モンテメッツィ 「三王の愛」 N・サンティ指揮
頂きもののスィーツ
オヤジのくせして、甘いものにも目が入ないあたし。
お家に持って帰って、子供たちと競って食べちまいました。
まるで餌に群がるハイエナ家族のように・・・。
井村屋(肉まん!)がやってる、フランス菓子のブランド「JOUVAUD」というお店のものらしい。
手前のゼリーのようなものは、フランスの伝統菓子パット ドゥ フリュイというしろもの。
こりゃ美味。まるで果汁を食べるかのお味に食感にございました。
今日のオペラは、イタリアの作曲家イタロ・モンテメッツイ(1875~1952)の「三王の愛」。
ヴェルディ以降のイタリアオペラ作曲家。
イタリアオペラ界では、当然に、ポスト・ヴェルディを求めていた。
音楽界あげての動きだっただけに、作曲家たちには、そのプレッシャーも相当なものだったろう。
生年順にあげると。
★ヴェルディ(1813~1901)
・ボイート(1842~1918)
・カタラーニ(1854~1893)
・レオンカヴァルロ(1857~1919)
・プッチーニ(1858~1924)
・マスカーニ(1863~1945)
・チレーア(1866~1950)
・ジョルダーノ(1867~1948)
・モンテメッツィ(1875~1952)
・アルファーノ(1875~1954)
こうして見るとほとんどの作曲家が、1800年代半ば以降に生まれ世紀をまたいで活躍している。いわゆる世紀末なのに、そうした言われ方をしないのが面白い。
この中から、プッチーニがダントツで踊りでている訳だが、他の作曲家たちは、それぞれ多作家なのに、ひとつの作品でしか有名でない。
ところが、下のふたり、モンテメッツィとアルファーノはまったく知られていない。
それでも、「トゥーランドット」を完遂させたアルファーノは「シラノ・ド・ヴェルジュラック」が上演されつつある。
でも、モンテメッツィは気の毒にも、まったくネグレクトされたまま。
私も、この一作品しか知らないが、ここにその素晴らしい音楽をご案内したいと思う次第でございます。
私がこの世代の作曲家に大いに惹かれるのは、そこにプッチーニがいるばかりでない。
「カヴァ・パリ」や「アンドレア・シェニエ」も経て、チレーアを知ったからである。
そう、76年のNHKイタリア・オペラで上演された「アドリアーナ・ルクヴルール」を観劇した高校生の私は、同時に観た「シモン・ボッカネグラ」の渋い世界とともに、チレーアの儚くも美しい音楽にすっかり魅せられてしまった。
それは、ヴェリスモといえば生々しくも、極端にドラマテックな音楽とイメージしていたのに、声高に叫ぶことのない抒情味の勝ったもの。
気に入ったチレーアと同じような作風の人はほかにいないか?
それが、カタラーニとモンテメッツィであった。
前者は「ラ・ワリー」を聴いたし、後者がこの「三王の愛」。
そしてモンテメッツィはイタリアのワグネリアンでもある。
しかし、ドラマと音楽との緊密さは認めつつも、ワーグナーのような壮麗で分厚いオーケストレーションは見られず、雄弁さはほどほどに、淡々としたシンフォニックな劇付随音楽のようにも思える。
こうした中で、甘味な抒情が随所に花咲くようにして溢れているのだから、オーケストラ好き・オペラ好きにはたまらないのだ。
イタリアン・ワグネリアンと呼ばれるのは、むしろこの「三王の愛」の愛憎ゆらめくストーリーが、「トリスタンとイゾルデ」を思わせるからであろうか。
全3幕、100分足らずの作品ながら無駄なものが何もなく、凝縮されたドラマに精緻な音楽がしっかりと納まっている。
して、そのあらすじを。
ところは、10世紀のイタリア。
3王というのは、舞台となるイタリアの地アルトゥラ国を北方からきて征服し善政を布いたアルキバルド王。そしてその息子のマンフレート。そして被征服国の前王子アヴィート。
この3人。そして今や、アルキバルド王は、盲目の人となっている。
第1幕
盲目のアルキバルト王は、かつての被征服民の召使フラミーノに、息子が城に帰ってくるのが見えるかと問うている。
フラミーノは、征服されることもなければ、かつての若王アヴィートと、今マンフレートと政略結婚を強いられたフィオーラとは今頃は幸せな日々を過ごしていたろうと独白する。
