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2009年10月 4日 (日)

ベルク 「ルル」 沼尻竜典オペラセレクション

Biwako



















ベルクの「ルル」を観劇、@びわ湖ホール。

Lulu_biwako

















待望のオペラに待望のホール。
湖を臨む最高に美しいシテュエーションのホール。
今日は眩しいくらいの天気にも恵まれ、周辺の散策も楽しいし、ホールから見た湖面もキラキラとまばゆい。

そして「ルル」は、1970年万博の年にベルリン・ドイツオペラが上演した時の写真をずっと持っていて、一体どんな風なんだろうと、想像を膨らませていた。
岩波文庫でヴェーデキントの原作「地霊」「パンドラの箱」も高校時代に読んだし、そうして私も「ルル」の魔性に取り憑かれた男の一人と化していたのである。

日生も新国も逃してしまい、なかなかその舞台にありつけず、グライドボーンの映像(シェーファーの素晴らしさ!)やブーレーズやベームの音源だけで渇を満たしてきた。

ようやくにして巡り会うことができた「ルル」。
その実際の舞台。
故若杉さんが情熱を傾けたびわ湖ホールは座席数約1800と程よい規模で、このような緻密な作品にとても適していると思われる、ホールに入った時、無理してやって来てよかったと実感した。

Wakasugi

若杉さ
の偉業を偲ぶ一角があり、書き込みあるスコアや指揮棒が展示されておりました。

今回のびわ湖プロダクションは、6年前の日生劇場のものとは、ほぼ同じスタッフによるものながら、佐藤信氏の演出は再演でなく、新版とのこと。
そして、当然のことながら、チェルハ補筆による3幕版による上演。

   ルル:飯田みち代     ゲシュヴィッツ伯爵令嬢:小山由美
   アルヴァ:高橋 淳     
   劇場の衣裳係・ギムナジウムの学生・ボーイ:加納悦子
   医事顧問官・銀行家・教授:片桐直樹
   画家・黒人:経種廉彦   シェーン博士・切り裂きジャック:高橋 祐樹
   シゴルヒ:大澤 建      猛獣使い・力業師:志村文彦
   公爵・従僕:清水徹太郎  侯爵:二塚 直紀
   劇場支配人:松森 治   15歳の少女:中嶋 康子
   少女の母:与田 朝子    女流工芸家:江藤 美保
   新聞記者:相沢 創     召使:安田 旺司

       沼尻 竜典 指揮 大阪センチェリー交響楽団
              演出:佐藤  信
                    (2009.10.4@びわ湖ホール)


「ヴォツェック」もそうだか、甘味な響きに満ちたベルクの音楽は、極めて緻密に作曲されており、やはり「ヴォツェック」と同じく、全体がシェーン博士の死を境にルルの絶頂と没落がシンメトリーとなって構成されている。
それを明確に隔てるのが、ルルの逮捕劇と脱出を映像で描くという原作品の指示だが、そのシネマは、ルルの肖像が徐々に焼けて行き、その上に文字で物語る仕組みとなっていて、ゲシュヴィッツ令嬢による救出劇が語られと、焼けた肖像は逆戻しとなって、ルルが復元する仕組みとなっていた。グライドボーンのDVDでは、かなりリアルな実映像で、下着の交換など興ざめだっただけに、今回のシンプルさは大変好ましいと思った。
ベルク自身が書いた台本はかなり詳細なもので、特異な演出の入り込む余地はなかなか難しいのではないかと思うが、初めて接する私には、今回の演出はシンプルでわかりやすく、とても好ましかった。
 先のDVDは、舞台はまったくの殺風景で味気ないものだが、人物の動きや演技が相当に際どいものだったが、今回はさほどでなく、ごく常識的。
このあたりは、欧米人と日本人との感覚の違いか・・・・。

舞台は本格劇場としての奥行きや機能を活かしたもの。舞台奥には、「廃墟」を撮り集めた写真集からの画像が場ごとに切り替えられて据えられていて、まるで心霊スポットのよいな、荒れ果てた病院のような内部のものや、朽ち果てたアパートメントの外観。
最終場ではその画像に雨が降りそぼるという、全編、殺伐たる背景が展開された。
その中の1枚、レッドツェッペリンの「天国への階段」のジャケットと同じものがあったと思ったが、そう思ったのは私だけだろうか。これらの画像は、ルルを初めとする登場人物たちの救われない心象風景と見てとったがいかに。
終演後のカーテンコールには、青い地球と変わっておりました。

