ワーグナー 「ニーベルングの指環」 アメリカ5大オケ
1か月前の訪問先、下関の駅周辺です。
駅は、1時間に数本の電車がやってくると賑やかに人が出てきて、迎えの車に消えてゆくけど、そのあとは、パチンコ店とホテルの明かりが眩いのみ。
日本の各地方は、だいたいこんな光景かと思われる。
違うのは東京圏、札仙静名京大広福(わけわからんね)などの主要都市のみ。
東京の山手線内西側なんてもう、世界的に異常なくらいの人の多さ。
このギャップを作りあげてしまった日本の政治。
地方も整備され、化粧姿は抜群だけど、いったいどうなってしまうんだろう、この国は。
いまあるオリンピックも、日本の衰退、アジア他国の伸長。
明らかに国力や気運で負けている。
私たちの気持ちも、どうせ勝てないや、とかいう風に負けている。
トヨタ問題も含めて、これが日本の実力・現状という認識をもって、淡々と
なんだか、このブログらしからぬことを書いてしもうた。
いかんいかん、今日もワーグナーじゃ。
「ニーベルングの指環」をオーケストラで聴く場合、4つの楽劇から名場面をバラバラにチョイスする場合と、昨今ではブリーガー編曲版も多く取り上げられる。
後者は休みなく60分以上の大曲仕上げで、原作の雰囲気をとても出している名品。
前者は、各曲が分断され、ショーピース的な扱い。
私には、前者は歌抜きということで違和感が大きすぎる場面も多々あり、後者はシンフォニックであり、オペラとしての流れ・劇性がうまく取り入れられていて、かなり満足できる。
で、唐突ながら、前者のハイライト盤的な録音がアメリカ5大オケ、通称ビックファイブで聴けるので、まとめて聴いてみた次第。 古い順にまずは、ボストン交響楽団。指揮はシャルル・ミュンシュ。57年の録音。
ミュンシュのワーグナー自体も珍しい。
魔の炎の音楽、ラインの旅、自己犠牲が収録されていて、アイリーン・ファーレルのブリュンヒルデ付き。
響きはかなりヨーロピィアンでそこそこよい雰囲気。
でもさすがはミュンシュで、音のたたみこみ具合がダイナミックで切れがよい。
黄昏では聴いたことないようなブラスのスタッカートで驚きもあったりする一方、表情がやや乾いたりして、ちょっと尻切れトンボ的な雰囲気。
ファーレルのハスキーなブリュンヒルデも違和感あり。 次いで、ジョージ・セル指揮のクリーヴランド管弦楽団の68年録音。
これは、素晴らしい。
ワルハラ城入場~騎行~魔の炎~森のささやき~ラインの旅~葬送行進曲
この手の定番ラインナップ。
ここでも感じるのは、ヨーロッパの響きだが、ミュンシュと違うのは、ここに感じる劇場空間と冷静なまでの緻密な音楽表現。ミュンシュは感興にのってやってしまった感ありだが、セルは冷静に、登場人物たちを描きわける。
全14時間あまりの楽劇の、ほんのさわりに過ぎないのだけど、全体の一部を感じさせつつも、そこに凝縮された劇場的な表現を盛り込んでいると感じる。
オケもクールに感じるけど、実は熱くなってる濃密度の演奏。 ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団は、69、71年の録音。
騎行~魔の炎~森のささやき~アルベリヒの呪い・入場~ラインの旅~葬送~自己犠牲
アルベリヒの場面があることが珍しい。
しかしジャケットには、「アルベリヒの祈り」と書いてあるのが妙だ。
この訳わからん訳、どうも演奏の印象につながっていて、しっくりこない。
というか、私には違和感ありすぎ。
このコンビのファンの方には申し訳ないが、テンポ感、主力声部の捉え方、音色、すべてにおいて私には受け入れられなかった。 ズビン・メータ指揮ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏は、82年(たぶん)。
入場~騎行~魔の炎~森のささやき~ラインの旅~葬送~自己犠牲。