そのフィオーラは、城内で人目を避けてかつての恋人アヴィートと逢引している。
老王に、いまだれかと話していたのか?と問われるフィオーラだが、夫を待っていたと嘘をつく。
しかし、盲目で感の鋭くなっている王は、怪しむ。
そこへ、マンフレートが帰ってくる。王に彼女の様子を聞く息子。
息子は、フィオーラを愛してやまないのだ。
老王は、堪えながらも息災にしていた・・・と答え、息子は喜んで妻フィオーラを抱きしめる。親父王も、実はフィオーラを陰ながら愛していて、こんな様子が見えなくてよかったと独白する・・・・。
第2幕
帰還も束の間、すぐに戦いに赴くこととなったマンフレート。
かたくなな妻に、せめて塔の上に立って、自分にヴェールを振って送り出して欲しいと懇願し、思いの丈を情熱的に歌う。
それに心を動かされたフィオーラは、別れの挨拶を約束し、塔に登ってゆく。
その途中にあらわれた、アヴィート。
これ以上今の夫を裏切れないと別れを告げるフィオーラに、「信じられな~い」と、かつての恋人の足下で、その足を抱きすくめて今も変わらぬ熱い心のうちを歌う。
これにほだされ、ついに折れてしまい城壁を降りるフィオーラ。
ここで、「トリスタン」ばりの熱く激しい2重唱が交わされる。。。。
そこに老王が召使に伴われ登場。すばやく逃げるアヴィート。
「何をしていたのか」と問う王に、ついに「恋人といたのです」とフィオーラ。
「相手の名を?」何度もしつこく問う王(パリアッチみたいだ)に、フィオーラは「dolce morte!」~「甘き死!」と答える。
これにかっとなった王は、フィオーラの首を絞めて殺してしまう・・・・。
城壁に見えなくなった妻を案じて引き返してきた息子マンフレートは、この惨状を見て絶望に打ちひしがれる息子。
王は、きっと憎っき輩を見つけ出してみせると誓う。
第3幕
城内の礼拝堂の納骨室。
フィオーラを囲み悲しみにくれる人々。かつての住民たちである。
そこへ、アヴィートが忍んできて人々は驚く。一人にしてくれとアヴィート。
彼はここで恋人の死を悲しんで長いアリアを歌い、冷たくなった唇に口づけをする。
すると、彼は目まいを感じ、そこへマンフレートが現れる。
彼女のその唇には、父王が相手を見つけるために猛毒を塗ったのだ、と語る。
「それなら、その死を楽しむしかない・・・」とアヴィート。
マンフレートは、「死ぬ前に、彼女はお前を愛していたか教えてほしい」と問う。
アヴィートは、「命よりも深く・・・、もう復讐は達成したろう」と倒れ、マンフレートは彼を受け止め横たえてやる。
そして「私を深い孤独におとしめないでくれ、永遠にあなたのそばにいたい」とフィオーラに口づけするマンフレート。
悶絶する息子を前に、アルキバルト王は、「取り返しのつかない闇」と絶望の声をあげる・・・・・。
モンテメッツィ 「三王の愛」
フィオーラ:アンナ・モッフォ アヴィート:プラシド・ドミンゴ
マンフレート:パブロ・エルヴィラ アルキバルド:チェーザレ・シエピ
フラミーノ:ライランド・デイヴィス
ネロ・サンティ 指揮 ロンドン交響楽団
アンボロジアン・シンガース
合唱指揮:ジョン・マッカーシー
(1976.7 @ロンドン)
70年代半ばといえば、ここに歌うモッフォとシエピはもう全盛期を過ぎていた頃だが、よくぞこんな凄い組み合わせを実現させたものだ。
3人の王に愛され翻弄され死を選ぶ運命の女性を、モッフォはよく歌っている。
確かに、音程はやや不安定だし声も荒れているが、その存在感は素晴らしいものがあって、あのカルメンのように体当たり的な歌唱が聴かれる。
死ぬ場面の悶絶ぶりはかなりリアルで、まさに虫の息。さすが名女優。
存在感では、シエピの健在ぶりも目立つもの。録音時50代半ばだからまだまだ。
激情と諦念ぶりを味わい深い声で見事に歌いだしていて、要となっている。
このベテランに挟まれて、ドミンゴとエルヴィラのピチピチとしたイキのいい声は、聴きごたえあり。ドミンゴは何を歌ってもうまいもんだ。
今や、お馴染みサンティの雰囲気豊かな指揮も味わえるし、ロンドンのオケのイタリアオペラは、私はニュートラルで癖がなく大好きなのだ。
