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2009年9月10日 (木)

ヴェルディ レクイエム リヒター指揮

Hakodate_catheric_1 今年の春先に訪れた函館の元町教会群の中のひとつ。
カトリック元町教会。

夕闇せまる美しい教会。

カトリック、プロテスタント、ロシア正教、英国国教、ギリシア正教・・・、神はひとつでも、多々あるキリスト教派。
その協会建築もそれぞれ違うが、いずれも高さと空間へのこだわり、そして対称の美しさを感じさせる。
でも、人々の祈る心は世界のどの宗教も一緒。

そして、祈りの念を音楽に乗せて必死に訴え続けた指揮者シュナイトさんが、その指揮棒をこの日本で置いたのが先週のこと。

歌劇場で仕事をしていたシュナイトさんを、再び教会・宗教音楽に近い場所に呼び寄せたのが、皮肉にも、カール・リヒターの突然の死。
ミュンヘン・バッハの指揮者を引き継いだのがシュナイト

Verdi_requiem_richter_2 カール・リヒターが54歳の若さで亡くなったのが1981年。
早いもので、もう28年も経つ。
そのリヒターの極めて珍しいレパートリー、ヴェルディのレクイエム。
発売後、即購入したものの、何故かずっと眺めるだけで、封も切ることがなかった。
別に大きな理由はないけれど、なんとなくイメージが作りにくかったのと、毎夏に聴くならわしを自分に課していたので、それまでと思いオクラ入りにしていた。

シュナイト師の「ロ短調ミサ」を聴き、若杉さんをおくり、そう、ついにこの「リヒターのヴェルレク」を聴くときがやってきた。

解説によれば、これは放送音源でなく、マニアだった合唱団の一員が録音したものという。
1969年、ミュンヘンのコングレスザールでの演奏会ライブである。
れっきとしたステレオ録音で、音も鮮明ではあるが、強音で音割れするのが苦しい。
でも、個人録音としては相当なもので、他にもまだ隠れたる音源をお持ちではないかと、期待したくなる。

    S:イングリット・ビョーナー   Ms:ヘルタ・テッパー
    T:ヴァルデマール・クメント   Bs:ゴットロープ・フリック

   カール・リヒター指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
                  ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
                   ミュンヘン・バッハ合唱団
                        (69.2.28 ミュンヘン)

渋いヴェルディのレクイエム。
この一言に尽きる。
ワーグナー歌手をソリストにしたから、さぞや重厚でドイツ風に傾いているかと思いきや・・・・。

オペラ作曲家が書いた歌にあふれたレクイエムではなくて、たとえば、バッハのように神を見据えた純粋ともいえる宗教音楽としてのレクイエムの演奏。

冒頭からかなり克明な歌わせ方で、じっくりと歩む。

ディエスイレは、最初、もっさりと感じるものの、低音の強烈さは、迫真的。

メゾのあと2度目におとづれる怒りの日も、意外とあっさり聴こえる。

クメントは音程に揺れがあってやや苦しいが、インジェミスコは素晴らしい。
イタリア系が歌うとオペラアリアのように歌いまくってしまうが、
ドイツ系のテノールって感じが濃厚で、その少しバリトンかかった声が新鮮。
私はジークムントを思い起こしてしまった。

名ハーゲンのフリックはどうだろう。
このふくよかで美しい歌声は、あのハーゲンの姿からは遠い。
まるで慈悲深き神父のようではないか。

しかし、そのバスのコンタティスのあとの怒りの日は、激しく咆哮している。

その後のラクリモーサ。
テッパーのあまりに深い声は、あのマタイを思い起こしてしまうもの。
続くフリックのバス、そして4人のバランスのよい重唱。
オーケストラの沈痛な響き、金管・テンパニの強調、まるで葬送行進曲のような重々しさ。
私は、こんなに悲痛なラクリモーサを聴いたことがない。
アバドのような優しさに溢れた演奏に馴染んできたゆえに、正直辛いものがあった。

サンクトゥスは輝かしさよりは、感謝の一途さの爆発に聴こえるし、そのあとのアニュスデイは休みを置かず、すぐにソリストが歌い始める。これまた深い演奏。

美しいルクス・エテルナで、アカペラで歌われる4人の独唱。それをフリックの深みあるバスがしっかりと下支えをしている。オーケストラは、しばしヴェルディを聴いていることを忘れてしまうほどに、入念で克明。
私は、ワーグナーがもし宗教曲を書いたらこうなる、という思いに囚われてしまったが、どうであろうか。
4人とも、声が外に向かわず、極めて内省的。
いつもは天国的な響きに包まれるのに、こんなルクス・エテルナは聴いたことがない。

最後の怒りの日。何とここでは、これまで3度登場する怒りの日ともまた違う。
重々しい。
それがおさまったあとの、レクイエムの極端にデリケートで密やかな響きと歌いぶり。
大味な印象のあったビョーナーの繊細さに驚く。
強烈なリベラ・メがやってきて、曲は深い祈りに満たされながら終わる。

なんと、壮絶なヴェルディのレクイエムであろうか。
聞き手ひとりひとりに、まるで十字架を背負わせてしまうかのような重い1枚。
そう何度も聴けるものではない。
でも私は、いろいろ確認したくて5回も聴いてしまった。
こうしてリヒターは、その命を燃やしてしまい、早世してしまったのだろうか。

初めてヴェルディのレクイエムを聴く方には、決してお勧めできないが、これまでいくつか聴かれてきた方に聴いていただきたい。
これみよがしの壮大さや華麗さとはかけ離れた壮絶なレクイエムであった。

※これを機に、多々あるレクイエムをいろいろと取り上げようと思っている。

過去のヴェルディのレクイエムの記事

「アバド指揮ミラノ・スカラ座」
「バーンスタイン指揮ロンドン交響楽団」
「ジュリーニ指揮フィルハーモニア」

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コメント

リヒターの音源は色々出てきますね。ブルックナーの「ロマンティック」の出現には本当に驚きましたが、このヴェルディもビックリです。ちなみにCD-R盤でブルックナーの「ミサ曲第3番」というのも出ていますよ。1974年のライヴで演奏はウィーン・トンキュンストラー管弦楽団とウィーン楽友協会合唱団です。そしてガザリアンやデルモータといった歌手陣が参加しています。また何かと出てきそうで楽しみですね。

投稿: EINSATZ | 2009年9月12日 (土) 01時50分

EINSATZさん、こんちは。
あのブルックナーにはほんとびっくりでしたね。
ブルックナーのミサ曲もあるんですか?
以前、ミサソレも聴きましたが、やはり歌ものはいいです。
噂では、カルメンなんてのも指揮してたみたいですから、今後のお宝発掘に期待したいですよね。

投稿: yokochan | 2009年9月12日 (土) 13時06分

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