自己犠牲はオリジナルではなく、カバリエとの別録音から追加されたもの。
こちらは、かなり本格派で、通常リングを聴いてる人間からも、オーケストラ作品として聴く方からも違和感は少なく溶け込めるはず。
なめらかで、美しく、やるべきことはみんなやっていて充実したワーグナー・サウンドが聴かれる。
でも、それ以上のこともなく、耳ざわりよく、口当たりもいい上質のワーグナーといった感じ。すごくいいんだけど、密度の濃さは、セルに遠く及ばないといった感じ。
カバリエの麗しいブリュンヒルデにも同じことがいえるかも。。。 一番新しいのが、ダニエル・バレンボイム指揮シカゴ交響楽団。91年録音。
騎行~森のささやき~夜明けとラインの旅~葬送~自己犠牲。
ここでは、デボラ・ポラスキのブリュンヒルデが聴けちゃうお楽しみつき。
一聴わかるオーケストラの蟻の這い出る隙間のないほどの高密度なビンビンの優秀さ。
これが、バイロイトでワーグナー経験の年輪を積みつつあったバレンボイムの自信みなぎる指揮ぶりに、敏感に反応している。
実際にリングを今振ってる体験からか、個々に思いいれの強い部分もあったりして微笑ましく、意外や森のささやきなんかが、自在な表情付けで楽しめたりする。
スケール感や全体の見通しはもう一歩。
でもなんといっても、馴染み深い、ポラスキの素晴らしいブリュンヒルデが聴けるのがうれしい。彼女の大らか、かつ、情のこもったアメリカの母的な歌声は、とても安心感があるし、それが大雑把な場違いな表現に陥らずにブリュンヒルデという一人の女性を短いながらも歌いこんでいるように感じる。
彼女のブリュンヒルデとイゾルデはこの耳で聴いたけれど、力強さとおおらかさと情にみちた暖かさを感じることができたのだ。
その貴重な歌唱で、ここではバレンボイム、点を稼いでる。
いやぁ、おもしろかった。
3日間、5枚のCDを聴きまわしてみたけど、あえて、さまよえるクラヲタ人が付けた順位は。
①セル、②バレンボイム、③メータ、④ミュンシュ、⑤オーマンディであります。
音源ある米オケに限定してのこと、あいすいません。
50~80年代の録音ではありますが、この頃までは、アメリカのオーケストラにも色がそれぞれあって、それがレーベルの個性ともあいまって、とても楽しく聴けたのです。
もちろん超優秀フィラ管の美しい弦も味わえたし、RCAのボストン録音も特徴あります。
曲を絞って、こうしてオーケストラの聴き比べも楽しいものですよ。
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コメント
お晩です。
この管弦楽曲で有名どころを押さえた録音が出るのって、ヨーロッパのオーケストラでは余りないですよね。こういった録音があること自体アメリカでの「リング」体験もそれほど多くないことの裏返しともとれますが・・・。
僕の場合は、ご承知のとおりシカゴ・ファンでありますので、バレちゃんのものしか持ってませんでした。でも、彼の時代のシカゴ、停滞期だったんだなぁ。それからすると、おっかない親父だったセルのほうが何げに気になります。
ちなみに、マゼールがベルリン・フィル、ラニクルズがSKD、ヤルヴィ=スコティッシュ、ダーリントン=デュイスブルクがヨーロッパで現役のようです(全曲からのハイライト除く)。ワールトのオランダ放送欲しかったけど、今は廃盤。残念であります。
投稿: IANIS | 2010年2月25日 (木) 02時32分
IANISさん、こんばんは。
たしかにアメリカオケならではでして、かつてはリングはメトでしか体験できなかったんですね。
オーケストラ・ピースとしての在り方だと思いますが、バレンボイムだけ、選曲に熱の入れ具合がうかがえます。
ラニクルズのワーグナーは素晴らしいものですので、手に入れようと思ってます。
昨年は、ブリーガー版を、シュナイダー、ワールトと2回聴くことができました。ピットからあがったオケは壮観!
