« フランク 交響曲 コンドラシン指揮 | トップページ | R=コルサコフ 「シェヘラザード」 オーマンディ指揮 »

2010年3月20日 (土)

マルシュナー 「吸血鬼」 ノイホルト指揮

Foreign_graveyard2

これ、わたくしが撮りました。
昨秋の、横浜外人墓地。
何十年ぶりに訪れたけど、夜になってしまった。
そこで、カメラを柵に押し付けるようにして固定して夜景モードでパシャリ。
どーですか。なかなか雰囲気あるでしょ。
ところがですよ、右の上の方になんか写ってる・・・・・・・・・・・・・・・・

Foreign_graveyard3

さらにもう1枚。
ここには何もなさそう・・・。

こんな写真を出したのは、そう、吸血鬼「ヴァンパイア」という名のオペラがあるからです。
ヨーロッパには古くから吸血鬼伝説があって、死者の蘇り+不死という概念は、キリスト教社会の反動ともなりえたから、その伝説は、西欧よりは東欧のスラブ諸国においてこそ根強く、ルーマニアがその典型。
ドラキュラ伯爵が生まれたのもルーマニア。

そして、オペラを書いたのは、ドイツの作曲家ハインリヒ・アウグスト・マルシュナー(1795~1861)。
その生年を見ると、シューベルトより2歳上、国民オペラのウェーバーの9歳下、楽劇のワーグナーの18歳上。
こんな立ち位置のマルシュナー。実に23ものオペラを作曲しているから驚き。
一番有名なのが「ハンス・ハイリング」というオペラで、これはDVDも出ていて面白そう。
そして、その特異性ゆえに、「吸血鬼」がずっと気になっていた。

Marschner_vampyr

原作は、長いことバイロンの作と思われていた「吸血鬼」という小説で、実は英国のジョン・ポリドーリという人の作ということが分かっている。
1828年にライプチヒで初演されていて、ワーグナーはこの時点でまだ15歳だし、最初のオペラ「妖精」を書いたのが1834年。
なぜ、ワーグナーを引きあいに出したかとうと、マルシュナーのオペラは、ワーグナーの音楽とその題材選びに影響を与えているからであります。

そのあたりに入る前に、まずはどんな筋だてなのか、配役と気になるその粗筋を書いてみます。
オペラ辞典と対訳を参考にて、若干脚色してます。

  マルシュナー 歌劇「吸血鬼」

 ルートフェン卿:ジークムント・ニムスゲルン 
 ハンフリー・ダーフェナウト卿:マルティン・エーゲル 
 マルヴィーナ(上記卿の娘):キャロル・ファーレイ
 オーブリー(マルヴィーナの恋人):ヨーゼフ・プロチュカ
 バークレイ卿:ウォルフガンク・レンツ
 ヤンテ(上記卿の娘):ガリーナ・ピサレンコ
 ジョージ・ディブデン:オサルヴィオ・ディ・クレディーコ
 エミー(ジョージの婚約者):アナスタシア・トマシュコヴァ・シェピス
 その他

ギュンター・ノイホルト指揮ローマ・イタリア放送交響楽団/合唱団
                      (1980.1.25 @ローマ・ライブ)


第1幕

①とある街はずれの森ルートフェン卿

 魔女・妖怪、魑魅魍魎が月光のもと歌い踊り、悪魔の親玉を呼んでいる。
親玉は、死者から甦って吸血鬼となっている卿に、地上にとどまる条件として、明日夜中までに3人の処女を生贄にしろと命じる。
 ルートフェンは興奮して「何たる喜び!」とアリアを一発。
そこへ、かねてナンパしたヤンテ嬢が親の元を逃げ出して駆け込んできて、二人は近くの洞窟に隠れる。
そこへ娘を探してバークレー卿がやってくるが、洞窟から悲鳴が・・・・。
娘はもう死んでおり、そばにいたルートフェンを引きづりだし、怒りのあまり刺し殺し、立ち去る。
そこへ今度は、ルートフェンの友人オーブリーが通りかかり、瀕死の友人から月光のあたる岩場へ連れていってくれと頼まれる。
その光をあびて甦るルートフェン。「おぬしは、もしや吸血鬼なり!」と驚愕のオーブリーだが、翌日深夜までの口止めを誓わされてしまうのだ。

