HILE MIME !
過去の写真を整理していたら出てきた1枚は、札幌の豊平川で見つけた鴨ちゃんたち。
もうすぐ春ですよ~って感じ。
色は違えど、仲良くしてます。
苦手な方には申し訳ありませんが、本日もワーグナー・ネタであります。
土曜以来、ずっとワーグナーが頭を駆け巡り、私を支配しております。
こんなことは、これまでずっと経験してきたことでして、熱がちょっと冷めたら英国音楽やバッハやモーツァルトを聴くと、心洗われることになるんです。
でもまた、いつしか、おいでおいでされて、ワタクシは二人のリヒャルト様にお呼ばれしてしまう、その繰り返しが私の音楽人生なんです。
新国立劇場で、23日まで上演された「ニーベルンクの指環」第2夜「ジークフリート」は、大成功裡に終わった。
その第1幕は、ミーメの館。
原作では、森の中のあばら家になっているのだが、キース・ウォーナー演出では、ご覧のような資本主義アメリカン調の物があふれた家庭になっていた。
ここで、ジークフリートは何自由なく暮らし、食べ物は粗末にするは、物は壊すは、養い親に反抗はするは、命令はするは、暴力は振るうはの家庭内暴力したい放題だったわけだ。
これが何もデフォルメされた演出とばかりもいえず、原作でも、ミーメは醜い存在として描かれ、まして神と人間の血をひくウェルズング族と地底の小人族とは相いれない間柄だからして、ともに暮らしながら憎しみあう関係になってはいたのだから奇抜な読み変えでもないわけ。
で、気になったのが、お家の上下にある「HILE MIME」の金ぴかラメ文字。
しかも反転しちゃってる。
この言葉は、「ハイル、ヒットラー」だと、「ヒットラー、万歳」とか、「ヒットラー、最高!」「ヒットラー、やったぁ~」とかいう風になるみたい。
ヒットラーはおいといて、「ミーメ万歳」、「ミーメ、最高だぜ」ということになるのです。
または、単にご機嫌の挨拶みたいにも使われるから、「ハ~イ、ミーメ」という掛け声にもなっちゃう。
今回意味するところは何だろう。
私の深読みでは、「ミーメ万歳」。
でも素直に表明できないから、裏返し。
何故かって、ジークフリートを育てあげ指環を獲得させた。
もしかしたらジークリンデにもちょっかい出してたかもしれないヤツ(ジークリンデの血にそまった服を愛おしそうに抱きしめてた・・・)
そして、ハーゲンの親である可能性も高い。
ま、こんなことに想像をめぐらすことができるのも、キースの「トーキョー・リング」の面白いところ。
で、今回、そのミーメをば、名ヘロデで、特異な性格テノールでもあるウォルフガンク・シュミットが演じたわけだけど、一見淡々とした見るからに男っぽいシュミットが、細やかでそれこそオカマっぽい動きをしていて極めて面白い出来栄えだった。
もともとは、タンホイザーやジークムント、やがてジークフリートもバイロイトで歌ってきたヘルデンテノールだけに、相方のことも痛いほどわかる頼もしい存在。
見た目も演技も、ちょっとエキセントリックなところがあるから、この新境地はこれからちょっと面白い存在。ローゲもやって欲しい。
こうしたヘルデン系のローゲは、多々事例のあることだけど、ミーメとなると珍しく、マンフレート・ユンクくらいしか思い当たらない。
ここでシュミットの「エキセントリック・ミーメ」を頭に置きつつ、歴代のミーメちゃんを振り返ろうという寸法。
音源として入手しやすい、新バイロイト以降となりますが・・・。
バイロイト その他
51~57年 パウル・キューン ユリウス・パツァーク
58年 ゲルハルト・シュトルツェ
60~61年 ヘロルト・クラウス
62~64年 エーリヒ・クラウス
65~67年 エリヴィン・ヴォルファールト
68~69年 ゲルハルト・シュトルツェ
70~71年 ゲオルク・パスクーダ ペーター・シュライアー
72~80年 ハインツ・ツェドニク
83~86年 ペーター・ハーゲ ホルスト・ヒーステルマン
88~92年 グラハム・クラーク
94~98年 マンフレート・ユンク
00年 ヘルムート・パンプフ
01~04年 マイケル・ハワード
06~08年 ゲルハルト・シーゲル
09~ ウォルフガンク・シュミット
日本人歌手: 篠崎義昭 松浦健
ざっと自分で聴いて確かめたものも含めて、こんな感じでしょうか。
ひとつ言えることは、ミーメ歌いは、すぐれたローゲも歌うこと。
バイロイトでも、とジークフリートで、ミーメ役が異なることが多々あって、それはローゲを歌うからでもある。
こうしてながめてみて、戦後最高のミーメは誰か?
