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2010年3月28日 (日)

プッチーニ 「ラ・ボエーム」 神奈川県民ホール

Yokohama_1a
オペラ前に、関内駅からスタジアムを通って、今年こそは最下位脱出をと、お祈りして、山下公園方面にぶらぶらと歩む。
毎年、早咲きの桜を撮影。
こちらは、横浜海岸教会。
日本で一番古いプロテスタント教会と。
本日お世話になりましたyurikamomeさんご夫妻から、教えていただきました。

La_boheme_yokohama
神奈川県民ホールとびわ湖ホール、ともにウォーターフロントの素敵な環境にあるホールの共同製作、二期会供催する春の恒例上演。
今年はプッチーニの「ラ・ボエーム」。

14時開演。
開演少しまえに、客席につくと、今回の演出家ホモキならではの、額縁ステージがすえられている。
そして、真黒い背景、何もない空白の舞台に上からしんしんと、雪が降りそそいでいるのであった。
ほぽ時間どおりチューニングのあと、いきなり指揮者沼尻さんがすでにいて、第1幕の元気な音楽が始まった!
指揮者は知らぬあいだに、指揮台のたもとにひそんでいたのだった!

この間髪いれぬ出だし、ザワザワ感を残しつつの、劇の進行。
われわれ観衆は、最初はそれぞれに違和感と温度差を持ちつつも、リアリティーあふれる舞台に共感抱き、同化してしまうのであった!
各幕が30分たらず。ドラマと音楽が凝縮されたプッチーニの見事なまでの作品。
その4つの幕を、幕間なく連続で上演した演出家の非情なまのでの意図。
 クリスマスイブから始まる1年間の若者たちのドラマを、一気に観せてしまう。
そのためには、名アリアの数々は、決して聴かせどころではなく、大向こうをうならせるような歌いぶりも必要がなかった。
なのに、アリアのあとには、常套的に拍手が。幕の終わりにもパラパラと拍手。
それを制止するかのような沼尻さん。
拍手をするなとのアナウンスを事前にするのもちょっとどうかと思うけど、今回の演出においては、それぐらいに徹底してもよかったのかもしれない。
 驚きの幕切れでは、静かなレクイエムのような終わりかたに、幕が下りても静かなままだった・・・・・。

ちょっと衝撃で、後味がやや複雑。
ホモキ演出は、「西部の娘」「ばらの騎士」に続いて3作目だけど、共通項は、若者の視点。
人物たちはみんな現代のどこにでもいるカジュアルな連中で、衣装もそのまま。
ショッピングカートや段ボール、ボトル入れ、ドラム缶など、チープな小道具。

ボエームも、まさにそんな舞台でありました。
そして、アパートの屋根裏部屋なんてのもなし、カフェもなし、酒場もなし・・・。
な~んにもない。
あるのは巨大なクリスマスツリー。

   ミミ:浜田 理恵       ロドルフォ:志田 雄啓
   ムゼッタ:中嶋 彰子    マルチェッロ:宮本 益光
   ショナール:井原 秀人   コッリーネ:片桐 直樹
   アルチンドロ:晴 雅彦   パルピニョール:大野 光彦
   ブノア:鹿野 由之

     沼尻 竜典指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
                びわ湖ホール声楽アンサンブル
                二期会合唱団
               神奈川県立弥栄高等学校合唱団
     演出:アンドレアス・ホモキ
                       (2010.3.27 @神奈川県民ホール


第1幕
Boheme_3
ロドルフォとマルチェッロ、そしてたくさんの思い思いのなりをした人々。

マルチェッロは、黒い壁面に、前衛芸術よろしく、黄色と赤のペンキをバケツでぶちまける。ロドルフォの書いた原稿は、ドラム缶の中で、実際に100円ライターで着火されて燃えてしまう。
作品が売れたショナールは、ショッピングカートにワインや肉、パンなどを満載にて登場。
そう4人のボヘミアンたちは、貧乏だけど清廉で衣装も若い芸術家風。
やがて、巨大なツリーが運ばれてきて真ん中に横たえられる。
ミミは、楚々としたお嬢さん風で可愛いけど、咳き込んでイナバウアーなみに卒倒し倒れてしまうのでビックリ。

