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2010年1月18日 (月)

ブルックナー 交響曲第7番 スウィトナー指揮

Kobe_port 神戸のポートサイド。
去年の10月に撮影。

昨日1月17日は、阪神淡路大震災が起きて15年。

まだ記憶にあたらしい。
癒えぬ傷は多々あろうと思われるし、震災の余波はまだ終わっていないと思う。

15年前、わたしは名古屋で単身赴任中。
連休で、関東帰宅中の出来事で、その日は東京から長野に出張する予定で、長野に向かう車中、なぜかミヒャエル・プレトニョフがいたのを覚えている。
その連休に入る直前に、神戸に行き、三宮駅前の喫茶店で打ち合わせをしたが、その数日後には瓦礫と帰していた。
震災後、会社施設の管理を担当していたので、現地近くまで行った。
街中、ブルーのシートに覆われていたのが忘れられない。

金聖響さんの、ブログを見て、あの日のミサ・ソレムニスの演奏のさい、震災の被災者とご家族のことを思って指揮したとありました。
その思いは、きっと届いたことと思う。
そして、そんな聖響さんの指揮に、あらさがしするような聴き方をしてた自分が、恥ずかしい。でも、このブログにも書いたとおり、演奏者全員が心を合わせ、聴き手の心にもひしひしと、その思いが届く虚心で素晴らしい演奏だった。

 今日は、そうした思いも込めながら、先に亡くなったオットマール・スウィトナーさんの至芸から、ブルックナー交響曲第7番を取り出してみた。
Bruckner_sym7_suitner_2 スウィトナーは、オーストリアのインスブルック生まれの生粋のオーストリア人。

スウィトナーが初めて来日した頃から、インスブルックという地名が頭に刻みこまれていて、しかもオーストリア=チロルという図式で、ウィーンへの憧れと同じように、いまだ見ぬその街が音楽も盛んで、自然にも恵まれた、さぞかし美しい街であろうとの想像をたくましくしていた。

だから札幌の次の、76年の冬季オリンピックもやたらと覚えているのだ。

そのスウィトナーが、ウィーンやオーストリアでなく、その活動の場を東ドイツを主としたのは、面白いことだし、今となってはとてもよかったことではなかったかと。

インスブルックの場所を見ると、オーストリアの南北に一番細いエリアにあって、北はドイツ、南はイタリアに接する位置関係にある。
スウィトナーも、父親はドイツ、母親はイタリアという出自で、まさにインスブルックの街そのものが、スウィトナーの存在そのもののように感じてしまう。
 インスブルックは舞踏の街ともいわれ、街中舞踏会だらけともいう。

スウィトナーの作り出す明るさと、リズムのよさ。これもまた納得できる。
そして、同じオーストリアンのブルックナーを好んで指揮したのも、当たり前の図式。
もっと早く、録音を開始いていれば全曲間に合ったかもしれない。
いまのところ、正規録音では、1、4、5、7、8番の5曲。
N響放送の私家盤で、2、3番を作ってあるので、あと6・9番のみだった。

スウィトナーのブルックナーは、イメージとしては、ヴァントの峻厳で完璧な演奏とは正反対にあるものと思う。
大らかで、多少のでっぱり引っ込みは無視して流れるままに演奏してしまった感がある。
もちろん傷のない、しっかりした演奏なのだけれども、どこか緩やかで、厳しさとは程遠い微笑みのブルックナーともいえようか。
曲が7番だからよけいにそう感じるのかもしれない。
ヴァントは、ゴシック様式の人を寄せ付けない神の住処のような教会建築。
スウィトナーは、ドイツやスイス・オーストリアのどこにでもある、街の中心にある日常の教会。街の人々が、気易く集うところで、のどかな鐘の音が聞こえてきそう。

実にいいテンポで、まさにスイスイと進行する。演奏時間は64分。
牧歌的な3楽章と、そのトリオの場面がほのぼのと気分がよろしい。
短い終楽章も、すばらしく歌にあふれていて、さりげないほどのエンディングも仰々しくなくていい。
長大な1楽章には鄙びた雰囲気もただよい、澄んだ空気を思い切り深呼吸したくなる。
そして葬送の音楽ともされる2楽章、あの冒頓としたスウィトナーの指揮姿が目に浮かぶかのような素朴さと歌心にあふれている。
ここでは、かなりテンポを落して、じっくりと慈しみをこめて演奏している。
でも、クライマックスを朗々と大伽藍のように仕上げず、あくまでインテンポでさりげなくこなしているところが、スウィトナーらしいところ。
いろんな想いが、心に浮かび、今夜は、この楽章を何度も何度も聴いてしまった。

