チレーア 「アルルの女」 レイヤー指揮
カニシャボテンを下から覗いてみた図。
怪しく毒々しいです。
フランチェスコ・チレーア(1866~1950)は、プッチーニと同世代。
ということは、マスカーニやレオンカヴァッロらとも、活躍時期を同じくする、イタリアのオペラ作曲家。
前にも書いたとおり、ヴェルディ以降のイタリア・オペラ作曲家について、プッチーニはほぼ制覇したとして、それ以外が大いに気になっていて、一発ヒットの作品はおろか、他オペラ、そして他ジャンル作品なども、積極的に聴いてみたいと思って実践してます。
話はそれますが、クラシックを聴いてきて、ヲタ境地に入ってくると、好奇心がどんどん湧いてきます。
名曲は飽いた気持ちを抱いていても、名演に出会うことを求めるし、気にいった作曲家の作品は、根こそぎ聴いてみたいし、好きなジャンル(例えばオペラ)なら、気持ちの赴くまま、知らない作品にチャレンジしてみたい。
さらに、名の知れぬ作曲家や、演奏家を探しあて、聴き込んでゆくという楽しみにもハマっている。
だから、私の音楽人生、とどまるところがないのです。
しいていえば、名曲路線は、特定の作品にとどめ、その分、あらたな音楽の風景を見たいと思うようになっている。
オペラであれば、ドラマを楽しむという喜びも別途あるので、いろんな作品にチャレンジしてゆきたい。手間暇&金がかかるのが難点ながら、お気に入りの作品を発見する喜びは尽くしがたい歓びなのであります。
さて本題、チレーアに関しては、76年来日のイタリアオペラの「アドリアーナ・ルクヴール」の舞台に接してからというもの、そのアドリアーナはマイフェイヴァリット・オペラのひとつになったし、チレーアという人の存在によって、プッチーニ以外にも甘味かつドラマテックな音楽を書くイタリアオペラ作曲家がいるもんだ、という印象を大いにあたえられたわけ。
そのチレーアの音楽を導入部として、カヴァ・パリ以外のマス&レオン、シェニエ以外のジョルダーノ、カタラーニやモンテメッツィ、らも聴くようになったのです。
そして、アドリアーナ以外のチレーアにも、当然に触手が伸びていて、そんな中のひとつ、「アルルの女」を今日は聴いてみた訳であります。
テノールの泣きのアリア「フェデリコの嘆き」~ありふれた話、のみが有名すぎるこのオペラ。
なかなか上演に巡り合えないし、音源も限られている。
オペラでは「ジーナ」のあと、「ツィルダ」が成功し、チレーアが次のオペラに選んだのは、ドーデの有名な「アルルの女」。
なにぶん、先輩ビゼーが、1872年に劇音楽を残していて、チレーアの作曲は慎重に行われたが、チレーアはよりヴェリスモ的、すなわち市井のドラマテックな物語性を強めて仕事を進め、1897年にミラノで初演。
フェデリコは24歳のカルーソだったそうな。
そして、その初演は大成功。
チレーアはさらに、1912年、2幕と3幕の一部に手をいれたり、曲を追加したりしたほか、さらに1937年には、前奏曲も追加していて、このオペラへの愛着のほどが窺える。
以上、CDの解説書を参考にしましたが、これを読んでいて、なるほどと思った記述が、初期ヴェリスモオペラ作曲家が描いたのお決まりの最後。
「ナイフによる殺傷のカタストロフ」~カヴァ・パリはまさにそのとおり。
やがて、よりスケール感を増した歴史物語や日常起こりうる物語も彼らのオペラとなり、血なまぐさい事件はなくとも、人情味や悲劇性も増して、ますますドラマが深くなったわけであります。
チレーアの音楽は、緻密で繊細、そして抒情的なイメージがあって、事実その通りだと思うけれど、「アルルの女」は、南フランスの奔放な女性に惚れこみ、翻弄される主人公を描いているだけに、なかなかに劇的でもあり、「フェデリコの嘆き」のイメージのような、物悲しい悲劇的な要素も併せ持ったオペラになっている。
では、直情的おバカさんな男の物語を、名古屋弁で(笑)。
場所は南フランス、プロヴァンスのカステレ。
第1幕
カステレの農場。農場の女主ローザの末息子(フェデリコのちょこっと足りない弟)に、老いた羊飼いバルダザーレが、狼の話などをどえらいおっかなく聞かせているところだがね。
そけぇ、ローザがおいでて、「フェデリコに、ええ嫁はおらんかねぇ・・・」と語る。
バルダザーレは、「この村におるがなぁ、正直でええ娘がね。ほれ、女将さんも知っとるで。」
「でも、あのフェデリコのたわけときたら、アルルの女に夢中だで、どえりゃぁいかんわ」とおっかさん。
フェデリコの幼なじみ、ヴィヴェッタがやってきて、浮かない顔のおっかさんを心配するんだわ。
