ワーグナー 「ジークフリート」 新国立劇場公演①
ワーグナーの「ニーベルンクの指環」第2夜、「ジークフリート」を観劇。
自身5度目のリング体験。
こちらは、2003年のプリミエに続き2度目。
もう7年前、昨年の前半部分もそうだったけど、いろんなことが満載の演出だから、どこがどうだったか、詳細には覚えていないのがちょっと情けない。
逆に、何度観ても飽くことのない魅力的な演出。
土曜日ということもあるけど、満席99%の新国立劇場。
リングでも一番地味だし、男オペラなのにこんな状況。
他の日も同様と聞きます。オペラファン層の昨今の拡充と、ワーグナーの音楽、それも「リング」を一般教養として、普通に受容しようという、積極的な観客が増えたことの証しであります。
これは、実に喜ばしいことで、イタリアオペラに熱狂する観客とは明らかに異なる雰囲気のお客さんを本日目の当たりにして、思ったことであります。
拍手のタイミングも含めて、理想的でマナーがよい、世界規準の高度な観客であったわけです。
そして、キース・ウォーナーのポップでカラフルな演出は、こんな地味楽劇でもハジケまくっていて、バイロイト級の一流歌手たちの文句のつけようのない歌と演技が完璧に色を添えた上演。
ジークフリート:クリスティアン・フランツ ミーメ:ウォルフガンク・シュミット
さすらい人:ユッカ・ラシライネン アルベリヒ:ユルゲン・リン
ファフナー:妻屋 秀和 ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン
エルダ :シモーネ・シュレーダー 森の小鳥:安井 陽子
ダン・エッティンガー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
初演演出:キース・ウォーナー
企画:若杉 弘
芸術監督代行:尾高 忠明
舞台監督:大仁田 雅彦
(2010.2.20 @新国立劇場)
今回も、ウォーナーの名前や装置、照明などの担当者は、初演スタッフとして記載されているのみで、顔写真入りでの紹介もなし。
その意匠はしっかり受け継がれているから、この世界に誇るべき「トーキョー・リング」を無心に楽しめばよい。
カヴァー歌手が、ジークフリートがシュミット、さすらい人がリン、アルベリヒが島村さん、ブリュンヒルデが横山恵子さんといった具合!
体型のことはともかく、フランツのコロやイエルサレムにつながる、明晰かつ明るい色調の声は、肉太で重いヘルデンを過去のものに感じさせるに充分。
ずっと出ずっぱりで、最後はただでさえ凄いデカ声のブリュンヒルデと張り合わなくてはならない超難役だけど、フランツは最初から最後までスタミナ充分に元気で無邪気なジークフリートを歌いきった。
対する期待のテオリンもすごい!目覚めの一声は、グワァーーンと大声響かせるかと思ったら、意外と大人しいお目覚めで、むしろ純潔の動機にのって歌われる場面での抒情的な細やかな表現の方に魅力を感じた。でも当然、イザとなると凄いお声です。
彼女が主役の黄昏が楽しみ。
ヘルデン級の歌手がミーメを歌うのも最近のトレンドで、バイロイトでもユンクに始まり、今回のシュミットも現在本場で歌っているところ。
これが実に巧みで余裕たっぷり。ジークフリートとのやり取りも負けじ劣らず。
性格テノールによる「ヒッヒッヒッー」のミーメに慣れた私には、シュミットの「ウッヒヒヒッ」のミーメは妙に新鮮。スキンヘッドの、その特異なミーメは不可思議な存在だった(笑)
ハマっているといえば、アルベリヒのリン。
この人の声もまったくもってブレがなく強いもので、どんな格好しても、後ろ向いててもしっかり通る声。黄昏で出ないのは残念。
以前は上ずった声が好きになれなかったラシライネンだけど、昨年来のウォータンですっかり見直すことが出来た。軽めのバリトンも、演技もうまいもので存在感があるから気にならなくなってきたのかもしれない。今回も渋いけど若々しい神々の長でありました。
美しいバスの妻屋さんは、強烈な外国陣営のなかでも光っていたし、ぐるぐる回されて歌わなくてはならない気の毒なシュレーダーのエルダも味わい深いメゾ。
そして飛びました、安井陽子さん。素敵なツェルビネッタがまだ耳に残る彼女の小鳥。
愛らしい声とウマさも相変わらずだけど、着ぐるみを来た可愛い演技も目を見張り、さらに人気者になりそう。
最後に着ぐるみ脱いじゃう場面も相変わらずあって、隣席ではあれは無意味との声が聞かれたけれど、ウォーナーの細かな演出からすると、防火の消防服に着替える段階で必要な見せ場なのだろう。
こんな具合に、すべてに意味をもたせていて、それが舞台のあちらこちらに展開されているものだから、まったく気が置けないのだ。
