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2009年12月20日 (日)

ワーグナー 「ジークフリート」 ヤノフスキ指揮

Suntry_1


















今年のサントリーホールのカラヤン広場は、グリーンがテーマのようだ。

グリーンな植物や花をあしらったモニュメントが点々と置いてあり、花壇には、クリスマス3色のこんな洒落たものがたくさん。

ツリーばかりじゃなくて、こうした優しい緑もいいもんです。
街中いたるところにツリーだらけ。
25日が過ぎると、消え去ってしまい寂しくなることおびただしい。

Winter1

 














冬のバイロイト
かの地も雪が降るのでありましょうか。
夏しか稼働しない劇場は贅沢だし、もったいない。
暖房なさそうだし、寒そうだけど、何か企画しそうな、今の経営陣であります。
カテリーナエヴァの二人のワーグナーの曾孫は、本来の実験劇場をどう導いてゆくのだろうか。
 音楽面では、ティーレマンが監督的な立場にあって、やや過去に軸足があるような気もするが、演出面はますます先鋭に、劇場運営も斬新な考えを注入してもらいたいものだ。
そして、オランダ人以前の3作もレパートリーに入れて欲しいし、禁断のことかもしれないが、シーズンオフにワーグナーに近い存在の作曲家の作品を上演してもらいたい。
あの劇場の音響は、ともかく魅力的なのだから。

1872年にバイロイトに移住したワーグナーは、リング上演に新劇場の建設を熱望し、そのために精力的に働いた。
しかし、その前にルートヴィヒ2世が、ワーグナーの新作を早く観たいがために、「ラインの黄金」と「ワルキューレ」の上演をミュンヘンで強行してしまい、二人の関係も悪くなってしまう。このことは金銭的援助にも直結していたから、すでに各国でひっぱりだこになっていたワーグナーは自作の上演を次々に行って資金稼ぎをした。
やがて国王との仲も修復して、以前にも増して資金提供を受けることができて、72年に起工式が行われた祝祭劇場は、76年に完成し、リングの上演でもってこけら落としとなった。
これが記念すべきバイロイト音楽祭にスタートで、そのあとすぐに財政的に厳しくて開催されないことも存命中にあったらしい。
第二次大戦のあとも政治的な理由もあって閉館していたが、それが底知れない努力によって蘇ったのが1951年、新バイロイト。
この再スタートの年と、1976年のシェロー演出により100年祭が、バイロイトのマイルストーンでありましょうか。

「ワルキューレ」を1856年に完成させ、すぐさま「ジークフリート」に取り掛かった。
近くにブリキ工場があって、そのトンカンする音が、そのまま鍛冶場の音楽に取り入れられたという逸話もあったりする。
快調に作曲を進めたものの、「トリスタン」と「マイスタージンガー」が視野に入ってきて、2幕第2場あたりで作曲を中断することになる。
56年に中断して、再開は64年。
8年の中断の間、ワーグナーの作曲技法はますます進化して、分厚く施されたオーケストレーションに、再分化されミクロ化されたライトモティーフの複雑な絡み合いなど、まったく目を見張る有様。
「神々の黄昏」はもっと複雑きわまりなくなるが、「ジークフリート」は文字通り、牧歌的で純情なドラマでもあるから、ほどよい抒情性が心地よく、ワーグナーのジークフリートへの愛がたくさん詰まったような楽劇となっている。

   ワーグナー 楽劇「ジークフリート」

    ジークフリート:ルネ・コロ     
    ミーメ:ペーター・シュライアー

    さすらい人:テオ・アダム     
    アルベリヒ:ジークムント・ニムスゲルン

    ファフナー:マッティ・サルミネン 
    エルダ:オルトルン・ウェンケル

    ブリュンヒルデ:ジャニーヌ・アルトマイア
    森の小鳥:ノーマ・シャープ

  マレク・ヤノフスキ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
                     (1982.2@ドレスデン・ルカ教会)