原作の編成に忠実に従った朝比奈・新日本の演奏会形式上演を思い出しました。
投稿: yokochan | 2010年2月25日 (木) 19時57分
さて・・・。
「リング」の「管弦楽版」はオーマンディ、メータが手元にあります。(情けない~)yokochanさんとギャップがありそうですが、大衆向けに作られたでしょう。でも、「リング」入門として最適。
バレンボイムは1990年代はワーグナー指揮者としているのか、そちらの方が目立ってしまい、本業であるピアニストの回数が減ってしまった。彼はEMI、ドイツ・グラモフォン録音が多かった1970~1980年代までが名指揮者でした。それ以降はスキャンダルやベルリン・シュターツカペレやシカゴ響を自滅したりと誠実を失ってます。
そして、シカゴ響は年内にムーティが音楽監督に就任するとのこと。アバドみたいにイタリア指揮者とアメリカ5大オケとのコンビ。首席指揮者ハイティンクのみだったが、かなり強力です。ライナー、ショルティ時代が蘇ってくるのでしょうかね。
投稿: eyes_1975 | 2010年2月25日 (木) 21時00分
eyes_1975さん、こんばんは。
アメリカに絞ったのは、5大オケでしっかり、リングがあったからなのですが、バーンスタインもバラバラですが録音ありました。
そちらは機会を改めたいと思いますが、いずれにしても、オーケストラを鳴らしまくり、ショーピース化してます。
そうでないのが、セルとバレンボイムでして、バレンボイムは意外なくらいに渋いです。
彼の前任が偉大すぎ、エラートというレーベルが凡庸にすぎたのだと思ってます。
DGにそのまま残っていれば、残された録音はもっと輝いていたと思いますが、いかがでしょう?
ベルリンも含めて、私は決して停滞期とは思っていないのです。そちらでは、スウィトナーという偉大な先達がいて、それを足場に西側基準にしたてたのはバレンボイムの功績かと思います。
まだまだ、若いバレンボイムです。ピアノも弾いて欲しいですね。
シカゴは、ムーティを迎えて、大いに楽しみですねぇ!
日本にも当然やってくるでしょうし。
レパートリーはハイティンクとすみ分けして、ポストは降りますがいい二頭体制ができそうな予感ですね!
投稿: yokochan | 2010年2月25日 (木) 23時59分
今晩は。過去記事に書き込み失礼いたします。
米5大オケの演奏の中で私が持っているのはセルとメータのみです。セルは本当に名盤中の名盤ですよね。
ミュンシュがこの手のワーグナー・アルバムを録音していることを不覚にも知りませんでした。
オーマンディは冴えませんか・・・購入を考えていただけに残念です。
バレンボイムのワーグナーは食わず嫌いです。自分でも良くない事だとおもうのですが・・・偉大な軍曹の次のシカゴの音楽監督にはMTTかスラトキンになってほしいと思っていたのですよ。
私が今購入を考えているのはダーリントン盤です。編曲も演奏も面白そうなので・・・
投稿: 越後のオックス | 2010年8月23日 (月) 23時10分
越後のオックスさん、おはようございます。
米5大オケで、リング聴くき比べができるとは思いもよりませんでしたが、あるもんですね。
同様の企画をチャイコフスキーのロメジュリでもやりましたが、楽しいものでした。
いずれ、ロンドンやドイツあたりでもやってみたいです。
さて、オーマンディ購入欲に水をさしてしまいましたが、気になさらずにお聴きいただければ、と思います。オケはうまいし、浮ついたところがなく落ち着いたものです。
バレンボイムは、いまベルリンとやれば、もっといいのでしょう。ポラスキが好きなのでだいぶ得してます。
ダーリントンとは、未確認・未聴ですね。
お聴きになられたら、またご意見をお聞かせください。
投稿: yokochan | 2010年8月24日 (火) 08時37分
管理人さん こんばんは。
私も角度は違いますが何故かアメリカオケの金管があれほど20世紀以後の音楽には上手く吹けるのに以前のドイツモノには全く精彩が感じられなく、地味なショルティシカゴのべ―トゥベンやバレンボイムのシカゴでは輝きのない金管やコラ―ルが溶けない和声感など頭を抱えてしまいます。
管理人さんはどう思いますか?