Boheme4
ドラム缶の横で、ボトルケースに腰を掛けて歌われるアリア。
二人が仲良く去ったあと、誰もいない舞台に上から雪が舞い落ちてきた。
この光景に素晴らしく美しい後奏を聴きながら、私は早くも涙がこぼれた・・・。


第2幕
人々がにぎやかに登場し、ツリーに梯子をかけ飾り付け。
ツリー好きの私を唸らせる見事なもの。グラスファイバーのイルミネーションも極めてきれい。
子供たちに追いかけられるパルピニュールはサンタクロースで、可哀そうにもズボンをはぎ取られてしまう。悪いガキどもなんだ。
ミミは赤い帽子をかぶっていて、ここでも可愛い雰囲気を出している。
アルチンドロに買い物の荷物をたくさん持たせてお色気ムンムンのムゼッタが登場。
そのお姿は、ミニスカートに黒タイツですよ、うっふん
彼女がワルツを歌うと、人物たちは全員スーローモーション。
ゆったりの動きの中に、マルチェッロの揺れる感情が浮き彫りに。
そしてついに我慢ならなくなって、衆目の中で抱き合い倒れ込む濃厚なふたり。
んもぅ~。
やがて軍楽隊の行進が始まり、お勘定を先の紳士にと言い残し、ボヘミアンたち退場。
ツリーも倒される。
代わりに現れた人々は、舞台前面にプレゼントをもって勢ぞろいし、むちゃくちゃな勢いで、その包みを引きちぎりあたりをゴミだらけにしてしまう。
勘定書を見せられたアルチンドロは、椅子にくずれ落ちて、口をあんぐり・・・。
元気なエンディングの和音とともに
、全員こんどはストップモーション。
あの紳士はあんぐりのまま数分間。

第3幕
静止軍団は、しばらくそのまま。寒々しいこの幕の開始とともに、ゆったりと退場・・・。
ミミは変わりない衣装で、でも咳き込んで登場し、人のよいマルチェッロは同情しまくる。
そして出てきたロドルフォは、ジャンパーに7:3カットの頭。ちょっと冴えなすぎじゃねぇ。
でもプッチーニの涙さそう音楽。
「春になったら別れましょう。寒い冬がもっと続けばいいのに」、と舞台の左右に別れて歌う二人。真ん中では、マルチェッロとムゼッタが、賑やかな喧嘩。
ほんとうによく書けている音楽、そして見事なステージビューであります。
全員がバラバラとなり、舞台はまたしても無人。
そこにまた雪が降ってきた。。。。


第4幕
テーブルが給仕たちによって次々に運びこまれてきて、その上はまっ白いクロス。
ロドルフォもマルチェッロも、洒落た上下を着ていて、これまでのチープ・ファッションと違う。このテーブルに不遜にも乗っかってしまう失礼な二人。金を持った成功者。
ウェイトレス二人が、ドキドキしながら二人に近づき、本にサインしてもらってる。
やたらと色目を使うロドルフォ。お前、それでいいのか上着を脱いだら、シャツがだらしない(これも演出なり!)


Boheme_1
後から来た二人の仲間もグレードアップしている。
そして、ゴージャスな料理にシャンパン。
ロドルフォは、ウェイトレスを押し倒して抱きついてるし、やがて始まる乱痴気騒ぎ。
ショナールは、顔にパイを浴びてまっ白。ロドルフォにはマルチェッロが、頭の上からオレンジのジュースみたいな液体を浴びせかけてべっしゃり・・・・。
もう無茶苦茶でござりまするがな

そこへムゼッタが駆け込んできて、ミミを連れてくる。
急転直下の悲劇的ムードへの変換は、実に見事。
ミミは憐れにも落ちぶれた様子。まるで家政婦のよう。
地味なグレーのカーディガンに、靴下。髪は、思い切りショートに刈られているんだ。
この気の毒な姿に、そして、かつての仲間たちの名前を一人一人呼ぶミミに、もう私は涙ポロポロ。
ベットなんてない。テーブルが1基倒れていて、そこに背を預け悲しそうに歌うミミ。
赤い帽子は、ロドルフォの書いたであろう本の中に納められてしまった・・・・。

