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2010年9月19日 (日)

第14回「英国歌曲展」 辻 裕久 テノールリサイタル

Ginza1

銀座のど真ん中にある王子ホールへ。

毎年、初秋のこの時期に開催される辻裕久なかにしあかね「英国歌曲展
今年、第14回目を数えるが、わたしは残念ながら昨年から。
それまで気になりながらも、行けなかった。
だって、辻さんのリリカルな美声で聴く英国作曲家の歌曲の数々、ほんとうに素晴らしいのだもの。
今年のタイトルは「夢の谷
美しいチラシやパンフレットもこのシリーズの楽しみのひとつで、なかにしさんの解説と辻さんの歌詞の対訳も私にとってはとても貴重なものとなりつつある。

British_songs_14

  クィルター     「3つのブレイクの歌」
                夢の谷、野の花の歌、夜明け

  ウォーロック   「3つのベロックの歌」
                ハナカーの風車小屋、夜、我が故郷

  ディーリアス   「4つの古いイギリスの詩」より
                白く 柔らかく 甘い彼女、 水仙に

  ウォーロック   「ピータリズム 第1セット」
                チョップチェリー、哀歌、ラテキン

  なかにしあかね  「夢の谷」~テノールとホルンのための(世界初演)

  ブリテン      「カンティクル第1番」
                私の愛する者は我がもの

             「カンティクル第3番」~テノールとホルン、ピアノのための
                 なおも雨は降る
            
            ~「ロンドンデリー・エア」~(アンコール)


      テノール:辻 裕久

      ホルン :今井 仁志

      ピアノ  :なかにし あかね

                     (2010.9.18@王子ホール)
      

このコンサートのタイトルにもなっている「夢の谷」。
ロジャー・クィルターのブレイクの詩につけた3つの歌曲の1曲目。
伸びやかでメロディアスな旋律線が魅力のクィルターは、シェイクスピア歌曲「来たれ死よ」が有名だけど、この「夢の谷」もちょっと陰りを感じたりして、とてもいい歌でありました。
以前、金子裕美さんの歌で聴いておりました。
なかにしさんの解説によれば、「夢の谷」のタイトルは原詩にはなく、クィルターの命名だそうな。
Dream Valley」~なんだかとっても詩的でいいタイトルなのであります。

  
  追憶よ こちらに来て 奏でておくれ 心地よい歌を
  お前が 風のままに その調べを 漂わせるあいだ

  私は 恋人たちが溜息する川辺をながめ
  輝く水面を眺めて 空想にふけろう

  私はせせらぎから 水をすくって飲み リネットのさえずるのを聞こう
  そして、そこに日永一日寝そべって 夢をみよう

  また夜が来れば 行こう 淋しい心の気の向くままに
  暗く沈む 谷に沿い 静かなる哀愁を湛えて
                      

                    (辻 裕久 訳)

まさに、「夢の谷」の光景が目に浮かぶような素敵な詩であり、辻さんの名訳。
リネット(linnet)は、英国や北欧に多いムネアカヒワのことみたい。
鳥は違えど、わたしは昨日の朝聴いたヴォーン・ウィリアムスの「揚げひばり」を思いおこしてしまう。あちらも谷で聴く高く舞うひばりの鳴き声なんです。

そして、プログラム後半の冒頭に、同じブレイクの詩に作曲した、なかにしさんの新作「の谷」が初演され、こちらも非常に印象的な作品でありました。
ホルンとテノール、というブリテンが好んだ組み合わせで、ピアノはお休み。
でも驚いたのは、そのピアノを効果的に使ったホルンの奏法で、N響でお馴染みの今井さんは、立ち位置を変えて、蓋の開いたピアノに向かってそのホルンを吹いて、まるで谷に「こだま」するかのようにピアノを共鳴させていたのですよ。
そのあとに辻さんが共感をこめて真摯に歌い、ホルンは強奏したり、弱音器をつけたりといろいろな奏法で楽しませてくれる。
最後はもう一度、ピアノを共鳴させて、テノールとともに、夢の谷に一陣の風をふぅ~っと吹かせて曲を閉じました。

いつも謎めいていて「たいしゃくしぎ」のイメージばかりが先行してる、ウォーロックの歌曲は楽しくもユーモアとシニカルさを持った味のあるものと、今回痛感した。
「我が故郷」はしみじみと、「チョップチェリー」や「ラテキン」は軽快でユーモアたっぷり。
なかにしさんのお話では、「ピータリズム」は、自身の名前でもあり、当時販売されていたビールの広告から拝借した名前らしい。
謎の多い早世のウォーロック、私も酒飲みだけに、なんだか親しみを感じますねぇ。
ヒック・・・(「ラテキン」では、しゃっくりで曲終了~オリジナルなのでしょうか~笑)

英国作曲家のなかでは、ディーリアスが一番好きだし、この道にのめり込んだのもディーリアスのおかげ。
でも、こうしてほかの作曲家たちの歌曲作品の中にもぐりこむと、ディーリアスの歌曲は独特で、なかにしさんも解説で指摘しておられた。
たゆたうような旋律ともいえない曖昧な流れのなかに、歌を乗せてしまった感じ。
でも、私はそんなディーリアス・ワールドが大好きで、2曲歌われた作品のどちらにも、大いに感銘を受けた。
辻さんの繊細な歌い口となかにしさんの緩やかなタッチのピアノがよかった。
ピアノの伴奏が散文的で印象的で、帰宅後、「水仙に」のピアノ伴奏版とオーケストラ伴奏版(フェンビー版)を聴き比べてみたが、オーケストラは広がり豊かながら切なすぎで胸がしめつけられそう。
ピアノは、もっと瀟洒な感じで、フランスのメロデイを聴くかのようだった。
どちらも、ディーリアスでありました。

