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2010年4月 1日 (木)

ワーグナー 「神々の黄昏」 新国立劇場公演②

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新国のウォーナー・トーキョーリングの「神々の黄昏」。
舞台の様子を記録しておきます。
長大楽劇ゆえ、そして思い入れも強いゆえ、長いです。
二部に分けます。

序幕と第1幕

プロローグは、まず舞台下から青い継ぎ手のようなものがせり上がってきて、とどまることなく天井に消えてゆく。はて、これは?
のちの3幕のラインの場面で、出てきたけどわからん・・・。
もしかしたら、ラインから水を引く水道管のバルブかもしれない。

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ジークフリート第3幕でエルダの周りで上下し、ジークフリートとブリュンヒルデの後ろにも実はいたノルン3人娘、オールバックに眼鏡の頭脳派軍団。
巨大なフィルムのリールがフィルムを垂らして下がってきて、上からは映写機が回ってるし、壁にもリールがたくさん。
ノルンたちは、3人それぞれに奥にある赤いにょきにょき生えた槍をもぎ取って、フィルムを刺しとめる。
 綱を投げあって、なうのでなく、このリングでは、記録媒体であるフィルムを確認しあうわけだが、岩に引っ掛かるのではなく、彼女たち、自らフィルムをぶっち切ってしまう。
代わってせり出してきたのは、ブリュンヒルデとジークフリートの岩屋だが、かわいいサイズの新居で窓と煙突付き。
ベッドサイドには、記念の品よろしく、竜のぬいぐるみがあるが、愛馬グラーネは木馬からさらにスケールダウンしてベッドの下に転がっている。
仲のよい二人、ブリュンヒルデはスーパーマン=ジークフリートのSのトレーナー。
ジークフリートはブリュンヒルデのBにワルキューレの騎馬のイラスト、そんな微笑ましいかっこをしてる(笑)。
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トランクケースに黄色い着替えを入れて旅仕度をするブリュンヒルデには神性はもう見当たらない妻そのもの。
ジークフリートは流れる映像で旅を始めて、お供は消防服姿の可愛い小鳥ちゃんだ。

彼を待ち受けるギービヒ家の連中は洗練されていて、ハーゲンは黒い上下にサングラス、黒髪でダーティーな雰囲気。
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グンターはまっ白いロングコートに金髪。グートルーネはピンクのミニスカートに金髪。
そう、父親は違えど同じ母親から生まれた兄弟。
でアルベリヒの女だったイケてる女性の派手な金髪を思い出しましょう!
この場で降りてきた間仕切りには、山羊の頭部の絵。結婚を司るフリッカの象徴か、ギービヒ家何々の家門なのか?
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やがてやって来たジークフリートに移動式のバーで忘れ薬を調合し、彼が一口飲むと、山羊の絵は二重にぼやけてしまった。
 一杯飲むまえに、ブリュンヒルデへの変わらぬ愛を誓うのだが、ここでのフランツの歌唱とエッティンガーの示し合わせたと思われる感情こめたピアニッシモは見事だった!
義兄弟の契りは、お互い採血をしあって、それを混合してドリンクで薄めて飲むという不気味なまの。
これらの段取りと後片付けは、ハーゲンがやたらと丁寧にかいがいしく働くのだ。
気忙しくグンターを引っ張ってブリュンヒルデ掠奪に向かうジークフリート。

嬉しそうにしながら寝てしまうグートルーネ。
その股間に忍びより足を開いてしまうハーゲンは情欲と憎しみむき出し。
ハーゲンは、事の進行にほくそ笑み、グラーネ木馬を真っ二つに折ってしまう。
神聖を軽々しく扱い、ハーゲンにさらに侮辱させるコンセプト。
憎しみのモノローグを歌ったあとも何故かそこに居残り、ギービヒ家の対面応接チェアを残したまま、その奥にブリュンヒルデの新居がするすると現れる。
ハーゲンは、上着を脱いでにょきにょき生えた矢印のひとつにそれを掛けて、椅子に観客からは横向きに腰掛けてまんじりともしない。ブリュンヒルデとヴァルトラウテの姉妹対決からジークフリートが帰ってくるまでそこにいる。
リングの行方やブリュンヒルデの掠奪を見届けようとする千里眼的な意思のあらわれと、ギービヒ家の広大な領地内で、目が届くということの表明か。
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フェンシングルックのヴァルトラウテの登場と退出では、お馴染みとなった炎が実際に燃え盛ることとなって、ワルキューレがどこか懐かしく感じる。

ハーゲンは、ヴァルトラウテが指環をラインの乙女に返してと勧めると、反応して手を差し出したりする。
隠れ兜(仮面)をつけたジークフリートとノートゥングを手にしたグンターが連れ立ってやってくる。
通常は、ジークフリートが化けたことにして単独登場だが、ここでは、ジークフリートはハーゲンの対面に座って、いかにも気楽そうに、そしてめんどくさそうにグンターの声音で歌っている。グンターはジェスチャーのようにもの言わずブリュンヒルデを小屋に追い込んで淡々とことをすすめる。
ジグソーパズルのでかい指環はというと、ブリュンヒルデがしてたのに、予備を取り出したかのようにグンターもどきのジークフリートがしているというややこしい流れ。
二人揃って出てるからこんなことになる。ノートゥングでドアを封じるひどいジークフリート。あわれブリュンヒルデ。
ところが、さっきまですまして座っていたハーゲンが、いやらしくも窓からノゾキをするんだ。
覗き趣味を満たしたのか、成り行きにガッツポーズを見せて幕。やれやれだ。

