R・シュトラウス 「家庭交響曲」 カラヤン指揮
「肉じゃが!」
美しい配色であります。
こんなおいしい食べ方誰が考えたんだろ。
家庭料理・和食の定番。
こんなおかずで、ちゃぶ台を家族で囲む。
いまや食卓に家族が集まるなんてことがなくなってしまった。
我が家もばらばら。
休日も個食で、みんな好き勝手なものを食べる。
あんまりよくない近頃の日本の家庭の食事。
ここまできて、ありありのこじつけにお気づきでしょう。
何でも音に出来ちゃった作曲家、R・シュトラウスが自分の家庭を音楽にしちゃった。
「家庭交響曲」であります。
自分のことを書いた「英雄の生涯」が34歳、この「家庭交響曲」が39歳。
酸いも甘いも噛み分けた年代で書いたのならともかく、まだ30代であるところがシュトラウスらしいところ。
そして、交響詩をさんざん書いてから、オペラの森へと投じてゆくわけで、人間の心理描写に関してさらにその世界を深めてゆくことになる。
だから、シュトラウスのオーケストラ作品をひととおり聴いたら、15作のオペラもぜひ聴いていただきたい。
円熟のオーケストラ技法を背景に、美しいドラマや歌が繰り広げられるその世界は、一度知ったらもう抜けだせなくなる。
ワーグナーを聴きつくし、私には、そのあとにやってきたシュトラウスのオペラは、最初は刺激的な分厚いサウンドと甘味な旋律ばかりに目がいったけれど、それはほんの一面で、もっと軽妙で、洒脱で澄み切った音楽の宝庫であったのだ。
あ、思わずオペラの方に話が行ってしまった。
でも、ある意味、シュトラウスの交響作品は、オペラなのであります。
この「家庭交響曲」もまさにそう。
連続する4つの楽章に、主人、妻、子供、伯父、伯母などが、それぞれにライトモティーフを与えられて登場して、家庭の悲喜こもごもを描きつくすのだ。
子供が、伯父さんや、叔母さんを見て、「パパそっくり」、「ママそっくり!」なんて言うところまで、音楽になっちゃってるし。
こうした、家庭や夫婦を描いたオペラは、口うるさい妻をついに叱り、愛をとりもどし、子供の大切さも気づいた夫婦の「インテルメッツォ」、生まれくる子供たちを讃えるお伽話「影のない女」、あと番外編では、シュトラウスの女性感が垣間見られる「無口な女」などがある。
第1楽章:快活な主人の旋律ではじまり、家庭の人物がまず紹介される。
第2楽章:子供と両親、子供は母親の子守歌で寝てしまう。幸せな優しい様子。
第3楽章:夫婦の愛情、夜であります。熱く甘味なり~
第4楽章:子供が元気に起きてくる。夫婦喧嘩は激しいフーガ。子はかすがい、仲直り。
素晴らしき円満なる家庭なり
いろんなモティーフが複雑にからみあい、あらゆる事象が音楽になっていて、これを解説することなんか不可能。
全般に明るいムードに包まれた、まさに幸せの交響曲といえようか。
オーケストラの奏者たちにも超絶技巧が要求されていて、生で聴いたらさぞかし楽しいのではないかと。
最後の終結部は、まるでオペラの大フィナーレのような素晴らしい盛り上がりで、私はいつも夢中になってしまうエンディングなのであります。
土曜日に、プレヴィンとN響で聴いてまいります。
おまけに、F・ロットも登場して、「カプリッチョ」を歌ってくれるというご馳走付き
さて今日のCDは、カラヤンとベルリン・フィルの1973年の録音で。
パリに来演したおり、パリ管の本拠、サル・ワグラムで録音された珍しいもの。
シュトラウスを何度も録音したカラヤンだったけれど、「家庭」はこれ1回だけ。
その後もあまり演奏していないと思う。
その年の来日で、この曲を演奏するはずだったが、この作品で不可欠のオーボエダモーレ奏者が来日不能となり、演目は「英雄の生涯」に変更された。
中学生のわたし、そんな出来事を鮮明に覚えていて、カラヤンと因縁ある「家庭交響曲」というイメージが植え付けられた。
ここでの演奏は明るく、聴きようによっては派手。
録音も混濁が目立ちいまいち。これらは、きっとパリのホールの影響かと思っている。
カラヤンとベルリンならもっと出来るはずとの印象はぬぐいきれないけれど、まるでオペラを聴くかのような起承転結の鮮やかさは、さすがにカラヤン。
楽しく聴けることに変わりはなく、私には愛着ある1枚であります。
この曲は、プレヴィン、マゼール、メータ、サヴァリッシュなどを聴いております。
そういえば、ハイティンク御大は、家庭交響曲をやりませんね。
シカゴで演ってくれたら最高なんですが
