「Rosso」イタリア・バロック・アリア集 P・プティボン
先週末は、神奈川の実家に帰っておりました。
予報では晴れの日曜日だったのに、あいにくの曇り空で、しかも花冷えする一日。
麓のコンビニで、おにぎりを買って、ひょいひょいと軽く山頂に。
ご覧の絶景。お正月からまだ残る菜の花と満開の桜、そして相模湾。
私が、小学生の時から40年以上も目に刻んできた風景であります。
心のふるさと、とでもいいましょうか。
きれいです。
呑気にコンサート通っているように見えますが、世間の厳しさは、私も同じ。
日々極めて厳しいです。
この光景に、どれだけ心が晴れただろうか。
そして、わが愛するパトリー。
パトリシア・プティボンの新譜も、ここ数日のもやもやを晴らしてくれるような鮮やかな1枚でありました。
2009年9月。11月に来日する直前の録音で、その時に歌われた曲もいくつか含まれていて、あの素晴らしかった思い出に浸ることもできるのです。
イタリア・バロック・アリアというタイトルながら、ヘンデルのオペラが多く歌われていて、イタリア語によるオペラのアリア集という内容であります。
サルトリオ、スカルラッティ、ストラデッラ、ヴィヴァルディ、ボルパラ、マルチェッロ、ヘンデル。
有名な名前も、そうでない人も、プティボンの歌声にかかると、馴染み深く親しみある音楽として聴こえるから不思議だ。
それは時にスリリングでもあり、濃密な空間を感じさせることもあり、さわやかでもあり、アクロバテックな技巧を楽しみ快感でもありと、芸達者なプティボンのあらゆる側面が次々に溢れだしてきてとどまるところがないのでありますよ。
1.サルトリオ 「エジプトのジュリアス・シーザー」~クレオパトラ
私が欲しいとき
2.ストラデッラ 「洗礼者ヨハネ」~サロメ
洗礼者の涙とため息
3.ヘンデル 「アルチーナ」~モルガーナ
また私を喜ばせに来て
4. 〃 「リナルド」~アリミレーナ
私を泣かせてください
5. 〃 「アリオダンテ」~ジネルヴァ
飛行、好きなもの
6. 〃 「ジュリアス・シーザー」~クレオパトラ
私は運命に泣くでしょう
7.スカルラッティ 「グリゼルダ」~グルセルダ
この悲しみがお嫌なら
8.ヘンデル 「アルチーナ」~アルチーナ
ああ、我が心よ!
9. 〃 「アリオダンテ」~ダーリンダ
怠惰なあなたはそうしますか?
10.ポルポラ 「ルチオ・パピーリオ」~ファビオ
苦々しい死
11.ヴィヴァルディ 「オリンピアーデ」~アミンタ
平安の中にいる限り
12.サルトリオ 「オルフェオ~エウリディーチェ
あなたは眠っている
13.マルチェッロ 「アリアンナ」~アリアンナ
あなたは私に嘆願するために
14.スカルラッティ 「エルサレムの王、セデチーア」~イスマエーレ
暖かい血
S:パトリシア・プティボン
アンドレーア・マルコン指揮 ヴェニス・バロック・オーケストラ
(2009.9 @トブラッハ)
充実の14曲、75分。
歌の主、主人公に完全同化してしまうプティボン。
多少のデフォルメも彼女ならではの個性で、とっても音楽的。
俊敏で小回り抜群、弾みまくりのパトリシアの歌は、こうしたバロックものにこそ相応しく、対するオケも古楽器のバロックオーケストラで、相性はばっちり。
14曲、どの曲もとても素敵な歌ばかり。
1曲目のクレオパトラさまの我がまま姫の歌は、タンバリン・カスタネット・ドラム・ギターを伴いつつのエキゾテックな雰囲気に、ちょっぴり大人の雰囲気のプティボンの歌。
ため息がカワユス。
古雅な楽器に縁どられた2曲目は、サロメの歌だけど、ヨハネに向かって涙ながらに歌うソスピリであり、真摯な歌い口と音楽への強い共感。
愛らしいヘンデルのアルチーナからの3曲目。
来日公演でも、胸キュンのお歌でございましたねぇ~。んもう~。
深淵なる深みを見せてしまうリナルドのアリアは4曲目。
技巧の限りをつくしながらも音楽的なヘンデルは5曲目。
おんなじクレオパトラでも、憂愁の限りを深く歌い込んだヘンデルのアリアは6曲目。
後半の激情も素晴らしいんだ。
スカルラッティの短めの7つめの曲。地声も使い分け、多彩な歌いぶりに魅惑されます。
再びのヘンデルは8曲目。
敏感なオーケストラにのって歌われるアルチーナのラブソングは、プティボンの歌でもっていまどきの愛の歌のように聴こえます。おいらも歌われてみたいっす。
緩急の活発なアリオダンテからの一曲は、トラック9。コロラトゥーラ炸裂!
