NHK交響楽団定期演奏会 プレヴィン指揮
NHK交響楽団の首席客演指揮者となった、アンドレ・プレヴィンの就任後初コンサート。
リーム 「厳粛な歌」
R・シュトラウス 歌劇「カプリッチョ」から「月光の音楽~最後の場」
伯爵令嬢:フェリシティ・ロット
「家庭交響曲」
アンドレ・プレヴィン指揮 NHK交響楽団
コンサートマスター:篠崎 史紀
(2009.10.17NHKホール)
お得意のシュトラウスをメインに、現代ものを冒頭に据えるプログラム。
N響に来るときは、自作や武満作品を最初に演奏することが多い。
そして2年ぶりのプレヴィン、久しぶりに出会った前回は、その老齢ぶりに驚いたけれど、今回も足どりは少したどたどしく、腰かけての指揮が終わったあとは、かなり辛そうに見えた。指揮台を降りるときも、楽員が支えている。
相変わらずその指揮は動きが少なく手先をクルクルこね回すわかりにくいものだが、出てくる音はプレヴィンらしい、柔和で耳あたりのいいサウンドだから、名指揮者というのはすごいものだと思った。
そこにいるだけで、優しいプレヴィン・オーラが漂い、以前正面から拝見したときに思ったが、眼鏡の奥の眼光が実に鋭いのである。今日も、ときおり譜面から顔をあげては、オケを見渡しておりました。
若い頃から、ちょっと猫背で首が悪かったプレヴィン。ブロムシュットやマリナー、ハイティンクらはしゃんとしているから、とても気の毒。
でも今日の演奏会を聴いて、N響のようにプレヴィンの意を汲めるオーケストラと共演していけばまだまだ健在ぶりを発揮できるのだ、と確信し、安心もした。
1曲目、リームの作品は、サヴァリッシュの委嘱初演によるもので、ブラームスを意識した現代作品らしからね聴きやすいもので、かつ内省的。ヴァイオリンを欠くところもブラームスの渋さを思わせるが、ときおり、ベルクやツェムリンスキーのような響きも聴きとれて、ブラームスつながりを感じさせてくれて面白かった。
そして期待の「カプリッチョ」。
「最後の場」としか表記されてなかったけれど、ホルン独奏を伴う「月光の音楽」からしっかり演奏されましたよ。
もうここから私はウルウルきてしまった。コケやすいこのホルン、今日はまず万全の滑り出し。そしてその素敵な旋律がオーケストラに徐々に引き継がれてゆき、甘味な夜の音楽となっていった。その後の執事の歌は省略で、伯爵令嬢の登場となる。
背のスラッとした、デイム・フェリシティ・ロットのシュトラウスといえば、あのカルロスとの伝説的な「ばらの騎士」だ。気品ある舞台姿とリリカルで明晰な声を持つシュトラウス歌いとして最適の彼女。
巨大なホールでは、こうした繊細な心情を歌いこむ曲は不向きながら、プレヴィンの絶美とも思える好サポートを得てとても細やかに、そして情感を込めて歌ってくれたデイム・フェリシティ。
ほんとは、もう少しオーケストラを刈り込んで少数にして、そして小ぶりなホールで親密な雰囲気の中に聴いてみたかった。
でもしっかり、私の頬を涙がつたってましたよ。あまりに美しい音楽ゆえ。
休憩後の「家庭交響曲」は、「カプリッチョ」の枯淡の境地の音楽からすると、やはり若くて元気のいい、幸福みなぎるものだ。
正直、音楽の素晴らしさでは「カプリッチョ」にはまったく敵わない。
でもそこは、生で聴くシュトラウスのオーケストラ作品の楽しさ。
大編成のオケが、ステージをびっしり埋め尽くすのを見るのは壮観。
今年同じような光景をここで目にしたのが、デ・ワールト指揮する「アルプス交響曲」だった。
でも曲が違うから当たり前ながら、デ・ワールトはN響からズシリと重い重厚サウンドを引き出したのにくらべ、プレヴィンのシュトラウスは腰が軽く、どちらかといえば軽やか。
その指揮や指示を後ろから見ていると、ともかく良く歌わせるようにしていたし、木管のちょっとしたフレーズなどにもキューを出していてスムースで流れのよい曲作りになっていた。
こうした休みなく続く大曲を、きれいに楽しく聴かせることにかけてはプレヴィンは本当にうまい。
圧巻は、第3楽章の夫婦の愛を描いた場面。
オーケストラが一体になって歌い上げるシュトラウスらしい熱い盛り上がりに感動。
そして、最後のめくるめくフィナーレは、速度を保ったままジワジワと幸せを噛みしめ実感してゆくような手堅い演奏で、それでも私はこのエンディングが好きなものだから、手を握り締めて興奮しながら聴き入ってしまった。
指揮を終えたプレヴィンは、最初疲れた表情を浮かべていたが大拍手に応えて、次に登場したときは、満足の表情で笑みを浮かべておりました。
いつもの優しいプレヴィンであります。
来週は、ショスタコ5番を聴きます。
でも、サントリーホールでのオール・モーツァルト・シンフォニーは、きっと素晴らしいのだろうな。サントリー定期の会員がうらやましいぞ。
帰宅後、手持ちのCDで今宵のコンサートを思い出しております。
来シーズンは、11月にプレヴィンが登場してくれる。
