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2010年11月19日 (金)

ジョルダーノ 「アンドレア・シェニエ」 新国立劇場公演

Shinkoku201011

新国立劇場
にて、ジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」を観劇。

このオペラを実際の舞台で観るのは初めてでありまして、名アリア、名旋律、ドラマテックな急転直下の筋立てに、息を詰めるようにして舞台に食い入ったのでございます。

ヴェルディ以降のイタリア・オペラを愛し、探求しておりますが、11作品あるジョルダーノのオペラもそのターゲットのひとつでして、いまのところ、こちらの「アンドレア・シェニエ」と「フェドーラ」、「マルチェッラ」を聴いております。
まだまだ聴きがいのあるジョルダーノのオペラに思っております。

「アンドレア・シェニエ」は、素晴らしいオペラであります。
しかし、一歩間違えると、歴史上の出来事に色恋を絡めただけに、荒唐無稽な舞台となってしまいかねないから、演出家のコンセプトがしっかりしていないと、のんべんだらりと名アリア大会で終わってしまう。
 フランス人、フィリップ・アルローの2005年11月の演出は、明快な演出意図とわかりやすい鮮やかな切り口、色彩的な明るい舞台に、流れるようなセンスあふれる舞台転換などがズバリ決まって、極めて見ごたえある上演となっているのでございます。

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 アンドレア・シェニエ:ミハイル・アガフォフ マッダレーナ:ノルマ・ファンティーニ
 ジェラール:アルベルト・ガザーレ   ルーシェ:成田 博之
 密偵 :高橋 淳             コワニー伯爵夫人:森山 京子
 ベルシ:山下 牧子            マデロン:竹本 節子
 マテュー:大久保 眞           フレヴィル:萩原 潤
 修道院長:加茂下 稔           フーキエ・ダンヴィル:小林 由樹
 デュマ:大森 いちえい          家令・シュミット:大沢 健

   フェレデリック・シャスラン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
                      新国立劇場合唱団
                  合唱指揮:三澤 洋史
   演出:フィリップ・アルロー
                      (2010.11.18@新国立劇場)

全4幕を、ふたつづつに分けて、間に休憩を置いた上演。
効果音なども、ふんだんに取り入れ、全体の解釈と主張に統一性をもたらした演出。
舞台の様子で気づいた点をここに記しておきます。
再演ですが、あと2回の上演があります。
まだご覧になっていない方は、お読みになりませぬように。。。。。

1幕。開幕前から、固く閉ざされたそのパネルによる幕は、斜め鋭角に切られていて、片隅には白いゴミのようなものが落ちている。
この斜め切りは、ギロチンの刃をイメージしたそうな。
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音楽開始とともに、白いドレスの女の子と、白い作業着の執事たちが現れ、掃除を初め、同じく白い衣装のジェラールも登場する。
アルローによれば、登場人物たちは、みな白を纏うようにしたという。
身分や立場は、色は白でも、スタイル・デザインで識別できる。
これに、赤や青が加わって、トリコロールカラーが実によく映える仕組みだ。
 そして、パネルには宮殿が映し出されていて、それが斜めなまま開くと、そこは宴が催される宮殿内部になっているという仕組み。
 ここでもアルローによると、絵画を参考にしている由で、1幕はロココ時代のフラゴナールの世界をモティーフとしたといいます。


 もったいつけた貴族たちが次々に入場してくるが、マッダレーナはドレスに着替えておらず、詩人アンドレア・シェニエも平服のまま。
 
これらの中では、芸達者な加茂下さんの修道院長が味ありすぎで、ケーキやらなにやら、ずっとむしゃむしゃ食べてる。
貴族たちが顔をそむけてしまう、シェニエの告発のアリアでは、おもいきり吐いてましたよ(笑)
やがて手に手に、斧や鎌を持った黒ずくめの民衆が入ってきて貴族たちを震撼とさせるが、それでもダンスは止まらない。ダンスがすんだら・・、なんていってる間もなく、民衆は貴族に襲いかかり修羅場となるところで、パネルが斜めに閉まりギロチンの音とともに1幕終了。

幕間は、1幕で出てきた民衆の行進の不気味な太鼓の音がずっと鳴り響き、パネルには、古書からギロチンが書かれた部分が何枚も映し出され、やがてそのギロチンは、1台浮かびあがって、刃がザクンと落ちるところまでCGで再現される。
そのギロチンがやがて2台になり、4台になり、8台になり、太鼓の音のクレッシェンドとともに、倍々に増えてゆく。最初数えていたけど、もう何台あるのかなんやら・・・・・。
しつこいくらいのギロチン+太鼓攻撃に辟易してしまった方もいらっしゃるのでは?
アルローは、ここまでして、革命で断頭台に消えた命の数の多さを表したかったのだろう。