その画像を背景に舞台奥にはバンドが時折登場し、指揮者もついて劇中音楽を奏でる。
このリアルさと、舞台とは別次元の存在に演出意図を見たような気がする。
舞台にはいくつかモニターテレビが置かれ、ピットで指揮する沼尻さんが最初から最後まで映しだされている。
舞台照明は場によって変わったが、いずれも低めに下がっていて、その枠組みもむき出しでまる見え。
半透明のガラス扉が、いくつか据えてあって、そのほかは何もない。
この扉が、玄関でもあり、別室の入り口であったりする。
また、上階への階段は殺風景な鉄製で、回廊もむき出し。地下は舞台の奈落そのもの、登場人物たちは上へ下へと忙しい。

冒頭登場し前口上を述べる猛獣使い。背景では薄暗い中で、ルル役のダンサーが数人の男たちからちょっかいを出されたりするパントマイムが行われている。
やがて、登場人物たちを動物に見立てた話しを受け、顔を布で覆ったルルが連れ出されてくる。このとき出てくる黒子のような仮面3人が、以降時おり登場してはルルを導いたりしていた。
このように、本題オペラをスタジオ内の劇中劇のようにして見立てた演出ではないかと思った次第。

人物たちは、結構クールに描かれていて、無機質な存在。
プログラムにある「ファム・ファタール」~「魔性の女」としての「ルル」は、私には表情のない、そして当然心のない、人形のような存在として思われた。
アルヴァに、あなたのお母さんを毒殺したと独白し、その父たるシェーン博士も銃で撃ってしまうルル。
でもそんな悪どい魔性とは違う、次から次に現れる男や運命に、淡々として従ってゆく哀れさそう美しい存在。

「私の主人ですって・・・、もし、この世に私が誰かのものであるなら、私はあなたのものですわ・・・」
さらに、「私は世間に自分以上のものを示そうとはしなかった、世間が見る通りでいいの・・・あるがままでいいの・・・」
シェーン博士とのやりとりで歌うルル。甘味な調べに乗って歌われる。
迷える子羊ルルは、こんな風にせざるを得ない・・・・。

そのルルを見事に歌い演じた飯田みち代さん。あまりに素晴らしかった。
彼女の声を初めて聴いたが、その涼やかで凛とした声は、その美しいお姿とともに、ルルのイメージにぴったり。ドイツ語の響きもとても心地よい。
ルルは、劇中何度も衣装や髪型を変えて登場しなくてはならないが、そのいずれもきれいだった。とくに悩ましい踊り子姿に、緑の和着物を羽織った姿はとても魅力的。
ソファから逆さまになり、足を両開きにするなど、アクロバテックな動きもあり、歌以外にも日頃の鍛練がうかがえ、オペラ歌手というものは今や大変な仕事なのだな、と実感。

歌手では、あと何といっても小山さんの様似になりすぎのゲシュヴィッツ令嬢。
いつも小山さんが出てくると舞台が締まる思いがするが、今回もそう。
それと、高橋淳さんのアルヴァ。この人はこういう特徴的な役柄は本当にうまい。
黒田さん体長不良で降板を受けてのもうひとりの高橋さんは、初めて知る歌手だったが、ルルに一番もてあそばれる葛藤する難しい役柄を良く歌い演じていたと思う。
ほかの皆さんも立派なものでした。

そして、舞台とオケを孤軍奮闘、引っ張ったのが沼尻氏。
すっかり手のうちに入ったと思われるルルの調性と十二音が入り乱れる複雑な音楽を完璧に振り分けていたと思う。
演出の背景もあり、ややこじんまりとしていたかもしれないが、こうしたホールの緊密な空間ではこうした音楽作りの方がいい。
オケは、最初は手探り状態だったが、実によく健闘していた。

若杉さんの路線をしっかりと踏みしめている沼尻氏。
来年は、「ボエーム」のあと、セレクションでは「トリスタンとイゾルデ」()が予告されております。

Biwako_night_1



















終演後、火照った顔を冷やそうと湖に出てみたら、素敵なイルミネーションと、美しい月が湖面に輝いておりました。

こんな光景を見ながら大津駅まで歩く。
私の頭のなかは、ベルクの音楽でいっぱいだ。
ついに「ルル」を観たけれど、まだまだ私はその呪縛から逃れられそうにない。
パトリシア・プティボンがルルに挑戦するという。
あのキュートな彼女が、どんなルルを作り出すのだろうか・・・。

