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2009年11月 6日 (金)

ホルスト 「エグドン・ヒース」 プレヴィン指揮

Toyokawa_1 白い彼岸花を発見。
彼岸花の季節だから、少し前に撮ったものです。

赤と交互に咲いてましたよ。

この世ならぬ雰囲気と美しさ。

Brittenholst_2 ギュスターフ・ホルスト(1874~1934)は、「惑星」だけではありません。

交響曲こそないが、オーケストラ作品から室内・器楽・オペラ・声楽・合唱・吹奏楽と広範なジャンルにわたるオールマイティ作曲家。

本ブログでも「惑星」は数回登場しているが、それ以外の作品は、声楽の大作「雲の使者」のみだ。
そちらは、インド・サンスクリット文化に感化されていた頃のホルストらしく、エキゾシズムに満ち溢れたユニークな音楽だった。

今回とりあげるのは、管弦楽による幻想的な作品「エグドン・ヒース」。

「エグドン・ヒース」という名は、トマス・ハーディがその作品のひとつである「帰郷(The Return of the Native」の中で、その舞台となった地イングランド南西部地方のドーセット州の荒野を呼び与えた地名のこと。

Egdon_heath イングランドの荒野というと、イメージとしてはブロンテの「嵐が丘」にあるような風の強い荒涼と殺伐とした景色を思い浮かべるが、まさにその通りの場所がヒースの茂るような悲しく空しい光景。
場所そのものが、物語の重要なキーである、というかメインの登場人物に匹敵するくらいに強い存在となっている物語。
「嵐が丘」を読んで、私はそれを強く感じた。
そしてディーリアスやバックスの音楽を聴いて感じる、英国やアイルランドのまだ見ぬ光景も、その音楽から充分に読み取ることができる。

ホルストは、その光景を実際の景色からばかりでなく、ハーディの「帰郷」の中の荒野の描写に強くインスパイアされて、この「エグドン・ヒース」を書いた。
そのスコアには、「トマス・ハーディ」を讃えてという言葉が添えられているという。

「A place perfectly accordant with man's nature - neither ghastky ,hateful, nor ugly; neither commonplace, unmeaning, nor tame; but ,like man, slighted and enduring;  and withal singularly colossal and mysterious in its swarthy monotony.」


惑星の一部にある華やかなオーケストラサウンドは、ここにはない。
惑星に類似点を求めるならば、金星の澄み切った純な響きと、土星の老成した渋い音色であろうか。
14分あまりの曲に、人生と荒野を重ね合わせた心象風景を描きだしてみせたホルスト。
60歳で世を去るホルストの53歳の作品は、人生を経てハーディの描いてみせたイングランドの自然の中に、人の本性を見た。
渋いけれど、ほんとうに味わい深く、彼岸の音楽のようにも聴こえる名作だと思う。

この作品に、プレヴィンは手兵のロンドン交響楽団と目線の穏やかで明晰な演奏を残してくれた。プレヴィンらしい鮮やかな棒さばきが、作品が過度に晦渋にならずに、惑星の作者の延長にあるものと思わせることにも成功している。

このCDには、オペラ「パーフェクト・フール」のバレエ音楽や、ブリテンの名作も納めていて、いずれも私の好きな演奏のひとつとなっている。

 
 

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コメント

 お早うございます。これから早朝勤務に行ってまいります。ブログ主様の守備範囲の広さに改めて驚かされています。私なぞはホルストといったら「惑星」ぐらいしか聴いた事がありません。マゼール&フランス国立管弦楽団の演奏です。プレヴィンが惑星以外のホルストの曲を録音していたことさえしりませんでした。本当にブログ主様は守備範囲が広いですね。私もホルストのオペラや交響曲くらいは聴きたいと思っているのですが、時間もお金もありません。はぁ~

投稿: 越後のオックス | 2009年11月 6日 (金) 04時22分

 トマス・ハーディの小説は好きです。「帰郷」は未読ですが、「テス」なら岩波文庫で大学時代に読みました。19世紀の英国を代表する文豪ですね。

投稿: 越後のオックス | 2009年11月 6日 (金) 04時35分

越後のオックスさん、こんばんは。
ホルストは、多彩なジャンルに多様な作風でもって作品を残しました。
民謡やインド・ネパールの研究なども反映されていて、非常に興味深い作曲家であります。
生粋の英国人ではないですが、英国作曲家という括りの中にあることで私の興味の対象になってます。
ピアノ曲や合唱曲などを今後も取り上げるつもりです。
文学では、貴兄の足元にもおよびません。
ハーディはいつか手にしなくてはならないと思ってます。

投稿: yokochan | 2009年11月 6日 (金) 19時27分

ロンドンの市街地をちょっとはずれると、荒野とは言いませんが、緑多い丘陵地帯が広がるんですよね。「嵐が丘」はもう少し北の方の設定なのかな。
ホルストといえば、私のような吹奏畑出身者だと「1組」「2組」と呼ばれた吹奏楽のための組曲をすぐ思い出してしまいます。おっしゃるとおりホルストは実に多才な人であったと思います。
ハーディ、たしか「テス」をむかーし読んだ記憶がありますが、すっかり頭から抜け落ちております(汗)。オースティンの「エマ」は最近読んだのですがね・・・。

投稿: minamina | 2009年11月 7日 (土) 00時57分

minaminaさん、こんにちは。
英国は一度きりしか行ったことがありませんが、おっしゃるように、街を出るとすぐに緑ゆたかな景色となりますね。城壁の中と外で世界が違った中世以来の名残でしょうか? 英国文学も好きですが、英国を舞台にした映画も好きですね。
ホルストの吹奏楽も忘れちゃいけませんね。
娘さんのイモージュン・ホルストの活躍もありました!

投稿: yokochan | 2009年11月 7日 (土) 11時33分

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