②ダーフェナウト卿の館。朝。

 18歳の誕生日を迎える娘マルヴィーナ、その恋人はオーブリーでなのだ。
「輝かしい春の太陽・・・」と胸を膨らませ明るく歌い、オーブリーと二重唱となる。
そこへ、親父ダーフェナウト卿が入ってきて、マスーデン子爵との結婚を決めたからな、と二人にとってあまりに心外の一言。
「絶対イヤ、心に決めた人がいるの!」「それは私です、お嬢さんを幸せにしますから」と必死になるが、親父は聞く耳もたない。
 そこへ、その子爵がやってくるが、この男がなんと、ルートフェンであったのであります。
マルヴィーナは恐怖の悪寒を感じ、オーブリーは、「あんたは、ルートフェンじゃないのか?」と問うが、「それは私の兄弟だが、行方知れず。知っているのか?」とおとぼけ。
しかし、オーブリーは子爵がルートフェンであると確信するものの、「昨夜の誓いを忘れるな!」とすごまれてしまう。
婚礼は今宵と父に約束させ、悪の喜びに震えるルートフェンなのであった・・・・。

第2幕

①マスーデン城の近くの村

 村人たちは、エミーとジョージの婚礼を祝って歌っている。
でもエミーは浮かない顔で、ジョージがなかなかやってこないことをぼやく。
そこへ、ヤンテが昨夜、吸血鬼に殺されたというニュースが飛び込んできて、エミーは不気味な吸血鬼の言い伝えのバラードを夢中になって歌う。
 そこへ、城から子爵が下りてきて、式に立ち会うことを口実にエミーにいいより今宵のダンスの約束を取り付けてしまう。

オーブリーが、ルートフェンとともに現れ、「もう一緒にいて犯罪に加担したくないのであの誓いは破る」と宣言するが、ルートフェンは、「お前は、良い夫になり父となり幸福な一生を送るだろう。ふっふっふ、しかし、誓いを破りし者として呪われているから、その死は訪れず俺と同じ吸血鬼となってさまよう運命にあるのだ!」「俺も生まれながらの吸血鬼じゃないのだよ」
オーブリーは、恋人の死か吸血鬼になるかの運命の択一に悩む。

ルートフェンは、まんまとエミーを連れ出してきて東屋へ消えてゆく。
ジョージは探しまくり、やがて銃声とともに、ルートフェンを撃ったものの、エミーはもうこと切れていた・・・・。月光を浴びて生き帰り、ジョージは恐怖のあまり逃げる。

②ダーフェナウト卿の館。夜。

婚礼の準備が整い、絶望の淵にある二人。
ルートフェンがやってきて、祝言が始まる。
二人は、父に少しでも延ばして欲しいと懇願するが聞きいれてもらえない。
早くとせかす、ルートフェン。婚礼の合唱も始まる。。。。緊迫した場面。
「こいつは、実は・・・」とオーブリー。「おい、誓いがあるぞ!」とルートフェン。
そのとき、真夜中の鐘が鳴り、次の一日が始まったことを知らせる!
誓いの期限が切れたのだ。
「こ、この男は吸血だぁ!」と叫び、同時に稲妻が走り、ルートフェンは炎に包まれ消えてしまう・・・・。
 ダーフェナウトは、娘に詫び二人の結婚を許し、皆の喜びで幕。

妙に明るい幕切れなのでありました。

台本の精度の高さは、のちのワーグナーの足元にも及ばないが、その時代にあって、このようなドラマを選択し、充分に劇的な音楽を書いたマルシュナーである。
その音楽は、ウェーバーとロルツィング、初期ワーグナーの中間くらいで、ドイツ・ロマンティック・オペラの系譜にしっかり刻まれるべきもの。

