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2009年8月22日 (土)

ヒルデガルト・ベーレンスを偲んで

Salvia 去る18日、来日中に亡くなってしまったヒルデガルト・ベーレンスを偲んで彼女のもっとも得意としたワーグナーを聴く。

サルビアの花。
晩夏から秋にかけて、今がその盛り。
子供の頃は、その密をよく吸ったものだ。
今はなんだか怖いし、埃っぽいような気がして・・・。

Gotterdammerung_levine

享年72歳、しかも現役で活躍中だっただけに、その早すぎる死は極めて残念なこと。
カラヤンに発掘され、「サロメ」でセンセーショナルを引き起こしたのは1977年。
40歳にして、注目され世界の第一線に踊りだしたベーレンス。
それまでは、デュセルドルフを中心に活躍していたというから、もしかしたら若杉弘さんと共演していたかもしれない。

77年のザルツブルクライブは、FMで放送され、カセットテープに録音して長く聴いたものだったが、いつの間にか消失。
カラヤンの指揮がどうもきれいすぎて、印象がイマイチだったけど、ベーレンスのまさに少女のような新鮮なサロメはいまだに耳に残っている。(でもレコード・CDは未購入)
そして、サロメとともに、本来のドラマでは少女のようだったイゾルデ。
ベーレンスのイゾルデも、ペーター・ホフマンの素敵なトリスタンとともに、ピーンと張りつめた声の緊張感の魅力とともに、かげりのない若々しい魅力に満ち溢れた理想の歌唱であり、声のマッチングも抜群のカップルであった。
惜しむらくはバーンスタインの指揮が、ユニークで立派ではあるけれど、二人の歌唱とはやや異質に思われること。ベームやサヴァリッシュのようなストレートなワーグナーの方がよかったかも。

イゾルデの録音のあと、ベーレンスはバイロイト音楽祭にブリュンヒルデで登場する。
83年、シェローのあとを受けたピーター・ホールの演出とショルティの指揮。
リアルすぎる演出と劇場の音響を掴みきれなかったショルティの指揮が評判がいまひとつだったのに加え、ベーレンスのブリュンヒルデは、ひとり絶賛された。
翌年は、P・シュナイダーが急場を救いさらに翌年の85年は、このプロダクションのピークを記録する素晴らしい演奏だったと思う。
今でも、その録音は私の大切な「リング」のひとつで、知的にペース配分されたベーレンスの安定した歌唱は、最初から最後まで、どこをとってもみずみずしい情感にあふれ、かつドラマティックな力強さにも事欠かない素晴らしいものである。
加えて、賛否あったニムスゲルンのウォータンが滑らかでとても好きだった。
このときの映像がごくわずかにビデオに残してあるのだが、いまやどこにあるのか不明。
いずれ発掘したこちらで公開したいと思ってます。

このブリュンヒルデの素晴らしさは、その後のサヴァリッシュのミュンヘン上演と、レヴァインのメト上演にも同じように聴かれ、それぞれに映像も伴っていて演技派でもあったベーレンスの姿もしっかりと確認できるのがうれしい。
今日は、レヴァインとメトの「リング」から、「神々の黄昏」第3幕を聴いてます。

私にとっての、最高のブリュンヒルデとイゾルデは、どうしてもニルソンをおいて語れないのだけれど、ベーレンスはそのニルソンを唯一忘れさせてくれる存在だったといっていいかもしれない。(リゲンツァもその一人)
 どんなに強く歌っても、優しく明るさも伴った声は、けっして威圧的にもならないし、私には魅力であるけれど、皆さんが指摘するG・ジョーンズのような絶叫にもならない。
91年の初来日が、私の唯一のベーレンス体験。
小沢・新日の定期への登場で、やはりブリュンヒルデの自己犠牲を歌った。
コンパクトな小沢さんの指揮の一方、小柄ながら風格あふれるブリュンヒルデを余裕をもって歌っていたベーレンスだった。

ワーグナーに残された音源はあとは、ゼンタ。
こちらは長く廃盤で聴いたことがない。
クンドリーの録音もなされなかったのが残念だし、後期のシュトラウス作品も歌って欲しかった。

私にとって、ベーレンスはワーグナー歌手一本でありましたが、シュトラウスやレオノーレ、アガーテにプッチーニ、そして歌曲などもこれから確認していきたいと思っております。
亡くなってみて、その偉大さに気づき、残念がるのも虚しいことではありますが、歌手の場合、声として記録が残るので、これまで何人もの歌手を心に、そして耳に留めてきたと同じくして、ベーレンスの歌声もきっと末永く忘れえぬものとして私の中に残っていくことと思います。
改めまして、ご冥福をお祈りいたします。


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コメント

ベーレンスか。。。
サロメしか聞いていない私には
キレイなサロメ!という印象だけです。
すみません、語る資格ありません^^;
でも、この音源
LPもCDも持っていて
かなり繰り返して楽しんでますよ^^とかいってー

それにしても、さまよえる様は
著名演奏家の物故をどのようにして知るのですか?
耳が早いですよね!