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いまや押しも押されぬ大家となったヤノスフキがまだ42歳のときに録音されたリング。
誰もが、オーケストラと歌手は褒めても、指揮者のことはあまり褒めなかった。
デジタル初のリング録音に、リングの演奏からかなり長いこと遠ざかっていたドレスデン・シュターツカペレ。そこに起用されたヤノフスキは、当時からオーケストラ・ビルダーとしてのトレーナー的力量は高く評価されていて、伝統あるドレスデンにワーグナーの音色を呼び覚ます職人指揮者として呼ばれた。
 すっきりと早めのテンポで進められるこのリングは、ショルティやカラヤンと比較されちゃうと、それらの劇的なまでのオーケストラの雄弁な鳴りっぷりに、大人と子供くらいの遜色があるのも事実。
でもピュアで純粋、生まれたての新鮮なワーグナーの響きがここにはある。
ヤノフスキの棒を信じて、この名門オーケストラがワーグナーの音楽に人肌のぬくもりと、目の積んだ木目調の音色を響かせていて、ほかの強力盤にもひけをとらないユニークかつ美しいリングとなっているのだ。
 第2幕の「森のささやき」から同幕の最後まで、ルネ・コロの考え抜かれたみずみずしいジークフリートとともに、まさに緑の森に過ごすかのような美しいシーンが続出する。
ホルンは、かのペーター・ダムでありましょうか、いぶし銀の輝きを放っております。

異論はあろうかと存じますが、わたしはジークフリートとトリスタンは、ヴィントガッセンと並んで、ルネ・コロが一番好きなのであります。
肉太のロブストな声でどっしりと歌われるジークフリートのイメージを払拭してしまったのが、ルネ・コロの歌。知的でありながら頭でっかちの印象を決して与えることなく、自然児としてのジークフリートを歌いだしていて、さらに次の「たそがれ」ではジークフリートの遂げた成長をも歌い出すことに成功している。
このような歌手は、コロのあと、ペーター・ホフマンを除いて見当たらなくなってしまった。
ホフマンといえば、彼のジークフリートも聴いてみたいものだった。
あの病さえなければ、という「たられば」の想いに焦がれてしまう。
 私の自慢は、コロとリゲンツァの出演した「リング」を全部観劇したことだ。
その自慢の内容は、昔の日記を見つけ出したのでいずれご案内。

シュライアーの巧みなミーメが面白いが、ややウマすぎで鼻につくかもしれない。
ヘンゼルとグレーテルの魔女みたいなミーメなのじゃよ、ヒッヒッヒ。
 ベーム盤から、16年を経過している、アダムのさすらい人は、あの頃とあんまり変わっていない。息の長い歌手だ。聖歌隊で歌っていた少年時代からずっと長いキャリアの持ち主で、もう83歳になるはずだ。
ウォータンにザックス、オランダ人、アンフォルタス、ザラストロ、オックス、モロズスとアダムの歌声が刷り込みとなっているわたくし、いつまでも元気にいてほしいです。
アダムの「冬の旅」など、ちょっとクセある声だけど、味わい深いものです。
 ジークリンデ役から大抜擢を受けたアルトマイアーは、悪くない。
強靭なソプラノではないけれど、若々しい目覚めを元気に歌っていてよろしい。
ブーレーズ盤のジークリンデで馴染みすぎたせいか、ときおり、ジークリンデの声が顔を出し、相方がジークフリートと思うと複雑な感じになる(笑)
サルミネンの破壊力あるファフナー、シャープの決してシャープにならない可愛い小鳥ちゃんもいいし、ウエンケルの深みあるアルトで聴くエルダもよい。
 歌手が揃っていることでも、ピカ一のヤノフスキのリングである。

さて、男ばかりのジークフリートの登場人物。

ジークフリート:コジマとの不倫の落とし子である息子にも付けたこの名前。
自然児だけど、馬鹿力の持ち主で、英雄というよりは無鉄砲なやんちゃ坊主。
残虐な殺し屋でもある点を忘れてはならない。自分を育ててくれたミーメを殺してしまうのだから。
でもミーメもジークフリートを亡きものにしようと狙ってのですがね。ヒッヒッヒ。
自分の爺さんにも攻撃的だった向こう見ず。
 ちなみに、息子ジークフリートは、親の七光にはならず、オペラを19も作曲したが、いまはまったくネグレクトされている。
指揮者・劇場運営の実力は高く評価されているが、そのオペラはいかに。
近日、その大作を取り上げますぞ!