ムゼッタは、上着を彼女にかけてあげる。上着を脱ぐと下はノースリーブ、そう春を売る女性なのではないだろうか・・・・。
ムゼッタはポケットから、指環を取り出して、マルチェッロに売りにゆくように頼み、自分も出てゆく。
ショナールは、お盆を持って人々の間を回って、お金をカンパしてもらい、コッリーネは外套を脱ぎ虚しく歌うが、(こんな場面でも常套的拍手が起きるとは・・・)その外套は、近くの男とお金でその場で交換。

ロドルフォもショナールも、顔が情けなくてマヌケなおバカさん。
やがてマフを買ってきたムゼッタに、ポケットから金を取り出すロドルフォ。

息を静かに引き取り、人々はざわざわと、そして残念そうにする。
ツリーを下げようとする給仕たちを留めるマルチェッロ。
その死に気がついたロドルフォは、ミミに駆け寄るどころか、少し離れたところで、棒立ちのまま、ミミの名を叫んで立ち去ってしまう。
ショナールも、コッリーネも、そして人々も、最後はためらいつつもマルチェッロも、み~んな舞台から去ってしまうんだ。
 可哀そうなミミの傍らに残ったのは、ムゼッタただ一人・・・・・・。


この常識を覆す幕切れ。
でも、私はここでも、当然のように涙ちょちょぎらせていたのであります。
憐れなるミミ・・・、そして相哀れむかのようなムゼッタの姿に。

ボヘミアンたちは、金を得て、その清廉の心もどこかへ置いてきてしまった。
ミミとムゼッタは、働きづくめだけど、人を思いやる優しい心はしっかり残している。
人々は、みんな身なりがよく虚しいくらいの傍観者だけど、同情はするし、お金も出す。
いま、わたしたちの身の回りに起きていることばかりじゃないですか。
 なんだか、考えさせるボエームでありました。

このユニークなボエームで、演出家の要求する細やかな演技に完璧に応え、そして歌も最高に素晴らしかったのが、浜田さん中嶋さんの女声ふたり。
そう、ボヘミアンたちじゃなくって、彼女たちが主役のオペラに感じたくらい。
浜田さんのイタリア語のディクションの見事さと、どんな音域でも鮮やかにホールに響き渡る声量、そして感情のこもった歌。もう完璧でした。
メリザンド、リューと聴いてきて、今回のミミです。次は蝶々さんが観たいもの。
 それと中嶋さんの個性豊かな歌と演技にも大満足。
男性陣は、とくに宮本さんが急場の登場で堂に入っておりました。
でも女声に比べるとちょっとね・・。

最初こそ、音が固く鳴りが悪かった神奈川フィルだけど、徐々にピットの中から音が鮮やかに立ち上るようになってきた。
沼尻さんの指揮、的確で安心感溢れるもので、オペラ指揮者としての風格もただようようになってきた。
プッチーニらしい甘味でゴージャスな響きは、昨年のトゥーランドットの方がよく出ていたように思う。もちろん作品の質にもよるけれど、演出のこともあり意識して抑えていたのかもしれないし、神奈川フィルの音色の変化もあるのかもしれない。

これからのオペラ制作に欠かせない共同制作。
来年は、「アイーダ」です。そして秋のびわ湖は「トリスタン」。

Wataru1
アフター・オペラは、yurikomomeさんご夫妻のお誘いで、Scweizer_Music先生とご一緒に、あさかバンドのママさんのお誕生会に、押しかけてしまいました。
おめでとうございます。
とっても楽しく、そして幸せなご家族と、そのお仲間が、とっても眩しく感じました。

次は是非、そのライブに参上いたしたいと存じます。
 そして、お店がまた、わがベイスターズ選手もやってくる所縁の場所でございました
どうもお世話になりました。
Wataru2
ザ・ムラタだ

Yokohama_2_2
yurikamomeさんとリンクして、定点観測「さまよえるクラヲタ人」版。

それにしても、最近とみに涙もろい。
だから水分補給が常に必要なのですな

「ラ・ボエーム 過去記事」

「カルロス・クライバーのボエーム」
「カラヤンのボエーム」

「レオンカヴァッロのラ・ボエーム」

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コメント

涙、涙のyokochanさんですね。本当は昨日、「初台」にいっていたので、1泊すれば観ることができたのですが、さすがに経済的な余裕がなくなったのと、ワーグナーの後ですので(最終に乗って、ついてから車で降りしきる雪の中を帰りました)、ホモキは断念しました。「ボエーム」、好きなオペラの3本指に入るんですけどね・・・。ワーグナーの感想はyokochanさんの観た後で。しかし、「ボエーム」の簡潔で明快な音楽、何とワーグナーと異なっていることか!

