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2009年12月11日 (金)

プッチーニ 「トスカ」 新国立劇場公演

Opera_palace200912 新国立劇場公演プッチーニの「トス」 を観劇。

  トスカ  :イアーノ・タマー     カヴァラドッシ:カルロ・ヴェントレ
  スカルピア:ジョン・ルントグレン アンジェロッティ:彭 康亮
  スポレッタ:松浦  健        シャルローネ:大塚 博章
  堂 守   :鹿野 良之        看 守  :龍 進一郎
  羊飼い  :九嶋 香奈枝

   フレデリック・シャスラン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
                     新国立劇場合唱団
                     TOKYO FM合唱団
                 演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ
                          (2009.12.11@新国立劇場)


Tosca 雨の週末、金曜日。6時30分開演、舞台がひけたのは9時30分。
中身は2時間を切るスケールながら、毎度プッチーニが繰り出す甘味で劇的、そして緊張感に満ちた素晴らしい音楽は聴き手の心をしっかりと掴んでやまない。
トータル3時間もかかったのは、休憩時間が25分もあるため。
それもそのはず、リアルでゴージャスな舞台装置は場面転換が相当大変なはずだ。
台本が歴史とローマの事物をまともに描いているから、具象的な演出となるとこうなる、という見本。
わたしがせっかちなのか、幕間もオペラのうちだから、ダラダラと長すぎに思った。
かといって、コンヴィチュニーのように幕間で何かやれとまで、いうわけでもないけど、そろそろ名作オペラも多面的に楽しみたいもの。
正直、音楽は素晴らしいが演出は凡庸、装置は豪華過ぎといった印象。

Ki_20002478_7_2  しかし、ほんとによく作られてる装置だ。
教会の細部にいたるまで完璧な仕上がりだし、ミサに訪れる人々の衣装やその時代考証も。豪華な堂内が、左右に開け、さらに豪華絢爛の祭壇が現れる。
2幕では、スカルピアはちゃんとなんか食ってるみたいだったし、拷問部屋の明かりも怪しげ。
そして、スカルピアの死体から、その下にあるストールをゆっくりと引っ張りながら後ずさりするトスカ。その影が十字に置いた蝋燭の明かりでできて、彼女の恐怖心を演出していた。
Ki_20002478_10 3幕の拘置所と、城の上がスライドするスペクタルな動き。
空に浮かんだ冷たく光る月に、星のまたたき・・・・。
こんな風になんだかんだ、印象的、というか、あぁ、よく出来てるな、と感心した場面たち。

ディアツの原演出は人の手を経て、変化しているのだろうか?
2000年の第1回目から、今回が5度目。
これだけの装置をこさえちゃったから、昨今の厳しい環境のおり、新国のトスカはこれが当面のスタンダードであろう。

でも歌手たちが引き立っていれば舞台は締まる。
Ki_20002478_9 そして孤軍奮闘したのが、タマー
もうひとりのタマちゃんの誕生だ。(先般、デスデモーナを歌ったタマーラ・イヴェーリがタマちゃん1号)
彼女、演技が機敏で細やか、わたしの視力では伺えなかったけれど、きっとその表情も豊かだったんだろうな。
肝心の歌は、観客受けがヴェントレの方がよかったけど、わたしはタマちゃん2号の方がよかった。
声は決して美声ではないけれど、演技に不随した内面的な歌唱は、歌姫トスカの優しさと敬虔、それと情熱と激情、それぞれをよく歌いだしていたと思う。
2幕の「歌に生き、恋に生き」は、指揮者シャスランとの呼吸もピタリとあった名唱で、わたしは涙をともに流したのである。
ここが、このオペラの頂点。
このあと、主役たちが次々死んでゆくわけだか、タマーのおかげで決まった、という感じだ
彼女のHPはこちら

対するヴェントレは、わたしの好みの声でなかったから、あまり喝采はできません。
威勢よく「ヴィット~リ~ア~」を決めたわけだし、こうして時おり、エイッエイッと張り上げるものだから、聴衆は大満足。
でも、タマーの歌い口と噛み合わず、もう少し知的な歌唱が欲しいところか。

北欧のバリトン、ルントグレンは1幕は全然よくなかった。2幕はまずまず。
というか、その声はプッチーニに合っていないような気がする。
私の耳には音源で聴ける、ゴッピやFD、バスティアニーニ、ミルンズといった知的だったり凶悪だったりするスカルピア、これらが、しっかりと刻まれているものだから、発声が大人しめで、特徴の薄い声にはちょっと厳しいのである。
ネットで聴けるこの人のオランダ人は、なかなか立派なのに。
同じサイトで、スカルピアのテ・デウムも聴けるが、これはやはり私にはダメでした。

脇を固めた日本人歌手、合唱、いずれも強力。
スカルピアなど、もう日本人歌手でいいのではないか。たとえば小森さんとか。

シャスランの指揮する東京フィルは、全般に抑えめで、テ・デウムの迫力はいまひとつに感じた。
プッチーニのオーケストレーションの綾を楽しませてくれるには至らなかったが、全体のまとまりを優先しつつも、タマーとのコンビネーションで見せたような抜群の舞台感覚を持った指揮者に思った。

Ki_20002478_12 これだけの名曲になると、こちらも視聴歴が長いものだから、つい厳しく見がちで、いろいろ辛口に書いてしまったけれど、これだけの高水準の舞台が普通に味わえるという点で、新国立劇場が世界的なオペラハウスの一員に仲間入りしたことは明らか。
故若杉さんの賜物でありましょうか。

