プッチーニ 「トスカ」 チューリヒ歌劇場
今日もまた寒し。
しかも朝は、雪まじりの雨。
それもわたしの住む千葉は強くてびしょぬれになっちまった。
春らしかった4月の初めの東京タワーざあます。
あら、いま「怪物くん」を見てたらこんなこと言ってしまった。
懐かしいですな。怪物くん。「おれは怪物くんだ・・・」という歌が脳裏に刻まれております。
もう40年以上前ざますわよ。
NHKでチューリッヒ歌劇場のプッチーニ「トスカ」を放送したのでテレビ観劇。
チューリッヒやスカラ座、メトはNHK様は、このところよく放送してくれる。ウィーンやロンドン、ミュンヘンは以前よくやってたけど、技術提携とかいろいろ契約ごとがあるんだろうな。
でも、お膝元の新国をなんであんまりやってくんないのさ。
ま、それはともかく、チューリッヒの上演は質が高く、出演者も粒ぞろい。
数年前の来日公演で観た「ばらの騎士」はトータルバランスがとてもよくて、おりから繰り広げられた「ばら戦争」の中にあっても一際抜きん出た上演だった。
今回の「トスカ」は2009年9月の上演で、演出はロバート・カーセン、カヴァラドッシにいまをときめくヨナス・カウフマン、スカルピアがハンプソンだ。
このあたりが見もの。
放送に先立つ案内番組でご丁寧にもナタバレ解説をしてくれてましたな。
ま、人のことは言えないけど。
トスカ:エミリー・マギー カヴァラドッシ:ヨナス・カウフマン
スカルピア:トマス・ハンプソン
パオロ・カリニャーニ指揮チューリヒ歌劇場管弦楽団/合唱団
演出:ロバート・カーセン
歌手が素晴らしい。
トスカのエミリー・マギーちゃんは、マイスタージンガーのエヴァやローエングリンのエルザなどのワーグナーの初歩ロールからスタートし、いまや立派なドラマティコ。
声も巨大に立派になったけど、そのアメリカーーンなバディも超立派に。
圧倒されます。
恋に生き歌に生きでは、カーセン演出の真骨頂。
うしろでスカルピアがスポットをあびて聴いてます。
マフィアの親玉みたいですな。
トスカが真摯に歌い終えると、スカルピアさん、拍手をするんです。
そう、このカーセン演出のキモは、劇中劇。
トスカをめぐる愛憎劇を、観衆は舞台の横からノゾキ見してるわけなのであります。
いつも親しみあふれるハンプソンがスカルピア?と思ったのもつかの間、結構いやらしく、サマになっているんだ。
マフィアの親分で、警視総監なんて風にはまったくみえない。
手下にやたら厳しく、女にめちゃくちゃ弱い。
1幕のテデウムでは、劇場に観劇しにきた市民とともに歌う実業家。
ハンプソンの声は相変わらずフレンドリーな感じだけど、苦みばしった演技がインテリ風のすさまじい恐ろしさを醸し出す。
カヴァラドッシのいる拷問部屋へ、無慈悲なダメ押しを送るスカルピアと、嘆きのダイナマイト・マギー・トスカ。
光と影の扱いかたが、このようにウマいのがカーセン。
音楽の局面をたくみに捉えている。
昨今のリアル演出にのっとり、スカルピアが迫りトスカが脱いじゃったり、鮮血もふんだん。
個人的には、血はよろしくない。
切れば血が出るけど、そんなに見せちゃいかんだろ。
当たり前の危険。
最近のオペラは、どこもかしこも血だらけだ。
そしてカウフマン。
はっきりいってわれわれが思うカヴァラドッシらしくない。
重めの声に抜けない高音。強すぎる悲劇性。つかの間の逢瀬も悲壮感たっぷり。
でも、わたくし、カウフマンのカヴァラドッシを主役3人のなかでは一番楽しみましたよ。
ジークムントのようなカヴァラドッシ。
それは悲劇を背負った陰りある存在で、女優として脳天気なまでにはっきりした存在としてカーセンによって描かれたトスカと、その真摯さにおいて大きな対比をなしていたと思う。
プッチーニに異質な声は、あまりに異色で、逆にカラフを聴いてみたくなる。
演出によって生きたカウフマンのカヴァラドッシ。
カヴァラドッシの偽装死の真実を知ったトスカ。
彼女は、舞台の中の舞台から身を投げ出すのであった。
悲劇的に曲を終えたあと、カーテンコールに応えて登場のトスカは、あちらの舞台、すなわち、観劇するわれわれに背をむけ、挨拶。
そして、こちらに戻ってくるも、劇場の人から花束を受け取る。
なんと、ここまでが劇中劇の演出が継続、
観聴きするわれわれは、心地よい錯覚と空しさを味合うのであります。
どうです、このカーセン演出。
深い洞察力に裏打ちされた巧みな舞台の意外性に驚きと発見、そして感銘が。
それが音楽を邪魔せず、必然としてなりたっている。
思いつきでない、考えぬかれた秀逸な舞台ではないかと。
カーセンの「カプリッチョ」でも、いつの間にか劇中劇に遊ぶ自分を見出したことがある。
倒錯と錯覚がもたらす甘味と不安感を、このような有名オペラの「トスカ」でも導きだしたカーセンはすごいと思う。
映像あってこそかもしれないが、映画系のヘンテコ演出家と比べると極めて音楽を理解した、落とし所に納得感あるものに思う。
日本でも実績つみつつある、カリニャーニの指揮がまた鮮度抜群で味わいも深いものでありました。
カウフマンとアバドの共演CDの記事はこちら。
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コメント
こんばんは。まだ全部見切れていませんが、スケールが大きくて、綺麗な舞台でしたね!