ミーメ:から、兄と決裂したこの弟、醜くてずるがしいが、どこか憎めないヤツ。
自分でペラペラとジークフリート殺害計画を暴露しちゃうから、逆に殺られてしまう。
赤ん坊から育てたのに、その坊主に殺されてしまう可哀そうな小人。
歴代、ナイスなミーメが続出している。シュトルツェ、ヴォールファルト、ツェドニク、ハーゲ、クラーク、ユンク(ジークフリートから転身!)、パンプフなどなど。
シュライアーはそれらとはちょっと違うミーメかな。
今のバイロイトでは、これもヘルデンのシュミットがユニークなミーメを歌っている。

さすらい人:さすらいという行動に、なぜかとても憧れと親近感を抱くわたくし。
指環が本当は欲しくて堪らない。ウロウロしまくった挙句に、孫に自慢の槍をへし折られてしまうが、ある意味ニンマリしている。
しかし、そこから神様たちの没落が始まろうとは・・・。自業自得の爺さん。

アルベリヒ:ウォータン憎し、好敵手弟ミーメ憎しに凝り固まっているが、ここでは見物人みたいで何もしないし、できない。
ミーメが殺られたあと、ニーベルングの動機でせせら笑う、兄弟愛もへったくれもない。
息子ハーゲンもおそらくジークフリートと同期生くらいに育っているのに、何故か登場しない。おかしいじゃないか。

ブリュンヒルデ:前の晩に火に囲まれて眠りに入ったばかりなのに、女に餓えた甥っ子に起こされてしまう。
ジークリンデのお腹の中の赤ん坊が、青年になっているから、だいたい18~20年は眠っていた勘定になる。
知力あふれる大人の女の魅力で、ジークフリートを虜にしてしまう、いけない伯母さん。
上演では、出ずっぱりで疲れの見え始めたジークフリートを元気一杯に目覚めて圧倒してしまう。

ファフナー:かつての巨人もいまや眠り竜。寝すぎだよ。
食っちゃ寝の典型で、退化してしまったが、ジークフリートに殺され、なんだか急に頭が冴えてしまう。
その血を浴びたジークフリートが、鳥の声を聞きわけるようになるが、リングの七不思議のひとつである。

エルダ:この女神さんも、よく眠る。
さすらい人にたくさん子供を作らされて、疲れて眠っていたのに、また急に呼び出しを受ける可哀そうなヒト。
ラインの黄金では、ウォータンが畏まっていたのに、ここでは逆で、なんだか怒られている。

森の小鳥:バイロイトでは、オーケストラピットの指揮者の隣あたりで歌っていたのはかつての話。
最近は、ワイヤーを付けさせられて飛ばなくちゃならない曲芸役。
バイロイトに登場した初日本人歌手、河原洋子さんは、ウォークリンデとこの役を歌った。

さて、明日は長大作「神々の黄昏」であります。

「ジークフリート」の過去記事

「ブーレーズ&バイロイト」
「ケンペ&バイロイト」

「カラヤン&ベルリンフィル」

 

Suntry_2



















サントリーホールのグリーン

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コメント

こんばんは。とうとう、「ジークフリート」まできましたね。だからという訳ではないが、カラヤンはゴージャスに。レヴァインはパワフルに。他にも挙げたいですが。ショルティはワーグナー1本でしょう。とくにカラヤンとショルティが二分していた時代ですが、オールマイティなのがカラヤンですね。ベーム、バイロイトはフィリップスから「全曲」からのハイライトは出ています。「全曲」は廃盤なのかな。
ジークフリート誕生時に書いた「ジークフリート牧歌」という小品もありますね。ワーグナーの劇音楽から一息ついて聴きたい曲でもあります。
指揮者高齢化となり、若いしっかりした指揮者が欲しいと思うこの頃であります。若き日のヤノフスキのも存在していたのですね。
そして、いよいよ、「神々の黄昏」とラスト・スパートですね。