プッチーニや、カヴァ・パリばかりでなく、このあたりのオペラももっと上演してほしいものだ。音楽は、マーラーやシュトラウスに馴染んだ我々聴き手には、極めてすんなりと受け入れられること請け合いだから。
まだまだ未開拓のオペラがたくさんあり、お宝が隠れているはず。
これもまた、オペラの楽しみなり
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コメント
イタリアではありませんが、秘曲オペラという意味ではフランツ・リストの「ドン・サンシュ」はぜひ聴いていただきたい傑作です。リストのオペラというだけでまさに珍品ですが、完成されたオペラはこの1曲のみで上演も4回しかされなかったそうです。ディスクも洪HUNGAROTONからしか出ておらず、タマーシュ・パール指揮でユリア・ハマリなども参加しています。もちろん原語はハンガリー語ですが、ドイツ音楽の影響がたっぷりの作品で、ワーグナーとは縁の深いリストですからyokochanさんも満足されると思いますよ。
投稿: EINSATZ | 2009年10月25日 (日) 15時29分
EINSATZさん、こんにちは。
リストのオペラですかあ!
それは知りませんでした。
息子ジークフリートのオペラも開拓中ですが、実はイマイチでして、その点リストなら大丈夫そうですね。
ユリア・ハマリは好きな歌手ですので、これはぜひ聴いてみることとします。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2009年10月25日 (日) 16時45分
お早うございます。
モンテメッツィという作曲家、不覚にも名前すらませんでした。サンティ指揮の全曲盤があるのですね。プッチーニに匹敵するほど魅力的な作曲家であるなら、何とかCDを入手して聴いてみたいです。
リストがオペラを書いていたことは知っておりました。聴いたことは残念ながらないですが。
私事で恐縮ですが、先週の金曜日に図書館で本を物色している最中に、貧血で倒れて病院に救急車で運ばれてしまいました。一時的に気を失っていたようです。救急車というものに生まれて初めてのりました。今はもうすっかり大丈夫です。
最近バッハの生涯に興味が出てきてバッハ関係の本を乱読しております。バッハ研究の開祖と言われるフォルケルの「バッハ小伝」は面白かったです。少しナショナリズムが強すぎの感が無いでもないですが。樋口隆一氏の「バッハ探求」も面白いですね。彼は私と同じガーディナー信奉者でした。樋口さんはすごい人です。明治学院大学で音楽学の教授をやり、バッハの楽譜の原点版を作成する仕事をドイツで何年もやり、合唱指揮者までしています。マルチ・アーティストですね。
投稿: 越後のオックス | 2009年10月26日 (月) 09時17分
越後のオックスさん、こんばんは。
モンテメッツィ、同じような嗜好と想像いたします貴兄にもお楽しみいただける一品かと存じます。
後にも先にも、この音源だけに思います。
なんとかお聞きになれることをお祈りいたします。
それにしても大丈夫ですかぁ??
わたしは逆に高血圧にフラフラですが・・・・。
樋口氏は、さまざまな場面でそのバッハへの造詣の深さをお読みしております。
日本人は、こうして素晴らしいバッハの信徒を生む土壌があるのかと思います。
投稿: yokochan | 2009年10月27日 (火) 00時06分
今晩(2015/03/18)、このオペラを観てきました。貴殿のあらすじを事前に読ませていただいていましたので、歌唱や演奏などにより集中することができました。非常に助かりました。
投稿: Kazuo Ota | 2015年3月19日 (木) 10時53分
Kazuo Otaさん、こんにちは。
サンパウロにいらっしゃるのですね!
このオペラが、実際に上演されることは希だと思いますが、実に羨ましいです。
観劇のお役にたてましたようで、うれしい限りです。
しばらく、この作品を聴いておりませんでしたが、いま、鳴らしながらご返信しております。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2015年3月21日 (土) 11時34分