バーンスタイン 「キャンディード」 佐渡裕プロデュース・オペラ②
あらすじを舞台の様子を含めて書いときます。
東京公演を観劇予定の方は、ネタバレとなりますので、以下はご覧になりませぬように。
舞台には、テレビが据えられてます。
それもスイッチ類がガチャガチャまわす式の懐かしいヤツ。
このブラウン管の中で、キャンディードのドラマが行われるわけでして、これもカーセンお得意の劇中劇風の心地よい倒錯感をもたらす仕掛け。
ほんと、よく出来てるんだから。
序曲が始まると、このテレビから映像が流れだす。
それは、幸福の絶頂にあったアメリカン・ドリームの映像。
私たちも「ルーシー・ショー」や「奥さまは魔女」などで憧れた電j化製品満載の家庭の様子や、ブロードウェイ、ハリウッド、アポロの月面着陸、ケネディ、モンロー、プレスリー等々。
強いアメリカでございますね。
第1幕
ブラウン管の部分が開くと、舞台はウェストファリアの金持ち男爵の豪邸。
ヴォルテールその人が出てくる。
この方が、舞台の進行役で狂言回し的存在。
ブラウン管のこちら側、すなわち、われわれ観衆とテレビの中の間に終始たっていて、常にこちらに背を向けてテレビの中で行われることを見守っているのだ。
ヴォルテールは、劇中のパングロス博士と掛け持ちなので、博士になるときは、鬘もとって18世紀の衣装も早変わりして、ブラウン管の中にはいってゆく。
豪邸、そこはホワイトハウスに置き換えられている(笑)
大統領風の家主とファーストレディの夫婦には、マクシミリアンとクネゴンデの兄妹ふたりと、非嫡子のお人よしのキャンディードとメイドさんのパケットがいて、仲良く、何不自由なく暮らしている。
お父さんはメイドさんに手を出してるし、奥さんは世間体ばかり。
教師であるパングロスは、子供たちに「最善説」を説く。
「この世界は、あらゆる可能性の中で最善に造られている」と。
そんなパングロス先生、自説の一環として、これもメイドさんとデキていて、別室でよろしく事にいたっていて、それを見ていたキャンディードとクネゴンデは、自分たちも最高に気の合うペアなのだからと、いちゃいちゃする。
この二人、お互いの思いを二重唱で歌うのだけど、キャンディードは真面目に暮らして農場やって・・・と、クネゴンデはお金持ちになって大きな家に住んで何不自由なく・・・と、実は内容が全然かみ合わない(笑)
二人の絡みを、兄に密告されてしまい、キャンディードは着の身着のままで追い出されてしまう。
ブラウン管の中には、まるでタイムマシンのように奥へゆくほど、すぼまって見えるパースペクティブな背景が出来て、ここに一人キャンディードがあらわれる。
一文なしで、さまよっているところを、兵隊にスカウトされ、兵士となるが、束縛を嫌う彼は脱走し、たびたびの鞭打ちの刑に合い、ついには死刑宣告もされるが、ぎりぎりで大赦を受け死を免れるものの、ウェストとイーストの間で戦争が始まる。
ヴォルテールが戦争が引き起こす数々の惨状を語るなか、奥では兵士たちが左右に別れて闘っていて、やがてみんな倒れてしまう。
そんな中に、クネゴンデの死体を見つけてキャンディードは彼女の名前を何度も何度も呼んで嘆いて歌う。
ここでパケット先生と出合い、さまようなか、こんどは、知的な人を求めていたとして再洗礼派に呼び止められ船で出港。
しかし、この船が沈没してしまい、なんとかかんとか陸地にたどり着く。
そしてそこは、ビジネスマンが忙しく歩き回る都会。
ところがこの都会も、大地震が襲って崩壊してしまう。
多くの犠牲者を出した惨事の責任を問われキャンディードとパングロスは逮捕されてしまい、大審議会にかけられる。
ここでは、まるでKKKのような禍々しいなりの連中が踊りながら批判を繰り返す。
その対象は、まずはユダヤ人、そして赤、それと我らが二人。
絞首刑が言い渡され、天井から首つりの縄が下りてきて、驚くことにほんとに首をくくられてしまうんだ。(ワイヤーで体がしっかりつながれいたから大丈夫だけど、すごいリアル)
一方ウソみたいだけど、クネゴンデは奇跡的に農場主に救われ手当てを受け生き返っていた。
派手な生活を捨てきれない彼女、多くの女性たち(遠くてわからなかったけど、オードリー・ヘッバーンみたいに見えた)と一緒に映画のオーディションを受けていて、映画製作家風の二人のパトロンを獲得。
ブラウン管の舞台には、モンローの唇の幕がかけられ、さぁ、始まります、このオペレッタ最高のアリアが。
