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2010年4月 3日 (土)

ワーグナー 「パルシファル」 東京オペラの森

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東京オペラの森公演、ワーグナーの舞台神聖祭典劇「パルシファル」を聴いた。
欧米は受難節・復活祭のイースター休暇。
都内は気のせいか外人さんのお姿が多いような気がする。
キリスト教社会にとっては、イースターが一番重要。
もちろん、日本はなにもなし。クリスマスはあんなに騒ぐのに、ハロウィンだってわけわからなくイベント化してるのに。

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われわれ音楽ファンとしては、この時期にまつわる音楽を聴くことも大事なこと。立派な名作がたくさんありまして「パルシファル」はその代表。今頃各地で上演されていることでありましょう。
今年から始まるワーグナーチクルスの初回が「パルシファル」であることは、新国の「神々の黄昏」との流れもよろしい。ワーグナーファンにとっては、盆と正月が一度に来てしまったようなもんだ。

  パルジファル:ブルクハルト・フリッツ  クンドリ:ミヒャエラ・シュスター
  アムフォルタス:フランツ・グルントヘーバー グルネマンツ:ペーター・ローズ
  クリングゾル:シム・インスン       ティトゥレル:小鉄和広
  聖杯騎士:渡邉 澄晃  山下 浩司
  小姓:岩田 真奈  小林 由佳  片寄 純也  加藤 太朗
  花の乙女たち:藤田 美奈子  坂井田 真実子  田村 由貴絵
                         中島 寿美枝  渡邊 史  吉田 静
  アルトの声:富岡 明子

         ウルフ・シルマー指揮 NHK交響楽団
                   東京オペラシンガーズ
                   東京少年少女合唱隊
                   合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ
                   音楽コーチ:イェンドリック・シュプリンガー
                       (2010.4.2@東京文化会館)

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演奏会形式の長丁場だが、一時も退屈することなく聴きいった。
舞台なし演技なしだから、余計なことを考えずに、家で寛いで最良の音質のCDを聴いているようなものだ。
それと、数々のワーグナー上演をしてきた文化会館は、木質感あって、ワーグナーの響きにはうってつけだ。
深遠な音楽、よいホール、完璧な指揮とオーケストラ、万全なる歌手たち。

いいことづくめだけど、気になったマイナス面をまず書きます。

歌手も合唱も譜面を見ながらの歌唱。なんかオラトリオみたい。以前聴いたバレンボイムの演奏会形式来日公演では、ピンチヒッターの主役以外はみんな暗譜だったと記憶する。プロンクターの問題はあるけど、オペラなんだから、譜面に顔突っ込んでるとサマにならない。合唱は特に。
3幕最終で、深い感動の余韻をぶち壊す、早過ぎブラボー野郎がいた。
まったくもう。
注目してた1幕のあとの拍手は起きてしまった。
これは、バイロイトの慣習であり、私も真似してこだわりたかった。
今回6度目の実演経験だが、いずれも大きな拍手は起きなかった記憶ありです。
会場サイドの問題。幕の途中で遅れてきた人をひとまとめにしてゾロゾロ入場させた。
1幕では場面転換の時を狙ったが、2幕はなんとなんと、パルシファルが「アンフォルタ~~ス」と、変貌の一声をあげる、まさにその瞬間ですよ。
こりゃひどい。
わたしは、1階サイドだったから、視野の中にホールの動きも入ってしまうんだ。
入ってきた方々は、スーツ姿のご一行で空いていた一列にきれいに座った。
ところが、3幕ではこの方々、一斉に姿を消していたのだ。何物かは想像できますが、書きません。
歌手からは、こうした動きはまる見えのはず。
パルシファル役のフリッツ氏はこんなことものともしないで、見事なばかりに決めてくれましたよ。

気になったのは以上だけ。
次いでよかったことたくさん。
まず、ウルフ・シルマーの的確な指揮。オペラを知り抜いた業師で歌手は後ろにいて、お互い合わせづらいだろうと思いきや、歌手たちは足元にある指揮者が映ったテレビを見てたし、シルマーも時に歌いながら歌手を引っ張っている。
舞台に乗ったオケを巧みに抑えて歌手とのバランスをとったり、逆にオケを目一杯鳴らしたり。
活発な指揮ぶりは、オーケストラを乗せてしまうようで、1幕の前半は冴えなかったが、聖堂への入場シーンからほぐれてきて、他では聴かれないユニークなくらいにリズム感あふれる弾んだ音楽が展開された。
1幕の最後の方はオケも疲れが出たのか少しダレちゃったけど、2幕はもう最高のコンディションと出来栄えで、花の乙女の場面の恍惚感と印象派をも思わせる響きも聞こえてきたのだ。
やはりN響は底力あるオケだ。分厚く、フォルテの幅がいくつもある。

 パルシファルはリングほどに大編成でないが、室内楽的な究極の響きは、そのピアニシモ部分において、舞台にのったオーケストラをつぶさに見ることによって驚きを禁じ得ないことになる。みんな弾いているのにこんなボリュームの少ない音がしてるとか、少ない人数なのに、でっかいフォルテを出してたり。
あんなことしてる、こんなことしてる、の連続であります。
クリングゾル城崩壊のときの2台のハープのグリッサンドは面白かった。