後半は、ブリテンの深刻な「カンティクル」を2曲。
第1番は、ピアノとテノール。
当然に、ピーター・ピアーズを想定して書かれているが、「彼は最愛の人、彼もまた私のもの」と何度も繰り返し歌われ、これはまた、おホモちっくな曲かともとれるところが微妙。
しかし、彼を無二の神ととらえればなんのことはない、信仰篤かったブリテンの思いが甘味なまでに、伝わってくる。

そんな背景を歌い・引き出したお二人は、この作品に対する想いも強いとおっしゃる。

第3番は、ホルンが加わる。こちらはデニス・ブレインを想定して書かれた。
この曲は重くて、深い。
「Still faiis the Rain~なおも雨は降る」が、何度も節の冒頭に歌われ、それが徐々に高まりホルンもピアノも深刻になってゆく。
十字架の釘に、殺し合う人間たちに、動物たちに。。。
この世の修羅場に降り注ぐ雨。
しかし最後にイエスの声が感動的に、しかも抑揚少なくシンプルに歌われ、いやでも感動が高まるのでありました。
「なおも愛そう、私の無垢なる光と、血とを流そう、汝のために・・」
辻さんの混じりけのないピュアな歌に、それをそっと支えるなかにしさんのピアノに、ブリリアントで神々しい今井さんのホルンに、最後はわたくし、涙が出ました。
戦争レクイエムと一脈通じる、反戦の士であったブリテンの名作に思います。

お二人のユーモアたっぷりのお話を交えてのこのコンサート。
最後に、ホルンも交えて、「ロンドンデリー・エア」(なかにし編)がしみじみと歌われ、ちょっと重くなった気持ちを、爽やかに解放していただきました。

来年は、9月25日。
第15回の節目に、リクエスト大会らしいのです。
これまで演奏された曲や、こんなの聴きたいの曲などをリクエストできます!
こちらのページでどうぞ。
私ももちろんリクエストしますよ。
英国音楽好きのみなさん、来年是非note

 過去記事 「第13回 英国歌曲展」

Ginza4
王子ホールのお隣は、三越新店。
階上には、緑の芝生がありましたよ。
銀座の真ん中でこんな光景。
でも肝心の店舗はブランド屋さんばかり。異国の方ばかり。
多くの方は、気軽なカフェに・・・・。

Ginza5
ミキモト前のコスモス畑。
去年と同じ。
では、失礼します。

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コメント

お久しぶりです。
秋の気配を感じるときに英国の歌曲、いいですよね。
なかなか機会がないだけに聴けるとうれしいですよね。
ディーリアスなどはぜひ聴いてみたく思いました。
ブログ閉鎖していましたが別にデータを移して再開設しました。またよろしくお願いいたします。

投稿: ピースうさぎ | 2010年9月20日 (月) 13時08分

英国音楽に疎い私ですが、素晴らしい演奏会であっただろうこと想像出来ます。
ウォーロックの「だいしゃくしぎ」の荒涼として妖しげな雰囲気が大好きですが、この曲だけが異質で他は親しみ易い楽しい歌曲が多いんですよね。
ディーリアスやクィルターの歌曲は聴いたことがありませんが、是非耳にしてみたいものです。
歌の国英国の歌曲も色々聴いてみなきゃですね。

ホルンをピアノに共鳴させる、というのも素敵ですね。

投稿: golf130 | 2010年9月20日 (月) 16時45分

ピースうさぎさん、どうもどうも、お久しぶりです。まずは、ブログ再開、お喜び申しあげます。
こちらこそ、またよろしくお願いいたします。

英国歌曲は、リリカルなテノールが相応しく、辻さんの定評あるイギリスもの、堪能いたしました。
来年は、各地で歌うようなことをおっしゃってましたので、お聴きになれるといいですね。
英国の合唱作品も含めて、いろいろ聴いてみたい秋になりそうです。

投稿: yokochan | 2010年9月20日 (月) 21時30分

はじめまして。
辻先生の英国歌曲集のコンサートに行かれたということで、訪問させていただきました。
ホルンとどう合わされるのかな、聴いてみたいなと思っていたのですが、日程が合わず、行けませんでした。でも、こちらのサイトできちんと説明していただいて、なるほど!!!と思ったと同時にならなおさら聴きに行くべきだったと歯ぎしりしました!!!詳細な記載をありがとうございます。
私の周りにも辻ファンが大変多くいるので、こちらのサイトを紹介させていただいてよろしいでしょうか。

投稿: madahiyoko | 2010年9月20日 (月) 21時46分

golfさん、こんばんは。
ウォーロックの「たいしゃくしぎ」と、「カプリオール」組曲とのギャップの大きさが、歌曲で埋まったような気がします。ナイスでした。
そして、クィルターにお馴染みのディーリアスも素敵なものがあります。
あと、ブリテンの歌曲も、もっと聴かれていい、深くて沁みるものがあるのでした!

ホルンと弾き手のいないピアノ、感嘆いたしました!

投稿: yokochan | 2010年9月21日 (火) 00時59分

madahiyokoさん、こんばんは、はじめまして。
そしてコメントありがとうございます。
今回でまだ2回目ですが、ともかく初秋の楽しみの一環となってます。
辻さんのかざりけのない純な歌に聴き惚れました。
なかにしさんの新曲もすてきなもので、ホルンとの相性もばっちり。
 あ、また歯ぎしりさせてしまいましたでしょうか・・・(笑)
辻さんファンがたくさんいらっしゃるとの由、どうぞ拙い記事ですがご案内くださいませ。
ちなみに、15回目へのリクエストは、ワタクシ、さっそく済ませました!

投稿: yokochan | 2010年9月21日 (火) 01時24分

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