初めて聴くイタリア作曲家ポルポラの音楽は、10曲目。
たおやかで、優雅。田園曲のような麗しさでした。
続くヴィヴァルディは、後年の疾風怒濤的な激しさを明るさでもって駆け抜けてしまう活発な音楽。こりゃもう一緒に走りたくなりますよ、パトリシアと。(No11)
冒頭のサルトリオさんは、エウリディーチェのアリアでは、音楽は神妙かつ精緻な様相で、パトリーも一語一語、慈しむような歌いぶり。
クレオパトラ様とエウリディーチェ嬢の違いでありますな。
オルガンとリュートの合いの手が趣きあふれてますぜ。(No12)
最後の方になってくると前半のはじけぶりから、ぐっとシリアスになってきて深い歌を聴かせてくれます。
13曲目、マルチェッロの懇願のアリアは、たおやかな中に、クリアーな無垢のパトリシアボイスが光ります。
最後をとる14曲目は、スカルラッティ。
これは深刻です。
プティボンは楽しい曲でも、こうしたシリアス・ソングでも全身全霊、心をこめて歌うものだから、聴くものを心から共感させ同化してしまうのであります。
14曲の数々のドラマの連続。
一夜のオペラやコンサートを味わうがごとくの75分間。
またしても、パトリシア・プティボンの世界に引き込まれ、やられてしまった。
前日の音楽不足のコンサートとは、これまた段違いの世界。
プティボンの新境地はベルクの「ルル」。
ともかく観て聴いてみたい、最愛のオペラを演じるパトリシアに。
ジュネーヴ大劇場での画像をいくつか拾ってみました。
演出は、わたしの好きになれない映画系のオリヴィエ・ピー。
観ため重視で、音楽を曲解しているとしか思えない。
で、その「ルル」は、ポルノまがいの春をひさぐ街を背景にしたドラマになりさがっていた様子。
見なくちゃ評価は下せないけど、ファム・ファタールとしての転落の女の一面ではあろうが、それだけじゃベルクの甘味かつ危険な音楽は描きだせまい。
今年のザルツブルクでも、プティボン・ルルが上演される。
そちらはどんな演出でありましょうか。きっと映像化されましょう。
デビューCD「フレンチタッチ」
「バロックオペラアリア集」
「来日公演2008年4月」①
「来日公演2008年4月」②
「恋人たち オペラアリア集」
「来日公演2009年10月」
「プティボンを聴く1日」
「来日公演2009年11月」
「プティボンのラモー」
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コメント
こんにちは!
このジュネーヴのルル、見逃した~と残念に思ってましたが・・・
もともと話が話だからしょうが無いでしょうけど、この演出相当凄そうですね。笑
ある意味やっぱり観たかったかも・・・?
毎回似たようなことを申し上げているような気がしますが、
きれいですね~ニッポンのサクラ。。
スイスでは直径8cmほどしかない貧弱な幹に、
申し訳程度に花がついた桜しかお目にかかれません。
下手すると鉢植えですもの。勘違いも甚だしい。。(-_-;)
うらやましいです~~。。。
投稿: 恋するオペラ | 2010年4月12日 (月) 05時24分
こんにちは。CD購入されましたか? 私もいつ買おうか考えています。
ルルの音声だけは録音しました。このような光景は想像がつかなかったです。映像化が楽しみですね!
