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2010年6月 1日 (火)

R・シュトラウス 「影のない女」 新国立劇場公演①

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新国立歌劇公演、R・シュトラウス「影のない女」最終日上演を観劇。
このオペラが国内で上演されるのは、サヴァリッシュ指揮と市川猿之助の演出のバイエルンの引っ越し公演から18年ぶりという。
その公演は観ることができなかったが、その8年前の日本初演にあたるドホナーニ指揮するハンブルク歌劇場の公演に接することができた。
 この時の感銘はいまでも覚えていて、このオペラのわたしの基準点にもなっている。
音楽の基準点は、75年のベームのザルツブルク上演のFM放送。
まだ聴いてます。

そして、私にとってそれから26年ぶりの舞台、いやぁ、めちゃくちゃ素晴らしかったsign03

Die_frau_ohne_schatten  
 いつも誉めることばかりだけど、大好きなシュトラウスのオペラだし、ただでさえしびれる音楽を音響のいい新国で、家では不可能な大音響で思い切り浸ることができた。
演出はともかくとして、歌とオーケストラは文句なし。

 皇帝:ミヒャエル・バーバ   皇后:エミリー・マギー
 バラク:ラルフ・ルーカス   バラクの妻:ステファニー・フリーデ
 乳母:ジェーン・ヘンシェル  霊界の使者:平野 和
 宮殿の門衛:平井 香織   若い男 :高野 二郎
 鷹の声:大隅 智佳子     天上からの声:松村 佳子
 バラクの兄弟:青戸 知、大澤 健、加茂下 稔
  ほか

   エーリヒ・ヴェヒター指揮 東京交響楽団
                                         新国立劇場合唱団
                   合唱指揮:三澤 洋史
    
    企画:若杉 弘
    芸術監督代行:尾高 忠明
    演出:ドニ・クリエフ
                  (2010.6.1 @新国立劇場)

                  

 ヴェヒターの指揮は本格・本物だ。
小さな動きでオーケストラからppからffまで、途方もないダイナミクスの幅を引きだし、それがひと時も混濁せず、隅々まで明快。
舞台の歌手の声の様子にも巧みに反応し、どんな時でも声をかき消すことがなかった。
よく書かれているから、よく鳴る響きに没頭しすぎてシラけさせてしまうシュトラウスを聴かせる指揮者が多いけど、それらとは大違い。
抒情的な場面、2幕の皇帝の狩りの前の独奏チェロを伴う素晴らしい場面に、3幕のヴァイオリンソロを伴った間奏などの精緻で透明な響きは、シュトラウスを聴く最高の楽しみ。
こんな場面でも涙をとどめることができなかった。
そして、東京交響楽団の充実ぶりたるやびっくりsign01
今日のピットは完璧でしたnote

このオペラの難しさは、全体を司る優秀なシュトラウス指揮者の存在と、主役級の歌手5人に人を得なくてはならないこと。
リリコスピントにドラマティックソプラノ、ドラマテックソプラノに近い強いメゾに、ヘルデンテノールに、バスバリトン。
ジークリンデにブリュンヒルデ、イゾルデとジークムントにアンフォルタスが必要なんだ。
あと、森の小鳥もね。

ハンブルク公演はすごかった!
リザネック、ジョンーズ、デルネッシュ、シェンク、ネントヴィヒだったんだもの。

でも、今日の新国もほぼ完璧。
得にアメリカ女声陣3人notes

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以外に思われるかもしれない私が好きな、マギーちゃん。
彼女の皇后は一番楽しみにしていた。
先般のチューリヒの「トスカ」バイロイトの「マイスタージンガー」などの映像、新国では「イドメネオ」のエレクトラを通じて、そのアメリカンな大らかな雰囲気に親しんできたけれど、その声も最近ドラマテックに転じつつあって、今日もホールを圧する輝かしい声を聴かせてくれた。
表現の細やかさと役柄へののめり込みぶりがもう少し欲しいところだが、彼女はアメリカンな少しおおざっぱな雰囲気がいいところ。
 でも、皇帝愛ゆえに、影を無理くり欲しつつも、人間たちの愛と同情に目覚め変貌してゆくさまが、マギーはとても自然な演技と歌でもってよく表現出来ていたと思う。
 このオペラの最大の見どころと思っている、3幕での誘惑を否定する場所。
「Ich will nicht!」は、一語一語かみしめるように、観劇するわれわれの、一体どうするんだろうという気持ちを試すかのように、ゆったりと歌い語られた。
ここが毎度このオペラのキモであるわたしは、ただでさえ涙を随処にほとばしらせていたのに、ここでもうダム大決壊sweat02
なんで最近こんなに涙もろいんだろ。