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2幕
は、あまりにも有名なドラクロワの「民衆を率いる自由の女神」の絵画の世界を背景にしたとのこことで、革命派の勝利を描いていて、銃や槍の先には、貴族の首や鬘が刺さってかかげられ、動物や巨大顔のカリカチュアお面をかぶった人物も見受けられる。
革命だ、なんでもあり、ってことでしょうか。
こうした場面と、高橋さんの、これまたキャラクター豊かな密偵の場面が、新国自慢の廻り舞台でもって巧みに繰り広げられる。
密偵やその仲間は、縞々の服で、これは革命軍内の暗殺者・スパイの衣裳で歴史上もそうみたい。
はやくも、ロベスピエールらの主力とジャコバン党の
内部分裂が始まっているのだ。
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 シェニエと赤いショールをまとったマッダレーナの逢瀬と情熱的な二重唱は、斜めに走った仕切りをうまく活用して、光と影、傍らで見張る密偵など、緊張感ある設定となっていた。
 この幕の最後では、革命軍の内部での抗争が描かれ、多くの人々が銃に倒れて銃の激しい音とともに幕となる。
パネルには、赤や青の花火のようなものが映し出された。

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3幕は、ゴヤの絵画の時代の暗さを象徴したとのこと。
資金集めをするジェラール。トリコロールカラーがいたるところに。
マラーだか、誰だかの首も置いてあります。
老女マデロン(竹本さんの印象的な歌)が、十字架が斜めにたくさん立つ墓場を放浪する場面。廻り舞台の効果がここでも絶大。
ジェラールの名アリアも、葛藤を表わすように影の彩どりが暗く、マッダレーナの、これまた感動的な名アリアでも、光と影の効果が素晴らしく、歌の見事さも手伝って涙が出るほど感動した。
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シェニエの裁判のあとは、傍聴席にいた貴族の残党狩りが始まって、ここでも大量惨殺シーンが・・・・。そして、ギロチン音がシャキーーン。

4幕は、ロマン派のフリードリヒの世界といいます。
前半はパネル前で。女囚と入れ替わるマッダレーナは、きょとんとした元貴族の若い女囚を抱きしめます。
斜めにパネルが開き、シェニエとマッダレーナの最後の高らかな二重唱が始まる。
やがて、パネルは全開となり、二人が情熱的に歌うなか、舞台奥から、これまでの登場人物たちが、ジェラールを除き、全員黒い眼隠しをして前に進んでくる。
そこには、これまで何度も出てきていた子供たちもいます。
 死刑囚のふたりの名前は、舞台裏から驚くほどの音量で流されます。
「Son io!」(ここに!)と二人は答え、「Viva la morte insiem!」(さぁ、ともに死を!」と最後に歌うと、後ろの人々が一斉に倒れ、少し遅れてジェラール、そしてシェニエとマッダレーナが倒れてこと切れる。
 しかし、子供たち4人は死ぬことなく、舞台奥に進んでゆき、その舞台奥がオレンジ色に輝き、子供たちのシルエットが浮かんで、感動的に幕を閉じました。


社会が変わっても、死が死を呼ぶ歴史は、いまもどこかで続いている。
しかし、死が最後まで横溢したアルローの舞台は、最後に夢と希望を描いてくれた。
「リング」の幕切れさえも彷彿とさせる素晴らしい解釈ではないでしょうか。
しかし、どちらも始まれば、そこから最後に向かうのであり、また繰り返されるわけであります・・・・・・。

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ファンテーニ
のマッダレーナが、圧倒的に素晴らしい。
声量といい、歌唱のブレのなさといいい、感情移入の巧みさといい、何度も震えがきた。
彼女、一番拍手をもらってました。
美人だし、明るくナイスなお方で、カーテンコールでは、女の子を抱きかかえてしまい、聴衆のわれわれに嬉しそうに手を振ってくれました。
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 同じく、今度は男子を抱き上げて、肩車してしまったのが、ジェラール役のガザーレ君。
この若いイケメン純正バリトンは、ベルゴンツィに師事しているそうで、やや陰りをともなったバリトンは、こうしたヴェリスモや、ヴェルディの諸役にぴったり。
久々に耳が洗われるような鮮度高いイタリアのバリトンを聴いた思いがする。
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そこへいくと、シェニエのアガフォノフは、立派ながら、ちょっとここでは異質か。
高音もよく伸びて、力強くスピントしてるけど、その発声が少しこもっていて抜けきらない。
イタリア人ふたりを相手にして、やや歩が悪すぎたかも・・・。

そして、毎度毎度、脇を固める新国常連の日本人歌手のみなさん。
ともかく立派です。

トスカでは、威勢がよすぎると感じたフランス人指揮者シャスランは、東フィルから幅広く色彩的な音色を出すことに成功してたようです。
欲を言えば、もっとよく歌わせて欲しかった。
しかし、これは演出のコンセプトを考えるとそうはいかないのかもしれないし。

この日のお客さんは、わたしも含めて大興奮。
盛大な拍手とブラボーでございました。

新国は、年内あと「シラノ・ド・ベルジュラック」と「トリスタン」があります。
そして、早いもので、来シーズンの新制作の目玉がふたつ、チラシで紹介されてましたよ。
オープニングは、予想がぴたりとあたって、「トロヴァトーレ」。あのデカ声フラッカーロ氏登場。
そして再来年には、これまた予想が当たり、「ローエングリン」!
P・シュナイダーの指揮に、イケメンF・フォークト君、メルベトのバイロイト並みの顔ぶれにシュテークマンの演出。
先のはなしだけど、楽しみ。