前回は、準メルクルの強い要望もあってジークフリートからN響がピットに入って、重厚さが増して劇場が一変してしまった印象を持っている。
今回は、そんな思いをぬぐい去ってしまうような東フィルの目覚ましい好演。
ちょこちょことアレ?はあったけれど、エッティンガーが目指したと思われる曇りないクリアーなワーグナー・サウンドをしっかり紡ぎだしていたように思う。
そのエッテンガー君、今回も遅い、タメる、伸びる。
でも緊張感をしっかり維持していて、聴いていてだれることが一切ないし、もたれることも一切ない。演出の細やかさに寄り添うように、微細にわたって音楽が変化するのがよくわかった。時おり立ち上がり、師匠バレンボイムそっくりの指揮ぶりを垣間見させてくれた。
こうしたスリムなワーグナーもいいけど、ティーレマンが聴かせているような過去軸足型の重厚ワーグナーにも心魅かれるのも事実。
長文になりますので、舞台の様子は後篇に。
違う日の公演とばかり思い込み、手帳に誤記載をしていたわたくし。
IANISさんと同日でした。氏と幕間で談笑中、グラス片手に横切るromaniさんを発見。
これもオペラ同好の楽しみ。
IANISさんは、新幹線の時間があるためお別れし、romaniさんと、オペラシテイで焼酎1本飲みました。初めて飲む銘柄だったけど、これが極めてウマくて、翌朝も快調。
2時開演で、幕が下りたのは8時過ぎ。
店に飛び込み、9時30分のラストオーダー。10時間あまり新国周辺にいたことになります(笑)。
お二人とも、どうもお世話になりました。
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コメント
「ジークフリート」お待ちしておりました!!!!
賛否両論のこの舞台をどうご覧になったのかととても気になりワクワクしておりました。
心からお楽しみになり、その興奮やドキドキをまっすぐに伝えてくださって本当に嬉しいです。
感性が豊かで素直なお方のブログを探し当てたわたくしはなんて幸運なのでしょう!!!!!!!
投稿: moli | 2010年2月23日 (火) 10時06分
moliさん、こんばんは。
観てきましたよーーー、そして充分すぎるほど楽しみましたし、またまたワーグナー熱に侵されてしまいましたぁ~
あれから毎日リングを聴いてます(笑)
バカですよね。。。
わたしの興奮ぶりをお伝えできて、そしてそれをしっかり受け止めていただいて、とてもうれしいです。
多くに方に観ていただきたい、トーキョーリングでした。
お誉めいただいちゃって、くすぐったいですわぁ~(笑)
投稿: yokochan | 2010年2月23日 (火) 22時25分
こんばんは。「ジークフリート」良かったですね。イレーネ・テオリンを聴けたのは本当に幸せでした。来月の「神々の黄昏」も楽しみですね。小鳥が着ぐるみを脱いだところですが、左手にブリュンヒルデの白い衣装を持っていませんでしたか? あれは、ジークフリートが小鳥に女性なるものを見た=ブリュンヒルデ登場への布石、という意味かと思っていました。
投稿: Shushi | 2010年2月23日 (火) 22時34分
こんばんは。
20日は大変お世話になりました。
本当に素晴らしいジークフリートでしたね。
アフターオペラを含め、本当に楽しい一日を過ごさせていただきました。
ありがとうございます。
ただ、あまりに喜びすぎたのか、電車ですっかり熟睡。完璧に寝過してしまい、あとが大変でした(笑)
でも、この寝過し事件も含め思い出深いジークフリートになりました。
投稿: romani | 2010年2月24日 (水) 00時22分
shushiさん、こんばんは。
最後の方に行ってまいりました。
テオリンはやはり強靭で素晴らしい歌手ですね。
私も大感激でした。
森の小鳥ちゃんの手には、私には、消防服を持っているように見えましたが、どちらでしょう?
ブリュンヒルデの衣装と見る方がファンタジーがありますね!
黄昏、わたしも楽しみです。
投稿: yokochan | 2010年2月24日 (水) 00時41分
romoniさん、こんばんは。
先日はどうもお世話になりました。
私もとても楽しい10時間(笑)でした!
ラストオーダーが早くコールされちゃったので、急いで飲み過ぎましたね。
私も、寝てしまい、あやうく東京方面に折り返すところでした。
ワーグナーのアフターは要注意です!
それにしても素晴らしい上演でしたね。
いろいろとまだ想像中なこところがお得感ありです(笑)
投稿: yokochan | 2010年2月24日 (水) 00時44分