3幕の二重唱の盛り上がりで、拍手がパラパラ起きてしまったのは残念でけど、こうしたスタンダードオペラを、日常的に楽しめる環境が極めて大事で、もしかしたら今日のトスカを通じてオペラファンになった方もいらっしゃるかもしれないし、事実、今日は若い方々も多く目立った。
啓蒙的な上演に関しては、高校生向けに、この「トスカ」や美しい「蝶々夫人」を新国は定期的に行い続けているけれど、地方公演も本格的に行ってもらいたい。
オペラは外来も、東京一極集中で、地方公演がまったくないものだからなおさらである。
みんな死んじゃう残酷で無常なオペラだけど、プッチーニの音楽の素晴らしさもあって、オペラ入門にも相応しい作品。
この豪華な舞台をもって、日本中で上演してもらいたいものである。

「トスカ」の過去記事

 「マゼールのトスカ」
 「ホルスト・シュタインのトスカ」

Operacity4

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コメント

おはようございます。まぁ演出のことはさておいて。僕の回は女子高校生の鑑賞が入っていまして、姦しいことといったら・・・。幕間も賑やか。普段の新国の雰囲気じゃなかったから、いつものおっさん、おばさんたちが気圧されて、スノッブな感じがなかったのは好都合でした。東文などの公演より初台のほうが庶民的なんですけどね。それでも、ビギナーたちのパワーは凄まじいものでありました。
感想はほぼ同じです。そっか、タマ2号ですか。いかにも猫大好きのyokochanさんらしい。タマーひとりで舞台を引っ張っていましたもんね。今後の活躍が期待されます。
若杉さんの新しい人を見つける「眼」、たいしたものでありました。
予算関係で新国の今後が心配されますが、昨今の新演出が多すぎたことは心配してましたので、過去の優れた遺産-再演を期待したいですね。でも、新国のステージ機能を想定して作られたものなら、上演できる劇場は限られるなぁ。

投稿: IANIS | 2009年12月12日 (土) 07時40分

IANISさん、こんにちは。
昨日観てきました。
ハウスで女子高生はきついですね。
でも、将来のオペラファンが生まれるかもしれず、やむをえないですかね。
私の会は、金曜だし、クリスマス近しで、お洒落した若い男女がたくさんいましたが、みなさんそれはおとなしいものです。

タマーちゃんは、とてもよかったです。
ドラマテックな役柄を得意にしてるみたいで、メゾの領域も強い楽しみな歌手であります。

そういえば、新国製作の舞台は、他の劇場では使えませんねぇ(涙)
来シーズンの二人のリヒャルト以外に新作がなかったりして・・・、という恐怖もありますが、1月の発表が楽しみであります。

投稿: yokochan | 2009年12月12日 (土) 13時53分

ワタクシは、今日観てきました。やっぱり「トスカ」は鉄板オペラですよねぇ、という感を強くしました。
カヴァラドッシは仰有るとおり、狭い声ですが、張り上げるところを張り上げて、観客には受けますね。ただ、「星は光りぬ」は案外抑制のきいた歌でした(疲れたのか(爆))。
トスカは、この中では一番良かったですね。2幕のスカルピアとのやりとりがもっと烈しければ、「歌に生き愛に生き」がもっと真実感があったかも、とは思いました。
今日の観客はタマちゃんの方に大きな喝采を送っていましたよ。
オケは、天井桟敷で聞いていますと、結構派手に慣らしていて、トランペットや木管などくっきり聞こえてきて結構面白かったです。トスカがナイフを取るところでホルンに強奏させてにやりとさせられたり。で、十分「オペラのオケ」になっていたと思いますが、もっともっとテンポが動いた方がこの曲はいいとは思いました。
でも、この大レパートリー曲でこの水準の演奏をやるのなら、欧州の並みの歌劇場と変わらないと思いました。

投稿: ガーター亭亭主 | 2009年12月13日 (日) 18時44分

ガーター亭亭主さま、こんばんは。
今日の観劇でしたか。
カヴァラドッシ君は、ぽっこりお腹で演技はイマイチですが、ここぞという場面はかなり狙ってますね。
私のときの「星は光りぬ」は、気合が入ってましたよ。
今日は、タマちゃんがウケて何よりです!

私の席は、2階の屋根が被った席でしたので、オケの音が少し大人しめに聴こえたのでしょうか。
でも熟練の指揮者を得て、東フィルは安心して聴いていられましたね。「オペラのオケ」、同感です。
こうした高水準がずっと保たれるといいものです。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2009年12月13日 (日) 22時11分

こんばんは。
昨日、トスカ行ってきました。とても温度感の低いプッチーニでした。外人の声は、どれも感心できませんでした。特に、スカルピアは役柄にあっていないように思いました。第一声で、のけぞってしまい帰ろうかとも。このような軽いスカルピアは初めてです。低い声全く出ません。舞台は豪華絢爛、合唱は大変素敵でした。でも、音楽にイタオペの熱い血潮は有りませんでした。休憩時間長く、いたたまれず二回とも、プシューしてしまいました。

投稿: Mie | 2009年12月14日 (月) 22時23分

Mieさん、こんばんは。
昨日の千秋楽をご覧になったのですね。
だいぶお気に召さなかったようですが、私も似たようなものです。
でもタマちゃんは気に入りました(笑)
それとあの25分間は長すぎましたね。
あの退屈な時間、何か工夫が欲しいものです。
プシューを1杯タダにするとか(笑)
コンヴィチュニーだったら何かやらかすのでしょうが・・・・。

投稿: yokochan | 2009年12月14日 (月) 23時14分

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