幕の間から、ふたつの手がニョッキリ出て艶めかしい動き・・・・。
そこから登場のクネゴンデは、まさにマリリン・モンロー
10数人の男たちに囲まれ、宝飾で着飾る彼女。
俗で無邪気で男も自分のためにあると思ってる彼女。
すごい描き方だと思いませんか
この場面のダンスの振り付けも最高に楽しめましたよ。
男子は、輪っかになって彼女の周りをくるくると回り、やがて彼女を抱えて曲のフィナーレに。盛大にブラボー飛んでました。
拍手が鳴りやむと、奥から兵隊姿のキャンディードがあらわれ、感動の対面。
彼女の付き人のようなオールド・レディが飛んできて、パトロンの一人が来るから隠れてと忠告するが、キャンディードはお供の美人秘書3人を引き連れて登場のパトロン1号を何気なく手にしたピストルで撃ってしまう。
あれ大変と思う間もなく、パトロン2号もやってきて、こちらもまたさりげなく殺してしまうキャンディード。
二人とオールド・レディは、レディの馴染みの船長の船で新世界に向けて出港する。
ここでは、リアルな船のデッキが出てきてみんな甲板で来るべき世界に望みを託す。
ここまで外で見てたヴォルテールは、キャンディードが忘れていった大きなリュック(これがのちに活躍するツール)を船に投げてあげて、出港。
第2幕
間奏曲の間は、また懐かしのアメリカン映像。
今度は、豪華客船で旅する幸せ夫婦やキャデラックなどの大型アメ車の映像で、大量消費社会の始まりの象徴か・・・。
船上で、キャンディード、クネゴンデ、オールド・レディ、新たなキャンディードのお供のインディアンのカカンボがデッキチェアに寝そべり、ボーイがドリンクを運んでいる。
ここで、オールド・レディが自分の数奇な生い立ちを語る。自分は法王の娘で、戦争に会い捕えられ、レイプされ、お尻の半分を切り取られたと(ほんとかいな)。
ここでは場面は夕方となり、上からカラフルな豆電球が下りてくる。
やがて船は新世界の港に到着し、入国審査官が書類を厳しくチェックしていて、オカマちゃんの乗客に手厳しく対応するが、袖の下を受け取って通したりしている。
ところがこのオッサン、クネゴンデを大いに気に入り、いきなり結婚の約束をして囲い者にしてしまう、という急展開。
一方のキャンディードは、ここでも殺人罪のお尋ね者とされていることを知り、カカンボとともに逃げる。
二人は荒野を走るハイウェイを旅するが、ハレルヤを歌い、プラカードを持った宗教団体に出会う。
道路の奥の標識には、ソルトレイクシティ・ユタ州の表示が・・(よく考えられてますなぁ)
ところが、この中に兄マキシミリアンの姿を発見して、二人はまたもや感動の再開。
死んだと思ってた妹がまだ生きていて、自分は彼女と結婚したいと語るキャンディードに、身分違いでけしからんと手厳しい兄。
キャンディードは、なんだかんだで、またさりげなくピストルでズドン(連続殺人者ですよ)。
またもや逃げるふたり。
原作では黄金境エルドラドとなっているが、ここではテキサス。
困ったキャンディードが、大きなリュックを地面にドカンと降ろすと、そこから黒い石油が噴水のように沸き出てくる。
そこへ来たテキサスの実業家数人は、この油田を買うといい、安く買いたたかれてしまうが、それでも二人はそこそこの金持ちになる。
実業家たちは、幸運のシェルとかテキサコとかのアドリブも言いあっていて笑えた。
お尋ね者の自分はあまり動き回れないからと、カカンボにクネゴンデの捜索を頼んで、しばしの別れをする二人。カカンボは、人を信じちゃいけないよ、と忠告するのが印象的。
一方、クネゴンデとオールド・レディは、テレビとコーラとポテチのカウチライフをする暴力的で猥雑な審査官~典型的なアメリカン~にうんざりしている。
アメフトを見る審査官、それをイライラしながらショー番組に切り替えるクネゴンデ。
さらにテレビを消すオールド・レディ。この繰り返し、3人のイライラは募るばかり。
これを外から見てるヴォルテールも、大テレビのチャンネルを回してましたよ(笑)
キャンディードは船で国内移動しようと探す途中、砂糖工場で酷使され不具になった男と、貧乏で金がなくゴミ掃除をしている男と出合い、彼らの悲観論を聞き、最善説にやや疑問を持ち始める。
ところがそこに、またもあらわれた実業家(車で来て不具の男を轢いてしまう)が船を出すという話にまんまと引っ掛かってしまい、お金のぎっしり詰まったリュックを信用して預けて奪われてしまう。このリュックは、オイル缶の中に隠される。