私は、ハインツ・ツェドニクといきたい。
シェロー演出で親しんだせいもあるが、あの演劇的な要素が高まった歴史的な演出に華をそえたのが、ツェドニクのローゲとミーメだったと思う。
高音で、キーキーまくしたてるような、コミカルな軽々しさとシニカルな哀感。
歌に演技にそんな雰囲気がにじみ出ていて、かつてないタイプのキャラクター・テノールだったと思う。
ツェドニクの前には、絶対と思われたシュトルツェも古臭く感じてしまったのだ。
ただ、ヴォールファールトはよかった。というかベーム盤という刷り込み体験があるから印象深いし、早世してしまったし、写真で見る気持ち悪い風貌と実物のハンサムぶりのギャップがとても大きかった。
それと、バイロイトには出なかったけれど、私には2度の舞台体験でのヒーステルマンも思いで深いミーメだ。二期会とベルリン・ドイツ・オペラであるが、前者は完全に舞台を引っ張っていて、若杉さんが完全に任せきっていたし、後者はR・コロとの丁々発止の舞台がG・フリードリヒのコミカルな演出とあいまってすごく面白かった。
その声はもう30年前だからあんまり覚えていないけれど、ツェドニクやクラークまでは軽くはなく、シュトルツェに近いものだったような・・・・。
シュトルツェ→ツェドニク→ハーゲ→クラーク→ユンク→パンプフ→シーゲルと続いた、名ミーメの系譜に、シュミットおじさんが、ユニークなミーメとしてしっかり名を連ねることができるかどうか。今後出てくるバイロイトの映像にも大いに期待したいものですね。
「ヒッヒッヒッ~」じゃなくて、「ウッヒッヒッヒー」。。。。。
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コメント
久しぶりに、こんにちは
新国「ジークフリート」よかったですね。
>私は、ハインツ・ツェドニク
体験不足でしょうけど、
ツェドニクのミーメが 一番それらしいかな・・
シュミットミーメもおもしろかったですけど。
森の動物たちのパントマイム 今回もとても印象的でした。
投稿: edc | 2010年2月25日 (木) 07時47分
euridiceさん、こんばんは、こちらこそご無沙汰です。お怪我されていたとのこと、お大事にしてくださいね。
本当に楽しく、飽きさせることのない演出でした。
シュミット・ミーメ、はまり役になりそうです。
あの動物たち、前回はぼんやり見てましたが、今回はとくと拝見。
かわいいチップとデールの下には、白顔のはげあたまがあって、笑えましたぁ(笑)
投稿: yokochan | 2010年2月25日 (木) 20時16分
こんばんは。
今回は見に行ったのが最終日で、yokochanさんの記事を先に拝見していたので、今までのように詳しく書く気が失せてしまいました。
ハインツ・ツェドニクはビデオでもCDでも聴いたけれど、気にしていませんでした。こんなに長くバイロイトで歌っていたのですね。yokochanさんお勧めとあらば、良いに決まっていますから、真面目に聴き直してみます。
投稿: にけ | 2010年2月26日 (金) 23時13分
にけさん、こんばんは。
長文失礼しました。
私はオペラを見た場合、ブログを始めるまえから、舞台の様子を細かに記録すりようにしておりまして、だんだんエスカレートしてますが、自分があとで見直せるようにとも思って書いてます。
あしからず、もうしわけありません。
小鳥ちゃんは、今回最高。カイユすぎ。
ツェドニクはクセがありますので、さまざまですが、私はシニカルさが最高に好きなんです。
ご確認くだされば幸いです。
投稿: yokochan | 2010年2月28日 (日) 02時04分