ダルベール 「低地」 ヤノフスキ指揮
青森の岩木山。
一面の田、そう津軽平野にそびえる美しい山でした。
北東北では、岩手の岩手山とともに、すくっと立つ姿が実によろしい。
わたしは、北海道・東北が好きでして、全国好きな県を順にあげると、上位はそちら方面だったりする。
これはなにかと考えると、豊富な自然と寒暖のメリハリ、そしてなによりも、食と酒がわたしに合うのでしょう。
その順位を書くといろいろ支障が出そうなので、ちょっとだけ・・・。
やっぱり①は神奈川、そして②北海道、いま住む③千葉、④青森、⑤静岡、⑥、⑦・・東北各県。。。。
外国の地域意識ってどうなのだろう?
アメリカやドイツは州政があるけど、州人なんてのがあるのかしら?
日本は、県別に県人意識が強いし、県単位でも地域によって違うものがあるし。
そう、南北に広く、海に山に川が豊富で、のっぺりしてないから、地域が際立つのでありましょう。
いいなぁ、日本
今日のオペラは、オイゲン・ダルベール(1864~1932)の「低地」。
ダルベールという名前じたい初めて聞かれる方も多いと思う。
私はこのオペラのみで知っていた程度だが、今回リブレットを読んでみてびっくり。
オペラをなんと、22作も書いてる人なんです。
そのコスモポリタン的な来歴もおもしろく、生まれは母方がイギリス人だったので、スコットランドのグラスゴー。父方はフランス人の作曲家。(ちなみに同い年がR・シュトラウス。)
ゆえにフランス風の名前を持っているが、ロンドンに学びつつピアニストとして活躍。
やがてウィーン留学。
そこでは、ハンス・リヒターと同門になり、ビューローともつながり、ワグネリアンとなる。
やがて、リストの目にもとまり師と仰ぎ、ドイツで活躍。
ドイツ人としてのアイデンティティを持ちながらも、最終的にはスイス籍を得て、ラトヴィアのリガに没している。
まぁすごい経歴であります。
作曲家でありつつも、リスト直伝の有力なピアニストでもあったので、ピアノ作品も多く、バックハウスもその弟子筋にあたるらしい。
その音楽はというと、もちろんワタクシが喜々として取り上げるからには、ワーグナーの流れを引いたもの。でも、シュトラウスのように豊穣なものではなく、濃厚な後期ロマン派風でもないし、マーラーや世紀末風に分厚いオケが鳴り渡るものでもない。
じゃぁ、何なの?ということになるが、この「低地」ひとつでは判断できませぬが、それらの要素がいろいろ融合された折衷的な音楽で、とても聴きやすいし、私なんぞ、これひとつでは中途半端とはいえ、いろいろな響きが楽しめちゃうから結構気にいっている。
たくさんあるオペラの素材も多彩。
29歳の初オペラはワーグナーどっぷりらしいし、新古典風のすっきりしたものもあるらしいし、キャバレーソングの盛り込まれたオペレッタ風もあるらしいし、フォックストロットやジャズの要素を取り入れたものあるらしい・・・・・・。
ともかく、多度済々。ゆえに印象に残りにくいのかもしれない。
この「低地」はというと、激情と愛増渦巻くドイツ風ヴェリスモオペラなんです。
当然、そこにはナイフはなけど、殺傷死もあります。
1903年、プラハで初演。
ところは、スペインのカタロニア、フランス国境近く、ピレネー山脈の麓の低地地区の村。
セヴァスティアーノ:ベルント・ヴァイクル トマッソ:クルト・モル
モルッチョ:ボド・ブリングマン マルタ:エヴァ・マルトン
ペドロ:ルネ・コロ ナンドー:ノーベルト・オルト
マレク・ヤノフスキ指揮 バイエルン放送管弦楽団/合唱団
(1983.2 ミュンヘン)
プロローグ
のどかな山岳地方を思わせるクラリネットのソロで始まる序曲。
