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2010年6月 4日 (金)

R・シュトラウス 「影のない女」 つまみ聴き

Opera_city
白昼のオペラシティ。
左が新国、右奥がコンサートホール。音楽の殿堂でございます。

好きなオペラや曲を実演で体験しちゃうと、しばらくの間は、その呪縛が解けなくなってしまう。
これまで、何度もこうしたことを繰り返してきたのであります。
R・シュトラウスの「影のない女」。

昨日は飲んだくれて、何も聴けず、今宵は手持ちの音源を手当たりしだいに聴いてみた。
でもついつい聴き込んでしまう・・・。

Strauss_die_frau_ohne_schatten_bohm
まずは、ベームの77年のウィーン国立歌劇場ライブ。
もしかしたら一番好きかも。
ライブで燃えつくすベームの熱い指揮が素晴らしいし、ウィーンの特徴ある甘く、少し退廃的な音色がたまらない。
そして、歌手では、ニルソンの強靭なバラクの妻に、いかにも好人物のバリーのパパゲーノ、じゃなかったバラク。あと、一身に悲劇を背負ってしまったようなジークムントっぽいJ・キングの皇帝
リザネックは、ちょっと声に衰えを感じるが、歌い込んだ貫禄は充分。
でも後年に、実演で接したリザネックは凄かったぞ
乳母は、ルート・ヘッセで、いぶし銀の味わいあり。
 ベームには、自家製75年のザルツブルクライブがあり、本当はこっちのほうが火の玉のような凄まじさ炸裂なのだ。キャストは、バラクの妻がルートヴィヒで実夫婦。

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カラヤンの唯一の影のない女は、64年のウィーン国立歌劇場ライブ。
カットが多すぎで、カラヤンがこのオペラをどう見ていたかがわかる。
冗長に感じ、ドラマの求心力を高めようとしたのか。
カラヤンらしくない、緩めな部分もあり、本当は後年、ベルリンフィルで録音してほしかった。
ルートヴィヒのバラクの妻が圧倒的。バラク、ここでも旦那ベリー。
なんとここでは、ルチア・ポップが鷹なんですよ
そういう時代。
カイルベルトと同時期の演奏で、ここでもトーマスの皇帝が気品と力感溢れるすばらしさ。

Strauss_die_frau_ohne_schatten_keil
名盤中の名盤といえばこのカイルベルト盤でありましょう。
63年のバイエルン州立歌劇場の記念すべき再スタートのライブ。
同時期にマイスタージンガーもありますな。
録音年代を感じさせない音のよさは、当時のDGの録音技術の高さを物語っているよう。
カイルベルトの腰の据わった雰囲気豊かな指揮は、決して鈍重にならず軽やかでさえある。オーケストラの明るい音色もいいし。
 そしてキラ星の歌手たち。
ボルクとF=ディースカウのバラク夫妻。とくにボルクは身震いするほどすんばらしい。
トーマスの力強い皇帝にはシビレまくりだし、なんたって伝令がホッターなんだから。
で、乳母がベテラン、マルタ・メードルだし。歴史的な存在入っちゃってるメードルだけど、その歌唱は全然古臭くなくって、現代風でもある。
ミュンヘンのプリマドンナだった、ビョーナーも貴重な録音で、これまたよし。
ほかのキャストも有名な歌手ばかり。ミュンヘンはすごかった

Die_frau_ohne_schatten_1_2 
カイルベルト後のミュンヘンのR・シュトラウスといえば、サヴァリッシュ
フィルハーモニーにはケンペがいたし、放送響にはクーベリック。
この3人が、ミュンヘンオペラの指揮台に始終立っていたのだから、なんとも贅沢な時代。
サヴァリッシュは、ここではバイエルン放送響を起用していて、その機能的でありながら暖かい音色を、見事、シュトラウスサウンドとして活かしきっている。
めちゃくちゃうまいオーケストラ。冒頭が一番素晴らしいのが、このサヴァリッシュ盤。
完全全曲盤なのもうれしくて、つまみ聴きしても、やっぱりしっくりくる。
 若がえった歌手たち。
ちょっとテカリすぎだけど、ヒロイックなコロの皇帝が好きだ。
そしてステューダーのスマートながら暖かみある皇后。
当時ブリュンヒルデなどで活躍し、サヴァリッシュがよく起用したヴィンツィングとムフのバラク夫妻は個性は弱いが、アンサンブルとして全体のなかで過不足なく収まっているからよい。乳母はハンナ・シュヴァルツで、明確でクセのない発声はとても好ましく、彼女は、90年代乳母の第一人者だった。