投稿: IANIS | 2010年3月28日 (日) 19時23分

IANISさん、こんばんは。
昨日は、黄昏観劇お疲れさまでした。
こんなに泣いちゃって、どうしようと思うくらいでして、火曜日の黄昏も本物のラストゆえ、どうなっちゃうか不安です。
それにしても、プッチーニの音楽の緻密さと心くすぐる自在さ。
ワーグナーとプッチーニ、そしてシュトラウス。
私のオペラ3巨頭です、素晴らしすぎです。
エドガーとヴィッリ以外の前作の観劇がなりました。
ホモキの演出は、奇をてらったところがなく、深みあるものです。
フィガロも観るべく手配しました!
では。春の雪、気をつけてくださいまし。

投稿: yokochan | 2010年3月28日 (日) 20時54分

どうも昨日はありがとうございました。
楽しい1日でした。
それにしてもいろいろ考えてしまいました。
ホモキの術にはまって挑発に乗ってしまっている私であります。
今日も見ましたが、いや、DVDかなんかで出してほしかった舞台です。
今日の澤畑さんも良かったですが昨日の浜田さん、中嶋さん、素晴らしかったです。
そして舞台も。
そしてプッチーニの音楽も。

投稿: yurikamome122 | 2010年3月28日 (日) 22時09分

yurikamomeさん、こちらこそ、すっかりお世話になってしまい、ありがとうございました。
優れた演出家は、聴衆の戸惑いと不安を手玉にとって、してやったりと思うのでしょうね。
いろんなことを考えさせるという意味でもほくそ笑んでると思います。
素晴らしい舞台が横浜で観れたことに感謝したいと思います。そのあとの楽しい会もありがとうございました。
すっかり飲み過ぎてしまいまして、湾岸の向こう側に着いたら、ラーメンしてしまった自分に嫌悪しております(笑)

投稿: yokochan | 2010年3月28日 (日) 23時17分

一昨日はご一緒させて頂き、ありがとうございました。ミミは完璧でしたね。あんなに素晴らしいミミがいては、ロドルフォやマルチェルロも金持ちになって逃げ出したくなるのも無理はないなと思わせられますし、あのスコアからあんな演出の可能性を引き出す執念はもう凄いというしかありませんでした。
あの日の感動は完全にミミとプッチーニのおかげで、演出家のせいではないにしても、その感動を明らかに深めてくれたのがホモキだったと思います。
しかし四人のボヘミアンの男はもうちょっとしかっり!!というところでした。ミミが良すぎたかな?(笑)
またご一緒できる日を楽しみに!!

投稿: Schweizer_Musik | 2010年3月29日 (月) 06時10分

Schweizer_Music先生、土曜日はお世話になりました。
奇抜なだけの演出と違うのは、ホモキがプッチーニの音楽を理解し、壊してなかったところかと思います。
オペラは楽しいですねぇ!
それと、ミミとプッチーニに尽きました!
いま想うだに感動がこみ上げてきます。
また泣きそうです(笑)
 男どもは、どの世界も空しいばかりですねぇ・・・・。
次回はマーラーでしょうか?(笑)
どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: yokochan | 2010年3月29日 (月) 21時32分

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 ◇出演◇
 ミミ:浜田理恵 
ロドルフォ:志田雄啓 
ムゼッタ:中嶋彰子
 マルチェッロ:宮本益光
 ショナール:井原秀人 
コッリーネ:片桐直樹
 アルチンドロ:晴雅彦
 パルピニョール:大野光彦 
ブノア:鹿野由之 

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル、二期会合唱団 
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