夜明け、羊飼いのナンドーが羊の一群を連れて通りかかり、仲間のペドロは狼に注意するようにうながす。
(この狼が羊を襲う、というのはこのオペラの持つ残忍性と偽善の象徴ともある)
ペドロはもう何年もこの山の頂に住んでいて、低地の人々との関係を絶っている。
毎晩、祈ることはといえば、死んだ両親のことと、いい嫁さんが来ないかなぁ、ということ。
そして、昨晩は夢で、ふたつ目の祈りが近く叶うと・・・、ここのアリアはなかなかです。
そこへ、遠く山の尾根から3人の人物が見えてくる。
専制的な地主のセヴァスティアーノと長老トマッソ、そして若い娘のマルタ。
彼女は亡くなってしまった粉屋の娘で、セバスティアーノの愛人となっているのだった。
このセヴァスティアーノ親父がこのオペラのワル役で、狼に象徴されるわけ。
資産が破たんをきたしつつあって、金目当ての結婚を目論んでいて、そのために愛人が邪魔になり、誰かに娶らせようということを思いつき、自然児でちょっと頭の足りないペドロに白羽の矢がたった。
政略結婚をしても、引き続き愛人関係を継続しようとのたくらみもあった悪代官。
そんなこととはつゆ知らず、思わぬ結婚話に喜々として山を降りるペドロなのでした。
第1幕
下界では、何も知らないペドロをバカにして嘲笑している。
村の男モルッチョなどは、以前からマルタが好きだったもんだから、これで自分にもチャンスが、と狙ってしまう始末。
またマルタは、ペドロのことをセヴァスティアーノの悪だくみに加担するとんまな奴と信じ込み、嫌っている。
モルッチョは、村の長のトマッソを呼び出し、セヴァスティアーノが企んでることをタレこんだものだから、トマッソは悪代官地主に、ほどほどにしなさいよ、と忠告する。
そんな中で、結婚を祝う鐘が鳴り響き、ことは進行してゆく。
セヴァスティアーノは、マルタに愛人を続けることを改めて言い、今宵、部屋に忍んで行くことを約束させ、その合図は彼女の部屋の明かりを灯すこととした。
なんにも知らないペドロは、不器用ながらも哀れで頑固な花嫁を励まそうとして、かつて羊を攻撃してくる狼を殺して得た銀貨を彼女にあげる。
マルタは、ペドロがセヴァスティアーノの陰謀の加担者でないことがわかってきて、好意をいだくようになる。
彼女は、今宵起こる真実を語り、明かりを灯さずにおけば、彼は来ないと語る。
ペドロは、彼女のそばの床にうずくまって眠ることを希望し、「今夜は狼はこない・・」と歌う。
第2幕
翌朝、明るくなりかけてくる。ヌーリ(子供)が愛らしい朝の祈りの歌を歌う。
ペドロは目を覚ますが、マルタの部屋の明かりが彼を不安にする。
ほんとうは、ここを立ち去りたいペドロは、村の人々と仲良くするこができないけれど、マルタとの友情を深めようと決心した瞬間に嫉妬にも似た思いを感じるようになった。
一方のマルタは、ペドロに同情と愛情を持つようになる・・・。
長老トマッソは、マルタに自分の生い立ちをペドロに話したらどうかとすすめ、マルタはここでバラードを歌う。
路上でボロをまとって物乞いをしていた孤児のマルタを、家に連れて帰り、家事の仕事も与え育てたのがセヴァスティアーノだったのだ。
こう語って、恥ずかしさと怖れで、死にたくなってしまう思いのマルタ。喧嘩になってしまい、自暴自棄になる彼女、そしてペドロはナイフで彼女を少し傷つけてしまう。
しかし、ここでマルタは気付いたのだ。ペドロが彼女を愛していること、そしてはじめて、自分を束縛するものから解放してくれる人だということに。
ついに二人は心を通わせ合い、こんな低地とはおさらばして、山にいって暮らしたいと歌う。
