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2010年12月 1日 (水)

オペラ・アリア集 アルフレード・クラウス

Mituikurabu

今日から12月。
でも秋空のようなこの風景。
わたしのような、さまよい人にとってまったく縁のない三井倶楽部。
旧三井の迎賓館で、三井グループ社員の方なら利用できるらしいすよ(モヤモヤさまぁーず風に・・・)

Shibapark

まだ散らない銀杏。
美しいのであります。

Faust

今日のテノールは、アルフレード・クラウス(1927~1999)。
スペイン出身、ドミンゴやカレーラスの大先輩。
でも、ベルカント系とフレンチにほぼ特化した、極めて折り目正しい大歌手。

わたしは、残念ながらその歌声を実際に聴くことができなかったけれど、厳しい自己管理と錬磨により、晩年まで現役を貫いた、息の長い歌手でもありました。
わたしのクラウスの思い出は、これまた、NHKのイタリアオペラ。
50年代から8回続いたNHKのこの招聘が、日本のオペラファンをいかに増やし、その渇をいやしたことか。おおらかな時代だったけれど、ともかくみんな本物に貪欲だった。
いまのあふれかえるばかりの、コンサートラッシュが信じがたい世の中でした(しみじみ)
でも、私たちは、新国というオペラハウスを持つことになったんだから、こちらはもう当時からしたら夢のようなことなんですね。
で、クラウスにテレビやラジオを通じて接したのは、73年のイタリアオペラ公演。
多目的NHKホールの、オペラのこけら落としの一環。
グノーの「ファウスト」でした。
イタリア・オペラじゃなくて、フランス・オペラだったのは「カルメン」以来かも。
グノーのオペラの美しさに驚いたのもさることながら、クラウスの美声と気品。博士から若人、そして恋する一途な悩める男も見事に演じ、歌ってました。
そして、ギャウロウ、スコットといった絶品の共演者に、サッコマーニというバリトンが人気を呼んだ素晴らしい公演だった。
その映像、いまでも完璧に覚えてますよ!

その前の71年には、ドニゼッティ「ラ・ファヴォリータ」のフェルナンドで登場し、これは絶品と伝説化しておりますが、わたくしは写真では見たけれどまったく聴いてませぬ。

その後のオペラ録音は、どれもクラウスならではの貴族的な品格と完璧なフォルムが伴った忘れ難い名作ばかり。

Alfredo_kraus

今回は、1994年のスタジオ録音によるオペラアリア集を聴きます。
この年クラウスなんと、66歳。
どこからどこまで、そんなお歳は微塵も感じさせないハリと艶に満ちあふれてますよ。
そして驚異的なまでの超高音域。
唖然とします、身がきりりと引き締まります。
こんな素晴らしい声を聴いてしまうと、これからの人生、まだまだ頑張れるって思ってしまうのです。
身だしなみに気を使い、常にダンディで、周りに気を配り、そして自分に厳しく、自己を完璧に律することで、その声を末永く維持できた希有の名歌手。
飛行機で世界中飛びまわり、人気ロールを次々に取り上げ声をみるみる失ってしまう今の歌手たち。ビジュアルで補う方向になりがち。
でも、クラウスは、自分の声を知悉し、役柄も出演も絞り、息の長い大歌手となった。
その声は、とても美しく透明であるとともに、極めて人間的な温もりを感じさせ、歌が生身の人間のものであることを強く意識させる。
そして、何度も言うようだが、そこに感じる貴族的ともいえる気品=品格の高さ。
それは、抜群の様式美も持っていて完璧でありながらも、はかない大理石の彫刻美術のようでもある。
ついつい、背筋を伸ばしてしまう。

 1.オッフェンバック 「ホフマン物語」~昔々
 2.チレーア      「アルルの女」~ありふれた話
 3.ドニゼッティ    「ルクレツィア・ボルジア」~ここを去らねばならぬ
 4.ドニゼッティ    「連隊の娘」~ああ、わが友らよ、僕の心にとって
 5.グノー       「ファウスト」~清らかな住まいよ
 6.ドニゼッティ    「ドン・セバスティアーノ」~一人この世に捨てられ
 7.ラロ        「イスの王様」~この番人たちは・・・
 8.ドニゼッティ    「ラ・ファヴォリータ」~あまりに清らかな天使よ
 9.マイヤベーア   「エジプトの十字軍騎士」~エジプトの民よ
10.ドリーブ       「ラクメ」~妙なる妄想が生んだ幻よ
11.R・シュトラウス   「ばらの騎士」~なびくまいと心を武装し


       T:アルフレード・クラウス

   カルロ・リッツィ指揮ウェールズ・ナショナル・オペラ管弦楽団/合唱団
                            (94.1.20@英スウォンジー)


