ファーガソン 「Amore langueo」 ヒコックス指揮
函館の教会。
過去画像より。
カトリック元町教会の夕暮れ間近の様子。
もう10年以上も前だけど、函館は仕事の関係で始終行っておりました。
父が亡くなり、どうしようもない喪失感にさいなまれているときも、お仕事ですからこの地に行きました。
車を駅に返し、徒歩で元町地区に向かい、暮れなずむ頃合に、この教会に初めて足を踏み入れました。
誰もいない静寂の教会。
一人腰掛けてずっと座ってました。
涙が出ました。
あの感覚は、一生忘れられないものかもしれません。
ハワード・ファーガソン(1908~1999)は、いまは北アイルランド、ベルファスト出身の英国作曲家。
おもにロンドンにおいて、勉強し、活躍したものだから英国作曲家といえるのかも。
サージェントに指揮を学んだりしながら、作曲家としては寡黙な方で、フィンジの朋友としても知られる。
教育者・学者・音楽プロデュースとしての才も豊かで、シューベルトのピアノソナタの校訂や、マレイラ・ヘスやカスリーン・フェリア、ヤッシャ・ハイフェッツなどとの仕事もファーガソンの名前を音楽の歴史にとどめるものとなっている。
合唱作品、協奏曲、室内・器楽曲などに桂品を残しているが、ほとんど顧みられていないのが現状。
わたしも、今回のCD、そして同じ協奏曲の入った1枚しか聴いたことがないのです。
しかし、これら限られた音源でも明らかなのは、ファーガソンが時代的には、やや保守的で、英国の抒情派に属する作曲家であること。
そう、まさに朋友フィンジとも相通じる、繊細で心優しい音楽を書いた人のようなのです。
もっと同じ傾向の作曲家をあげるならば、アイアランド、ハゥエルズ、レイトン、ラッブラ等々でございましょうか。
93年発売の、当CDのバイオでは、ファーガソンがまだ存命になっておりますが、99年に物故しているのですね。
まったく知られることなく、ひっそりと消えていったこうした作曲家に、わたしは大いに興味を抱きます。
それほどまでに、今回の「Amore lngueo」と併録のピアノ協奏曲は、美しく魅力的に聴こえるのであります。
フィンジの絶美の名曲「エクローグ」が、同時に収録されていることからも、これらファーガソンの音楽の魅力がおわかりいただけるのではないでしょうか。
というのは、未完の「エクローグ」をフィンジの死後、完成に導いたのはファーガソンだったし、今回の作品をフィンジに捧げたのもファーガソンであります。
1930年頃からそのテキストを選び、ずっと構想を温めてきたファーガソンが、この声楽作品を完成させたのは、1956年のこと。フィンジ死の年です。
この「Amore langueo」は、ラテン語で、おそらくですが、「愛への憧れ」(愛は神への愛)というような意味でしょうか。
15世紀の古詩がその原典で、ラテン語を英語訳したものであるが、その英詩を見ても、内容は例えが多く、わたしにはよくわからない。
磔刑のキリストが、人間(彼女)と対話する内容を恋愛のように例えたのではないかと、勝手に想像している。
詩の内容は、想像の域を脱しないが、ファーガソンの音楽はとびきり美しい。
静かに、そして沁み入るように淡々と語りかける類の音楽で、毅然とした情熱も表出されることもあり、そこには甘味なまでに傾くことがある神への愛の姿がみてとてれる。
「ナイーブな静かな悲しみ」を感じ取ることで、フィンジととても似ていると思う。
合唱が、背景や人間を、テノール独唱がキリストを歌っている(と思います)。
各文節のあとに歌われる、「Quia amore langueo」という言葉。
それが、それぞれに気分や様相を変えながら登場する。
終りの方で、女声を中心にアカペラ合唱が始まる。その静謐な美しさには胸が熱くなる。そして、そのあとテノールが優しく応える・・・。
いったん休止したあと、冒頭の印象的な導入の合唱が再現され、曲はまるで溜息をこらえるかのように静かに終わる。
30分の静かな音楽。
しみじみとしました。
リチャード・ヒコックスがこうした曲にもしっかりと名演を残してくれたことに感謝。
天塩にかけたシティ・オブ・ロンドン・シンフォニエッタとロンドン交響合唱団の純度の高さと、マーティン・ヒルの清潔な歌。
併録のピアノ協奏曲も聴きこむと、実に美しい音楽です。
そちらはまた次の機会に。
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コメント
お久しぶりです。
これは、注文してでも聴いてみたいですね。ファーガソンさんは今回、初めて名前を知りました。それにしても、ヒコックスはこういう秘曲を数多く残されていますよね。ただ、そのヒコックスも・・・。残念というか、悲しいというか。
投稿: ナンナン | 2010年12月 8日 (水) 03時07分
ナンナンさん、こんばんは。
フィンジ好きにはオススメのファーガソンですが、ほかの作品もいろいろ聴いてみたいものです。
ヒコックスが亡くなり、シャンドス・レーベルはめっきり英国ものが少なくなってしまいました。
いまさらながらに、ヒコックスの抜けた英国楽壇は痛手ですね(涙)
投稿: yokochan | 2010年12月 8日 (水) 19時57分