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コメント
こんばんは。「家庭交響曲」はR.シュトラウス作品を数多く取り上げているカラヤンにとってオンリー・ワンですね。ちなみに「アルプス交響曲」もオンリー・ワン。(いずれも標題は「交響詩」でしょうが・・・)
「家庭交響曲」はサヴァリッシュやメータ、ロサンゼルス・フィル、ベルリン・フィルの2種。これらは意外なつながりがあります。サヴァリッシュは第2のカラヤン言われたドイツ音楽のスペシャリストです。メータはロサンゼルス・フィルからニューヨーク・フィルハーモニックに移ってからスランプに陥った。でも、客演していたベルリン・フィルでは好調でR.シュトラウス作品を取り上げた時はカラヤンをしのぐと言われたとか。やはり、メータはヨーロッパの方が環境に合っているようだ。
「家庭交響曲」は何だか、現代社会を象徴する内容ですね。
投稿: eyes_1975 | 2009年10月15日 (木) 23時37分
eyes_1975さん、私と同じCDのラインナップです。
メータは新旧両盤いいですよね。
ロスフィルも録音がすごくよかったです。
そう、アメリカで活躍したけど、やはり根はヨーロッパにあったメータと、ヨーロッパの煩雑な劇場生活を捨てて、新世界に渡ったサヴァリッシュ。好対照だけど、似た二人ですね。おまけに、メータはバイエルンの歌劇場を引き継いだ人だし、シュトラウスの本場ですものね。
なるほどの世界です!
家庭交響曲を聴いて、家庭を取り戻そう!
なんて、私だけでしょうかね(笑)
投稿: yokochan | 2009年10月15日 (木) 23時59分
おおっ、また私の大好物を取り上げて下さいましたね(笑)カラヤンはこの曲を73~74年に限り集中して取り上げていたようで、演奏記録は7、8回あるようです。しかし現在聴くことのできる音源はこのEMI録音だけなので、その意味でもこの唯一の録音は貴重です。しかし考えてみるとフィルハーモニア時代のR.シュトラウスの録音って意外と少ないですよね。
投稿: EINSATZ | 2009年10月16日 (金) 01時23分
家庭交響曲は良いですよ。昔テンシュテットがブル8をキャンセルしたときにBPを振ったのがシルマーで、シューマンの4番とこの「家庭交響曲」でした。僕はあの終曲のティンパニの謎を解こうとティンパニのすぐ後に席を取ってBPをきいていましたが、スコアにはなくともちゃんとパート譜に書いてありました。こういうのはシルマーにかかるとカラヤン以上の名演でしたね。後でWPのホームページをあけたらあのティンパニのニ長調の音階はWPのティンパニが考案してR・シュトラウスにできるからやって良いかと許可を取ったらしいですね
投稿: 菅野 | 2009年10月16日 (金) 06時13分
yokochan様お早うございます。
肉じゃがというのは実は誰かが考え出したものではなく、偶然生まれてしまった料理なのです。日本海海戦の覇者として知られる東郷平八郎・連合艦隊司令長官が、英国留学中に生まれて初めて食べたビーフシチューが余りに美味しかったので帰国してから部下の一人に「ワシが英国で食ったのと同じものを作ってくれ」と命じたそうです。ところが当時の日本には西洋料理のレシピも西洋式の調味料もありませんでした。命じられた部下は醤油や味醂といった日本の調味料を使ってどうにかビーフシチューらしきものを作ろうと悪戦苦闘。結果として肉じゃがというビーフシチューとは全く別な料理が誕生したのだそうです。東郷さんはこの新料理が結構気に入ったらしく、海軍の定番料理になり、戦後は自衛隊のそして日本食の定番料理になったそうです。日本を国難から救った強運の提督には美食家という意外な一面もあったようです。余談ですが、その東郷が主要登場人物として登場する司馬さんの代表作「坂の上の雲」が大河ドラマになります。小説好きで司馬さん好きで大河ドラマ好きの私にとってこんなに嬉しいことはありません。
カラヤンの家庭交響曲は初CD化された時に買ったのですが、音質がいまひとつだと思ったので手放してしまいました。音質がいまひとつだったのは貧弱な再生機の姓だったのかもしれないので今は手放したことを後悔しています。輸入盤で入手可能なのですね。知りませんでした。同じ時期に新譜として発売されたメータ&ベルリンフィル盤が一番欲しかったのですが、買い逃してしまいました。メータ盤が再発売されるのが一番望ましいのですが・・・今はケンペ&ドレスデンとマゼール&ウィーンフィルを愛聴しています。でもメータ盤は今でも欲しいですね。バレンボイムが出演したブルレスケがついているのも魅力ですし。