ハンブルク上演のこの場面で、リザネックの迫真の歌と演技に、生涯忘れ得ぬ感動を与えられていて、演出のこともあり、今回は残念ながらそれに遠く及ばないのも事実でありましたが、マギーちゃんゆえに映画風なこの場面、なかなかでした。

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マギーよりも、さらに強靭なる声を響かせたのがフリーデのバラクの妻。
新国では、「西部の娘」「マクベス夫人」と聴いてきたが、今回が一番よかった。
演出ゆえか、ずっと不満にさいなまれるイライラ役だけど、その心の鬱憤とうらはらに夫の愛情をもとめるいじらしさを、その強い声で一途に歌い込んでゆく。
役柄的にも、献身的でもある歌いぶりにも、今回もっとも多くの共感と称賛を得たのがフリーデではなかったろうか。
怒ってばっかりの役柄だから強烈にシャウトしなくてはならないし、独白の場面では心の内面を丁寧にさらけ出さなくてはならず、ほんとうに難しい役柄だけど、フリーデは自然で、等身大、とてもよかった。

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風貌からして乳母にぴったりのヘンシェル。ハンブルクのデルネシュもすごかったが、美人すぎ・・・・。
皇后を溺愛するがゆえ、任務に忠実なるがゆえに、ダーティな役回りになっているが、彼女の乳母は終始、憎めない。
小柄に見えるけれど、彼女の声も圧倒的な存在感があり。
バラクの妻を誘惑する怪しげな雰囲気は、そのお姿からしてむしろペテン師のようにも見えちゃって面白かったし、バラクが儲けて帰ってきてのパーティでのダンスも可愛らしい(笑)。キャラクターメゾ的な歌い口の巧みなヘンシェルでもありました。

これら強力女声トリオに対し、よかったのは、ルーカスのバラクのみ。
つーか、皇帝がイマイチだっただけだけど。
純正バイロイト、そして当地で活躍中の旬のバリトン、ルーカスの明るめで伸びのあるバリトンには惚れこみました。
発声が明晰で、耳に馴染みのいいバリトンは、バラクの人のいいキャラクターにぴったり。
かつての名バラク、ワルター・ベリーを思わせましたぞ。

最初はよかったけど、後半、声が埋没しがちだし、個性がやや薄かったミヒェル・バーバの皇帝。
なにぶん、トーマス・キング・コロで聴き馴染んでいるロールだし、好きなもんだから、自分でもCDに合わせて歌ってしまう皇帝役。
いつも悩んでいる悲劇性では、ジークムントに匹敵する役柄だけど、まずはトルコ風かスマトラ風の衣装がイカンので、イメージが上滑りしてしまう。
最初は、悲劇性ある声に聴こえ、おっ、こりゃええわい、と思ったけれど、お供の大隅さんの鷹の真っ直ぐな声に負けちゃってる。
最後も、マギーちゃんの皇后にやられっぱなし。
ほかの日はどうだったのでしょうね。

でも、男声ふたりはさすがにドイツ語の語感が素晴らしく、そのアーティキュレーションの明快さにおいては、女声陣に勝っていたように思う。

ところが、ほんの数行の歌詞を繰り返す鷹役の、大隅智佳子さんは、短めだけど、へたなドイツ人よりそれらしく、数行の歌で耳をそばだてさせる魅力を発しておりました。
オネーギンのタチアーナ以来、ファンになった根っからのオペラ歌手の大隅さん、今回は足音立てずに始終飛び回る役柄。よかったですよ。

ドイツで活躍中の平野さんのカイコバートの使者。
この方もまた本場仕込みの素晴らしいバリトンで、これから国内で活躍されることでしょう。

ヴォツェックでユニークな役柄を演じ印象的だった、高野さんの若い男。
バーテン風のなりが、あまりにイマイチな演出で、ハンブルクのホレス演出では、金ぴかラメ男で、その方がシュトラウスの異次元音楽にもあっていたのだけれど・・・。
その普通の兄さんぶりにが何気に印象的だったんです(笑)

バラクの体の不自由な3兄弟も、毎度、新国や二期会を支える個性派名人たち。
舞台裏からの声のみなさんも、みんな素晴らしいですぞ。

というわけで、大絶賛の音楽部門。
で、演出はというと、わたしにはそうでもなかったところ。
このあたりは、次の記事とさせていただきましょう。

それにしても、若杉さんの早世の無念が、こうした素晴らしい音楽と演奏を聴くにつけ、大きく感じられるのであります。
終演後、奥さんと帰宅される、尾高さんを見かけました。
 来シーズンの目玉は、国内オケのシェフたちを新国指揮者として招聘する公演。
オープニングは大野さんだし、国内で活躍の指揮者たちを本格オペラでレベルアップする絶好のアイデアかと。
神奈川フィルファンとしては、金聖響さん
も、現田さんも、是非呼んでくださいましな。