Strauss_die_frau_ohne_schatten_sino
ショルティはDVDしか持ってなくて、CDはなし。
今のところ一番新しい「影のない女」が、シノーポリ盤。
なんたって、オーケストラがドレスデンシュターツカペレなところが最大のウリ。
渋さとまろやかさを持つオーケストラの音色は、シュトラウスに相応しく、シノーポリもごく普通に振る舞っているが、その精緻さではサヴァりッシュに遠く及ばない。
ゼンパーオーパーでのライブ録音が、やや潤いに欠けるゆえの不満もある。
でも、2幕の皇帝の狩りの前奏は涙が出るほど美しい・・・・。
デヴォラ・ヴォイトが意外なほど、といっては失礼だけど、素敵な皇后。
皇帝は、すっきり、リリカルで現代風のヘップナー。ちょっと踏み込み足りない。
で、ここでも、シュヴァルツの乳母がしっかりした歌を聴かせて締めてます。
バラクは、お馴染みグルントヘーバーで、妻の気持ちがわからない悩み多き雰囲気がよくでてる。奥さんは、ビョーナーのあと、ミュンヘンやドレスデンで活躍したザビーネ・ハース。

Bayerisch
ミュンヘンの70年代の上演。レンネルトの演出はワーグナーみたいだ。
古めのわたくしは、こんな感じのが好きだったりします。
Hanburg
84年、ハンブルク国立歌劇場の文化会館でのリハーサル風景。
ジョーンズにデルネッシュが写ってます。
懐かしい~。



そして、好き嫌いが分かれるかもしれませんが、ともかく私は好き。
グィネス・ジョーンズ
彼女のバラクの妻は、最高であります。
その低い方の声の魅力には抗しがたいものがあるのです。
そして、バラクはベリーですよ。
80年のパリでの上演。指揮はたぶん、H・シュタインじゃないかと!

あと、シュトラウスはオーケストラが肝心ですな。
このCDたち、何気に、ウィーン、ミュンヘン、ドレスデンでしたよ。
ベルリンはちょっと別な感じで、これら3つは、シュトラウスのオペラでは最大最高のオケたちでございましょう。

 「影のない女」に取り憑かれた今週でございました。
ゲルギーの影なし、どうします。
あの「味のない指揮」は、どうなっちゃうんだろ。
あのオッサンのオペラは観たことがないけど・・・・。

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コメント

「影のない女」といえば、私は、市川猿之助さんの演出、サヴァリッシュ、バイエルン国立歌劇場来日公演で見ました。日本の歌舞伎と西洋のオペラの融合。これは東西の音楽劇が見事に調和したものでした。
この演出が多くの人々の心を動かしたか。猿之助さんは音楽も徹底的に理解していた上で、歌舞伎の要素ではどのようなものが使えるかもじっくり考えていったことにあります。そうした意味でも素晴らしい舞台でした。

投稿: 畑山千恵子 | 2010年6月 5日 (土) 19時42分

 そんなこと言われたら、どーしても「ベーム自家製75年のザルツブルクライブ」を聴いてみたいです。まあ、今度『影のない女』愛好会で会ったときにでも…。

あと、私の好きな55年のデッカ盤と、それほど好きでもないショルティ盤が出ていないような。ッt江、まあ、そんなに一気に書き込めないだろうけれど。ゲルギエフだって、一応、行くつもりです。

投稿: にけ | 2010年6月 5日 (土) 20時11分

畑山千恵子さま、こんばんは。
コメントありがとうございます。
猿之助演出は、実演には行けませんでしたが、テレビ観劇しました。
ドイツの来演組の本場ものを観てしまっていただけに、最初は違和感大ありでしたが、ビデオで何度か見るうちに、優れた舞台の洋の東西はないことがわかりました。
やはりオペラの演出は、音楽をとことん理解してからでないと、舞台に説得力が出ないのですね。
猿之助さんは、ロシアオペラも別途手掛けてますね。