「連隊の娘」の超絶アリアなどもう完璧で、唖然としてしまうが、いまひっぱりだこのフローレンスが機械のように感じてしまうから、どうもしょうがない。
そして、嬉しいことに思い出の「ファウスト」や「ファヴォリータ」が、文字通り清らかで情熱的な歌で聴けること。
チレーアの情熱と儚さも、とうていその年齢からは推しはかることのできない素晴らしいもの。
次々に歌われる、クラウスの至芸に、まさに人間国宝級の歌を聴くような気持ちで感嘆するのであります。
最後のおまけは、私向けに「ばらの騎士」ですよ。
このなんのことはない、舞台に花を持たせただけのようなシュトラウスお得意のイタリア人起用の曲が、浮ついたところが一切なく、なんと神々しく歌われるのでありましょうか。

テノールを聴くという耳のご馳走に加えて、歳を経てゆくという人生の重みをも感じ味あわせてくれるクラウスの名唱にございました




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コメント

いつも記事を楽しませてもらっています。
ビゼーの「真珠採り」のアリアでアルフレード・クラウスに出逢いました。甘すぎず典雅な歌声が素敵です。
「真珠採り」のバリトンとの二重唱もとてもきれいで、それから暫く男声二重唱の曲をネットで訪ね歩きました。
私はバリトンの方が好みなのですが、クラウスは別格です。

投稿: 聖母の鏡 | 2010年12月 2日 (木) 01時38分

アルフレート・クラウスといえば、わたしはサルスエラのアリア集で出会いました。が、そういえば普通のオペラはあまり聴いてないかも^^;
ところであがっているCDをクラウスが録れた66歳と同じ年齢で、ほんの数日前にペーター・ホフマンが亡くなられましたね。それも長い闘病生活の末に。そしてカレーラスは白血病を克服して今も素晴らしい歌声を聴かせている。
その種のニュースにいろいろな想いが交錯するこの頃であります。

投稿: 白夜 | 2010年12月 2日 (木) 10時32分

聖母の鏡さん、こんにちは。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
「真珠採り」は所有してないのですが、アリア集に入っていたかと存じますので、一度確認しなくてはなりません。
ああした曲は最高に素敵なテノールでしたね。
テノール特集ですが、わたしも、バリトンも伊独ともに大好きです。
無理なく歌えますから(笑)

投稿: yokochan | 2010年12月 2日 (木) 12時38分

白夜さん、こんにちは。
クラウスのサルスエラは逆に聴いたことがないのですよ。
オペラばかりのクラウスでした。
亡くなって、もう10年が経過したんですね。

そして、ホフマンの死は、今朝ほど知りまして、大いにショックを受けました。
クラウスの歌と同じ66歳という感慨も同様に味わいました。
カレーラスは病を克服し、ホフマンは闘病あたわず、神に召されてしまう。
歌手の逝去は、ほんと堪えます・・・・。

投稿: yokochan | 2010年12月 2日 (木) 12時43分

田舎暮らしですので、生の舞台やコンサートにはさっぱり縁がなく、それでもネットで好きな曲や歌をつまみ食いしています。そんな私ですので、普段は記事を楽しませていただいたり、選曲の参考にさせていただいたりしています。
記事の冒頭の三井倶楽部の2枚の写真が、私のクラウスのイメージにぴったりで、つくづく眺めてしまいました。
クラウスは全曲ではなく、ナディールのアリアの聴き比べをしたときに出逢いました。バリトンとの二重唱も同じように楽しんでみました。アラーニャとターフェルのコンビも素敵でしたが、ヴァルガスとテジエも、テジエファンの私としては捨てがたいものがあります。
亡くなられたペーター・ホフマンも以前こちらの話題に出た折に、探して歌声を聴かせていただきました。病名がこの夏身罷った父と同じで…若くて素敵な舞台姿と歌声を昨日もネットで鑑賞し、ご冥福を祈らせていただきました。
長々と、失礼しました。

投稿: 聖母の鏡 | 2010年12月 4日 (土) 14時57分

聖母の鏡さん、こんにちは。

写真の色づいた銀杏は、昨日の強風でかなり葉を落としてしまったことでしょう。
冬は寂しいですね。
へっぽこ記事が多いので、とても恐縮しております。

クラウスの66歳の声を聴いていたら、その歳でホフマンが亡くなってしまっていただなんて・・・・。
ちょっと驚き、悲しみもひとしおでした。
わたしの亡父も68歳で、早い死でしたので辛いです。
そして、今年、お父様を亡くされたとのこと、お悔やみ申し上げます。

デジエのバリトン。評判のようですが、お恥ずかしいことにまだ聴いたことがないのです。
ネット探求してみます。
フランス・バリトンは独特の雰囲気でいいですね。

投稿: yokochan | 2010年12月 4日 (土) 16時37分

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