「影のない女」 過去記事

 「サヴァリッシュ&バイエルン放送響」
 「ショルティ&ウィーンフィル」
 「カラヤン&ウィーン国立歌劇場」
 「交響的幻想曲 影のない女」

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コメント

私も6月1日の最終公演に行ってきました。クラヲタ人さんのおっしゃるように、音楽としてはとても満足できるものだったと思います。「影のない女」の実演に接したのは初めてでしたが、今までCDや文献からだけでは理解できなかったこのオペラの魅力が、今日の実演に接して初めて理解できました。そして、もしたしたら「影のない女」がR.シュトラウスの最高傑作ではないかということ、また、若杉弘さんが、新国立劇場の音楽監督に就任するにあたって、このオペラを演目に加えたかった理由も理解できるようになりました。
ただし、演出は低予算のなかで、工夫さていたとは思いますが、とくに第3幕は安っぽさが感じられて残念でした。

投稿: 影のある男 | 2010年6月 2日 (水) 00時33分

影のある男さま、こんばんは、はじめまして。
コメントありがとうございます。
ちなみに、私にもいろんな影がございますが、頭には○がありません(笑)~失礼しました。

このオペラは、おっしゃるように、舞台で通して全体像を掴まないとその筋と音楽の素晴らしさが理解できないように思います。
若杉さんもさぞや無念でしたでしょうね。
ドレスデンかデュセルドルフでも指揮していたのでしょうか。
オーケストラにも、聴衆にも、大いに刺激のあったシュトラウスの音楽でした。
 演出は、明日レヴューしますが、概ね同意見です。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2010年6月 2日 (水) 01時02分

あら、また同じ日だったんですね!

席のせいか、凄い音が印象的でした。実演のオーケストラの音量って、凄いとつくづく思いました。そして、ソロの部分など、ほんとに巧いと思いました。

簡単な記事を書きましたので、TBします。

投稿: edc | 2010年6月 2日 (水) 10時11分

初めて訪問させていただきます。
記事を興味深く読ませていただきました。作品を深く理解されているのに感服いたしました。いろいろ勉強になりました。私も新国立劇場でR.シュトラウスの「影のない女」を鑑賞してきました。私も初めての作品でしたが、音楽の構成力も含めて魅力ある作品に感じました。
私の感想などをブログに書きましたので是非読んでみてください。
http://desireart.exblog.jp/10678873/
よろしかったらブログの中に書き込みして下さい。
何でも気軽に書き込んでください。

投稿: dezire | 2010年6月 2日 (水) 15時55分

euridiceさん、こんにちは。
そうですね、また最終日。
仕事さぼりです(笑)

私の席は奮発して14列目、ほんといい音で、シュトラウスの音楽を聴く快感を味わうことができました。
いいオーケストラでしたね。
そして女声陣が素晴らしかった!

投稿: yokochan | 2010年6月 2日 (水) 23時38分

desireさん、こんにちは。そしてはじめまして。
コメントどうもありがとうございます。
好き勝手に書いてますので、適当にお読みくださいませ。

シュトラウスのオペラの魅力は、豊穣なオーケストラサウンドと抒情と浄化の素晴らしさだと思います。
そう、交響詩などをお好きな方なら、そこに歌が乗ってるだけで、誰しも魅了されてしまう音楽だと思います。
全15作を聴きつくしましたが、影のない女は、そのうちの上位にくる大好きな作品です。
 ほかのオペラもこれを機にお楽しみいただければ幸いです。
後ほど、貴ブログにもお邪魔させていただきます。

投稿: yokochan | 2010年6月 2日 (水) 23時44分

こんにちは。
エミリー・マギー、「音痴」とか何とか、散々文句を言いつつ、
私も結構好きです。笑
彼女は今シーズン、チューリッヒでも影のない女を歌ってました。
見逃してしまったのが残念です。
若杉さんが、御存命であれば、この公演も振ってらしたのでしょうか・・・。

投稿: 恋するオペラ | 2010年6月 5日 (土) 06時02分

恋するオペラさん、こんにちは。
マギー好きがいらっしゃってよかったぁ。
チューリヒでも皇后を歌ってたのですね。

先日のトスカの放送では、ダイナミックなお体に感じたのですが、新国ではブルーのドレスがお似合いのスマートな雰囲気になってました。
結構好きです(笑)

チューリヒにも所縁のある若杉さんは残念なことです。。

投稿: yokochan | 2010年6月 5日 (土) 13時40分

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受信: 2010年6月 2日 (水) 10時11分

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