ワーグナー 管弦楽曲集 ジークフリート・ワーグナー
5月6日の増上寺と東京タワーです。
なんだかんだで、わたしは連休はナシ。
半分気楽だけど、ずっと仕事してました。
今年のGWは、まったく狂ってしまった。
でも季節は、ちょっと遅れつつも、確実にめぐってきます。
人間の営みは、変転はあっても規則正しい自然の前にあっては、いかにもせせこましく、小さなもの。
それにもまして、天変地異的なこともあるわけだから、もう、どうあがいても、どうしようもないです。
息子が父の作品を指揮をする。
親にとって、子にとって、こんな幸せなことってあるでしょうか。
そんな貴重な音源があるんです。
リヒァルト・ワーグナー(1813~1983)の長男、ジークフリート・ワーグナー(1869~1930)。
ワーグナーの二人目の妻、リストの娘・ビューローの元妻のコジマとの間に生まれた正式な長男がジークフリート。
自身の作品の人物と、私生活上の娘や息子の名前がいっしょくたになっていた、いかにもな、リヒャルトは、エヴァやイゾルデ、そしてジークフリートをその子供たちに命名した。
そんな、親の七光り的存在のもとに、現在にいたるまで、まったく顧みられることのない、ジークフリート・ワーグナー。
本人も、きっと、不死身の英雄の名前を戴いてしまい、しかも大ワーグナーの御威光もあって、やりにくくてしょうがなかったのではないでしょうか。
ジークフリートは音楽の素養を充分に受けつぎつつも、自身の判断で建築家を志し、世界中の建築物を観てまわり、東南アジアまでもやってきて、かの地(シンガポール)を大いに大いに気に入り、そこで西洋音楽の道を次ぐことを決心してしまうことになる。
偉大な父を亡くしてからのはなし。
いらい、演奏家として父の作品の指揮。
そして、作曲家として19のオペラ作品や、交響作品などを書き、バイロイト音楽祭の総帥として、そして指揮者・演出家として、妻のヴィニフレートに継ぐまで、ワーグナー家のバイロイトにおける基盤を確立させた重要かつ重大人物なのだ。
その作品は、いまではまったくネグレクトされているけれど、弊ブログでは、かつてバリトンによるオペラアリア集を取り上げた。
同様のCDは、ソプラノアリア集、オペラ序曲・間奏曲集、交響曲などに加えて、オペラの全曲をいくつか、わたしも所有し、暇にまかせて聴いておりますが、なかなか記事にするきめてがないところがなんとも・・・・・。
そのあたりは、またいずれ。
今回は、ジークフリートが指揮をした、父リヒャルトの作品の一部を、そこそこ良好な音質でもって聴いてみるのであります。
オランダ人から、パルシファルまで、マイスタージンガーを除く作品の一部が演奏されている。
いずれも、1920年代後半の演奏で、61歳で亡くなってしまった、ジークフリート50台半ばの充実期のもの。
「さまよえるオランダ人」序曲、2幕前奏 ベルリン国立(25)
「タンホイザー」 第2幕前奏 〃 (27)合唱なし
「ローエングリン」 第1幕前奏 ロンドン交響楽団(27)
「ラインの黄金」 終幕 ベルリン国立(27)
「ワルキューレ」 騎行、ウォータンの告別 〃 (26,27)歌手なし
「ジークフリート」 2幕間奏曲 ベルリン放送(29)
「神々の黄昏」 ラインの旅 〃 (〃)
「トリスタンとイゾルデ」 前奏曲と愛の死 ベルリン国立(26)
「パルシファル」 花の乙女の場面 ベルリン国立(25)M・ローレンツ
3幕前奏曲 バイロイト音楽祭(27)
聖金曜日の音楽 ベルリン国立(26)
〃 バイロイト音楽祭(27)ヴォルフ、キプニス
「ジークフリート牧歌」 ロンドン交響楽団(27)
「忠誠行進曲」 〃 (〃)
よくこれだけの音源を集めたものです。
ジークフリートのバイロイトでの指揮活動を見ると、1896年から始まっており、母コジマの演出。
そして、自身が演出も兼ねるようになるのが、1908年から。
第一次大戦の影響で10年間の劇場休止後は、指揮は少なめで、演出と劇場運営、そして作曲に専念していて、トスカニーニやフルトヴェングラーの招聘を企画したものの、その実現を待たずに、母コジマの死の4ヶ月後に亡くなってしまう。
ナチスが徐々に台頭を始めたころのこれらの演奏。
ジークフリート亡きあとは、バイロイトは、ヒトラーの政治利用の場とされて、ワーグナー家には暗雲が垂れこめてくるわけだ。
これらの演奏を聴いて思うのは、古いのは録音だけで、演奏様式は、一部をのぞいて、さほど古臭さを感じないことだ。
茫洋とした霞みがかかったような神秘感や、重たいだけの重厚感、時代がかった見栄のはりかた・・・・・。これらとは無縁に聴こえる。
ちょっと古臭い一部とは、トリスタンで、微妙なポルタメントが気になるところだが、スマートですっきりしたトリスタンに慣れた耳からすると、音の重ね方やねっとり具合がとても新鮮に感じたりもするから、わたくしもげんきんなもんです。
ローエングリンにおける、気品と崇高さは、父や爺さん(リスト)がきっと好んだであろう響きに感じる。
パルシファルの花の乙女の場面の快速ぶりも面白くて、乙女たちが着いてゆくのにレロレロになっちゃってる。
そしてここでは、マックス・ローレンツのパルシファルがちょこっと聴ける。
そのあとの、聖金曜日の音楽が、ベルリンとバイロイトとどちらの演奏も美しくも素晴らしいものだった。
生れて間もなかった時に「階段の音楽」として演奏されたジークフリート牧歌は、ロンドンでの録音だが、とても優しく、テンポの揺らし方や愛情を込めた表情などに、この音楽に格別の思いを抱いて指揮しているのがよくわかる。
父と母の子守唄みたいな、直伝のジークフリート牧歌に、この録音が残されていることを、われわれワーグナー好きは感謝しなくてはなりません。
ワーグナー家三代。
大リヒャルト、ジークフリート、その子ヴィーラントとウォルフガンクの兄弟。
みんな似てます(兄弟写真だけ、向きが違うので、反転させました、ごめんなさい)。
そして、いまのバイロイトの運営を引き継いだエヴァとカタリーナのウォルフガンクの二人の異母娘。
ワーグナーの血は、個性豊かに脈々と受け継がれております。
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