私のワ―グナ―に理想的な金管群はカラヤンがEMIに入れたロ―エングリンの熱く厚みがあり各金管楽器が一枚岩にまとまった浸透力のあるサウンドが理想的です!
リングではありませんがオ―マンディのタンホイザ―より入場行進曲がアメリカンらしい軽快で活力ある音楽が良い出来です。
投稿: マイスターフォーク | 2011年5月 8日 (日) 23時02分
マイスターフォークさん、こんにちは。
なるほど。
アメリカオケによるベートーヴェンですが、実はあんまり聴いたことがないのですよ。
驚かれるかもしれませんが、ショルティのベートーヴェンで聴いたことあるのは、5、6番のみ。
ほかのオケもよく考えたら聴いたことないです。
個人名手が多いからなのでしょうか・・・・。
カラヤンBPOのローエングリンは、たしかに鉄壁のサウンドです。あれを聴いてしまうと、バイロイトの金管が少しばかり。。。。
一方で、わたしはベルリンはすごいけれど、すこしばかり威圧されてしまいます。
そんな時は、アバドの指揮か、バイエルン放送などを聴いてみたりしております。
投稿: yokochan | 2011年5月 9日 (月) 23時10分
今晩は。ブログ主様の過去記事の書き込みに執念を燃やす越後のオックスです(笑)。ダーリントン&デュイスブルクの指環、一年ほど前に既に購入していたのですが、安直なレビューを書いては演奏者にもブログ主様にも失礼なのではないかと思い、柄にも無く慎重になっておりました。ワーグナーのリング管弦楽曲集は無数に出ていますが、CD2枚組で90分かかるダーリントン盤はその中でもいちばん長い一品なのではないでしょうか。1枚目にラインの黄金とワルキューレ、2枚目にジークフリートと黄昏が入っています。何度も聴きましたが、リングの管弦楽抜粋としてはこのCDは長すぎるのではないでしょうか?ボーカル無しでオケだけで90分聞かせると言うのはどれ程名編曲で聴かせ上手な指揮者であっても難しいのではないでしょうか?ワルキューレで第1幕3場のジークムントとジークリンデの二重唱が入っていたり(器楽のみで)、ジークフリートで第2幕や3幕への前奏曲が入っているのは面白いと思いましたが。演奏は指揮者もオケもなかなか健闘しています。しかしリング管弦楽曲集ならばマゼールやデ・ワールトぐらいの長さがやはり適当なのではないでしょうか。個人的にはリング管弦楽曲集であれば演奏だけにこだわるならセル、演奏と編曲の総合点ならマゼール&ベルリンフィルが好きです。メータもいいですね。
投稿: 越後のオックス | 2012年6月21日 (木) 22時55分
越後のオックスさん、こんばんは。
コメント遅れ、申し訳ありません。
ダーリントン盤は、まったく知りませんでした。
デュイスブルクのオケとはまた魅力ですね。
おそらく彼の地のオペラの兼用オーケストラでしょうが、わたしはこうしたドイツやフランスの地方オケが好きでして、それらで聴くお国ものに、国際化の波がまだ緩やかなだけに、たまらない魅力を感じるのです。
そして2CDのロングショットも面白そうです。
なんなら、カラオケ風に使えるかもです(笑)。
長ければ、基本、全曲を聴くにこしたことはありませんが、90分ぐらいなら許容範囲です。
でも、セルは素晴らしい!
そしてマゼールのうまさと、ワールトの明瞭さ。
リングは奥が深いです。
投稿: yokochan | 2012年6月26日 (火) 23時48分