投稿: eyes_1975 | 2009年12月20日 (日) 22時25分

eyes_1975さん、こんばんは。
年末の忙しいときに、毎日リングを聴いてる自分って、よっぽど暇人なんだなぁ、と思いながらここ数日過ごしてます(笑)
年内にワーグナーシリーズを完結させようとの思いから、こんなことになってます。
「たそがれ」は、もう記事が仕上がってまして、誰の演奏かはお楽しみに(笑)

ヤノフスキのワーグナーは、このリングだけというのが寂しいです。
ドイツ人ではありませんが、いまや独・仏になくてはならない巨匠となりました。
 若手は、でも多すぎて、最近歳のせいか、覚えきれんません。これはという指揮者がいれば、すぐに思い浮かぶのですがね・・・・。
いずれにしても、巨匠・大家の時代は終わってしまったのでしょうね。

投稿: yokochan | 2009年12月21日 (月) 00時29分

ドレスデン・ファンのわたしにとっては、ヤノフスキのリングのあのオーケストラ・サウンドは理想です。深々とした柔らかなハーモニーに魅せられます。ペーター・ダムと思われるホルンの音色などもうたまりません!
最近もシュナイダーが「パルシファル」を振ったりしてるので、そのうちまたオペラでの来日公演を期待したいものです。

投稿: 白夜 | 2009年12月21日 (月) 02時12分

白夜さん、こんばんは。
おっしゃる通りです。
「ドレスデンのリング」とも言っていいくらいに、独特の美しさに満ちたワーグナーです。
ワーグナーとシュトラウス、モーツァルトを引っさげて、来日公演を再び敢行して欲しいですね。
今度は、ティーレマンですから、ちょっとどうなることでしょう?
 それにしても、リングはドレスデン、ウィーン、ベルリン、ミュンヘンと名オーケストラによる録音が残されました!

投稿: yokochan | 2009年12月21日 (月) 22時11分

こんにちわ、指輪全曲。カラヤン、ショルティ、ベーム、ヤノフスキの4点愛聴盤です。録音も演奏も、年代も、オケも歌手も様々。細かく書きませんが実は魅力いっぱいのヤノフスキ盤です。(録音もオケも歌手も)個人の意見ですが再生が一番難しいのはDENONのディジタル。でもしっかり再生できるととても魅力的なディスクです。

投稿: M人 | 2011年5月 7日 (土) 14時54分

M人さん、こんばんは、コメントありがとうございます。
お手持ちの4種のリング。
わたしも、まさに模範として大事にしているリングです。
あと好きなのはブーレーズでしょうか。

わたしの貧弱な装置では、逆にみんな素晴らしい録音に聴こえるところがなんとも情けないのですが、ちゃんとした装置で聴いていたレコード時代に聴いていたデンオンがすごくよかったような気がしております。

ヤノフスキは、ワーグナー全作を録音するそうですね。
ふたつめのリングは、どうなりますか、大いに楽しみです。

投稿: yokochan | 2011年5月 7日 (土) 22時37分

管理人さんこんにちは。

ヤノフスキのドレスデン盤懐かしいですね!

この頃はあまり重厚さはうりではなくホルンのソリステックな存在もあり古典以外はやや他のドイツ系オケと比べユニ―クでした…現在は大変バランスが良いしもっと録音期待したいです。


ワ―グナ管弦楽曲は以前よく演奏しましたが、師匠にはワ―グナ―はなるべくテンポ遅く演奏して音楽になるのが本当!と教わりましたが、ナルホド各場面を取ってもオケ・ソリストの力もありますが例えばトリスタン~もバ―ンスタィン とべ―ムの論争思い出しますね。

投稿: マイスターフォーク | 2011年5月 8日 (日) 06時44分

マイスターフォークさん、こんにちは。
当時のドレスデンは、東側ということもあって、秘密のヴェールに少し包まれているような感覚をもってました。
それを打破しちゃったのがカラヤンのような気がします。
イタリア系ふたりを経て、ティーレマンですから、少し変化するような気もいたします。
楽しみではあります。

ワーグナーは、テンポをどうとるかがかなりポイントですね。
わたしは、中庸かどちらかといえば、ベーム、シュタイン、シュナイダーのような速めが好きだったりします。
歌手に歌いやすいのは、彼らのような気がしますね。

投稿: yokochan | 2011年5月 9日 (月) 22時57分

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