Biwako_night_3_2

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コメント

ワタクシも見に行きました!見に行った甲斐がありましたね。特にルルが良かったですね。

今晩?エントリーを書く予定ですので、そうしたらTBさせて頂こうと思います。

投稿: ガーター亭亭主 | 2009年10月 5日 (月) 08時14分

こんばんは。
当方もルル聞きにいきたかった、残念。ザルツブルグのプティボンのルル、真剣に考慮。今日は、初期七を色々聞いて我慢しました。林美智子の燃える秋を聞いて寝ます。

投稿: Mie | 2009年10月 5日 (月) 22時54分

ガーター亭亭主さん、こんばんは。
TBもありがとうございます。
ご一緒でしたねぇ。
わかっていればご挨拶だけでもしたかったです。

旅立つ朝は、新幹線代がもったいないとかなんとか後悔しましたが、行って、観て本当によかったと思ってます。

飯田さんのCDも買っちゃいましたよ。
そしてずっと「ルル」漬け状態で、本日も調子にのって記事2本やらかしちゃいました(笑)

投稿: yokochan | 2009年10月 6日 (火) 00時14分

Mieさん、こんばんは。
行かせていただきました。
とても満足しました。

プティボンのルル、さすがにヨーロッパまではわたくし、厳しいです(笑)
会場に、ルルを歌った飯田さんのCDが売ってましたので購入してしまいました。
初期七とR・シュトラウスが入ってます!

タケミツソングスも、いい季節になりましたね。

投稿: yokochan | 2009年10月 6日 (火) 00時17分

こんにちは。
いいなあ、本当にうらやましい。東京でもやってほしいです。
今回のびわ湖ルルは、私が観た3幕完成版日本初演の時は飯田さんはもう片方のキャストで、あと指揮者と小山さんは同じでした。沼尻さんいいですよね。
ベルクのオペラって中毒性があるようで、実演を観たあとってしばらく引っ張りますよね。私も初めてルルを見たあと、あまりの素晴らしさに日生劇場から駅までスキップしながら帰ったのを思い出しました。

投稿: naoping | 2009年10月 6日 (火) 07時03分

naopingさん、こんちは。
「ルル」愛のnaopingさんを差し置いて、びわ湖まで飛んでいってしまいました。
そんでもって、まだ中毒症状は癒えません。
ネットラジオで、本日昼間、J・テイトの「ルル」をやってまして、職場でヘッドホンをして全曲聴いちまいました。
終演後、スキップはしなかったけど(笑)、酒でも飲まないとやってらんない気分になりましたね。

飯田さん、小山さん、高橋さん、沼ちゃん、もう完璧にございました。
来年はトリスタンですぞ。
飯田さんが歌う可能性もありですね。
愛ルルTBも、ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2009年10月 6日 (火) 16時12分

おはようございます。 

いくつかのブログでこの「ルル」を拝見しましたがツェップのジャケットはこちらだけです^^ 
あれを思い浮かべるだけでいたたまれないような気持ちになりました。 
>救われない心象風景 
ピッタリの表現だと思います。この世での迷える子羊ほど天国に近付いて行ってるのかなとも思えたりして。。。

投稿: moli | 2009年10月 7日 (水) 06時32分

moliさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
ツェップの、枯れ枝を背負った爺さんを取り外した画像に私は思いました。
誰も指摘してませんか。
私にはそう見えました。
そうですね、その方が天国が近く感じますものね。
ルルは、天使と悪魔の二面性をもった救われない女性で、最後に切り裂きジャックによって解放されたのではないのでしょうか。
なーんて、moliさまのコメントを拝見して思いを深めてみました!

投稿: yokochan | 2009年10月 7日 (水) 23時04分

 こんばんは、「オペラの夜」です。

 今回の「ルル」には、遠方から大勢いらっしゃったようですね。来年の「トリスタン」も、是非ともお越し下さいませ。

投稿: Pilgrim | 2009年10月19日 (月) 20時58分

Pilgrimさま、こんばんは。
コメントありがとうございます。
念願の「ルル」に「びわ湖ホール」に興奮して、たくさん記事にしてしまいました。
大いに楽しみました。

そして、もちろん「トリスタン」参戦いたします!
誰が歌うのか、あれこれ思いをめぐらすのも楽しいものです。

投稿: yokochan | 2009年10月19日 (月) 22時26分

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