投稿: モナコ命=蓄音器ファン | 2009年8月23日 (日) 20時18分

2年に一度の世界陸上放送で1週間、そのうえ不本意ながら決勝まで駆け上がった当県代表の試合等、連日テレビ付けでありました。すみません。遅ればせながら、ベーレンスの冥福をお祈り申し上げます。
yokochanさんはベーレンスの「サロメ」、未だ未所有とのことですが、僕にとってのベーレンスはカラヤン=ウィーン・フィルとの「サロメ」でした。美しすぎるとのことでありますが、シュトラウス・オペラの退嬰的美を知り、後期ロマン派とはいえ、シュトラウスの音楽はワーグナーの圧倒的音量とは異なるものであることを知ったのは、このLP(後にCDで買いなおしてます)のおかげでした。
そして、ワーグナーやシュトラウスのヒロインを、強大な声で歌わなくとも強烈な印象を与えてくれることを教えてくれたのはベーレンスだったのです。

ほんと、この年になると、次々に音楽家を見送る辛い立場になってきますね。

投稿: IANIS | 2009年8月23日 (日) 23時13分

こんばんは。
班女聞いてきました。
素晴らしい音楽でした。根底は三島の戯曲の言葉の深さにあるとは思いますが。小森輝彦とブリレンブルクの恋人奪い?のかけあいは迫力ありました。このパートはレベル高かったです。良い音楽を聴けて幸せでした。不満は指揮者のプレトークを強制的に10分以上聞かされたことです。傲慢と感じました。作曲者のお話であれば理解できますが、指揮者がなさるのでしたら開演前に希望者になさって欲しいものです。

投稿: Mie | 2009年8月23日 (日) 23時40分

カラヤン&VPOの「サロメ」は萌え・・・いや燃えますよ!「七つのベールの踊り」なんか、金管群、あまりの興奮にピッチ上がっちゃってますし(笑)。そしてベーレンスの声が実に妖艶です。
でも、やっぱり僕にとっては、ワーグナーなんですよね。レヴァインでもサヴァリッシュでも、「ワルキューレ」2幕の登場シーン、ホー・ヨー・トー・ホー!だけでもう痺れてしまいます。震えつきたくなるぐらいの美声と声の伸び。本当に惜しい歌手を亡くしました。

投稿: minamina | 2009年8月24日 (月) 23時00分

モナコ命さま、こんばんは。ご返事遅くなってしまいました。
ベーレンスといえば、やはりサロメなのですね。
見た目はもうおばさんでの、レコーディングデビューでしたか、あの若々しい声は素晴らしかった。
それを発掘したカラヤンはやはりたいしたものです!
こうしたニュースは、なんのことはありません、新聞で知るだけですよ(笑)

投稿: yokochan | 2009年8月25日 (火) 19時56分

IANISさん、こんばんは。
ご返事遅くなってしまいました。
ベーレンスのサロメはカセット収録のみで終わってます。シュトラウス好きとしてはイカンことですな!
カラヤンが見出だす歌手たちは、強烈な声の持ち主ではなく、明晰で力強く、キレイな声ばかりでした。
デルネッシュやシントウあたりですが、テノールには苦労してましたねぇ。
オペラを、若い頃、馴染んでゆくなか、ちょうどその歌手たちで親しんできた、まさにその方々が次々に亡くなっていかれます。
ちょうどそういう世代になってきたということでしょうか・・・

日本文理の活躍、花巻とともに親しみある県だし、大いに応援してました!
よくやりましたね!

投稿: yokochan | 2009年8月25日 (火) 20時14分

Mieさま、こんばんは。
ご返事遅くなってしまいました。
班女、素晴らしい上演でしたようでなによりでございました。
わたしは、小森さんを聴いてみたかったです。
そしてわたしも、これからは日本のオペラも積極的に観ようと思ってます。

指揮者のトークの件、同感ですね。
コンサートでも最近指揮者がよく喋ります。
でもオペラぐらいになると、皆さん事前に調べて会場にいらっしゃるでしょうし、先入観を無理に植え付けられそうで困りますね。

投稿: yokochan | 2009年8月25日 (火) 20時27分

minaminaさん、こんばんは。ご返事遅くなってしまいました。
音源を持たないベーレンス何々のサロメ買おうかな。あとステューダーのサロメも聴きたいし、物欲はとどまることを知りません。
そう、ベーレンスのブリュンヒルデは素晴らしいですな!
神々じゃなく、最初から人間の女性のようなブリュンヒルデです。
円熟期に歌曲を残して欲しかったものです。

投稿: yokochan | 2009年8月25日 (火) 20時37分

こんばんは。ワーグナー慣れしたyokochanさんには抵抗あるかと思いますが、実は私の唯一のCDは「ヴォツェック」(ベルク)アバド、ウィーン・フィル盤でマリーを演じたものです。無調の特権を生かした刻みの良いサウンドです。国内盤の対訳がないものですが、簡単な解説が載ってました。
ベーレンスのプロフィール上で1971年にフライブルク市立劇場でデビューした。(中略)1977年にザルツブルク音楽祭で歌ったサロメで大成功を収め、国際的に華々しい活躍を始めた。1983年にバイロイト音楽祭にデビューし「ニーベルングの指環」のブリュンヒルデを歌った・・・。
「ヴォツェック」は1987年に録音されたものです。一番、脂の乗った時期なのでしょうが、その後の彼女はCD(LP)の録音には残念ながら恵まれませんでしたね。
カラヤンには「サロメ」の「7つのヴェールの踊り」の別テイクもあるくらいの自信作。劇版も欲しいな、と思っています。

投稿: eyes_1975 | 2009年8月26日 (水) 21時10分

eyes_1975さん、こんばんは。
「ヴォツェック」!、オペラ史の中でも最高の劇作品だと思います。
抵抗どころか、その素晴らしい音楽と緻密な構成に、まさに抵抗できないくらいに魅力を感じます。
CDも数種類持ってますよ。アバドの映像も美しいものです。
ここでのベーレンスは、淡々としつつも不幸な存在を歌いだしていて見事なものですね。

大指揮者がいなくなり、レコード会社が大掛かりなオペラ録音を行わなくなったことも、ベーレンスのようなドラマテッィクソプラノの録音がなされなくなってしまった要因かもしれません。
歌曲とか軽めなものを残してほしかったです。合掌。

投稿: yokochan | 2009年8月27日 (木) 22時46分

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