そしてですよ、9月には、ネヴィル・マリナーも3つのプログラムを指揮するらしい
過去記事
「シルマー&フレミングのカプリッチョ」
「サヴァリッシュ&シュヴァルツコプフのカプリッチョ」
「プレヴィン&ウィーンフィルのばらの騎士ほか」
「プレヴィン&ウィーンフィルの家庭交響曲」
「カラヤン&ベリリンフィルの家庭交響曲」
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コメント
一階の二列目真ん中付近でちょうどフェリシティ・ロットを見上げながら至福の時間を過ごしました。ロットの気品あふれる立ち姿と、感情の動きを見事に表現する顔の表情の演技。そして柔らかく凛とした声。左右に大きく広がるオーケストラの軽やかで優雅でデリケートな響き。わたしの席ではすべてが最高のバランスでした。
叶うことならこのふたり、もう一度次は「最後の四つの歌」あたりをサントリーホールで聴かせてほしいものです。チケットが入手できないか^^;
投稿: 白夜 | 2009年10月18日 (日) 01時12分
この曲の予習のためにカラヤン盤が出てきたのですね。ちょっとやそっとではこの曲は複雑すぎてわからんでしょう。特に終曲の前の表題により曲の変わり目が整理が付きにくいですね。
リームは特殊奏法などをやらないのでどこのオケでも演奏されますね。現代音楽のごく初心者用の音楽でしょう。
「カプリチォ」はプレヴィンのCDがあっても良いですね。彼はオペラ指揮者でないのが残念です。もうWienにも来ないようです。80過ぎたらさすが歳ですね。
投稿: 菅野 | 2009年10月18日 (日) 03時49分
白夜さん、おはようございます。
いやぁ、良席にございますね。
昨日は、最前列と2列目の間がずいぶん空いてましたね。
なおのこと良いお席です。
私は1R10列目でして、オケはよしとしても、声が飛んでこない席でした。
でも、ロットさまのお姿は本当に素敵てした。
その姿からして、音楽的だし、オペラ女優となっておりました。
そしてそう、「4つの最後の歌」を是非所望したいですね。
サントリーは確かに手も足も出ませんので、みなとみらいあたりで!
投稿: yokochan | 2009年10月18日 (日) 11時07分
ああ、やっぱり素晴らしかったですか!
私は自宅で、一杯やりながらFMを聴いていました・・・。N響とは思えない響きがしてびっくりしましたよ。
N響もサヴァリッシュなど、優れた指揮者が振ったときは素晴らしい響きをだしますよね。サヴァリッシュの「エリア」とか「英雄の生涯」なんて実に見事でした。
プレヴィン。ウィーンのインペリアル・ホテルですれ違った時、あまりに普通のおっちゃんすぎて誰も気付かれないほど(笑)。なにもかも自然体なんですよね。音楽にも無理な力を加えないのに実に豊かな響きを引き出してくる。ムジークフェラインで聴いたロンドン響との「死と変容」は一生の宝物です。
ああ、聴きたい、聴きたい・・・
でも今月は出費がかさんでなぁ・・・
今回は泣く泣くあきらめます(涙)。
投稿: minamina | 2009年10月18日 (日) 11時24分
minaminaさん、こんにちは。
FMでもよい響きがしてましたかぁ!
あの巨大なNHKホールを優しい響きで満たしてくれました。
傷はいくつもありましたが、ああいう演奏はそんなことを言っても始まらないものがありました。
私はプレヴィンも相当ファンですが、こうして日本にやってきてくれることがとてもありがたいことです。
今日は渋谷タワーでサイン会だそうですが、休日、千葉から渋谷はあまりに遠いですな(笑)
ウィーンでの体験は超うらやましいです。
「普通のおっちゃん」・・わかります。すべてが自然体なんですよね。今や、普通のじいさんでした。
わたしのプレヴィン自慢は、ムジークフェラインSQとモーツァルトを演奏したサントリーホールのコンサートぐらいでしょうか・・・。
来週は、プレヴィンをまた取り上げようと思ってます。
投稿: yokochan | 2009年10月18日 (日) 11時42分
こんばんは。コメントし忘れていますが、いつも楽しみに拝読しています。私もなんとか昨日演奏会にいけました。私も同じく、カプリッチョでは泣き続けました。家庭交響曲は圧巻でしたね。来週のショスタコもいらっしゃれるとは。いけないのが残念。
投稿: Shushi | 2009年10月19日 (月) 21時55分
Shushiさん、こんばんは。
こちらこそ、同じ嗜好の同朋の貴ブログを私も拝読しておりますよ。
カプリッチョには、泣かされましたね。
前半で終りにして帰ってしまってもよかったくらいです。
そして、家庭交響曲もさわやかににして明快な音楽、そして演奏でした。
いつまでも、浸っていたい、続いて欲しいと思いながら聴いてました。
投稿: yokochan | 2009年10月19日 (月) 22時42分