そして、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」の原型をここに認めることができる。
事実、ワーグナーは、このマルシュナーのオペラから大いに影響を受けている。
呪われた主役はともに暗いバス・バリトンによって歌われるし、呪われた自分を物語るところなどは、オランダ人の「期限は切れた」そっくり。
女を得ないと救われない、という点も同じシテュエーション。
 それから、エミーはゼンタに例えられる。
夢うつつの吸血鬼伝説を歌うバラードは、そう、ゼンタのそれそのものだし、その前の村人たちののどかな合唱も、糸車の合唱に同じ。
 ダーフェナウトは呑気な父さんダーラントだし、青年オーブリーはエリック。

ワーグナーを解き明かすうえでも、このオペラや「ハンス・ハイリング」は是非おさえておきたい作品であります。
 それと、女性の敵、悪逆漢が最後に果てるのは、ドン・ジョヴァンニにも似てますね。

このCDは、ローマにおけるライブで、上質なステレオ録音。
対訳が独語に伊語しかないのが困りもの。

歌手たちはドイツの名手ばかりで、よくみたらこのキャストで、「オランダ人」が組めますな。
特に、ワーグナー・バリトン、ニムスゲルンにぴったりのこの役。
キャラクター作りがうまいもんです。
炎につつまれ消滅するときの叫びはなかなかのもんです。
指揮は、激安リングで名を挙げた指揮者ノイホルト
明るいローマのオケから、雰囲気豊かな響きを引っ張り出してます。

東京オペラプロデュースが5年前に上演しておりますのは、さすがのオペラ団。
そして、このオペラはDVDで観てみたいもの。
クリストファー・リーのような不気味なルートフェンに、えろっぽいネェちゃんたちの被害者で、B級恐怖映画仕立てでもってね。

|

« フランク 交響曲 コンドラシン指揮 | トップページ | R=コルサコフ 「シェヘラザード」 オーマンディ指揮 »

コメント

こんにちは。
ヴァンパイアの粗筋やっとわかりました。ありがとうございます。リーガー、オジェー、トモワ・シントウ盤には対訳ありません。アリアは素敵ですが、音楽がやや緩いような。たまに聞いてみますと、結構新鮮。泊まりで初台行ってきます。

投稿: Mie | 2010年3月21日 (日) 08時09分

Mieさん、こんにちは。
オペラ辞典の力を多分に借りましたが、劇の内容と>緩め<の音楽とのギャップがなんともいえない味わいのマルシュナーです。
ほかの作品もチャレンジ予定であります。
 今日は、「神々の黄昏」ですね。
長丁場、存分にお楽しみください。

投稿: yokochan | 2010年3月21日 (日) 11時06分

こんばんは。
やっと帰って来ました。カメラ入ってましたが、NHKの表示はありませんでした。カーテンコールで、後ろから、たぶん4階、エッティンガーに。ものすごいブーイングした。びっくり。エッティンガー、本当に顔ひきつっていました。何でそこまで?フランツ、テオリン大変素晴らしいと当方は感じました。

投稿: Mie | 2010年3月22日 (月) 20時08分

Mieさん、こんにちは。
観劇お疲れ様でした。

カメラは気になりますね。
うわさによると、このリングは、今回で打ち止めらしいです。記録として存分に残しておいてほしいものです。

そして、ブーですか??
心ないことです。
なにがそんなに楽しいのでしょうかねぇ?
私は来週千秋楽ですが、指揮も歌手も大いに楽しんでこようと思います。

投稿: yokochan | 2010年3月23日 (火) 12時51分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: マルシュナー 「吸血鬼」 ノイホルト指揮:

« フランク 交響曲 コンドラシン指揮 | トップページ | R=コルサコフ 「シェヘラザード」 オーマンディ指揮 »