歌手はまず、クンドリーを歌ったシュスターがすごい。
テオリンの声も耳に残ってるけど、シュスターも負けじと強力。
ホールを圧する強靭な声は最上階のすみずみまで響き渡ったであろう。
2幕におけるパルシファルの幼い頃を歌う優しさと、パルシファル変貌後の救済を希う熱烈さ。これらは圧巻でありました。そしてその叫び声も唸り声もスゴイです。
ちょっと荒れてしまうところが残念だったけど、それを補ってあまりある声。
そして、他の歌手が大人しく立って歌っているだけなのに、彼女は表情と身ぶりが豊かで、ひとり立派にオペラしてましたよ。
ご奉仕、ご奉仕しか歌わない3幕では、前半出ずっぱりで、洗礼を施されて涙を流す場面など、その立居振舞いでもってクンドリーの心情を表現しておりました。
濃いモスグリーンのドレスが1・3幕と2幕前半。
パルシファル誘惑の時は赤に近いえんじのドレス。
かつて、マイヤーも、白と赤で着替え分けた。

新国のばらの騎士でオックス男爵を聴いたペーター・ローズの明るく美しいバスは安定感も抜群で、素晴らしくなめらかなグルネマンツだった。適度に若々しさもあって、いまが旬のバス歌手だ。注目です。
 韓国のインスンのクリングゾルが実によい。
アルベリヒ的な暗いクリングゾルではなくて、深みのあるバス系のクリングゾル。
表現意欲もまんまんで、日本人歌手なら真似のできないくらいの没頭同化ぶり。
 これで3度目聴くことになったベテラン、グルントハーパーのアンフォルタスは、相変わらず歌い口がうまく、Erbarmen!と熱唱する場面は身震いがしたくらいで、健在ぶりを確認できた。
 バレンボイムの秘蔵っ子というフリッツのパルシファルも先に書いたとおり、「アンフォルターース!」を見事に歌って素晴らしい声をアピールした。
声量とスタミナ配分がどうかと思ったが、きっと2回目はもっと声が出ているんじゃないかと想像する。明るめの伸びのよい声はクセがなく今後楽しみな存在。

舞台袖から深い声でティトゥレルを歌った小鉄さん、わたしのお気にいりメゾ小林由佳さんはあらかわと同じく印象的なお小姓役。
ほかの日本人歌手もみなさんしっかりしてまして、歌手層がほんと厚くなったことを実感。
花の乙女たちは、こうして舞台でじっと立って歌うと、誰がどんなこと歌ってるかよくわかるし、声がストレートにびんびん響いてくるのもある意味快感でありました。

この日最高の場面は、2幕のクンドリーの歌。
それから3幕の聖金曜日の奇跡の音楽。その高揚感に痺れるほどの感動を味わい、クンドリーの洗礼と涙の場面では、その美しい音楽に涙がこぼれた。。。

ワーグナー・チクルス、来年は今年バイロイトで「ローエングリン」でデビューするネルソンスが、どうオペラを振る。
ヤンソンスの弟子で、指揮姿もそっくり。
そっくりといえば、リングを振ったエッティンガーは師匠のバレンボイムそっくり。
ハーディングはアバド。
そして、さっきテレビでドゥダメルが指揮してたけど、彼も若いころのアバドそっくり。
音楽はまったく違うのに、その所作は同じになっちゃうんですな。

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コメント

おはようございます。
「黄昏」に続いて書き込んでます。「パルシファル」もいきたかったのですが、連荘でいくと山の神がフリッカよろしく角が生えてきそうなのと、舞台で体験したいので、遠慮しました。できれば外来の引越しか新国で観てみたいものです。ただ、「パルシファル」の精密なスコアは「ペレアス~」の親父みたいなところ満載なので、サントリーホールのホール・オペラでもOKなのでしょうが。ともかく、今度上演される機会がありましたら、次は是非参戦したいと思います。

投稿: IANIS | 2010年4月 3日 (土) 09時18分

手堅い職人的な手腕に定評のあるウルフ・シルマーに幾多のワーグナー指揮者と共演をともにしてきたN響、そして心置きなく音楽に集中できる演奏会形式。歌手陣もほとんど穴がなく素晴らしい出来で、期待は裏切られず素晴らしい音楽に浸り切ることができました。
それにしてもわたしにとって一番のツボだったのは、コンマスがドレスデン国立歌劇場のペーター・ミリングだったことですね。ミリングがコンマスのときはN響のサウンドが一変するとわたしは常々感じております。4月のブロムシュテット月間の余禄といったところなのでしょうが、このような演目ではそのメリットは計り知れないものがあるのではないでしょうか。第1幕終了時、シルマーは満面の笑みを浮かべてミリングの手をとったように見えました。
明日は部分的な欠点も修正されてさらによくなるはず。できることなら聴きたい!(小ホールのほうに行きます)