投稿: 越後のオックス | 2009年10月16日 (金) 09時28分
シルマーはやたらとR・シュトラウスが良いですよ。Wien 国立歌劇場の「バラの騎士」なんかもやたらと良く鳴っていましたね。ベテランのホルスト・シュタインやハインリッヒ・ホルライザーも顔負けでした。あのときのBPもそうでした。余り指揮者の知名度ではなくほんとに良い作品のみを選びたいものです。売れないだけでCDにならないのは全く残念!BPの宝物をみな捨てているようなものですね。
投稿: 菅野 | 2009年10月16日 (金) 18時54分
おひさしぶりです^^
家庭交響曲ですか!初めて聴いたのは中学生の時です。
吹奏楽部でサックスを担当していた私にとって
サックスが登場する数少ないオーケストラ作品という
かなり自分勝手な理由からです。
感想としては、、、あまり楽しめない。。。
さまよえる様やお友達のような熱心な聞き手ではない
ナマケモノの私には楽しめない。。。
R・シュトラウスのオペラは好き^^
でも家庭交響曲は。。。
もっと正直に言うと、ドンファンもドンキホーテも
ツァラトゥストラもあんまり。。。
(ファンの皆様、申し訳ありません!)
作曲者本人の演奏にいたっては
これまたタイクツの極みでして
とても鑑賞にたえないとしか言いようが。。。。
投稿: モナコ命 | 2009年10月16日 (金) 20時36分
カラヤンの演奏も悪くはないのですが、さすがに古くなりましたね。だったらフルトヴェングラーもBPで残していますね。4管編成で更にサキソホーンも4本使われていますが使い方そのものは地味だし、「アルプス交響曲」の様に説明なしで聴くと余りどの場面かわからないですね。しかし量感があって十分に鑑賞に値する作品です。
投稿: 菅野 | 2009年10月16日 (金) 22時55分
EINSATZさん、こんばんは。
大好物でしたか(笑)
たしかにおいしい曲ですよね。
カラヤンは、この頃にしか演奏しなかったのですか。
英雄の生涯ばかりで、家庭を振り返らなかったのもいかにもカラヤンですな(笑)
そういえば、フィルハーモニア時代はオペラばかりでオケ作品はあまりないかも。
投稿: yokochan | 2009年10月17日 (土) 00時30分
越後のオックスさん、こんばんは。
これはこれは、肉じゃがのルーツをお教えくださりありがとうございます。
ビーフシチューくずれの肉じゃが、とても微笑ましいですし、優しい味が日本人にぴったりですね。
NHKの11月の放送、私も楽しみにしております。
肉じゃがも出るんでしょうかね(笑)
そして、このCDは音がいまいちなんです。
メータは録音はバッチリ、バレンボイムとのブルレスケもいいですよ。私はロスフィル盤のほうにも思い入れがありますし、そちらの録音も素晴らしいです。
どちらも手に入るといいですね。
投稿: yokochan | 2009年10月17日 (土) 00時36分
モナコ命さま、こんばんは。
はははっ、苦手なのですね。
シュトラウスのオーケストラ作品自体も。
私はオペラがあるからこそ、深くお付き合いしているR・シュトラウスです。
ワーグナーと同じく、別れられないところまで来てしまいました(笑)
暖かい目で見てくださいまし。
投稿: yokochan | 2009年10月17日 (土) 00時40分
カラヤンはこの曲を来日公演の時にこの曲をプログラムに入れたのですが、オーボエ・ダ・モーレ奏者の病気で代替が付かなくて「英雄の生涯」に変更されましたね。
カラヤンは都合が悪くなるとすぐ「英雄の生涯」に変更します。Wienでもヴィオラの土屋さんが言うには最初アルプス交響曲がプロだったのですが、新米のコンマスノ試験にとやはり「英雄の生涯」になってがっくりしたことありますね。更に本場芋往年オ響きはなく残念でした。
投稿: 菅野 | 2009年10月18日 (日) 03時41分
誤植がいつものように発生しましたが、直しようがありません。まあそれでも理解できると思います。
投稿: 菅野 | 2009年10月18日 (日) 03時44分