武満 徹 「波の盆」 尾高忠明指揮
路傍の花。
松葉菊?でしょうか。
おわかりになる方は教えてください。
誰かが植えたのでしょうが、力強いものです。
そして、花の色の美しさにはかないません。
季節はずれだけれど、あまりに美しい音楽なものだから。
武満徹(1930~1996)の「波の盆」。
83年の同名のテレビ映画のために書かれた武満徹の音楽で、その組曲。
その映画は、実相時昭雄が監督で、脚本が倉本聡。
いま「波」とかいうと、どうもあの思いがよぎってしまうのですが、ここでいう「波」は、この映画の舞台となったハワイの海。そして、そこから故国日本を思い、隔てる海のこと。
そして「盆」とは、8月のお盆。
開戦前、ハワイに移住して生活した日系1世。
しかし、2世である息子は、米軍に協力し、やがて実家のある広島に原爆が落下することとなる。日本や家族によかれと思った息子の行動が裏目に出ることとなったが、その息子を父は許すことができず、勘当したまま息子は死去。
時間は経過し、その息子の愛娘、すなわち孫が訪ねてくる。
嬉しいものの、わだかまりを捨てられない。
静かな海を見ながら、死んだ妻と語りあい、徐々にその心を開いてゆく。
ハワイ日系社会で、盆踊りが行われ、そこで息子と妻が踊る姿を見出す・・・・。
はじめて、息子の思いをわかったかのような思いの父・・・・。
どうも、このような内容なのです。
この映像は、いまやなかなか見ることができないが、ここにつけられた音楽を知ってしまった以上は、なんとしても観てみたいと思っている。
映画音楽の武満徹は、写実的で、旋律的。そしてとてもわかりやすい。
そしてその映画音楽の数は、あまりに多くて驚く。
亡き田中好子さんの、「黒い雨」もそうです。
本格クラシカルの分野でも、調性が戻り、静謐さはそのままに、明快で耳に馴染みやすい音楽となりつつあった。
武満徹は、「水」を代表格に、自然をモティーフとした作品が多く、人間やその営みといったドロドロした世界とは一線を画していたように思います。
人間を語る場合でも、自然、ないしは人間を取り巻く何か(たとえば「無」)を通して。
こんなこと偉そうに書きつつも、わたくしは、武満作品を多くは聴いてないし、聴いても感覚的に流してしまう所作が多い。
これから歳を経たら、わかるようになるのかしら?
そんな思いはともかく、「波の盆」は調和のとれた美しい音楽の世界。
この作品をことのほか愛する、尾高さんのCDでは、6つの場面が組曲となっている。
Ⅰ「波の盆」(Tray of waves)~ジャケットにはNami no Bonなのに
Ⅱ「ミサのテーマ」 主人公の亡き妻
Ⅲ「色あせた手紙」
Ⅳ「夜の影」
Ⅴ「ミサと公作」 妻ミサと主人公
Ⅵ「終曲」
全編大半がアダージョないしは、アンダンテ。
癒しの音楽ともいわれるかもしれないが、この静けさをどう聴くか。
映画を観てないから、あくまでイメージだけれど、大切なもの、親しいものを思い、辛いことや悔やまれることを、緩やかながら忘れてゆく、そんないじらしくも愛おしい気持ちを呼び覚ます音楽に聴こえます。
言葉にすることはできないくらいの美しさ。
でも、終始、のっぺりとしているわけでなく、「夜の影」では、まるでアイヴズのようにマーチングバンドが突如として乱入してくる。
その唐突さの対比が、また主人公の感情のわだかまりと移り変わりを思わせる。
シャンドスの海外盤ですが、尾高さん、自ら解説を書いておられる(英字)。
「なんと感情的な音楽なのでしょうか。指揮をしながら涙を隠すことができなかった。そして、ヴァイオリン奏者たちが、実際に涙を流しながらレコーディングをしたのです・・・・」
Ⅰであらわれる主要旋律が、ほぼ全編にわたって流れてます。
youtube等でも、聴けますので是非、この美しさを味わってみてください。
尾高忠明 指揮 札幌交響楽団 (2000.5.8@札幌Kitara)
このCDには、ほかに同じ武満の「乱」、忠明さんの兄・惇忠の「オルガンと管弦楽のための幻想曲」、細川俊夫の「海の記憶(広島シンフォニー)」も収録されていて、それぞれにこれに素晴らしくも美しいのです。
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コメント
所詮ドラマ音楽の焼き直し、純粋にクラシックとして作られたものしか興味がない。悪しからず。
投稿: やれやれ | 2011年4月27日 (水) 07時04分
こんにちは〜
>路傍の花。
マツバギクではなくて、
ヒナギクでしょう。
投稿: edc | 2011年4月27日 (水) 08時43分
