アイアランド 「These things shall be」 ヒコックス指揮
海に沈まんとする夕陽。
海に囲まれた日本だけど、季節にもよるけど、海に朝日が見られる場所と、夕陽が見られる場所とそれぞれ。
私の育った相模湾も東よりは夕陽が見れるけど、私の街は海から太陽が昇る。
子供の頃は見てたけど、いまや不可能。
酔っていてたいてい起きれませんゆえにね。
こちらは、瀬戸内海。山口は宇部から防府にかけての海岸線。
波もなく静かですな。
ジョン・アイアランド(1879~1962)は、マンチェスター生まれの英国の作曲家。
「さまよえるクラヲタ人」は、アイアランドの記事はまだ少ないが、CDはいつのまにかたくさん集めてしまった。
正直、記事にしにくいのであります。
交響曲とオペラ以外にまんべんなくその作品を残したアイアランド。
でも大作がなく、小品や中規模作品に特化していて、大作好きの私からすると、これ一曲に絞り込めないうらみがあったのだ。
でも思えば、すてきな作品ばかりで、ピアノ協奏曲やピアノの小品集、歌曲、ヴァイオリンソナタなどなど、一度はまったら病みつきになる曲ばかり。
その魅力は、アイアランドが愛したケルトのファンタジーを漂わせた、いわばバックス風のミステリアスな雰囲気と、英国風の田園的な抒情と国教風の厳格さ。
これらの融合でありましょうか。
今回取り上げた、亡きヒコックスの残したアイアランド・シリーズの一環の1枚は、声楽作品と管弦楽作品を取り上げた、いかにもシャンドス=ヒコックスらしいCDで、アイアランドの魅力をほぼ万全に味わえることができるんだ。
1.Vexilla Regis (王の御旗)
2.Greater Love Hath No Man (至上の愛)
3.These Things Shall Be (これらはきっと)
4.A London Overture (ロンドン序曲)
5.The Holy Boy (聖なる少年)
6.Epic March (エピック・マーチ)
S:パウラ・ボット Ms:テレサ・ショウ
T:ジェイムス・オックスリー Br:ブリン・ターフェル
Org:ロデリック・エルムス
リチャード・ヒコックス指揮 ロンドン交響楽団/合唱団
(1990.4 @ロンドン)
Vexilla Regisは、アイアランドがスタンフォードの元で学んでいた19歳の時の作品。
オルガンにトランペット・トロンボーンを伴う合唱曲で、原典は6世紀の聖歌で、受難週の日曜用の讃歌で厳かかつ壮麗な作品に、背筋も伸びます。
至上の愛は、こちらも教会音楽でモテットである。
33歳の作品を、のちにオーケストレーションしたもので、聖書の聖句を自身選びだし、つなぎ合わせた桂品。祈りに満ちつつ、アイアランド特有の抒情が光ります。
These Things Shall Beは、このCDの中では一番の大曲で壮大な高揚感とともに、ひたひたと滲み出る感動に包まれること請け合い。
1937年、ジョージ6世の名を冠した合唱祭用に、BBCから作曲以来があったのは年初。コンサートは5月。A・シモンズの詩に付けた英国讃歌。
でも速筆でなかったアイアランドは、間に合わず、オーケストレーションの一部を生徒のアラン・ブッシュに頼み、完成させ、ボールトの指揮により初演された。
この時代の作曲家のご多分にもれず、第一次大戦の影も引きずり、解説によれば、その祖国愛は、ルパート・ブルックスの「The Soldier」にも例えられるとされる。
特徴的で一度聴いたら忘れられないオーケストラのリズムにのって高揚した合唱が繰り広げられる前半。
そのリズムをいろいろ変化させつつも、味わい深いオーケストラによる中間部。
やがて、後半に入り、大らかでかつ感動的な旋律が弦のユニゾンで現れる。
この旋律はほんと素晴らしくて、ついにバリトンによる熱い歌となって登場し、合唱に広がって、何度も繰り返され徐々に壮麗さを増してゆく。
しかし、最後はそれも徐々に静まり、オーケストラの精妙な背景を経て、もう一度クレッシェンドし、合唱が強く歌う「These things-they are no dream-shall be・・・・」
ここにいたり鳥肌立ち涙ちょちょぎれる思いだが、それもまた静まり、徐々に去りゆくようにフェイドアウトしつつ音楽は消えゆく。
これはあまりに感動的な音楽であると同時に、ちょっぴり悲しい思いも味わうのであります。
一転、ロンドン序曲は、明るく楽しい色調。1936年の作。
もとの曲は「コメディ序曲」というブラスのための作品で、ボールトの勧めでフルオーケストラ作品として生まれ変わった名作。
「コケイン」と同じようにロンドンの街の光と影を描いていて、明るく楽しい場面もよいが、中間部にオーボエで出てくる憂いを帯びた旋律は泣かせるし、次にホルンとストリングスで静かに歌われる旋律もやたらに素晴らしい。
そんな素敵な中間部をもったこの序曲は、コンサートピースとしても最適。
聖なる少年。本来はピアノソロ用に書かれたクリスマスキャロルのワンピース。
第一次大戦後、ヴァイオリンとチェロ、ピアノ用に編曲し、さらには第二次大戦後には合唱作品にも仕立てた。
嬰児誕生を静かに祝うパストラーレ的な静かなる桂曲であります。
ここでは弦楽合奏によって心をこめて演奏されております。
最後は、エピック・マーチ。
痛快な行進曲。ここでもボールトが登場し、行進曲作曲を勧めたことにより1942年に誕生。
エルガーの「威風堂々」のテイストを持った心のすくような行進曲で、中間部はさきの「These things shall be」の感動的な旋律が奏でられ、曲の最後のクライマックスにもオルガンも鳴り渡り盛大に響きわたる。
「These things shall be」を中心に据え、合唱と管弦楽作品でたくみなプログラムを組んだ、ヒコックスならでは1枚は、ほんとうに聴きごたえがあり、これまで何度聴いたことかわからない、大好きなCDなのだ。
オケと合唱もべらぼうにうまくて、ターフェルのビンビンの声も圧巻!
BBCの音楽責任者を務めていた、ボールトがあってこそ生まれた作品も多々あり、英国音楽はこうした名匠たちによって豊かに育まれてきたのを痛感する。
しばらく立ちつくし、夕陽もすっかり沈んでしまった。
壮麗な夕日と音楽。
好きです
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コメント
シブイとこきましたね。
アイアランド、うちにもバラバラとあるのですが、何かあちこちのCDに収録されていてまとまったのがないので記事にしにくいです。「聖なる少年」はボーイソプラノ独唱のがウチにあり(文字通り「少年」)、とてもこれは癒されますね。These Things Shall Be はウチはバルビローリのがあります(勿論お持ちでしょうけど)。あんまり聴いてないんで聴き返してみたらとてもいい曲なのですね。
投稿: naoping | 2010年6月14日 (月) 21時44分
naopingさん、こちらにもありがとうございます。
こうしたエントリーは、なかなか人気がなく、寂しかっのですが、さすがはnaopingさん。
アイアランドを集中的に録音してくれたヒコックスとシャンドスさまさまの1枚です。
以外や、バルビローリは持ってないんです。
そうとなりゃ欲しくなるのが人情!
いい曲でしょ、これ。
それと、聖なる少年には癒されますわ~
アイアランドのオーケストラ曲では、forgotten riteがとても好きであります。
アイアランドも、ほかの英国音楽とい同じように、ひっそりと楽しむたぐいの音楽ですね。
投稿: yokochan | 2010年6月15日 (火) 12時25分