シュターツカペレ・ベルリンが、柔和さと、克明さを兼ね備えた柔軟なオケとして機能している。響きの適度にある録音も美しい。

ベルリンとドレスデンといった旧東系のオーケストラにとって、スウィトナーは、峠を越えて南から吹いてきた風のような存在ではなかったであろうか。
克明なアンサンブルと無骨なまでの重厚感を持つオーケストラに、ほんとうに必要だったスウィトナー。
スウィトナーもオーケストラから、ドイツの響きをもらったに違いなく、幸せな組み合わせだった。

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コメント

yokochanさま お早うございます

私は、あの震災の前日に神戸に行っていました
一日違っていたら、被災していたと思います
多数の方が犠牲になられましたね、この場を借りてご冥福をお祈りいたします〜。

スイトナーさん、私はオペラ、コンサートなど何度も行きましたので、本当に懐かしい指揮者です。
ブルックナーも良いですよね〜、久しぶりで4番、5番と聴いてみて、これほど良い演奏をしていたのかと認識を新たにしました。この時期の東独のレヴェルは非常に高かったですよね〜。指揮者も優秀な方が多かったと思います。

スイトナーさんのご冥福をお祈りいたします〜。

ミ(`w´彡)

投稿: rudolf2006 | 2010年1月19日 (火) 08時04分

こんばんは。まず、スウィトナーのブルックナーは初耳です。彼はやはり、ドイツ音楽をメインにしていますね。カラヤンもオーストリア出身。「ブル7」は生涯最後の録音がウィーン・フィルですが、ドイツ・グラモフォンベルリン・フィル録音がしっくりきます。
プレトニョフと遭遇したのですか。(彼がピアニスト、指揮者両立しているのは同郷のアシュケナージのようですね)阪神大震災から15年経った今、ハイチで大地震が発生。日本救援助隊がやっと動き出した。これは遅すぎる。
こんなことを書くと怒られそうですが、覚悟を決めます。yokochanさんや周りの方たちはご存知かと思います。最近、ブログの品格が問われていて、私がブログ開設し、間もない頃、仲良くなったブロガーに板についた時でした。そのブロガーに競合盤や曲の経緯などを述べたレスやトラックバックしたら、なぜか、私が反感を買うようなレスが返ってきました。そして、まるでクラシック・ライブラリーのような記事を書いているブロガーが私が書いたことよりもそのブロガーの記事に合わせ、私はCDを持ってるよ。とおだてるようになった。そのブロガーを支持してる人が多く、これで私は蚊帳の外。そんな中、主となっているブログが通信不能になり、運営会社が撤退した。諦めたのだろうか。私と友達でもあるブログにレスを送ったら、今度はまともな返事がくるようになった。そのブロガーはもう、過去の人となってしまったのだろうか・・・。今になってみれば、yokochanさんを始め、こうして、意見を述べられ、音楽の情報交換が出来る。
人類皆兄弟。スウィトナーのご冥福をお祈り致します。

投稿: eyes_1975 | 2010年1月19日 (火) 21時52分

rudolfさん、こんばんは。
15年は、昔のようで、昨日の出来事のようですね。
その思いはいろいろですが、わたくしも被災した方々にお見舞いと追悼の念を申し上げます。

東と西に分かれていたのも、もう20年前のことなんですね。政治はベールに包まれてましたが、音楽はこうしていろいろ残されていますし、東西交流も盛んで、ある意味いい時代だったかもしれませんね。
スウィトナーさんが日本に何度も来てくれたことに感謝したいと思います。

投稿: yokochan | 2010年1月19日 (火) 22時00分

eyes_1975さん、こんばんは。
そうなんです、スウィトナーのブルックナーは結構残されてまして、それがまたいいんです。
カラヤンも、そしてベームもオーストリア人ですね。
いずれのブルックナーやモーツァルトも素晴らしいです。

プレトニョフ氏は、当時はピアノ一本槍だったかと思います。今思えば、サインをおねだりするんでした(笑)

ブログの品格。
私もよくわかります。
企業がモニター的にブロガーを利用することも、個人日記たるブログの本来の出発点を狂わしてる面もありますね。
かといって、その日記を皆さんに読んでいただき、共感得たり、情報を交換したい、という気分でブロガーは記事をおこしてます。

見ていただいた方、コメントを残していただいた方が、楽しんでいただくことで、書く方もブロガー冥利につきるというものですね。
eyes_1975さんをはじめ、毎度コメントを頂戴する皆さんとの楽しい交流をこれからも続けられたらいいな、と切に思ってります。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2010年1月19日 (火) 23時14分

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