さぁ、地主セヴァスティアーノがそこへやってきて、ギターを片手に歌う。
そしてマルタと一緒にダンスを踊ることを強要するが、ここへペドロが割り込むものの、摘み出されてしまう可哀そうなペドロ。
そこへ、長老トマッソが登場して、セヴァスティアーノの結婚先に、彼の悪だくみを暴露してやったことと、結婚が破談になったことを告げる。
クソっとばかりに、何もなくなってしまったセヴァスティアーノは、いままでどおりに、マルタを囲いものにして、よりを戻すぞという。
ところが、マルタは、「ペドロとの愛のために、自由のために嫌よ、戦うわ」と抵抗する。
むりやり口づけしようとするセヴァスティアーノに突入するペドロ。
彼は今までみたいな単純な男じゃない、狼とかつて戦ったように、マルタを片方で守りつつ、片方でセヴァスティアーノに掴みかかり、そして力一杯首を絞めて、ついには殺してしまう。(これは、立派な殺人じゃね。)
「ふたりで低地とおさらばして、山頂へ行こう。正義と自由だ、狼に勝ったどーーー」と意気揚々と二人して山へ登ってゆく・・・・。
オシマイ。
人殺して、それで山へ籠って終わりかよ。。。。
ってな、腑に落ちない終りかただけど、歌手たちに歌いどころは満載、ワーグナーばりのライトモティーフもふんだん、そして何度も繰り返し登場する旋律はすぐに覚えてしまうので、音楽の魅力が台本に勝るということになる。
各幕で歌われる、牧人ペドロ(ペドロは独語にするとペーターですよ)の情熱的で甘味なアリア。
マルタの身の上を語る魅力的なバラード。
悪党セヴァスティアーノの明るくナイスなダンスソング。
羊の番人が、狼を倒す=マルタを愛したペドロが、セヴァスティアーノを倒し解放する。
これが、このオペラのモティーフですな。
このCDの配役は豪華です。
まずは、ルネ・コロにこうした役柄を歌わせると実にうまい。
自然児が人間界に辟易とし、やがて愛を覚えて成長する。
そう、まんまパルシファルでございますね。コロの美声を久々に堪能しましたよ。
対する悪漢役のヴァイクルも歌い口のうまさが際立っているけれど、この人はやはり、悪人に向いてない。わけ知りのザックスみたいで、ちっとも邪悪さが出てこないのは困りもの。
モルの長老は味ありすぎ。
で、エヴァ・マルトンのマルタなんだけど、実に立派なんだけども、ちょっと大味でペドロのおっかさんみたい。でもそのドラマテックな声の威力ななかなかのもので、バラードなんて泣かせます。
ヤノフスキのソツのない、オペラティックな指揮が素晴らしく、捉えどころのない音楽を見事に処理している。まさに職人技を感じさせる。
このオペラ、舞台で観てみたいし、チューリヒDVDのなんかも観てみたい。
ダルベールのたくさんあるオペラ、あと1作「死んだ眼」も入手済みなので、いずれご紹介しましょう。
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コメント
おはようございます。
そうそう、低地ってオペラありましたね。フラグスタートがヌリ役でデビューっていうのは頭にあるんですけど(アレレ?てっきり主役かと)、全曲は何だか持ってないです。なんか地味な感じがして。なんか聴いてみたい気もします。
投稿: naoping | 2010年8月23日 (月) 07時13分
naopingさん、こんにちは。
フラグスタートがヌーリ歌ってるんですか!
3幕の祈りの歌かもです。ダルベールは確かに地味です。歌い手たちの豪華さに助けられた部分もありましが、何度も聴いてたら愛着がわいてきましたよ。
なんか聴いてみてください〜
投稿: yokochan | 2010年8月23日 (月) 19時50分