・シュターツカペレはズバリ、森を表しているようですね。新緑の季節となりそうです。
投稿: eyes_1975 | 2009年5月 7日 (木) 22時59分
eyes_1975さま、こんばんは。
ブロムシュテットのベートーヴェンはいずれもいいですよね。偶数番号が特に素晴らしいです!
今回、ドレスデンの手持ちがどれくらいあるか在庫確認しながら聴きましたが、オペラが多いのに感心しつつ、満足もしました。
魔弾もヘンゼルも全曲の冒頭だけを聴こうとしましたが、ついつい途中まで聴いてしまいます。
序曲はオペラの一部として演奏しているかのようです。
そうですね!深い新緑が相応しいドレスデンの美音です。
今年も素晴らしい新緑の季節がやってきましたね。
投稿: yokochan | 2009年5月 8日 (金) 00時54分
こんばんは。
SKDは一度だけ聴いたことがあります。1981年でしたか?ブロムシュテットの指揮でした。
「ジュピター」と「英雄」アンコールは「オベロン」序曲という正攻法のプログラムでした。
一番素晴らしかったのが「オベロン」
夢幻的な管楽器としっとりとした厚手の弦の響きが絶妙だったのを覚えています。これだけの演奏会が7分くらいの入りだったのが不思議に思えたものでした。
投稿: 天ぬき | 2009年5月 9日 (土) 18時30分
yokochanさん、こんばんは!
ご紹介のドレスデンの録音、未聴のものがたくさんありますが、私にとっての一つの“極致”は初の名誉指揮者サー・コリンによる「ヘンゼルとグレーテル」、そしてモーツァルトの「ジュピター」です。
ご紹介に含まれていなかったものとして、まっさきに思い浮かんだのは、シュライアーの「クリスマス・オラトリオ」と、あとはTBさせていただいたEMI録音です。
すてきなGWをお過ごしになられたようで何よりです。私は酔っぱらった夢の中で大変でした(爆)。
投稿: Niklaus Vogel | 2009年5月 9日 (土) 23時07分
天ぬきさま、こんばんは。コメントありがとうございます。
東西統一前のドレスデンをブロムシュテットでお聴きになったとはうらやましいです。
81年は、違う演目ですが、ブルックナーの4番がエアチェックで残ってます。
それにしても、この楽団のアンコールの定番は、オベロンなのですね
>夢幻的な管楽器としっとりとした厚手の弦<
いい曲だし、ドレスデンにぴったりです。
投稿: yokochan | 2009年5月10日 (日) 00時07分
niklaus Vogelさま、こんばんは。
一時復帰されているとは、つゆしらず、失礼をばしました。
そしてさっそくのTBにコメントありがとうございました。
サー・コリンとカペレとの相性は衆目の一致するところで、私は魔笛も楽しんでます。
映像のある「アリアドネ」もナタリーの魅力もあって素晴らしいものでした。
シュライヤーのバッハは死角でしたね。
本日、素晴らしいバッハを聴いてきただけに、ドレスデンのバッハに対する思いはひとしおです・・・。
さっそくお邪魔します。
投稿: yokochan | 2009年5月10日 (日) 00時14分