ハワイの人々が大勢出てきて見事なダンスを披露して、出港を見送り。
ところが、キャンディードが乗ったその船はまたしても沈没。
実業家のタンカーと船が衝突して、あたりの海は黒い原油だらけになってしまい、赤いオイル缶がたくさん浮いている中、キャンディードのリュックも漂っていて、それを頼りにしがみついている人物がひとり。そう、パングロス先生です。
まだ自分の理想論である最善説を説いてるしぶとさ。
この人も、絞首刑の縄が緩んでいて、助かったと(なんでやねん)。
彼ら二人が見守るなか、左右からかぶり物を付けた水着の男が5人、国旗を象ったマットレスに乗って出てくる。
手前から、スコッチを持ったイギリスの元首相トニー・ブレア、赤ワインボトルを持ったフランスの元大統領シラク、ウォッカを持ったロシアのプーチン元大統領、白ワインのイタリアベルルスコーニ首相、そして一番奥には、バーボン持ったブッシュ元大統領。
この5人が笑えるシュールな会話を、原油の海で歌うのです。
しまいに、5人集まって、体にオイルを塗り合ってましたよ(笑)
なんだか呑気な戦犯っていう感じ・・・・・。すごい風刺ですな。
場面変わって、ラスベガス。
胴元、バニーちゃんや、警官、ウェイトレスなんかが、いい加減に金儲けの歌を歌い合う。
ドル紙幣の幕で飾り付けられた舞台。
ここで、クネゴンデとレディはダンサーとして働いていてセクシーかつ滑稽なダンスを披露。
そこへついにキャンディードとパングロスがやってきて、ウェイトレスとなった実はパケットを見つけ出した先生は、追いかけて舞台に上がってしまい、ダンスと歌をやむなく披露することになるが、これがどうしてなかなかのもの。
一方、胴元オーナーから金持ちそうな兵士から金を巻き上げろと指示を受けて、仮面をつけて、キャンディードに接触するクネゴンデとレディ。
彼女たちとわからないキャンディードが背負ったリュックから、クネゴンデたちがお金を1枚1枚抜きとってゆく傍らで、先生はイケてるダンサーたちにお金を配っている。
このベガスの場面では、金が一番となってしまった今の世の中を風刺しているとしか思えない。
仮面が落ちて、クネゴンデとわかったキャンディード。
二人きりになった舞台。
結局は君もそういうことだったのかと、お金を彼女に投げつけるキャンディード。
ショックで、茫然とするクネゴンデ。
この悲しい光景に、私は涙が出てしまった。まわりでも泣いてる女性が・・・。
結局、最善説なんかありゃしない。でも悲観論ばかりでもない。
わかったのはその中間に、人の幸福とはあるんじゃないだろうか、とキャンディードはしみじみと歌う。
最後は、これまでの登場人物が全員出てきてブラウン管の中からこちらを見ている。
畑を耕そう、今できることをやろう・・・、キャンディードが中心となって歌う、感動の大団円。
テレビからひとり抜け出してきて歌うキャンディード。
そしてクネゴンデに結婚しようと申し出ると、ヴォルテールが歩み寄り、彼女がテレビから抜け出すことに手を貸してあげる。
やがて、登場人物すべてが、テレビの中から舞台の前に出てきて歌う。
背景のブラウン管画面では、いま起きている人間が引き起こした世界の災害が次々に映し出されてくる・・・、原油流出、干ばつ、津波、酸性雨、森林減少、大気汚染・・・。
見るにも酷な映像が次々と流され切なくなる結末。
最後に地球が映し出され幕。。。。。
前向きなエンディングでありながら、観る私たちに不安の種を植え付ける。
人物たちが、テレビから抜け出してきたのは、これらはテレビの中のことじゃなく、いまある私たちの問題なんですよ、との提起に他ならない。
娯楽性とメッセージ性に富んだ実に素晴らしい演出であり、同様に素敵なバーンスタインの音楽でありました。
ドタバタ・コメディじゃなんかじゃ決してなかった。
深い感銘を覚えました。
終演後、バスで伊丹空港に向かうさなか、甲子園球場では黄色い声援が盛んに飛んでおりましたよ。
以上、オシマイ
画像は一部、公演チラシとHPから拝借しております。
| 固定リンク
コメント
こんばんは。
きゃ~~、っと悲鳴を上げそうです。なぜなら昨日某評論家先生のブログを読んで
「キャンディード行きたい病」に感染しそうになってしまいました。寸でのところでネットのチケット購入のポチを押さずにおりましたが、ここまで書かれては!!!!
