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2011年5月22日 (日)

ヴァイル 「三文オペラ」 マウチェリー指揮

Shinjyuku_gard

ここ、どこだかわかりますか?

新宿のガード下の通路であります。

上は、JR。東口から西口の端への連絡通路で、東からここを抜けると、そこにはペットショップや怪しげなショップがあり、そして、「思い出横丁」があるんです。
それらは、昔も今も変わらないけれど、この通路はご覧のとおり、こんなにきれいになっちゃった。
昔は、暗くて汚くて、夜などはちょっと恐怖を感じるくらいだったし・・・・。

Omoide

思い出横丁のディープな様子。
いくつか筋があって、店からオジサンたちの背中がはみ出してますよ。

Weill_die_dreigroschenoper

クルト・ヴァイル(1900~1950)の「三文オペラ」。

世紀末にドイツに生まれ、ユダヤ系ゆえに戦争・ナチスに翻弄され、アメリカに移り、終焉の地もアメリカ。
劇作家ブレヒトとの共同作業も多く、ふたりセットでナチスから睨まれていたという。

1928年の「三文オペラ」は、英国のジョン・ゲイの「ベガーズ・オペラ(乞食オペラ)」(ブリテンも焼き直ししてます)を元に、ブレヒトが台本化し、ヴァイルが作曲をした音楽劇。
それは、オペラのようで、ミュージカルのようでもあり、わたしにはどちらかというと縁遠い存在だった。

しかし、わたしの大好きな二人の大ワーグナー歌手、ルネ・コロヘルガ・デルネッシュが登場しているとあって、かつて購入したのがこれ。
でも、それっきりで数十年ほったらかし。
久しぶりにCDトレーに乗っけてみましたよ。

面白かった!

日本の劇団が有名俳優で始終上演しているのは、劇が主体で、音楽がそこにあるというあり方。
このCDは、当然に音だけだし、セリフや語りの進行もあるものの、クラシカル畑の歌手が歌っていることもあって、音楽があくまで主体。
前者がブレヒトの風刺的・諧謔的な台本に演出家が腕を競うのに対し、後者は、ワーグナー、マーラー、新ウィーン楽派などのドイツ・オーストリアの音楽の流れに則って反映したベルリンの音楽シーンのひとコマを確かな演奏で記録したもの、といえるかもしれない。
有名なナンバーが、セリフや場面説明の語りを交えながら、次々に歌われる。
歌好きにはたまらない。

そういう意味で、聴きごたえがあったし、かつてと異なり、ヴァイルの本格クラシック作品、交響曲や協奏曲などを経験してきているために、わたしの感じ方も変化しているわけだった。

   メッキース:ルネ・コロ           
   ピーチャム:マリオ・アドルフ

   ピーチャム夫人:ヘルガ・デルネッシュ 
   ポリー:ウテ・レンパー

   ジェニー :ミルバ             
   ブラウン:ウォルフガンク・ライヒマン

   ルーシー:シュザンヌ・トレンパー    
   語り:ロルフ・ボイゼン


  ジョン・マウチェリー指揮 RIASベルリン・シンフォニエッタ
               RIAS放送合唱団
                     (1988@ベルリン)

ロンドンのソーホー地区で、街を牛耳るメッキース(メキ・メッサー)は、超女好きで盗みもするし、かつては娼婦の紐だったりの人物。
その彼が、ある日可愛い娘、ポリーにひと目ぼれ。そして、二人は即結婚。
ところが、貧民街の商売の総元締めの娘の両親ピーチャム夫妻は、とんでもないことと、ロンドン警察警視総監ブラウンに、女王の戴冠式パレードに貧民たちを送りこんでむちゃくちゃにしてやるぞ、と脅し、メッキースとは軍人仲間で裏切ることのできないブラウンも渋々協力することにし、メッキースは逮捕されてしまう。
 ところが牢獄の前で、ポリーとかつての愛人とがさや当てがもとで大げんか。
その騒ぎに乗じて脱獄してしまうメッキース。
しかし、逃げ込んだ娼婦の裏切りで再逮捕。処刑も決定。
しかし、急転直下、女王の使者が登場し、メッキースの恩赦と世襲貴族・豪華館・終身年金1万ポンド与えられるとの報が下り、全員で皮肉に満ちた歌を歌い唐突に劇は終わる。
 
 「不正を追及するな やがて不正だってひとりでに凍死するさ、
 世の中は冷たいからね
 嘆きの声の響きわたるこの嘆きの谷の
 世の中の暗さと、冷たさを考えてもみろ」

 

劇中、不穏な発言や皮肉のまじったセリフの歌がいっぱい。
いつの世にも通じるところが、面白い。

そして、コロデルネッシュの歌は、クラシックを日頃聴いてる私どもには、順当なくらいに立派。トリスタンとイゾルデ、ジークフリートとブリュンヒルデみたいだ。
ジークフリートが山上で目覚めよ!と歌うのと同じような場面もありましたよ(笑)
そして、メゾに転向してもデルネッシュの輝ける存在感は変わらず。

ミルバのイキのいい歌と声による演技、レンパーの可愛い雰囲気、トレンパーの芸達者ぶり。
マウチェリーはこの手の音楽は抜群にうまいけれど、あんまり指揮や解釈のしがいがあるような音楽にも思えなかったのも事実で、ほかはどうなってるのか聴いてみたいもの。

このCDは、デッカの退廃音楽シリーズには入っていないけれど、その系統にあるといってもいいかも。
あのシリーズは廃盤。いくつか集めたけれど、輸入盤ばかりで、歌詞がわからない。
タワレコあたりで復活しそうな予感あり。

Beer

そして、ある日、さんざん飲まされて、ひとり取り残され、さまよう新宿駅。
思い出横丁へ突入し、「若月」で、カウンターに座るなり、わたくしは言葉三つ。

「餃子、ラーメン、ビール」。

メッキースとピーチャム夫人の歌にありました。

「まず飯だ、道徳はその次ぎだ 

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コメント

今晩は。私がまだ青いのか楽曲への理解が浅いのか、ヴァイルには苦手意識を持っています。ガーシュウィンのジャズが作曲者の見に染み付いたジャズなら、ヴァイルのジャズなんて頭で考えられたジャズでしかないじゃないの、こんなの邪道だよと高校時代などは思っていました。偉そうなことを書いていますが、三文オペラの全曲は聴いたことが無く、MTTがロンドン響を指揮した組曲版を持っていたのですが手放してしまいました。カップリングは七つの大罪の全曲だったと記憶しております。手放したことは今になって後悔しています。

投稿: 越後のオックス | 2011年6月 6日 (月) 22時02分

越後のオックスさん、こんばんは。
ヴァイル、たしかに手ごわいです。
でも、ジャズでもなんでもなく、おそらくはベルリンの音楽シーンのひとコマなのです。
ウィーンでもない、ベルリンの世紀末シーン。
退廃と愉悦を交えた当時の先端は、いま聴くと中途半端ですが、本CDは名手を揃え、聴きごたえありました。
MTTの音源は、貴重なところでしたね!

投稿: yokochan | 2011年6月 7日 (火) 21時28分

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