投稿: ご~けん | 2010年4月12日 (月) 12時39分
恋するオペラさん、こんにちは。
プティボンの新しい1枚に悩殺中でございます(笑)
このあと、来日し、そして「ルル」でございました。
ジュネーヴの画像をいくつか見つけてupしましたが、色使いが原色コテコテですね。
意識しての演出でしょう。再演には是非ご覧いただいて、記事にしていただきたいと熱望しちゃいます。
咲き誇る日本の桜は、ことに山桜など、歴史が違いますね。
四季折々の自然は、やはり日本ならでは。
スイスの絵のような風景に憧れるのも日本人ですが、それは一面なのでしょうか・・・。
でも鉢植えの桜は興ざめですねぇ~。
投稿: yokochan | 2010年4月12日 (月) 23時02分
ご~けんさん、ご無沙汰をしてしまいました。
3月末、外盤で即買。
聴き込んで記事にしました。
映像は記事にしながら発見しました。
映像も同時に楽しめるいい時代ですね。
それにしても、プティボンの魅力はいかんともしがたく、毎日聴いてます!
ルルは、私の予想では、今夏のザルツブルクのものが映像化されるのではないかと思ってます。
アーノンクールが下りて、ジュネーヴと同じくM・アルブレヒトの指揮です。
投稿: yokochan | 2010年4月12日 (月) 23時07分
それにしても、美しい風景ですね。桜と菜の花の彼方に海も見える。これぞ、日本の原風景!という気が致します。
アリア集は「抜粋」なので触手が動き辛いのですが、このプティボンのは魅力的ですね。
プティボンが(も)歌っているCDも2枚しか持っておりませんが、この不思議ちゃん歌手はずっと気になっております。
投稿: golf130 | 2010年4月13日 (火) 07時27分
こんばんは。
以前プティポン絡みで投稿させていただいたものです。
そうですか!新しいアルバムが出ましたか!!
まったく気がつきませんでした。
4月21日発売予定ということで、少しのんびりしてしまったのですが、貴殿がどこで購入されましたか?
もし差し支えなければお教えいただけば幸いです。
あと先週の土曜日、銀座のシャネルビルで、ミュルヘンに在住する日本の若手のリサイタルへ行ってきたのですが、やはりプティポン様がいいなあ・・・
投稿: mayo | 2010年4月13日 (火) 22時59分
golfさん、こんにちは。
お褒めいただいた風景。
こんなところに、のほほんと育ったものですから、脳天気な人間になりました。
この場所で飲む酒はまた格別ですよ。
野外ヲタ会を企画しましょうか!
そして、こんな風景を見ながら、プティボンの素敵な歌を聴けたら最高であります。
投稿: yokochan | 2010年4月14日 (水) 00時25分
mayoさん、こんにちは。
コメントどうもありがとうございます。
輸入盤は3月末に発売され、予約して即買いしました。
HMVのネット購入でしたが、そのHMVやタワーの店頭でも輸入盤でしたら手にできますよ。
シャネルでリサイタルとはまたお洒落ですね!
私だったら、その雰囲気に酔ってしまって陶酔してしまいそうです(笑)
でもライブは、プティボンの楽しさに適う方はいらっしゃいませんね。早く来日してくれませんかねぇ!
投稿: yokochan | 2010年4月14日 (水) 00時42分
こんにちは。Salzburgのプティボン見てきました。映像化されるとしたらジュネーブが良さそう?
投稿: ご~けん | 2010年8月25日 (水) 14時37分
ご~けんさんんんんっ、うらやましぃーーーーつ!!!
ザルツブルクで、プティボンのルルをご覧になったなんて!
貴ブログ拝見いたしました。
彼女らしさを活かした演出のようですね。
チューリヒの演出家ピーは、あんまり好きじゃないのですが、この際パトリシアさまなら、両方の映像化を所望したいところですね!
投稿: yokochan | 2010年8月25日 (水) 21時30分