ローザは、「アルルに住んどる兄弟のマルコが、今日やってくるだでね、あれがアルルの女はやめとかんか、と言ってくれらええんだわぁ」と期待するんだわ。
フェデリコがやってきて、「かあちゃん、アルルの女は最高だがね」とおのろけまくる。
「あの女にどこで会ったんか?」「この村だわ。ひと目、見ちょって好きになったわ。でゃぁじ(大事)な人だわ」
「あたしよりかい?」と母ちゃん。「何、たわけとるんじゃい、かあちゃん」
と陰で、「あたしよりもかね・・・」と悲しむヴィヴェッタなんだわ。可哀そうでしょ~。
そけぇ~、村一番の成功もん、マルコが帰ってござって、ようけおる村人から称賛を受ける。
マルコは、「アルルんもんに悪いヤツはおりゃせんでぇ~」と言いおって、ローザはがっかりなんだわ。
「どえりゃぁニュースを聞いたで、おみゃぁの息子はアルルの女と結婚するんか?」とメティフィオという男がおっかさんの元に来てみえた。
「あのおなごは、でら卑劣な尻軽女だがや、はっはは」
「ウソだとさらすんなら、この手紙を見てちょう」とすごむメティフィオ。
その2通の手紙は、メティフィオとアルルの女の関係が、よ~けわかるものだったんだわ。
彼は、老羊飼いに手紙を預け、こんどいつみえるとの問いに、明日だがや、と答え出てゆく。
フェデリコに、その手紙を見せる、羊飼いとおっかぁ。
「これを見さらせ、こんたわけが!」
「お~、なんて可哀そうな女なんだわさ・・・」と懲りないフェデリコなんだわ。
第2幕
ローザと、ヴィヴェッタ。
「あんた、どんだけ、息子のこと見てんだがや」
「朝、日が昇る前からずっとだがや、おっかさん」
ローザは、ヴィヴェッタを愛おしく思って、「アルルの女よりずっと可愛いわぁ・・・」とアリアを一発歌い、フェデリコに告白してちょうだゃあ、と勇気づける。
バルダザーレとフェデリコ。
フェデリコは、「おら、嫉妬に取りつかれたわ。だもんで、胸がちんちんで、どーにもならんのだわ」と打ち明ける。
老羊飼いは、「そりゃおみゃぁ、働くことだね」と、保健体育のようなことを言う。
「山はでらええで、わしと一緒に、来にゃーいかんで、山へ」とアリアを歌って悩める青年を誘うんだ。
「だで、おいら、あの女を忘れらんねぇんだゎぁーーー」
居眠りをこく、弟の傍らで、フェデリコがいよいよ歌うで、有名な「フェデリコの嘆き」を。
「あいらもこんな風にすべてを忘れてもうて、よ~け寝てみたい。幻よ、離れてちょーよ・・・」
そこへ音もなく、ヴィヴェッタがやってきて、生きのいい花を持ってくるんだわ。
アリアで彼を誘う。「あんた、覚えとらん?・・・」と、昔のことをはなし、まっぺんやり直そうと。。
フェデリコは、「もう、そりゃ過去のことだがや」と言って飛び出していってしまうん。
おっかさんが慌ててやってきて、ヴィヴェッタを慰めるんよ。
だでね、そこへ、戻ってきたフェデリコは、おっかさんの心情に動かされ、改心したんだわ。
ヴィヴェッタを思い切り抱きしめるんだ。。
まったくコロコロと忙しいやっちゃなぁ。
第3幕
フェデリコとヴィヴェッタの矢継ぎ早やの婚礼。
羊飼いバルダザーレと若い娘たち。「まっ白なユリ」のちょこっと有名な合唱。
「幸せだなも」とヴィヴェッタ。
「そうだなも」とフェデリコ。「いままでは、おみゃあを愛しとりゃぁせんかった。だでね、いまは違うで、愛しとるわ」とベタベタの二重唱なんだわ。
これを見ていた羊飼いバルダザーレは嬉しくてしょうがにゃぁ。
そこへ、メティフィオがみえる。
「あの若いのは、結婚すんだな、純な娘っ子と、そりゃええわ」
「わしは、もう二日と寝てねえんだわさ。でもこの嫉妬の嵐とはおさらばさ。アルルの女をひっ連れて出てゆくことにしたでね!」
このやりとりに、気付いてしまったんだわ、新婚さんが。
「おっ、こいつは、おいらのライバルだがやぁーーー」むらむらとちんちんに激情するフェデリコ単細胞くん。
「やめてちょ~よ、フェデリコ、あっち行こう・・・」と必死にとどめるヴィヴェッタのことはもう眼中にはいりゃせんのだわ、フェデリコのすっとこどっこいは。
石斧をもって、襲いかかろうとするところ、すんでで逃げるメティフィオ。
宴の合唱が外ではこだまするけど、おっかさんローザは嘆きのアリアを歌うんだね。
「あたしぁ、もう死んでしみゃぁそうでいかんわ・・・・」
弟も怯えて、おっかぁに甘える。
フェデリコが放心したようにしてやってくる。「もう、あかんわ!」
「馬車の音がするで、ほかっとけねぇ。あれはアルルの女を連れてく音と叫び声に違ぇねぇーーーーー」
ヴィヴェッタも出てきて、もうやめてちょーよ、と引きとめるが、フェデリコは、階段を駆け上り扉を締めきってしまうんだわ。
ほんだもんで、追いかける女二人も、そこまでだわ。
