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2011年4月 2日 (土)

ペンデレツキ ルカ受難曲 

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ペンデレツキ(1933~)の「ルカ受難曲」を聴く。

今年の受難節は始まっているけれど、肝心の受難の日および、復活祭(イースター)は、月の満ち欠けの関係で、聖金曜日(キリストが磔刑に処せられた日)は4月22日。
その復活、イースターは、24日の日曜日となっております。
いつもより遅い受難と復活の日。

今年は、なぜか、わたしたち日本人には相応しいような気がします。

春の訪れは遅いけれど、世界中が、日本の苦難を思い行動し一緒に祈っていただいてます。
その思いは、宗教を、国を越えて。

ポーランドのペンデレツキは、アウシュヴィッツに近いデンビツァの生れ。
ユダヤ人ながら熱心なカトリック教徒。
ポーランド人の多くは、子孫をひも解くとほとんどがユダヤ系といいます。
ヨーロッパにわたったユダヤを「アシュケナジ」と呼ぶことは、本で読んで知りました。
そう、ウラディーミル・アシュケナージは、父方がユダヤ人なのです。
その彼らユダヤ人が、いかに迫害を受けてきたかは、あのちょび髭のくそ総統ばかりのせいでもなく、数千年の歴史が刻んできた史実にあるのだけれど、それは聖書を読めば、あらかた理解できる。

旧約は、ユダヤ教の聖典にも等しく、さらに聖職者ラビの権威が聖典化したタルムードなどは、鬱陶しいくらいに人の所作までをも規定している。
新約は、イエスそのひとの物語であり、イエスが説いた愛の伝道の書であります。

マタイ、ヨハネ、マルコ、ルカの4つの福音書に数種の書簡集からなる。

物語性の強い福音書から、イエスの死の場面をピークとする音楽物語を受難曲といっていいかもしれない。
J・S・バッハばかりが有名だけれども、受難曲の数は本当に多い。
しかし、バロック時代が圧倒的に多く、次いで近現代。
ロマン派はまったく少ないジャンルなのです。

1966年に初演された、ペンデレツキのこの受難曲は、偉大なバッハの二つの受難曲を意識して、それらと異なる「ルカ福音書」をベースとすることとした。
大オーケストラと合唱、独唱によるものだが、ルカ以外にも、マタイで描かれている場面を代用したり、ヨハネや詩篇、悲しみの聖母などの挿入もある。
原語もラテン語とギリシア語を使うなど、独創性が目立つ。
そして、音楽はこの時期のペンデレツキならではの、トーン・クラスターや炸裂する打楽器群、叫びや口々に言葉を叫じあう合唱など、凄まじいばかりの緊張感に満ち溢れたものである。

エアヴァンゲリストは、文字通り語り手。
イエスはバリトン、人々がバス、祈りの声をソプラノ、群衆を合唱。
このような役回りが、時にフレキシブルに扱われている。

バッハの作品では、泣き所のひとつである、「ペテロの否認」の場面ももちろんあるが、このペンデレツキ作品では、意外なまでにあっさり通りすぎてしまう。
これもバッハに対する敬愛の証しでありましょうか。
それと、解説書にも書かれてますが、十字架上のイエスの言葉「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」~神よ、何故、わたしをお見捨てになったのですか~は、捕縛前のゲッセマネの園での祈りで発せられる。

全体は受難と死の二つに分けられていて、約70分。
聴き手に非常な緊張を強いる音楽が連続するが、最後の最後には、イエスの死、そして神への感謝にて、壮麗かつ希望に満ちた雰囲気で曲を閉じる。

言葉があることで、ある意味わかりやすい音楽といえます。
イエスを追いつめる群衆心理や裏切りの場面など、そら恐ろしい不気味な場面も続出しますが、ソプラノによる独唱の無垢な雰囲気や、イエスの神々しい語りや祈りなどは胸を打ちます。

奉じる宗教に関係なく、人間の根源の悲しさも感じます。
わたしにとって、バッハとともに味わっていきたい受難曲となりました。

     S:シグム・フォン・オステン  Br:スティーヴン・ロバーツ
    Bs:クルト・リドゥル      朗読:エドワード・ルバシェンコ

   クシシュトフ・ペンデレツキ指揮 ポーランド国立放送交響楽団
                       ワルシャワ国立フィルハーモニー合唱団
                       クラクフ少年合唱団
                         (1989.12@ワルシャワ)

われわれが作りだした電気を生みだすありがたかった存在から難を受けようとは・・・
グーグルアースを見ていたら、崩壊してしまった原発の様子がまるわかりでした。

Fukushima_1_2 Fukushima2_2

さらに北上して見てゆくと、津波の傷跡が広範囲にわたって認めることができます。
座礁した船や、海上の瓦礫までも・・・・。
かつて訪れた場所ばかり。見ていて泣けてきた。

そして、今日、海上を漂う屋根のうえに、漂流する犬が発見され、保護されました。
http://www.asahi.com/national/update/0402/TKY201104020326.html
健気なその姿に、とてもうれしくなりました。
ご主人と再会できることを願ってやみません。

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コメント

ユダヤ人とは、どういう人種なのですか?

投稿: jew | 2011年4月 2日 (土) 22時51分

ペンデレツキの「ルカ福音書」による主イエス・キリストの受難と死を初めて聴いたときのショックは凄かったです(今から40年近く前のFMラジオ)。けれど、ほとんど彼の作品を聴けるようになった今、「ルカ受難曲」より「ウトレーニャ」のほうが衝撃力は強いものがあるように思います。ただ、音響の激しさよりもっと重たいものを感じるのは、ショスタコーヴィチの音楽のような「ポーランド・レクイエム」かな?
荒涼感、寂寞としたものは「ポーランド・レクイエム」の世界に近いと思います。

投稿: IANIS | 2011年4月 2日 (土) 23時18分

おなじ人間です。

投稿: yokochan | 2011年4月 3日 (日) 00時18分

IANISさん、まいどこんばんは。
わたしも、かつてFMで聴いて、なんだこりゃ?的な思いを抱きましたが、いまや普通に聴けます。
それでも、突き刺さる衝撃は少しは和らいだものの、充分でした。
次は、「ポーランド・レクイエム」を取り上げようと思ってます。

投稿: yokochan | 2011年4月 3日 (日) 00時28分

数日前の夕刊で、氏の訃報が記載されており驚きました。心よりのご冥福お祈り申し上げます。

投稿: 覆面吾郎 | 2020年4月 4日 (土) 09時27分

指揮者としても卓越した力量をお持ちでした。
これから、その作品も多く聴かれることとなると思います。

投稿: yokochan | 2020年4月 8日 (水) 08時09分

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