帝劇のキャンディードに何を求めたのか不完全燃焼しているわたくしは日々あの序曲にうなされております。
ああ、この後やはりチケット購入してしまいそうです。。。
投稿: moli | 2010年8月 2日 (月) 23時31分
moliさん、こんばんは。暑いですねぇ。
そして、こちらの「キャンディード」、熱い上演でしたぁ。
煽り過ぎてしまってごめんなさい。
なんといっても、カーセンの洒落た演出が素晴らしく、立派なオペラ作品になってましたし、歌手たちも、しっかりしたクラシカル系の方々。
そして、核として存在感あった佐渡さん。
是非にと、お薦めします。
でも、チケットあるといいのですが・・・。
投稿: yokochan | 2010年8月 3日 (火) 00時54分
yokochanさまこんにちは、毎日暑いですねぇ。
そんな暑い中さらに熱い(暑い)音楽を聴きにいらっしゃるとはさすがです!(笑)
序曲しか知らなかった「キャンディード」ですが、面白そうですねぇ。
ぜひ聴きに(見に)いきたいのですが貧乏人ゆえ実演は望めません(泣)
N○Kとかで放送しないかなぁ…
ナマで見るのとはかな~り違うんでしょうけど…
投稿: ライト | 2010年8月 3日 (火) 12時26分
ライトさん、こんばんは。ほんとに暑いですねぇ〜
で、関西は関東とは違う南国の暑さでしたよ!
厳しい懐に鞭をくれつつ、キャンディード観てきました。
演出が最高です。
東京公演は、S席しか残ってないみたいですね。
しかも、東京と西宮とで料金が3〜5千円も違うんですよ。
行政が参画してるからでしょうが、東京はなにもかも高杉です!
NH○の放送、望みたいところですね。
やばい表現がたくさんありましたので、N局さまが、それをどう編集するか、とかも興味大なんですよ(笑)
投稿: yokochan | 2010年8月 3日 (火) 19時40分
こんにちは。
会社の人が日本人版キャンディードを観に行きまして大変感激しておりましたので、「ええ?私知ってるよキャンディード序曲とアリア(だけ!)。歌ってあげましょうか?」とか言ってしまいました。さすがに会社では歌えませんでしたが。
私も佐渡版に行こうかなあ・・・と思いつつ、何だか二期会「魔笛」に化けてしまいました。色々と魅力的なものが多くてお金が大変です。マンション更新が・・・うう。
投稿: naoping | 2010年8月 8日 (日) 07時56分
naopingさん、おはようございます。
あまり意識してませんでしたが、キャンディードって結構、上演されているんですね。
でもミュージカルとしての捉え方が大半みたいで、今回のようなオペラに近い在り方であれば、ヲタOKでした(笑)
あのアリアは、さすがにカラオケないですわねぇ(笑)
何度聴いてもいいです。
わたしは、これを取り、「魔笛」を断念しております。
まったく、こまったもんですね。
廉価クッキング、1日ゼロ円、がんばりましょうよ!
投稿: yokochan | 2010年8月 8日 (日) 09時14分