フェデリコは、馬車を狂ったように追いかけようとして、バルコニーから飛び出してもうて、そっから落ちてあえなく死んでもうたんだわ、これが。
女ふたりの「Ah!」の声には、聴いとって、ちょこっとびっくりしたなぁ、もう。
ショックで崩れ落ちるおっかぁの元には、可愛い弟の姿も・・・・。
なんだかなぁ・・・・。
バカらしいといえばバカらしい。
名古屋の方えらいすんません。
愛着ある言葉だもんで。
このオペラ、1時間40分くらいの適度な短さ。
音楽は傑作「アドリアーナ」ほどの精度はなく、激情に走り過ぎているかも。
でも、「フェデリコの嘆き」はやはり名アリア。
オペラのそこかしこに、この旋律が出てくるし、飛び降り後、オーケストラが悲劇の幕引きを奏でるのも、このアリアの旋律。
カヴァレリア・ルスティカーナとカルメンを足して割ったようなオペラですな。
フェデリコ:ジュセッペ・ジパッリ ローザ(その母):マリアンネ・コルネッティ
ヴィヴェッタ(幼馴染):アンジェラ・マリア・ブラーシ
バルダザーレ(羊飼い):アンブロージオ・マエストッリ
メティフィオ:ミカエル・チィオルディ マルコ:エンリコ・ロルディ
フェデリコの弟:ガェーレ・ル・ロイ
フリーデマン・レイヤー指揮 モンペリエ国立管弦楽団
モンペリエ国立歌劇場合唱団
(2005.1@モンペリエ)
ヴィヴェッタを歌うブラーシ以外は知らない名前ばかり。
そのブラーシと、母コルネッティがなかなかに聴かせる女声二人組。
ジバッリは、アルバニア出身の若いテノールで、どこか陰りある声が、フェデリコには合っているけれど、少し呑気な表現すぎかな・・。
フランスの地中海に面する、まさに本場のモンペリエ劇場のライブだけに、聴衆の拍手も幕を追うごとに熱くなってくるラテン系のノリの演奏。
レイヤーはスワロフスキーに学んだ、ウィーン生まれの指揮者で、R・シュトラウスの録音があったが、このライブの時期、モンペリエの音楽監督をしていた模様。
EMIにも録音があったはずだが、このオペラのいま手に入る唯一の本盤。
貴重かも。
次のチレーアは、「ジーナ」に挑戦します。
| 固定リンク
コメント
yokochanさん、こんにちは。
チレーアは名前は知っていますが、アルルの女にも作曲していたとは知りませんでした。
自分の中ではアドリアーナ・ルクヴルールのイメージばかりですね。
中学の頃だったかにやたら流れていた「カルビースペシャルオペラ」のCMで覚えてしまったのです。
どこかの歌劇場の来日公演だったと思うんですけど、ニュースの合間に毎朝流れてました。
それがなんとなく気になって、図書館でオペラ図鑑を読んであらすじを調べたりしました。
変な所に勤勉でしたね~。
そのくせ学校の勉強は何も覚えなかったんですけど(笑)
というか、本題からズレ過ぎてますね。すみませんm(__)m
投稿: ライト | 2010年6月20日 (日) 11時42分
ライトさん、こんにちは。チレーアの音楽は知的でありながら、この南フランスが舞台のオペラは結構、劇的なんです。
でも音楽の良さは、アドリアーナの比ではないと思います。
やはり、アドリアーナは全編にながれる抒情的な旋律が魅力でして、きっとライトさんが魅かれたのは、1幕のアドリアーナのアリアではなかったでしょうか。
図書館で勉強〜オペラ道に踏み出してますねぇ!
私も、かつてオペラ解説全集を愛読書にして、まだ見ぬ、聞かぬオペラの筋を読みふけり、妄想に耽ったものでした(笑)
投稿: yokochan | 2010年6月20日 (日) 13時25分
再度のコメント失礼いたしますm(__)m
あの時聴いたのは女性の声でしたのできっとおっしゃる通りのアドリアーナのアリアでしょう。
(あくまでCMなので)15秒分しか聴いていないので確実かはわかりませんが(^^;)
なんとなく気になり図書館で調べてから既に十数年経ちますが、未だにアドリアーナは未聴です(^^;)
いい加減聴いてみようかと思います。
オペラ解説書を基に妄想の日々、ちょうど今がその状態かもしれません。
オペラの筋をググってみたり、対訳本を借りて読んでみたりして妄想しています(笑)
投稿: ライト | 2010年6月20日 (日) 21時40分
ライトさん、こんばんは。オペラへの道は、妄想から始まります(笑)
妄想膨らませて、いざ聴いたり見たりして、がっかりもあるかもしれませんが、いまは、ネットで映像がたやすく確認できますから、妄想が正しいか否かはも確かめられますね!
私がオペラ好きになったのも妄想のおかげなのであります(笑)
投稿: yokochan | 2010年6月21日 (月) 19時49分