お早うございます。ドラマや映画の音楽の焼き直しでも名曲は沢山あると思いますけどね。特に映画の時代であった20世紀の音楽には。武満は私も偉そうなことを言えるほど沢山聴いておりませんが、美しくて不思議な曲を作る人ですよね。高校時代に岩城さん&N響のノヴェンバーステップスを聴いた時は「なんじゃこりゃ。うるさいだけじゃないか。これの何処が音楽なんだ!?」と思ったものですが、今では「騒々しいのに静けさを感じさせる不思議な曲を沢山書いた大作曲家」として尊敬しています。小澤さん、岩城さん、若杉さん、沼尻さんなどのCDで聴いています。ブログ主様が今回取り上げられた尾高さんのCDは未聴です。でも面白そうですね。吉田先生が「無調や十二音を使ってこれほど甘くて美しい曲を作る作曲家はベルク以来ではないか」と何処かで書いていましたが、同感です。
吉田先生とは出会いが最悪でした。レニーとウィーンフィルのシューマンの1番と4番のLPを中学生の時に買ったのです。それが生まれて初めて買ったレニーのレコードでした。その解説を書いてたのが吉田先生。ところが1番のことばかり長々と書いて、解説の最後のほうで「4番に付いてかくスペースが無くなってしまった」なんて書いていました(笑)。世間知らずのガキだった私は「限られたスペースの中で1番と4番の両方をきちんと解説してこそプロなんじゃないの!?」と腹を立てて長い間吉田先生嫌いでした。しかし最近はその慧眼ぶりに舌を巻かされることが多くなりました。80年代にヘタレな演奏を連発して多くのファンを失ったメータを吉田先生は90年代に入ってもいい演奏をした時は新聞や雑誌で絶賛したり擁護したりしてしましたし。早世された武満さんの分も頑張って欲しいものです。朝から長文を失礼しました。
投稿: 越後のオックス | 2011年4月27日 (水) 08時49分
やれやれさん、コメントありがとうございます。
>所詮ドラマ音楽の焼き直し<
ほかを多く聴いてませんので、わたしにはわかりませんでした。
しかし、この音楽の美しさに、わたしは感銘を受けました。
それだけです、音楽にそれ以上はありません。それでいいと思いました。
投稿: yokochan | 2011年4月27日 (水) 23時16分
euridiceさん、こんばんは。
どうもありがとうございます。
たぶん違うだろうと確信を持って書いてしまいました(笑)
葉っぱからすると、菊っぽかったので。
お教えいただき、すっきりしました。
投稿: yokochan | 2011年4月27日 (水) 23時20分
越後のオックスさん、こんばんは。
武満音楽は、そのシテュエーションによって姿かたちが違うようですが、わたしは基本はドビュッシーの流れをくむ静謐な世界を思い描きます。
中学生のときに、やはり「ノヴェンバー・・」を聴き、同時に教育テレビの特集で、ノヴェンバーの原型たる「弧」を聴いて、やたらとはまりました。
学校で、リコーダーで尺八風の奏法をすることも、友達同士で流行りました。
もう40年近く経ちます。
こうして長く聴いてきました武満作品ですが、この「波の盆」も同じ武満音楽としてとらえておきたいです。
ほかの作品と合わせて、じっくり聴いていきたいです。
吉田先生への思い。
貴殿らしいですね。
時流や文筆業という作業におもねらない態度はさすがですね。
わたしも、氏のワーグナーやマーラーを書いた文章を始め、多くを導かれました思いがあります。
投稿: yokochan | 2011年4月27日 (水) 23時34分
こんばんは。何かと管理人さんと近いものを感じるので、もしやと思い日本の音楽を見てみたら、何と…と言うよりやっぱりありました「盆の波」が! この曲批判的に書いてらっしゃる方もいるようですが、僕は、名曲中の名曲だと感じています。勿論CD持ってますし、何度聴いたかも分かりません。武満にこんな曲もあるんです!もっと見直されて然るべき作品だと思います(^-^)/ 滅多に演奏されることがない曲ですが…。
投稿: 山元 光 | 2012年9月11日 (火) 20時01分
追伸
すいません、「盆の波」と書いてしまいました。正しくは「波の盆」ですm(_ _)m
投稿: 山元 光 | 2012年9月11日 (火) 20時07分
山元 光さん、こちらにもありがとうございます。
そして、ご丁寧にありがとうございます。
そうなんです、「波の盆」はFMで、やはり尾高さんの指揮で聴いて、ほんとうに好きになってしまった曲です。
わたしも、あの武満が。。。と思いながらも、歌謡的なソングスとか合唱曲を通じ、いろんな側面で、この偉大な作曲家を確認できております。
スマホに保存しまして、エクローグなどとともに、あっとランダムに聞くことも多いですが、涼しい風吹く晩の帰り道などで、この曲が巡ってくると、思わず涙してしまうことが多いです。
投稿: yokochan | 2012年9月11日 (火) 21時59分
武満さんの曲は、80年の「遠い呼び声の彼方へ」以降、ぐっと聞きやすくなっていると思います。
充実期にはいって、とんがらなくなった、そこが物足りないという意見もあるでしょう。