投稿: 白夜 | 2010年4月 3日 (土) 18時41分

IANISさん、毎度です。
ペレアスの親父とはまた、うまいことおっしゃる。
ワーグナーの中では、トリスタンとともに、ホールオペラが相応しい作品ですね。
新国はトリスタンが出てしまったので来年はなにかの再演。再来年にかかるか否かでしょうか!
ウィーンかベルリンに期待です。
すごい音楽と実感できました。

投稿: yokochan | 2010年4月 3日 (土) 20時08分

先週、文化会館のこの外柱を観て思わず叫び声を上げてしまいました。一体誰がこんなに素敵なことを考えたのでしょう! 
聖金曜日にパルシファルということも憎過ぎる選曲です。 
欧州ではこの時期のパルシファルには黒い服を着て聴きに行く方が多いと聞いたことがあるのですが日本ではそういうこともないでしょうね。。。 

良いご復活の朝をお迎えくださいますように。 


来週のカルミナ・ブラーナでヒンシュクもののブラボーおばさんにならないよう気を引き締めたいと思います。 
もうマエストロはアイドルという年齢ではないですものね

投稿: moli | 2010年4月 4日 (日) 00時34分

白夜さん、こんにちは。
金曜日のパルシファル、おっしゃるとおり、最高の環境での鑑賞を贅沢なまでに堪能しつくしました。
そして、記事に書くのを失念しましたが、ミリングでしたね!
シルマーが思い切り握手しまくってました。
コンマスの存在はゲストとはいえ大きいものと実感しました。
本日はフランス系ですか、そちらも桜の季節に相応しいですね。

投稿: yokochan | 2010年4月 4日 (日) 09時21分

moliさま、こんにちは。
きょうは聖日曜日、桜満開、でも花冷えですね。

聖金曜日にパルシファルの実演を体験できるなんて、思えば一生に一度かもしれません。
本場で黒服で観劇、夢です!

ムーティさんのカルミナも春に相応しい活気あふれる演奏となりそうですね。
大巨匠となったムーティですが、こうした曲ではいまだに若々しく弾けそうです。いいなぁ!

投稿: yokochan | 2010年4月 4日 (日) 09時33分

そうそう。ミリングでした。ちょうどブロムシュテット先生が来る時だからタイミングが合いましたね。
シュスター、感想は同様ですが(ただ2幕最後では保たなかったところも)、3幕での覚醒の姿に、私は鳥居みゆきを思い出しました。

投稿: ガーター亭亭主 | 2010年4月 4日 (日) 22時32分

ガーター亭亭主さん、こんにちは。
ミリングさんは、このままずっと居座って欲しいもんです。
はははっ、シュスターは普通でも結構怪しい雰囲気なのに、いっちゃってる感を出すと、まさに鳥居みゆきでしたねぇ(笑)ユニークな歌手かもです。

投稿: yokochan | 2010年4月 4日 (日) 23時48分

パルジファル、私も行って参りました。凄かったです。人生変わったかも、ぐらい強烈な印象で、私の中はヴァーグナー祭状態です。クンドリのシェスター、凄いですね。声はもちろん、演出ないはずなのに完璧に演じていました。私はシルマーの後ろ姿がマーラーのカリカチュアにそっくりなのに驚きました。

投稿: Shushi | 2010年4月 6日 (火) 20時37分

shushiさん、こんにちは。演奏会形式で退屈するかと思ったら、それどころか、へたな演出が伴うよりも楽しく聴けました。
なによりも音楽の偉大さが実感できました。
そして、シュスターのクンドリーはすごかったですね!
劇団ひとり状態でありました!
シルマー=マーラー、なるほど、たしかに(笑)

投稿: yokochan | 2010年4月 7日 (水) 08時41分

yokochanさん、ご無沙汰しています。
yokochanさんもいらしているかな~、と会場を見回したので
すが、またお会いできず残念でした。私もこのパルジファルに
は大きな感銘を受けましたが、1幕ではこの長さにちょっとつ
いて行けないかも、と思ってしまうワーグナー入門者にとって、
yokochanさんの的確な感想はいつもながら「なるほどなる
ほど!」と公演をリアルに追体験できるもので、できればこれ
を上演前に読みたかった…(^^ゞ

でも2幕からは僕も完全に舞台に引き込まれました。シュスター
のクンドリー、本当に凄かったですね。3幕のあのうめき声も
ド迫力でした。

来年のローエングリンも聴き逃せませんね!

投稿: pockn | 2010年4月13日 (火) 18時00分

pocknさん、こんにちは。
こちらこそご無沙汰失礼してます。
外に出たり、電話したり、ウロウロしまくってましたので、かえって見つからなかったかもしれませんです。

最愛のワーグナーですので、それこそ記事も独りよがりですいません。
地獄にはまった男ですからして(笑)

あのシュスターは、見た目もスゴイですね。
あと座ってるときも、足を組んだりして、そうした意味でも日本人には真似できない別な何かを感じました。

先の長い話ですが、ローエングリン、是非ご一緒に!

投稿: yokochan | 2010年4月14日 (水) 00時34分

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