第2幕

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例の歪んだ山羊絵の前。
2脚の椅子には、眠ったハーゲン、向かいには、酸素吸入中のアルベリヒで、ジークフリートのときより病んでいて入院中の雰囲気。
左右の長椅子には右ハーゲン側に3人のノルン。
左アルベリヒ側には3人のラインの乙女が座っている。
いま活躍中の運命を司る側は右。
そして左は、かつて黄金を盗んだ物語の原罪的な犯人の死を見届けようということか?
夢に出てきて語りかける場面なのに、リアルな存在のアルベリヒ。
途中、ヤクの注射もしてます・・・・。
「ハーゲンよ、息子よ」と語りかけると、ハーゲンは嫌やそうに顔をそむける。
そしてついには、クッションでアルベリヒを圧死させてしまうのだ。
これ、まったくの創作ですな。

ひどすぎだけど、それだけアルベリヒを憎んでいたんですな。

するすると椅子が移動してご帰還ジークフリートが今度は座って出てくる。
略奪の成果を報告し、グートルーネに会って抱きつかんばかりの喜び。
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ハーゲンは次いで、手元のバーカウンターからリモコンを取り出し、山羊仕切りを上げてしまうとそこは、ラインやワルキューレでお馴染みの奥に細まり、遠近感あって左右に複数ドアのあるヴァルハラ城と同じ舞台。 
そのドアから出てきたギービヒ家の男衆は、白い作業着に帽子、緑のエプロンのいでたち。ギービヒ株式会社の従業員なのだ。
新国自慢の強力合唱団は、こんなヘンテコな格好でも威力は抜群。しかし歌詞とのギャップは多大なり。
 ハーゲンは中央の簡易バーで、薬剤を調合中。酒を飲めと皆にふるまうのは、薬剤の一種でおそらくギービヒ家で作ってる劇薬のひとつてあろう。
みんなが飲むと、笑いだしたり悶えたりしてる。その中の一人をつかまえたハーゲンは、手にした試験管の赤い液を無理やり飲ませてしまう。
その男はとたんに痙攣とともに倒れ、悶絶しまくる。やがて来たガードマン風の二人にストレッチャーに乗せられて膠着したまま運ばれてゆく。
こんな異常な様子の中で、集まれ皆の衆、婚礼の準備だなどと歌ってるんだ。
 そして、捕囚のブリュヒルデは、例の小屋の中に入ったまま引きずられての登場で、その小屋を引くのは、これまたピンクミニのおねぇチャンたちだ。
その登場に合わせて左右に別れた実験男衆は、まるでチンパンジーが手を叩くように上下に手を打ち鳴らす不気味さ(笑)
小屋のドアを開けて、ちょっと顔を出したブリュンヒルデ。外の様子を見るとすぐにドアをばたんと閉めちゃうのが笑える。
誇らしげなグンターが、グートルーネ&ジークフリートと歌うと、狂ったように小屋から飛び出してきて、ジークフリートに駆け寄り抱きつく。これは喜びのあまりだ。
でも当の本人がまったく醒めていて冷たい。
これはいったい?、といぶかるブリュンヒルデが、やがて状況を理解し怒りに燃えてゆく描き方、これは実に秀逸なもの。
ジークフリートは呑気なもので、モスグリーンのスリーピースに帽子に傘。
あれれ、ノートゥングはどうした?と思ったら。
かわりにずっと傘を持ってるジークフリートなのでありました。
彼も忘れ薬によって、英雄じゃなくて普通の人間になってしまったことの証しなのでありましょうか、もしくは最初から英雄なんていないというコンセプトか。

ジークフリートとブリュンヒルデのすさまじいまでのやり取り、そしてグートルーネとグンターが徐々に不安に取りつかれてゆくさま、それらがやがて憎悪につながってゆく。
ハーゲンは一人、舞台のそでで見つめているクールさ。
槍への誓いは、奥からまたにょきにょき矢印をハーゲンがへし折ってきて行われる。
お互いの胸に突き刺さらんまでにリアルな槍の誓いであります。
矛盾だらけのジークフリートがその場を取り繕い出ていったあと、新居小屋は奥へと移動。それを奥まで見守るブリュンヒルデ。
奥行きの深さを巧みにつかった、ブリュンヒルデ、グンター、ハーゲンの三様がジークフリートの死を口走るまでの動き。

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これもまたウォーナーのひらめきあふれたヶ所。
真っ直ぐに、愛から憎しみへの道をひた走るブリュンヒルデは常に真ん中にいて奥と前面をいったりきたり。グンターは不安の虫に取りつかれてしまって、数あるドアを出たりはいったりで落ち着きがなく、とっても思索などできようがない。ハーゲンは、常に左側で怪しく窺っている獅子身中の人物。ブリュンヒルデがハーゲンにジークフリートの弱点を口走ったとき、グンターはまだウロウロ中。そして3人が、ジークフリート死を決したとき、とうのジークフリートは奥の方、小屋の近くで、まだ来ぬ恋人を待つ男よろしく傘を弄びながら時間をもてあましている最中。自分が殺される運命が決したというのに、手には傘なのだ・・・・。やがて、グートルーネが出てきて抱きつき、明るい婚礼のモティーフのなかに、ハーゲンの邪悪なライトモティーフも混ざって幕。

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