でも前衛だけが音楽じゃない。こどものころ、武満さんがちょうど後ろの席にすわっておられ、振り向くと客の入りは満員とはいかなくて、ふたり分の拍手をしなければならなかった。
当時は現代音楽といえばレコードも少なく、すべて無調で難解だと、やみくもにきりすてるひとも多かった。まずはそういう偏見をなくしていきたかったんじゃないかな、と想像してみたりします。
投稿: | 2012年9月14日 (金) 22時09分
もちださん?ですよね。
こちらにもありがとうございます。
武満氏の音楽を大系的でなく、断片的にしか聴いてこなかったわたしですが、この音楽に出会ったのは、ある意味驚きでした。
たしかに、演奏会の前座などによく演奏される80年代以降の音楽は、聴きやすく、静かで、精神的な慰めを感じるものが多いですね。
お近くで遭遇された経験は貴重なものですね。
わたしは、初演ものや特集もので、何度か舞台にあがる武満さんを遠目に見ていただけです。
いまの日本の音楽も変わりましたね。
投稿: yokochan | 2012年9月15日 (土) 00時35分
初めてメールします。クラシックとポップス(Jも)好きの60過ぎの男性です。武満さんの音楽はTexturesという曲を若いときに聴いて本当に美しく、大天才だと認識し、Mozart, Mahler(もう一人加えるならTchaikovski)と並んで, 最高度の耳の良さを備えた作曲家と思ってはいましたが、波の盆という曲があることは、彼の生前には知りませんでした。死後にiTunesで購入したアルバムの中に入っていて、聴けば聴くほど本当にそれは美しく、最近は、20世紀を代表する音楽であると思うようになりました。ヨーロッパ文明と同様、クラシック音楽も現代音楽というお棺に入れられて完全に葬られ、何も21世紀に引き継がなかったに近いですが、武満さんが日本からジャンルを越えた素晴らしい音楽を遺してくれたことに日本人はもっと誇りにすべきです。この曲やMI-YO-TAなどをもっと、もっと、クラシックコンサートで演奏すれば、衰退一路も少しは変わると思いますが。いいものはいいのですから、そこから再スタートを。
投稿: はらだ | 2012年10月14日 (日) 13時54分
はらださん、こんばんは。
コメントどうもありがとうございます。
50代のリスナーですから、武満作品は、中高校時代に衝撃を受けた「ノヴェンヴァーステップス」をはじめとする和楽器を採用した和と洋の鋭利な混合の音楽でした。
あとは、無難に聴き過ごした感がありますが、後年、「ソングス」に触れ、さらに、こちらの「波の盆」にも触れて、武満感は大きく変わりました。
この流れやあり方は、ご指摘のとおり、日本の音楽界に、新鮮な風を吹かせるものと思います。
今月、尾高さんがコンサートで取り上げます。
あいにくタイミングはあいませんが、こうした動きがひろまればいいと痛感しております。
投稿: yokochan | 2012年10月14日 (日) 23時37分
先月、尾高さんと東京交響楽団によるこの曲の演奏を聴いていらい、忘れることができませんでした。切なくて、優しく、美しい曲で・・・。エクローグと絶対に合いますね。近々ipodかウォークマンを買おうと思っています。yokochanさんがとりあげている尾高さんのCDを注文したので、エクローグやロマンスとともに保存して聞きたいなと思います。
投稿: ナンナン | 2012年11月20日 (火) 00時27分
ナンナンさん、こんばんは。
一日遅れのコメントすいません。
やはりあのコンサート行かれたのですね。
わたしも着目していたのですが。
いまもエクローグとセットで、この曲をスマホに入れて持ち歩いては涙ぐんだりしておりますよ。
ほんとに美しい曲ですね。
投稿: yokochan | 2012年11月21日 (水) 01時08分
ほんとにこの曲は素晴らしいですね。
私はまだ学生で、あまり色んな時代やジャンルの曲を聴いているわけではないので詳しくここがいいとは言えませんが。
何度聴いても綺麗で美しい曲だとおもいます。そして、それだけではないどこか懐かしくどこか不思議な感じもします。
武満さんは私が生まれる前の方ではありますが、もっと違う曲も聴いてもみたいと思います。
投稿: ただの通りすがり。 | 2013年8月24日 (土) 00時24分
ただの通りすがりさん、コメントどうもありがとうございます。
武満作品は、高尚な現代音楽作品にも、ソングスのような歌謡的作品にも、そして映画やドラマの音楽にも、つねに気品と美があるように思います。
そして、どなたをも魅惑してしまう、この波の盆。
おっしゃるとおり、美しさとともに、懐かしさを感じる音楽ですね。
わたしは、スマホに入れて持ち歩いてまして、ときおり聴いては涙ぐんだりしております。
投稿: yokochan | 2013年8月25日 (日) 14時39分