ハンプソンの声はあまりパッとしないのですが、演技がうまいと思います。カウフマン追っかけの解説者、かなりネタバレの話だったようでしたが、面白く聞きました。
それにしてもカウフマンは期待できそうです。前回放映がカルメン、メトでは椿姫もやったそうですが、早くワーグナーの放映、お願いしたいところです。
投稿: ご~けん | 2010年4月18日 (日) 01時17分
yokochanさま、こんばんはm(__)m
こちらの番組、録画して後で観ようと思っていましたが、ついつい最後まで観てしまいました。
トスカは初めてでしたがとても面白かったです。
もっとも、yokochanさまの様に演出云々までは(比較対象もないし)わかりませんでしたけど…
音楽の方は、1幕のフィナーレ、スカルピアが「行け、トスカ」と歌う所が凄く気に入りました。
…トスカやカヴァラドッシのアリアでないあたり、自分はやはり変人でしょうか??(笑)
それにしても、解説の半分以上はカウフマン萌えっていうお話だったような……(汗)
投稿: ライト | 2010年4月18日 (日) 01時33分
ご~けんさん、こんにちは。
よい舞台でしたね。
これからこのトスカもDVDが発売されると思いますが、わたしも毎度ネタバレしちゃってます(笑)
あの解説が始まったので、すぐに他のチャンネルにして、本編から視聴しました。
カウフマンの声は極めて魅力的ですね。
ローエングリンのDVDが出ますが、そちらもテレビ放送して欲しいです。
投稿: yokochan | 2010年4月18日 (日) 10時02分
ライトさん、こんにちは。
私も観てしまうつもりはなかったのですが、面白い演出と豪華な歌い手にはまってしまい、全部観てしまいました!
スカルピアの1幕の終わりのテ・デウムは、わたしも大好きな歌でして、車を運転しながら大音量でこれをかけて、歌うのですよ(笑)
スカルピアやウォータン、ジークムントを歌いながら車乗ってるワタシも変人ですよ(笑)
お固いNHKさまの解説も、だんだんと柔らかくなってきましたね。
4月以降の各種番組も軟弱化しつつありますし・・・。
投稿: yokochan | 2010年4月18日 (日) 10時43分
こんにちは!
TVのアップ画面で御覧になったのがしみじみうらやましいです~。
解説の石戸谷さん、だいぶ興奮してらしたみたいですねえ。笑
カウフマンの声は確かに「プッチーニには異質」なんですよね。
だから最初は一瞬ギョッとするんだけど、聴いてる間に
彼のオリジナルな世界に連れて行かれる・・・
それが魅力でしょうか?
投稿: 恋するオペラ | 2010年4月18日 (日) 16時40分
うむぅ、こういうのが放映されていたのですね?!
最近めっきりTVから遠ざかっている&居間のHDDレコーダーを子どもに占領されているので、鑑賞する機会が減ってしまいました(涙)。
やはりカーセン演出、よかったことでしょう。ちょっと100円ドリンク居酒屋で申しましたように、彼の演出の「ラ・ボエーム」が実によかったのです。ミミの死によって、悲劇的に終わらせるのでなく、それを乗り越えて彼女の分まで芸術家達はしっかり生きていかなくちゃ!、みたいなメッセージが入っていたりして・・・。
ああ、こういう希望のある終結もありだなぁ~と。
ま、結局その時は、ネトレプコのムゼッタが全部持って行っちゃったわけですが(苦笑)。
最近はミミばっかり歌っている彼女ですが、ぜひあのときのセクシーさがムンムンくるムゼッタを今一度・・・と思っておる私です・・・(笑)。
ハンプソンのスカルピアですかぁ・・・なんかいい人そう(笑)。
この映像、観てみたいですねぇ。
投稿: minamina | 2010年4月18日 (日) 19時40分
恋するオペラさん、こんにちは。
見ましたよ、そして感激しましたよ。
今回のところは、NHK様に感謝感激です。
そうなんです、ちょっと興奮ぎみの石戸谷さん、わたし、おっかけやってます、って言ってましたよ(笑)
カウフマンの立派なところは、何を演じ、歌っても、彼の強烈な個性のもとに引きつけてしまうところでありましょうね。大いに賛同です。
これからも、ヨーナスワールドを楽しみにしたいと思います。
投稿: yokochan | 2010年4月18日 (日) 22時51分
minaminaさん、毎度こんばんは。
我が方も、録画の取り合いは一緒。
運よく勝ち取り、放送もそのまま視聴できました。
カーセンの演出がステキでして、100円アルコールのときのお話を想起させてくれました。
そう、みんな死んじゃう暗澹たる劇ではなくて、いろんなことを想像させて終わる演出は秀逸でした。
おばかな演出も多々ありますが、カーセンはレヴェルが高いです。
そして、カウフマン、かっこいいし、ハンプソンのいい人ながらの悪人ぶりが狂気の世界。
グラマラスなマギーちゃんは、すべてにおいて立派すぎ。
で、何気にカリニャーニの指揮が一番だったりします!
ネトレプコのムゼッタ、夢想中です。
投稿: yokochan | 2010年4月19日 (月) 00時28分