Operacity
オペラシティのツリー、毎年お馴染み。

「アンドレア・シェニエ」の過去記事~シャイー指揮

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コメント

こんばんは。いらっしゃったのですね。丁寧な記事、舞台を思い出しながら読みました。

新演出のときにも行きましたが、説得力のある良い演出ですね。あの太鼓と増殖するギロチンはやっぱりもの凄く印象的でした。いつもながら簡単記事ですけどTBします。新演出時の感想もリンクしてあります。

投稿: edc | 2010年11月19日 (金) 22時20分

euridiceさん、こんばんは。
TBありがとうございます。
昨日は、そこそこ客席は埋まっておりまして、だんだんと熱気を帯びて最後は大きな拍手とブラボーにつつまれました。

それに足る演奏と演出の上演ですね。
新演出を逃したのは残念でしたが、これで気が晴れました。

投稿: yokochan | 2010年11月19日 (金) 23時13分

またお邪魔します。
私も同日観ました。
絵の解説はよくわかりました。
ありがとうございます。

投稿: 河童メソッド | 2010年11月21日 (日) 18時10分

こんばんは。
今日、シェニエ聴いてきました。最前列真ん中指揮者の後ろでした。音楽が淡泊でヴェリズモの血を感じませんでした。声は立派でした。ファンティーニの硬質透明な声とアガフォノフの滑らかなろうろうとした声は大変素敵でした。なぜかカーテンコールでは冷ややかでした。最後の二重唱はウルウル。幕の間のスピーカーからの音とギロチンの画像は楽しくありませんでした。

投稿: Mie | 2010年11月21日 (日) 22時28分

河童メソッドさん、こんにちは。
アルローの解説からの押し売りですが、確かにその絵のようでもあり、そうでもなし、といった感じでした。

投稿: yokochan | 2010年11月22日 (月) 19時50分

Mieさん、こんにちは。
日曜のマチネに行かれたのですね。
やはり、今回は、ファンティーニに尽きますね。
どの回でも、皆さん激賞。泣いてしまうほどでした。 オケはご指摘の通りかもしれませんね。
日本のオケには、ヴェリスモのたぎる情熱は出せないのでしょうか。
効果音は、まぁ、お遊びの類いかもですが、ちょっと音がデカすぎでした。

投稿: yokochan | 2010年11月22日 (月) 19時58分

川崎の前に、観てきた「シェニエ」。ファンティーニが凄すぎました。圧巻です。「アイーダ」、「トスカ」と新国贔屓のファンティーニの絶唱でした。近年の新国のイタリア・オペラのヒロインの中で、彼女は最高のソプラノです。ガザーレのジェラールも品格と情感があってよかったです。

投稿: IANIS | 2010年11月22日 (月) 23時59分

IANISさん、連投お疲れさまでした。
それから飲み過ぎ、お互いお疲れさまでした。

ファンティーニのマッダレーナにこちらもお互い陶酔してしまいましたねぇ。
私は初ファンティーニでしたが、これまで逃した悔しさ以上に、今後の出演が楽しみです。
ガザーレもよかったし、新国のキャスト配分の目利きは、これは大したものだと思いますね。

投稿: yokochan | 2010年11月23日 (火) 00時55分

24日に行ってきました。 
本当に本当に本当に本当に良かったです!!!!!! 
涙ボロボロでした。 
只一つグチをこぼすとしたらアガフォノフさんのお腹周りは詩人とは言えないような… 

カーテンコールで感じたのですが、この舞台に係わった全員の関係がとても良かったのではないかなということなのです。 
デルニエだからというのではなく、全ての歌い手のあれほどまでに良い表情を観たことがありません。4月に行ったときなどはちょっと凍りつきそうな気もしましたが。

投稿: moli | 2010年11月27日 (土) 00時29分

私も最終日に行きました。
出演者に火が付いて、聴衆も盛り上がり、珍しく新国が火の玉状態でした。空席がめだっていたようですが、それを感じさせませんでした。
ジョルダーノの素晴らしさを再発見できました。

投稿: コバブー | 2010年11月27日 (土) 11時06分

moliさま、こんばんは。
今回のアンドレア・シェニエは、ともかくどちらも大絶賛ですね。

歌手も演出もオーケストラもすべてが素晴らしかった。
最終日は、それに輪をかけてよかったことでしょうね!
わたしも、カーテンコールの和気あいあいぶりに嬉しくなってしまいました。
でも、お腹ポッコリさんは、ちょっと乗りきれなかった感じでした。
国民気質でしょうか(笑)

投稿: yokochan | 2010年11月27日 (土) 19時32分

コバブーさん、こんばんは。
新国が火の玉!
すっごくわかります!
何度も通ってますが、そんな風になることはめったにないですもんね。
最終日ゆえの、さらなるもりあがりだったのですね。
映像化しても、劇場に居合わせないとわからない感興でしょう。
ジョルダーノのほかのオペラも上演されることを望みたいです。

投稿: yokochan | 2010年11月27日 (土) 19時40分

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