投稿: yokochan | 2010年6月 6日 (日) 00時44分

にけさん、こんばんは。
へへ、気になるでしょう。
録音もそんなに悪くなく撮れてますので、いずれの機会に。

55年盤は、垂涎ものでして、未捕獲。
ショルティは、DVDがあるし、音源はどうも触手が伸びません。ドミ。。が出てるからでしょうか。
ゲルギーは、どうもなんだか・・・、と言ってるうちに行きそうになるようなならないような。

投稿: yokochan | 2010年6月 6日 (日) 00時50分

はじめまして
新国の影なし、オケよかったですよね。
 私も呪縛から逃れられなくて、ベームの55年ウィーン・ライブ聴いてしまいました。この演奏も歴史的名演ですね。
 新国の影なしも、日本としては歴史的公演だったと思います。
 またお邪魔します。

投稿: コバブー | 2010年6月 7日 (月) 09時05分

舞台は一度も見たことないのに、上に挙げられたベーム、カラヤン、サヴァリッシュ、シノーポリ盤を所有している私です(苦笑)。
一時期この曲にはまりまして・・・。どれも素晴らしい盤です。あとは図書館で借りたショルティ&VPO盤がすごかった印象があります。

それにしてもこの曲、音楽がとても魅力的で、惹きつけられるものがあります。でもやはり一度は舞台を見たい!

が・・・ゲル○エフは・・・どうなんだろ(笑)
この指揮者で何度も悔しい思いをさせられてるのでねぇ・・・。

投稿: minamina | 2010年6月 7日 (月) 17時55分

コバブーさん、こんにちは。
そしてはじめまして、コメントどうもありがとうございます。
そうなんですよね。
私の場合、シュトラウスとワーグナーにおいて、呪縛は顕著に現れます。
今回は、素晴らしい歌唱とオーケストラだっただけに、1週たってもまだだめです。
>歴史的公演< 私も同感です。
若杉さんの偉業のひとつですね。

ベームの55年もの。欲しいです。

またの来訪をお待ち申し上げております。

投稿: yokochan | 2010年6月 7日 (月) 23時09分

minaminaさん、こんばんは。
やはり、これにハマったことがあるんですね(笑)
意外と録音が少ないので、みなさん同じ音源を集めてしまうのですね。
ショルティはDVDがあるから、まあよしとしてます。

ほんと、いい音楽ですが、幻想曲は、バラクばっかりの音楽になってるところが面白いです。
もうワンパターンぐらいで、幻想曲第2番なんて風に書けそうだったのに。

ゲルはね・・・・、うーーむ。って感じです。
よりによって、このオペラを・・。

投稿: yokochan | 2010年6月 7日 (月) 23時13分

yokochan様
『影のない女』‥。R・シュトラウスのオペラの中では、『沈黙の女(無口な女?)』に『カプリッチョ』と並んで、難解と申しますか、なかなかモノに出来ない作品ですね。
Deccaのステレオ初期に、ベームがVPOを振り全曲盤(何かで、一発録り‥こんな難曲で可能だったのでしょうか?‥と、御自身のギャラを固辞を条件で、レコーディングを了解させたとか)の録音を敢行なさってましたが、残念ながら未だに聴いておりません。
お挙げの録音中、いずれがこのオペラを攻略するには、最適な演奏でしょうか。

投稿: 覆面吾郎 | 2024年5月22日 (水) 08時00分

大編成の膨大なオーケストラと主役級の5人の歌手に強い声を要することから、日本ではなかなか上演されませんが、この秋、二期会が上演します。

この長い作品は、リブレットを見ながらじっくり聞いても、複雑すぎるかもしれません。
はやり舞台か映像でまず慣れていくのがいちばんです。
しかし、変な演出が多いので、それもまた悩ましいですが、ショルティのザルツブルクライブの映像がいちばん無難です。
音源では、完全版のサヴァリッシュか、歌手の魅力ではベームのライブかもです。

投稿: yokochan | 2024年5月25日 (土) 10時48分

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